農林水産省が整理する輸出促進の枠組みを、実績・目標から予算まで一気通貫で押さえる。前半は数字の土台(輸出の勢い、国・品目別の動き)と政策の設計図(三本柱、市場開拓と供給力の両輪、現地系商流と輸出支援プラットフォーム)、中盤は通商リスクへの備え(中国依存の整理、米国向け関税の整理例)、後半は規制交渉の動きと予算で何が動くかに分かれている。以下の数値・関税率・規制の要件は公表時点の整理例であり、執務・投資判断の前に財務省「貿易統計」、農林水産省、外務省の最新公表を必ず確認してください。
この記事の流れ
上から順に読むと、施策の全体像が立ち上がるように並べている。
- 輸出の動向と2030年目標:過去最高のペース、国・地域別・品目別の伸び(ホタテの数量などのねじれもここ)。
- 施策の全体像:輸出・海外展開・インバウンドの三本柱と、2030年に向けた数値イメージ。
- 国内外一貫したサプライチェーン:市場開拓と供給力向上の「両輪」に分けた政策メニュー。
- 現地系商流への売込み:外食店舗数の変化を踏まえた商流シフトと、ジェトロ・JFOODO・在外公館のプラットフォーム。
- 輸出先の多角化:水産物のルート転換、米国向け品目と関税の整理例(図表が中心)。
- 輸入規制の撤廃・緩和:台湾での全面撤廃や、主要国・地域の規制の整理。
- 総合経済対策等による予算の内数:補正・当初に計上された事業の規模感。
概要(読者と確認先)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰に | 輸出事業者、品目団体、加工・集出荷事業者、海外販路を拡げたい食品事業者など。現地系小売・外食への供給や、規制に適合した施設投資、商談会・ブランディング支援の対象となりうる取組が整理されています。 |
| 何を | 上記「この記事の流れ」の各ブロックに対応。実績・目標から施策設計、リスク対応、規制、予算までを一冊の説明資料として要約している。 |
| 詳細はどこで | 農林水産省「農林水産物・食品の輸出」、財務省「貿易統計(税関)」、外務省の通商関連公表などを参照してください。 |
輸出の動向と2030年目標
農林水産物・食品の輸出額は2024年に初めて1.5兆円を超え、12年連続で過去最高を更新した。2030年に5兆円を目指すには、従来ペースからの抜本的な加速が必要だ。
2025年1〜11月の累計では、前年実績(1.5兆円)に迫るペースで拡大している。国・地域別では米国・中国・台湾・韓国などで対前年同期比がプラスとなる例が多く、品目別でも牛肉・米・緑茶などで輸出額ベースのプラスが並ぶ。一方、ホタテ貝などは輸出額は伸びても輸出量ベースでは伸び悩む例があり、通商環境の影響を踏まえた注視が必要だ。
国・地域別(2025年1〜11月の例)
| 順位 | 輸出先 | 輸出額(億円) | 対前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 1 | 米国 | 2,497 | +15.3% |
| 2 | 香港 | 2,030 | +1.9% |
| 3 | 中国 | 1,622 | +8.1% |
| 4 | 台湾 | 1,589 | +7.7% |
| 5 | 韓国 | 954 | +19.3% |
主要品目の例(2025年1〜11月)
| 品目 | 輸出額(億円) | 対前年同期比 | 輸出量(t)と対前年比 |
|---|---|---|---|
| 牛肉 | 628 | +15.0% | 10,722t(+19.2%) |
| 米 | 125 | +17.4% | 42,613t(+5.8%) |
| 緑茶 | 627 | +95.0% | 11,331t(+45.8%) |
| ホタテ貝 | 793 | +31.2% | 46,750t(▲27.6%) |
| ぶり | 439 | +23.7% | 27,787t(▲9.6%) |
施策の全体像(三本柱)
農林水産物・食品の輸出拡大に加え、食品産業の海外展開、インバウンドによる食関連消費の拡大を連携して進め、農林水産業・食品産業の「海外から稼ぐ力」を強化する。
- 輸出拡大:現地で使われる原材料の輸出をけん引しつつ、日本食・食文化の浸透を支える。
- 食品産業の海外展開:ECや現地スーパー、現地の日本食レストラン等での食体験を通じて訪日意欲を喚起する流れと接続する。
- インバウンド:「本場」の食体験を通じて日本食のファンを増やし、輸出・海外展開と相乗効果を狙う。
数値目標の例として、農林水産物・食品の輸出額は2024年実績の約1.5兆円から2030年に5兆円、食品産業の海外展開による収益額は2023年実績の約1.7兆円から2030年に3兆円、インバウンドによる食関連消費額は2024年実績の約2.3兆円から2030年に4.5兆円、と掲げられている。
国内外一貫したサプライチェーン
輸出拡大施策は、大きく「海外市場の開拓」と「供給力の向上」の二つを車の両輪として実施する。認定品目団体や輸出支援プラットフォームによる現地系商流・未開拓エリアの開拓、ジャパンブランドによる高付加価値化、輸入規制の緩和・撤廃に向けた協議などが市場側に挙げられ、低コスト・大ロット供給が可能な輸出産地の育成、GFP(農林水産物・食品輸出プロジェクト)等による意欲的な事業者の増加、生産・集出荷から現地物流・販路までの一貫したサプライチェーン構築が供給力側に挙げられる。
現地系商流への売込み
海外の日本食レストラン数は、調査開始の2013年以降で初めて減少し、2023年の約18.7万店から2025年の約18.1万店になった。日系商流だけでなく、現地系スーパーやレストランなど開拓余地の大きい商流への売込みを進める必要がある。
ジェトロ、JFOODO、在外公館が連携した「輸出支援プラットフォーム」により、現地起点の商談・規制情報・人脈形成を進める。設置状況の例として、米国・シンガポール・タイ・EU・ベトナム・香港・台湾・中国・マレーシア・UAEなど10か国・地域16拠点が挙げられる。
事例として、米国東海岸の現地系大型総合スーパーでの日本産米の試験導入や、パリにおける和牛肉の現地加工・機内食採用・現地系小売への展開調整などが紹介されています。
輸出先の多角化
水産物と中国向け依存の整理
ALPS処理水の海洋放出を受けた中国の輸入停止措置を踏まえ、ホタテを中心に国内加工の強化や輸出先転換が進められてきた。措置前は日本産ホタテの一部が中国でむき身加工のうえ米国向けに出るルートがあり、措置後は日本国内で加工して米国へ直接出すルートや、ベトナム・タイ等での加工ルートが拡大した例がある。水産物全体では2025年1〜10月に中国減少分を他地域でカバーしている。
中国向け輸出が多いアルコール飲料・菓子等についても、今後の多角化を進める方針が掲げられている。
米国向け農林水産物・食品と関税の整理例
米国は最大の輸出先でありつつ、相互関税の課徴が論点になっている。2025年11月までの累計では、農林水産物・食品の対米輸出額は対前年同期比プラス(例:+15.3%)で推移している。
品目別では、アルコール飲料・ぶり・ホタテ貝・緑茶・牛肉などについて、2024年実績に基づく順位と、2025年の四半期ごとの輸出額の伸び、既存の従量・従価税率と大統領令を受けた税率の例が表形式で示されている。注記として、2025年11月に発表された大統領令により牛肉や緑茶など一部農産品は相互関税の対象外となった旨、清涼飲料水のうち特定のビタミン・ミネラル添加オレンジジュースが対象外となる例などが挙げられる。従量税の従価換算や枠内外の取扱いは品目定義に依存するため、必ず最新の法令・税関解釈で確認してください。
高付加価値化の方向性
他国産米にない解凍後の食味、冷凍技術、米粉や冷凍寿司・シャリ玉、冷凍弁当など、日本の強みを商品設計に織り込む訴求が重要になる(具体商品は海外市場の競合状況とセットで検討する必要がある)。
輸入規制の撤廃・緩和
輸出拡大の課題として、輸出先国の食品安全等の規制対応が最大の論点の一つになる。東京電力福島第一原子力発電所事故やALPS処理水の海洋放出に伴う輸入規制については、早期撤廃の働きかけや、動植物検疫を含む協議を政府一体で進める方針が示されている。
中国については、日中間で共有された認識に基づく実施が重要であるとして、輸出関連施設の再登録の促進や一部地域の水産物以外の規制の扱いなど、粘り強い求めを続ける立場が示されている。
台湾の例:原発事故以降、一部県産食品には放射性物質検査報告書や産地証明書の添付が求められていたが、2025年11月21日に、一部食品の証明書添付を不要とするなど、事故・ALPS放出に伴い導入された日本産食品に関する輸入規制措置がすべて撤廃された。
その他の国・地域:中国・韓国・香港・マカオ・ロシアなどについて、対象都道府県・品目、ALPS処理水放出後の水産物等の扱いが箇条書きで整理されています。実務上の可否は都度更新されるため、相手国の当局告示と日本側の手続ガイドを確認してください。
総合経済対策等による予算の内数(例)
令和7年度補正予算と令和8年度予算を活用し、商流維持・拡大や多角化に向けた支援を進める。次表は事業名と内数の抜粋である(単位は億円、括弧内は資料表記の年度区分)。
| 事業の例 | 令和7年度補正 | 令和8年度 |
|---|---|---|
| 品目団体等輸出力強化支援事業 | 55 | 14 |
| 戦略的輸出拡大サポート事業 | 20 | 15 |
| ターゲット国における輸出・海外展開支援体制の確立強化事業 | 20 | 6 |
| 経済産業省 海外ビジネス展開支援等事業の内数 | 112(内数) | — |
| 経済産業省 海外ビジネス・輸出促進事業の内数 | — | 31(内数) |
| 食品産業の輸出向けHACCP等対応施設整備事業 | 60 | 1 |
| 輸出環境整備推進事業の内数 | 11(内数) | 12(内数) |
ほか、ジェトロの海外見本市出展やJFOODOのブランディング、ジェトロによる中小企業向け伴走支援などが、上記の枠組みと一体で説明されています。
事業・投資を検討する方へ
輸出先の関税率・規制・施設要件は国ごとに異なり、同一品目でも形態別に条件が分かれます。見本市やプラットフォームの活用、補正・当初予算の事業設計は年度で更新されるため、公募要領・交付要領と省庁の最新ページで必ず確認してください。