大雨や台風で農地・ハウス・果樹・漁港・山林などに被害が出たとき、国や自治体には災害復旧・災害関連資金・農業共済や収入保険・交付金の特例など複数の支援策があります。この記事では、被害が出たときに使える主な支援策と、災害直後にまず確認したいこと(安全の確保・被害の記録・相談先)、そして台風シーズンに備えて事前にできることを整理します。
制度ごとに対象者・対象経費・補助率・手続きは異なり、利用できるかは被害の内容や地域、各制度の要件によって変わります。被害を受けたら自己判断で進める前に、市町村・都道府県・JA・共済組合・金融機関などへ早めに相談しましょう。
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰に関係するか | 大雨や台風などで、農地、農業用施設、果樹、漁港、山林施設などに被害を受けた農林漁業者、復旧や除去を担う地方公共団体・関係団体、農業共済・収入保険・森林保険の加入者など。 |
| 何を整理するか | 災害復旧、災害査定の効率化、激甚災害指定時の上乗せ措置、災害関連資金、農業共済・収入保険、直接支払交付金の特例、果樹支援、水産・林野関係の支援を整理します。 |
| どのような場面で見るか | 大雨や台風の発生後、農地や施設に被害が出たとき、復旧工事を検討するとき、資金繰りに不安があるとき、共済・保険や交付金の扱いを確認したいとき。 |
| 注意点 | 支援の対象や補助率、手続きは制度ごとに異なります。被害を受けた場合は、自己判断で進める前に、市町村、都道府県、JA、共済組合、金融機関などに確認することが重要です。 |
| 詳細の確認先 | 農林水産省の災害支援情報、都道府県・市町村の災害復旧事業の案内、JA、農業共済組合、収入保険の加入窓口、金融機関など。 |
1. 大雨等による被害に対する主な支援策
背景
近年、大雨や台風などにより、農林水産業では広い範囲で被害が発生しています。
農業分野では、水稲、果樹、農業用ハウスなどの冠水に加え、農地や農業用施設への被害が生じる場合があります。農業用施設には、水路や農道などが含まれます。
また、林野分野では治山施設や林道などの山林施設、水産分野では漁港関係施設などに被害が及ぶことがあります。
こうした被害に対して、農林水産省は、災害復旧、査定の効率化、資金支援、共済・保険、交付金の特例、水産・林野関係の復旧支援などを組み合わせた対応を進めています。
災害復旧と災害査定の効率化
大雨等によって被災した農地や農業用施設については、災害復旧に関する支援が行われます。
支援の対象となる主なものは、次のような分野です。
- 被災農地
- 農業用施設
- 水路、農道等
- 山林施設
- 漁港関係施設
- 農林水産業共同利用施設
災害復旧では、被害の状況を確認し、復旧に必要な内容や費用を整理する災害査定が関係します。
一方で、災害直後は、営農再開や地域の安全確保のため、早期の復旧が必要になる場合があります。そのため、査定を待たずに復旧へ着手しやすくする「査定前着工」も活用できます。
また、国職員によるMAFF-SATの派遣により、被害状況の把握や早期復旧を支援する体制も取られます。
一体的な復旧・再発防止の考え方
被災した農地だけでなく、周辺農地も含めて、再発防止や生産性向上につながる取組を一体的に進める支援も用意されています。
単に元に戻すだけでなく、今後の被害を抑えることや、営農の継続性を高めることも重要な観点になります。
激甚災害に指定された場合の上乗せ措置
被害が特に大きい災害については、激甚災害に指定される場合があります。
激甚災害に指定された場合、農地や農業用施設の復旧に対して、国庫補助率が嵩上げされることがあります。
例として、過去5か年実績の平均に基づくと、次のように補助率が引き上げられます。
- 農地:86%から97%へ
- 農業用施設:96%から99%へ
これは、復旧にかかる費用について、国の負担割合が高くなることを意味します。
また、災害査定に関しては、机上査定限度額の引上げなどにより、事務負担を軽くする措置もとられます。
ただし、実際にどの地域・どの被害が対象となるかは、災害ごとの指定内容や制度の要件によって異なります。
災害関連資金
大雨等で被害を受けた農林漁業者に対しては、経営継続や復旧に必要な資金を確保するため、災害関連資金を活用できます。
代表的なものとして、農林漁業セーフティネット資金などの長期・低利の資金があります。
災害関連資金は、被災後の経営継続に必要な運転資金や、施設復旧に必要な資金として利用される場合があります。
また、国は金融機関に対して、被災した農林漁業者への資金の融通や既往債務の償還猶予などを適切に行うよう要請します。
激甚災害指定時の資金支援
激甚災害に指定された場合には、災害関連資金について、貸付当初5年間の金利負担を軽減する措置がとられる場合があります。軽減幅は最大2%です。
また、農業近代化資金の借入れについて、農業信用基金協会の債務保証に係る保証料が、貸付当初5年間免除されます。
資金支援については、利用できる制度や条件が個別に異なるため、金融機関や自治体への確認が必要です。
農業共済・収入保険
農業共済や収入保険に加入している場合は、災害時の経営支援につながる可能性があります。
農業共済では、加入者に対して共済金の早期支払いが行われます。
収入保険では、加入者はつなぎ融資を受けられます。保険金の支払いまでに資金が必要となる場合、当面の資金繰りを支える手段となることがあります。
ただし、補償の対象や手続きは、加入している制度、品目、被害状況などによって異なります。被害を確認した場合は、加入窓口に早めに連絡することが重要です。
直接支払交付金の特例
水田活用の直接支払交付金や、畑作物の直接支払交付金、いわゆるゲタ対策については、災害時の特例が設けられています。
対象作物について、本年産の栽培継続を断念せざるを得ない場合でも、支援が可能となる場合があります。
これは、大雨や台風などにより作付けの継続が難しくなった場合に関係する内容です。
ただし、対象となる作物や要件、手続きは制度ごとに異なります。作付けを断念する判断をする前に、市町村や地域農業再生協議会などに確認することが重要です。
果樹に関する支援
果樹に被害が出た場合、植替えや植替え後の幼木管理に要する経費への支援を受けられます。
果樹は、一度被害を受けると、収穫再開までに時間がかかる場合があります。そのため、植替え後の管理まで含めた支援が重要になります。
実際に支援対象となるかどうかは、被害状況、品目、地域、制度要件によって異なります。JA、自治体、普及指導センターなどへの確認が必要です。
水産関係の支援
水産関係では、漁港等に漂流・堆積する流木や土砂の除去、回収、処理に対する支援があります。
主な支援内容は次のとおりです。
- 漁港等に漂流・堆積する流木・土砂の除去、回収、処理
- 海岸保全施設に漂着した流木等の回収、処理
- 内水面資源の復旧に必要な種苗生産経費等への支援
- 漁船・漁具等のリース方式による導入支援
- 災害関連資金における利子助成等
漁港等の流木・土砂の除去については、漁業者や地方公共団体等の事業として支援されます。補助率は、定額または2/3等です。
海岸保全施設に漂着した流木等の回収・処理については、補助率1/2で支援されます。
また、内水面資源の復旧に必要な種苗生産経費等については、補助率1/2で支援されます。
被災を機に、収益性の向上と資源管理の両立を図る「浜の構造改革」に取り組む場合には、漁船・漁具等のリース方式による導入も支援されます。
林野関係の支援
林野関係では、山地災害の把握、治山・林道の復旧、木材加工流通施設や特用林産施設の復旧、森林保険の早期支払いなどがあります。
主な支援内容は次のとおりです。
- 地方公共団体と連携したヘリコプターによる山地災害発生状況調査
- 荒廃森林の復旧整備
- 山林施設の復旧整備
- 治山、林道等の復旧
- 山地災害が発生しうる箇所への予防対策
- 被災した木材加工流通施設、特用林産振興施設等の復旧・整備
- 森林保険の保険金早期支払い
- 災害関連資金における利子助成等
荒廃森林や山林施設の復旧、山地災害の予防対策については、補助率2/3等で支援されます。
被災した木材加工流通施設や特用林産振興施設等の復旧・整備については、補助率1/2で支援されます。
また、災害関連資金では、最長10年間の利子助成等を活用できます。
森林保険については、保険金が早期に支払われます。
2. 災害が起きたときに農業関係者が確認したいこと
ここからは、支援策の説明とは分けて、大雨や台風の被害が出たときに農業関係者が確認したいことを整理します。
制度の対象になるかどうかを判断するためにも、災害直後の対応が重要になります。
まず安全を確保する
災害直後は、人命と安全の確保が最優先です。
増水した水路、崩れた農地、土砂が流入した場所、倒壊した施設などには、無理に近づかないようにします。
特に、大雨や台風の最中、または直後は、二次災害の危険があります。見回りや確認作業は、安全が確保できてから行うことが重要です。
被害状況を記録する
支援制度や共済・保険の手続きでは、被害状況を確認できる資料が必要になる場合があります。
可能な範囲で、次のような記録を残しておくと、その後の相談や申請に役立つことがあります。
- 被害を受けた場所
- 被害の発生日時
- 被害の範囲
- 農地や施設の状態
- 作物や果樹の状態
- 復旧前の写真や動画
- 応急対応を行った場合の記録
ただし、危険な場所に立ち入ってまで記録を取る必要はありません。安全を確保したうえで、できる範囲で記録することが大切です。
復旧工事の前に相談する
農地や農業用施設を復旧する場合、災害復旧事業や補助制度の対象になる可能性があります。
一方で、事前の確認をせずに工事を進めると、制度上の扱いが難しくなる場合があります。
早期復旧が必要な場合でも、まずは市町村や都道府県、土地改良区、JAなどに相談し、次の点を確認しましょう。
- 災害復旧の対象になる可能性があるか
- 査定前着工の扱いはどうなるか
- 工事前に必要な写真や記録は何か
- 見積書や図面などが必要か
- どの窓口に申請・相談すべきか
復旧を急ぐ場合ほど、最初の確認が重要になります。
共済・保険の加入状況を確認する
農業共済、収入保険、森林保険などに加入している場合は、早めに加入窓口へ連絡します。
確認したい内容は次のとおりです。
- 加入している制度の種類
- 対象となる作物、施設、森林など
- 被害申告の期限
- 現地確認の流れ
- 必要な写真や書類
- 支払いまでの見込み
- つなぎ融資の利用可否
被害の全体像がまだ分からない段階でも、まず連絡しておくことで、その後の手続きが進めやすくなります。
資金繰りを早めに相談する
災害後は、復旧費用だけでなく、当面の運転資金が必要になることがあります。
収入減少や復旧費用に不安がある場合は、早めに資金繰りの相談を行いましょう。
相談先としては、次のような窓口があります。
- JAバンク
- 日本政策金融公庫
- 取引金融機関
- 市町村・都道府県の農業担当窓口
- 普及指導センター
災害関連資金、既往債務の償還猶予、共済・保険の支払いまでのつなぎ資金など、状況に応じて確認することが重要です。
交付金や作付け継続の扱いを確認する
大雨や台風によって、対象作物の栽培継続が難しくなる場合があります。
水田活用の直接支払交付金や畑作物の直接支払交付金については、災害時の特例が関係する可能性があります。
作付けを断念する前に、次の点を確認しましょう。
- 対象作物が制度の対象になっているか
- 栽培継続が難しい場合の扱い
- 必要な手続き
- 申請期限
- 地域農業再生協議会や市町村への相談方法
交付金は制度要件が細かいため、自己判断で作付けや撤去を進める前に確認することが重要です。
相談先を整理しておく
災害時には、どこに相談すればよいか分からなくなることがあります。
主な相談先は次のとおりです。
- 市町村の農林水産担当課
- 都道府県の農政・農林水産担当部署
- JA
- 農業共済組合
- 収入保険の加入窓口
- 土地改良区
- 普及指導センター
- 地域農業再生協議会
- 日本政策金融公庫
- 取引金融機関
- 漁協
- 森林組合
被害の内容によって相談先は異なります。農地・農業用施設、作物、果樹、資金、共済・保険、漁港、林道など、被害の種類ごとに適切な窓口へ相談しましょう。
台風・大雨に備えて事前にできること
被害を抑え、いざというときの手続きを進めやすくするために、台風シーズンの前に次のような備えをしておくと安心です。
- 農業共済・収入保険への加入を確認する。自然災害による損害や収入減少に備える基本の手段です。未加入なら、加入できる制度と申込時期をJA・農業共済組合・加入窓口で確認しておきましょう。
- ハウス・施設を補強する。フィルムの固定、開口部やドアの閉鎖、防風ネットの設置など、強風・浸水に備えた点検を行います。
- 排水を点検する。圃場や周辺の水路・排水口の詰まりを取り除き、滞水しにくくしておきます。
- 記録と連絡先を準備する。被災前の圃場・施設の状態を写真で残し、市町村・JA・共済・金融機関の相談先を控えておくと、被害後の申請がスムーズです。
よくある質問
台風や大雨で農作物・農地に被害が出たら、まず何をすればいいですか
最優先は安全の確保です。増水した水路や崩れた農地には近づかないでください。安全が確保できたら、被害の場所・日時・範囲や農地・施設・作物の状態を、復旧前に写真や動画で記録します。そのうえで、復旧工事に着手する前に市町村・JA・共済組合などへ早めに相談します。
被害の補償は農業共済と収入保険のどちらで受けられますか
加入している制度によります。農業共済は品目ごとに自然災害などによる収量・損害を補償し、収入保険は品目を問わず農業収入全体の減少を補償します。どちらも加入が前提なので、被害を確認したら早めに加入窓口へ連絡してください。収入保険には、保険金の支払いまでの当面の資金を支えるつなぎ融資もあります。
復旧工事は先に始めてもいいですか
事前の確認なしに工事を進めると、災害復旧事業や補助制度の対象として認められにくくなる場合があります。早期復旧が必要なときは、査定を待たずに着工できる「査定前着工」の扱いや、工事前に必要な写真・記録を、市町村・都道府県・土地改良区などに確認してから進めましょう。
激甚災害に指定されると何が変わりますか
農地・農業用施設の復旧に対する国庫補助率が嵩上げされ(例として農地は86%から97%、農業用施設は96%から99%)、災害関連資金の貸付当初5年間の金利が最大2%軽減されるなどの措置が加わります。対象となる地域・被害は、災害ごとの指定内容によって決まります。
台風に備えて事前にできることはありますか
農業共済・収入保険への加入確認、ハウスやフィルムの補強・開口部の固定、圃場や水路の排水点検、被災前の状態の写真記録と相談先の整理が基本です。シーズン前に備えておくと、被害を抑えられ、被害後の手続きも進めやすくなります。
どこに相談すればいいですか
被害の種類で窓口が異なります。農地・施設や復旧は市町村・都道府県・土地改良区、共済・保険は農業共済組合や収入保険の加入窓口、資金繰りはJAバンク・日本政策金融公庫・取引金融機関、交付金や作付け継続は地域農業再生協議会・市町村が相談先です。
まとめ
大雨や台風などで農林水産業に被害が出た場合、復旧や経営継続に向けた支援策は複数あります。
主な支援策としては、次のようなものがあります。
- 農地・農業用施設等の災害復旧
- 災害査定の効率化
- MAFF-SATの派遣
- 査定前着工の活用
- 激甚災害指定時の国庫補助率の嵩上げ
- 災害関連資金
- 農業共済の共済金早期支払い
- 収入保険のつなぎ融資
- 直接支払交付金の特例
- 果樹の植替え・幼木管理支援
- 水産関係の除去・復旧支援
- 林野関係の調査・復旧・予防支援
一方で、実際にどの支援が使えるかは、被害の内容、地域、制度の要件によって異なります。
災害時に重要なのは、まず安全を確保し、被害状況を記録し、関係機関に早めに相談することです。
復旧工事、共済・保険、資金繰り、交付金の扱いについては、自己判断だけで進めず、市町村、都道府県、JA、共済組合、金融機関などに確認しながら進めることが大切です。