日本の農産物や食品を海外で売るとき、品質や規格が国際的に通用する形になっているかどうかは大きな分かれ目になります。JAS(日本農林規格)を国際規格として通用させれば、規格に適合した国産品をそのまま海外市場へ出しやすくなり、取引条件の課題も減らせます。これを後押しするのが、グローバル産地づくり推進事業のJAS等の国際標準化による輸出力強化委託事業です。この記事では、JASの国際標準化が輸出になぜ効くのか、この事業が何を支援するのか、四つの柱と予算、関わり方までをわかりやすく整理します。
この事業の全体像
事業の中身に入る前に、誰が・何を進める枠組みなのかを表で押さえます。輸出に取り組む産地・事業者の目線で整理しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 何の事業か | グローバル産地づくり推進事業の一つで、輸出実績の向上に資するJAS等の国際標準化と、農業・食品産業分野での国際標準の活用に向けた体制整備を進める委託事業です。 |
| 何を支援するか | 国際標準化の調査、国際規格の制定、専門人材の育成、認証体制の整備という四つの業務を、国が民間団体等へ委託して実施します。 |
| 輸出にどう効くか | 日本発の規格を国際規格にすれば、規格に適合した国産品をそのまま海外市場へ出しやすくなり、取引条件の課題解消につながります。農林水産物・食品の輸出額を2030年までに5兆円へ拡大する目標を後押しします。 |
| 予算の規模 | 令和8年度の概算決定額は24百万円(前年度35百万円)、令和7年度補正予算額は35百万円です。委託先は年度ごとの公募で決まります。 |
| 詳しく知りたいとき | 農林水産省「国際標準化の取組み」と、随時掲出される公募・お知らせ(例:国際標準化に取り組むテーマの募集)をご覧ください。 |
JAS等の国際標準化による輸出力強化委託事業とは
この事業は、グローバル産地づくり推進事業の一環です。農林水産物・食品の輸出を拡大するための環境整備として、輸出実績の向上に資するJAS等の国際標準化と、農業・食品産業分野における国際標準の活用に向けた体制整備を進めます。
背景には、農林水産物・食品の輸出額を2030年までに5兆円へ拡大するという政策目標があります。輸出をさらに伸ばすには、日本の品質や安全性、生産方法を裏づける規格が、海外の取引相手にも通じる「ものさし」になっていることが欠かせません。そこで、日本発の規格を国際規格として通用する形に整え、規格に適合した国産品をそのまま海外市場へ出せる環境をつくります。これにより、民間の取引で生じる規格の食い違いといった課題の解消も期待できます。
実施の枠組みは、国が民間団体等へ業務を委託する形です。国際標準化に向けた調査・規格づくり・人材育成・認証体制の整備を、専門性を持つ団体が担います。
支援する四つの柱
委託により進める業務は、次の四つに整理されます。国際標準を戦略的に活用し、JAS等をベースに国際標準化を進め、その活動を実践へ移すという流れの中で、四つが相互に補い合います。
- ISO及び諸外国の国際標準化状況調査:ISO(国際標準化機構)や諸外国の国際標準化の動向、新たにJASを制定すべき分野、ISO提案を行う分野を調査します。新規JASと国際標準化の検討の土台になります。
- 国際規格の制定等:JAS等の国際標準化に向け、国際標準化戦略の検討、技術的データの収集、関係者間の合意形成、海外との調整・調査を行います。
- 国際標準化等にかかる専門人材の育成:民間企業等で、国際規格文書の作成・解釈や国際会議での交渉に精通した専門人材を育てる高度な研修を実施します。
- 国際規格認証に向けた体制整備:日本発の国際規格を輸出力の強化へ結び付けるため、その国際規格の普及と認証体制の整備を進めます。
どんな規格を国際標準にするのか
「国際標準化」と聞くと抽象的ですが、対象になるのは身近な品質や生産方法の規格です。JASには、品質や試験方法を定める一般的な規格に加え、日本ならではの強みや食文化を映した規格があります。たとえば有機JASや、原料に小麦を使わないノングルテン米粉の規格などです。こうした日本発の規格を海外でも通用する形へ整えることが、この事業のねらいです。
国際標準にする道筋は、ISOなどの場へ規格案を提案し、各国の専門家が集まる技術委員会で議論・合意して、国際規格として採択してもらう流れです。たとえば緑茶(抹茶を含む)の分類や試験方法は、日本も関わって国際規格づくりが進められてきた分野です。日本発の定義や測定方法が国際規格になれば、海外で名前だけ似た品との差別化や、輸出のたびに品質を説明し直す手間の軽減につながります。
逆に、規格が国ごとにばらばらだと、同じ品質の国産品でも輸出先ごとに表示や検査をやり直すことになり、コストと時間がかさみます。だからこそ、規格を「つくる」だけでなく、国際的に「通用させる」ところまで進めることに意味があります。
JAS規格の国際標準化が輸出にもたらす意義
JASを国際標準化することが、なぜ産地や事業者の輸出に効くのか。ポイントは三つあります。
第一に、規格に適合した国産品をそのまま海外市場へ出しやすくなります。日本の規格が国際規格として通用すれば、輸出のたびに相手国の基準へ合わせ直す手間や、規格の食い違いによる取引上の課題を減らせます。
第二に、日本の品質・強みを世界共通のものさしで示せます。たとえば品質や生産方法の優位性を、海外の取引相手や消費者にも分かる規格の形で伝えられれば、価格競争だけに巻き込まれず、強みを評価してもらいやすくなります。
第三に、国際規格を満たすための認証体制が整います。規格をつくるだけでなく、それを満たしていると証明する認証の仕組みが伴ってはじめて、海外市場での信頼につながります。この事業が認証体制の整備まで含むのはそのためです。
規格づくりと並んで、生産現場の取組を「見える化」する仕組みも輸出には欠かせません。生産工程管理の国際的な枠組みであるGAP(農業生産工程管理)は、その代表例です。規格・認証の全体像をつかみたいときは、あわせてご覧ください。
予算の規模
令和8年度の概算決定額は24百万円で、前年度の35百万円から減額しています。あわせて令和7年度補正予算額として35百万円が計上されています。委託先は年度ごとの公募で決まり、対象業務・契約形態・成果物の定義は募集要領で定めます。
産地・事業者の関わり方
この事業は国が民間団体等へ委託する形のため、産地や事業者が直接申し込んで補助を受ける制度ではありません。委託業務に取り組みたい団体は、農林水産省のJAS・国際標準化に関する案内ページと、随時掲出される公募説明資料を確認してください。
輸出に取り組む産地・事業者にとっては、この事業で整備が進む国際規格や認証の仕組みを、自社の販路づくりにどう生かすかが実務上の関心になります。輸出支援の全体像から確認したいときは農林水産物・食品の輸出促進策の解説を、輸出に挑む事業者の支援コミュニティについてはGFP(農林水産物・食品輸出プロジェクト)の解説をご覧ください。具体的な公募・テーマ募集は次のページで確認できます。
よくある質問
JASの国際標準化とは何ですか
日本農林規格(JAS)として定めた規格を、国際的に通用する規格へ整えることです。ISO(国際標準化機構)への提案などを通じて、日本発の規格を世界共通のものさしにし、規格に適合した国産品を海外市場へ出しやすくします。
なぜ輸出に役立つのですか
日本の規格が国際規格として通用すれば、相手国の基準へ合わせ直す手間や規格の食い違いによる取引上の課題が減ります。日本の品質や生産方法の強みを世界共通の規格で示せるため、価格だけでなく品質で評価してもらいやすくなります。
この事業では何を支援しますか
国際標準化の状況調査、国際規格の制定、専門人材の育成、国際規格認証に向けた体制整備という四つの業務を、国が民間団体等へ委託して進めます。規格づくりから、それを満たすための認証の仕組みづくりまでを一体で支援します。
GAPや認証とどう関係しますか
GAP(農業生産工程管理)が生産現場の取組を「見える化」する枠組みであるのに対し、この事業はJASを国際規格として通用させ、その認証体制を整える取組です。いずれも、日本の農産物・食品の品質や安全性を国際的に証明し、輸出の信頼を高めるという点でつながります。
次の一歩
輸出に取り組む産地・事業者は、まず輸出促進策の全体像で支援メニューを把握し、自社の品目に関わる規格・認証の動きを確認するところから始めましょう。委託業務そのものに関心がある団体は、農林水産省「国際標準化の取組み」と公募・テーマ募集のお知らせを継続して確認してください。
キーワード解説
JAS(日本農林規格)
農林水産大臣が定める、農林水産物や食品などの品質・生産方法・試験方法に関する国の規格です。これを国際的に通用する形へ整えるのが「JASの国際標準化」で、規格に適合した国産品を海外市場へ出しやすくする狙いがあります。
ISO(国際標準化機構)
各国の規格機関が参加し、製品やサービス、生産方法などの国際規格を定める組織です。日本発の規格を国際標準にするときは、ISOへの提案や国際会議での合意形成が重要な舞台になります。
グローバル産地づくり推進事業
農林水産物・食品の輸出拡大に向け、産地づくりや環境整備を進める事業です。本記事のJAS等の国際標準化による輸出力強化委託事業は、その一環として位置づけられます。