農産物・食品の輸出は、人口減少で縮む国内市場を補い、これから伸びる海外の需要をつかむ大きな選択肢です。この記事では、輸出をどう始め、どんな支援や補助が使え、国は何を目指しているのかを、農林水産省がまとめた最新の動向にそってわかりやすく整理します。輸出額は2024年に初めて1.5兆円を超え、国は2030年に5兆円を掲げています。GFP(農林水産物・食品輸出プロジェクト)への登録から産地づくり、輸出先国の規制対応、相談窓口や補助・公庫融資の活用までを順に見ていきます。数値・関税率・規制は時点や品目で変わるため、判断の前に財務省「貿易統計」と農林水産省・外務省・相手国当局の最新情報をご覧ください。

この記事の要点

項目 内容
こんな人に 輸出を始めたい農家・農業法人・食品事業者、海外に販路を広げたい品目団体・加工・集出荷事業者の方です。現地の小売・外食への販売や、規制に適合した施設投資、商談会・ブランディングの支援を検討している方に向いています。
何がわかる 輸出の現状と国の目標、輸出を始める手順、使える支援・補助・融資の全体像、輸出先国の規制への向き合い方がわかります。
まず何をする GFPへの登録を入口に、地方農政局やジェトロ(JETRO)などの相談窓口に相談するのが第一歩です。
くわしくはどこで 農林水産省「農林水産物・食品の輸出」、財務省「貿易統計(税関)」、外務省の通商関連の公表をご覧ください。

輸出の現状と国の目標(2030年5兆円)

農産物・食品の輸出は、いま大きく伸びています。輸出額は2024年に初めて1.5兆円を超え、12年連続で過去最高を更新しました。国はこの勢いをさらに加速させ、2030年に5兆円を目指しています。従来のペースの延長では届かない水準で、産地づくりや販路開拓を抜本的に強める必要があります。

2025年1〜11月の累計は、前年実績(1.5兆円)に迫るペースで拡大しています。国・地域別では米国・中国・台湾・韓国などで前年同期を上回る例が多く、品目別でも牛肉・米・緑茶などが輸出額ベースで伸びています。一方で、ホタテ貝のように輸出額は伸びても数量ベースでは伸び悩む品目もあり、通商環境の影響を見ながら進めることが大切です。

農林水産物・食品の輸出額が2012年以降ほぼ毎年伸びて2024年に約1.5兆円となった棒グラフと、2030年の5兆円(5万億円)目標へ向かう赤い矢印。
輸出実績と2030年の輸出額目標(財務省「貿易統計」を基に農林水産省が作成)。

どこへ輸出している?

輸出先の上位は次のとおりです。最大の輸出先は米国で、香港・中国・台湾・韓国が続きます。

順位 輸出先 輸出額(億円) 対前年同期比
1米国2,497+15.3%
2香港2,030+1.9%
3中国1,622+8.1%
4台湾1,589+7.7%
5韓国954+19.3%

何が売れている?主要品目の例

輸出額が大きい品目には、牛肉・緑茶・ホタテ貝・ぶり・米などがあります。緑茶は前年同期比でほぼ倍増し、米も輸出額・数量とも伸びています。ホタテ貝やぶりは、輸出額は伸びても数量は前年を下回り、販路の組み替えが進んでいることがうかがえます。

品目 輸出額(億円) 対前年同期比 輸出量(t)と対前年比
牛肉628+15.0%10,722t(+19.2%)
125+17.4%42,613t(+5.8%)
緑茶627+95.0%11,331t(+45.8%)
ホタテ貝793+31.2%46,750t(▲27.6%)
ぶり439+23.7%27,787t(▲9.6%)
2025年1〜11月の国・地域別の輸出実績の表(米国・香港・中国・台湾・韓国)と、主要品目別の輸出実績の表(牛肉・米・緑茶・ホタテ貝・ぶり)が並んだスライド。
国・地域別と主要品目別の輸出実績例(2025年1〜11月)。

なぜいま輸出なのか

国内では人口減少が進み、食の市場全体が長い目で縮んでいきます。これに対して、海外には所得の伸びとともに広がる大きな食の市場があります。国産の農産物・食品を国内だけで売り切ろうとすると価格競争に陥りやすい一方、伸びる海外市場に出ていけば、新しい需要と収益の機会をつかめます。輸出は、国内需要の先細りを補い、農業・食品産業の「海外から稼ぐ力」を高める取組です。

国はこの考え方を、三つの取組を組み合わせて進めています。農産物・食品の輸出拡大食品産業の海外展開、そしてインバウンド(訪日客)の食関連消費の拡大です。この三つは相互に作用します。

  • 輸出拡大:現地で使われる原材料の輸出を伸ばしつつ、日本食・食文化の浸透を支えます。
  • 食品産業の海外展開:ECや現地スーパー、現地の日本食レストランでの食体験を通じて、訪日意欲を高める流れにつなげます。
  • インバウンド:「本場」の食体験で日本食のファンを増やし、輸出・海外展開との相乗効果を狙います。

数値目標も三つそろえています。農産物・食品の輸出額は2024年の約1.5兆円から2030年に5兆円、食品産業の海外展開による収益額は2023年の約1.7兆円から2030年に3兆円、インバウンドの食関連消費額は2024年の約2.3兆円から2030年に4.5兆円を掲げています。

農林水産物・食品の輸出拡大、食品産業の海外展開、インバウンドによる食関連消費の拡大の三本柱を矢印で結び、それぞれの現状値と2030年目標を示した「輸出促進施策の全体像」の図。
輸出促進施策の全体像(三本柱と現状・2030年目標の関係)。

輸出の始め方

輸出は「いきなり海外に売る」ものではなく、登録・産地づくり・規制対応・販路開拓を段階的に進める取組です。国の施策も、大きく「海外市場の開拓」と「供給力の向上」という二つを車の両輪として組み立てています。はじめて取り組む方は、次の流れで考えると進めやすくなります。

海外市場の開拓と供給力の向上を車の両輪に見立て、それぞれの施策を箇条書きで並べ、下部に戦略的サプライチェーンの構築を示した「輸出拡大施策の方向性」の図。
輸出拡大施策の方向性(市場開拓と供給力向上の両輪)。

1. GFPに登録して相談する

最初の入口になるのがGFP(農林水産物・食品輸出プロジェクト)への登録です。GFPは、輸出に意欲のある生産者・事業者を増やすための国のコミュニティで、輸出診断や情報提供、専門家のサポートを受けられます。輸出に向いた品目かどうか、何から準備すべきかを相談する出発点になります。くわしくはGFP(農林水産物・食品輸出プロジェクト)の解説をご覧ください。

2. 低コスト・大ロットで供給できる産地をつくる

海外で安定して売るには、量とコストの両面で「供給力」が要ります。国は、低コストで大ロットの供給ができる輸出産地の育成や、生産・集出荷から現地物流・販路までを一本につなぐサプライチェーンの構築を後押ししています。個人で量がそろわない場合は、認定された品目団体や産地ぐるみの取組に加わる選択肢もあります。

3. 輸出先国の規制に合わせる

輸出先の国ごとに、食品安全・動植物検疫・表示などのルールが異なります。同じ品目でも、形態(生鮮か加工か等)によって必要な手続きが変わります。早い段階で輸出先を絞り込み、求められる施設要件や検査・証明書を確認しておくと、後戻りを避けられます。規制対応は後半の輸出先国の規制への対応でくわしく扱います。

4. 現地で売れる販路を開く

かつては日系の小売・外食が主な販路でしたが、海外の日本食レストラン数は調査開始の2013年以降で初めて減り、2023年の約18.7万店から2025年の約18.1万店になりました。これからは日系商流だけでなく、開拓余地の大きい現地系のスーパーやレストランへ売り込むことが伸びしろになります。国は、ジェトロ・JFOODO・在外公館が連携した輸出支援プラットフォームを通じて、現地起点の商談・規制情報・人脈づくりを支援しています。設置は米国・シンガポール・タイ・EU・ベトナム・香港・台湾・中国・マレーシア・UAEなど10か国・地域16拠点に広がっています。

実際の事例として、米国東海岸の現地系大型スーパーでの日本産米の試験導入や、パリでの和牛肉の現地加工・機内食採用・現地系小売への展開調整などがあります。

輸出支援プラットフォームの設置国・地域(10か国・地域16拠点)を示した世界地図と、米国大手現地系での日本産米、パリでの和牛肉の現地加工体制といった商流事例の箇条書きが並んだ「現地系商流への売込みの強化」のスライド。
現地系商流への売込みの強化(輸出支援プラットフォームの設置状況と商流事例)。

輸出先を一国に頼りすぎない

販路を広げるうえで欠かせないのが、輸出先の多角化です。ALPS処理水の海洋放出を受けた中国の輸入停止措置のあと、ホタテを中心に国内加工の強化や輸出先の転換が進みました。措置の前は、日本産ホタテの一部が中国でむき身に加工されてから米国向けに出るルートがありましたが、措置の後は日本国内で加工して米国へ直接出すルートや、ベトナム・タイなどでの加工ルートが広がりました。水産物全体では、2025年1〜10月に中国の減少分を他地域で補っています。中国向けが多いアルコール飲料・菓子などについても、多角化を進める方針です。

ALPS処理水の海洋放出後の水産物の輸出状況を示す円グラフ(中国の減少分を他地域でカバー)と、中国向けの輸出額が大きい主要品目(アルコール飲料・菓子など)の表が並んだ「輸出先国の多角化」のスライド。
輸出先国の多角化(水産物の輸出状況と中国向け主要品目の動き)。

高付加価値化も多角化と並ぶ鍵です。他国産米にはない解凍後の食味や冷凍技術、米粉・冷凍寿司・シャリ玉・冷凍弁当など、日本の強みを商品設計に織り込む訴求が効きます(具体的な商品は、現地の競合状況とあわせて検討します)。

冷凍寿司・シャリ玉、米粉、冷凍加工米飯、冷凍弁当など、日本の強みを生かしたコメ加工品の例を写真付きで紹介する「日本産品の高付加価値化の例」のスライド。
日本産品の高付加価値化の例(日本の強みを生かしたコメ加工品)。

米国向けと関税の注意点

最大の輸出先である米国では、相互関税の扱いが論点になっています。2025年11月までの累計では、対米の農産物・食品輸出は前年同期比でプラス(例:+15.3%)です。アルコール飲料・ぶり・ホタテ貝・緑茶・牛肉などについて、既存の従量・従価の税率と、大統領令を受けた税率の例が品目ごとに整理されています。2025年11月の大統領令により、牛肉や緑茶など一部の農産品が相互関税の対象外となり、清涼飲料水のうち特定のビタミン・ミネラルを添加したオレンジジュースが対象外となる例もあります。従量税の従価換算や枠の内外は品目の定義によって変わるため、最新の法令・税関の解釈で確認することが欠かせません。輸出先国の関税の仕組みは日本の農産物の関税制度の解説もあわせてご覧ください。

使える支援・補助・融資の全体像

輸出には、相談から施設整備、資金繰りまで段階ごとに支援があります。代表的なものを整理します。補助の対象や補助額、公募の時期は年度ごとに更新されるため、応募の前に公募要領と各省庁の最新ページをご覧ください。

  • 相談・診断:GFPの輸出診断や、地方農政局・ジェトロ・JFOODOの相談窓口を入口に、輸出の可否や進め方を相談できます。
  • 市場開拓・ブランディング:ジェトロの海外見本市への出展支援、JFOODOによるブランディング、ジェトロによる中小企業向けの伴走支援などがあります。
  • 施設整備:輸出先国が求めるHACCP等に対応した施設整備への補助があります(くわしくはJAS規格の国際標準化と認証の解説もご覧ください)。
  • 融資:輸出に向けた基盤づくりには、日本政策金融公庫(公庫)の資金を活用できます。輸出基盤を強化する融資のくわしい内容は輸出基盤強化のための公庫資金の解説をご覧ください。
  • 規格・標準化:日本の規格を国際的に通用させるJASの国際標準化が、輸出時の信頼確保を後押しします。

国は、令和7年度補正予算と令和8年度予算を使い、商流の維持・拡大や多角化に向けた支援を進めています。次の表は事業名と予算の内数の抜粋です(単位は億円、括弧内は資料表記の年度区分)。

事業の例 令和7年度補正 令和8年度
品目団体等輸出力強化支援事業5514
戦略的輸出拡大サポート事業2015
ターゲット国における輸出・海外展開支援体制の確立強化事業206
経済産業省 海外ビジネス展開支援等事業の内数112(内数)
経済産業省 海外ビジネス・輸出促進事業の内数31(内数)
食品産業の輸出向けHACCP等対応施設整備事業601
輸出環境整備推進事業の内数11(内数)12(内数)

輸出先国の規制への対応

輸出を伸ばすうえで最大の論点の一つが、輸出先国の食品安全などの規制への対応です。東京電力福島第一原子力発電所の事故やALPS処理水の海洋放出に伴う輸入規制について、国は早期の撤廃に向けた働きかけや、動植物検疫を含む協議を政府一体で進めています。中国に対しては、日中で共有された認識に基づく実施を求め、輸出関連施設の再登録の促進や、一部地域の水産物以外の規制の扱いについて粘り強く協議を続けています。

台湾の例:原発事故の以後、一部の県産食品には放射性物質検査報告書や産地証明書の添付が求められてきましたが、2025年11月21日に、一部食品の証明書添付を不要とするなど、事故・ALPS放出に伴って導入された日本産食品への輸入規制措置がすべて撤廃されました。

その他の国・地域:中国・韓国・香港・マカオ・ロシアなどでは、対象の都道府県・品目や、ALPS処理水の放出後の水産物などの扱いが分かれます。実務上の可否は更新されるため、相手国の当局の告示と日本側の手続ガイドをご覧ください。輸出先国ごとの規制対応のくわしい進め方は輸出先国の規制対応支援の解説を、生産現場の安全管理の土台づくりは国際水準GAPと輸出の解説をご覧ください。

台湾による輸入規制の撤廃(2025年11月21日)の説明と、中国・韓国・香港・マカオ・ロシアの原発事故・ALPS処理水放出に伴う輸入規制を国・地域別に整理した「各国・地域の輸入規制の撤廃・緩和」の表。
各国・地域の輸入規制の撤廃・緩和(台湾の撤廃と他国・地域の規制の整理例)。

よくある質問

農産物の輸出は何から始めればよいですか

まずGFP(農林水産物・食品輸出プロジェクト)に登録し、輸出診断や相談を受けるのが入口です。あわせて、輸出に向いた品目と輸出先の候補を絞り、その国の規制(食品安全・検疫・表示など)を早めに確認します。販路は、地方農政局やジェトロ・JFOODOの窓口に相談しながら、現地系の小売・外食も視野に開いていきます。

輸出に使える支援や補助はありますか

あります。相談・診断(GFP、地方農政局、ジェトロ)、見本市出展やブランディングの支援、輸出先国が求めるHACCP等に対応した施設整備への補助、日本政策金融公庫の融資などが段階ごとに用意されています。補助の対象や補助額、公募の時期は年度ごとに変わるため、公募要領と各省庁の最新ページで確認します。

輸出額の目標はどうなっていますか

農産物・食品の輸出額は、2024年の約1.5兆円から2030年に5兆円が目標です。あわせて、食品産業の海外展開による収益額を2030年に3兆円、インバウンドの食関連消費額を4.5兆円とする目標も掲げ、三つを一体で進めています。

小規模でも輸出できますか

できます。一人で量やコストの条件をそろえにくい場合は、認定された品目団体や産地ぐるみの取組に加わる方法があります。GFPのコミュニティや輸出支援プラットフォームを使えば、共同での商談や規制対応の情報を得やすく、小さく始めて広げる進め方が取りやすくなります。

どの国に輸出するのがよいですか

最大の輸出先は米国で、香港・中国・台湾・韓国が続きます。ただし一国に頼りすぎると、相手国の規制や通商環境の変化に弱くなります。複数の輸出先を組み合わせて多角化し、現地の需要と規制をふまえて品目ごとに選ぶことが大切です。

次の一歩

輸出を具体的に進めるなら、次の窓口から動きましょう。関税率・規制・施設要件は国ごとに、また同じ品目でも形態ごとに変わります。見本市やプラットフォームの活用、補正・当初予算の事業設計は年度で更新されるため、公募要領・交付要領と各省庁の最新ページをご覧ください。

キーワード解説

GFP(農林水産物・食品輸出プロジェクト)

輸出に意欲のある生産者・事業者を増やすための国のコミュニティです。輸出診断や情報提供、専門家のサポートを受けられ、はじめて輸出に取り組むときの入口になります。

輸出額

農産物・食品を海外へ売った金額です。財務省「貿易統計」が数値の正本で、2024年に初めて1.5兆円を超え、国は2030年に5兆円を目標としています。

輸出支援プラットフォーム

ジェトロ・JFOODO・在外公館が連携し、現地起点で商談・規制情報・人脈づくりを支える仕組みです。米国・EU・台湾など10か国・地域16拠点に広がっています。

出典:農林水産省「農林水産物・食品の輸出」ほか、農林水産省「農林水産物・食品の輸出促進の取組について」(令和8年1月)の公表内容に基づきます。輸出額などの数値の正本は財務省「貿易統計」、制度・予算・規制の最新情報は農林水産省・外務省・相手国当局の公表をご覧ください。