なぜ今、スマート農業なのか? 背景にある課題
基幹的農業従事者(主に自営農業に従事する者)は、2023年時点で約116万人ですが、今後20年間で約30万人(約4分の1)まで減少することが見込まれています。従来の生産方式のままでは、農業の持続的な発展や食料の安定供給を確保できないため、生産性の高い食料供給体制を確立する必要があります。
そのために、農作業の効率化に役立つスマート農業技術の活用と、生産方式の転換を進めるとともに、スマート農業技術の開発・普及を図り、現場での活用を促進することが国策として位置づけられています。
要点
要点を表にまとめました。
| 背景 | 基幹的農業従事者の減少(116万人→30万人見込み)。生産性向上のためスマート農業技術の活用と生産方式の転換が必要です。 |
|---|---|
| スマート農業とは | ロボット、AI、IoTなど先端技術を活用する農業です。作業の自動化・情報共有の簡易化・データの活用の三つの効果が期待されます。 |
| 主な技術 | 経営・生産管理システム、ロボットトラクター・自動操舵、ドローン、水管理システム、環境制御、収穫ロボット・運搬機、衛星画像分析、収量センサ付きコンバインなどです。 |
| 政策の流れ | 2013年研究会→2019年実証プロジェクト→2024年スマート農業技術活用促進法施行。農業データ連携基盤(WAGRI)、IPCSAの設立など。 |
| 基本計画での位置づけ | 食料・農業・農村基本法の改正・新基本計画で、生産性向上・付加価値向上・環境負荷低減の方向性の下、スマート農業技術の開発・普及が明記されています。 |
| 主な目標(KPI) | 2030年を目安に、スマート農業技術を活用した農地面積の割合を約20%→50%、スマート農機の出荷台数割合を25%→50%、経営体当たり生産量を1.8倍など。詳細は後述を参照してください。 |
| 関連する法 | 「農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律」(令和6年法律第63号)。概要は同資料の該当箇所で詳述されています。 |
スマート農業技術の例
ロボット、AI、IoT等の情報通信技術を活用した「スマート農業技術」により、農作業の効率化、身体の負担の軽減、経営管理の合理化による生産性の向上が期待されています。
経営・生産管理システムでは、ほ場や品目ごとの作業実績の見える化、生産コストの把握、栽培計画・方法の改善、収量予測などに活用できます。機能を絞った安価な製品から、経営最適化の分析機能が充実した製品まで幅広く存在します。
ロボットトラクター・ロボット田植え機・自動操舵システムにより、作業時間の短縮、1人当たりの作業可能面積の拡大、非熟練者でも熟練者と同等以上の精度・速度で作業することが可能になります。リモコン草刈機は急傾斜地等での除草作業に使われます。
ドローンは、直播や農薬・肥料の散布による省力化、センシングによる生育状況の把握と適肥・ばらつき解消による収量増加に役立ちます。水管理システムでは、ほ場の水位・水温等をセンサーで自動測定し、スマートフォン等でいつでも確認できます。ハウス等の環境制御システムでは、データに基づきハウス内環境を最適に保ち、高品質化や収量の増加・安定化が可能です。
このほか、収穫ロボット・運搬機、人工衛星(画像分析)、収量センサ付きコンバイン(ほ場ごとの収量・食味等のばらつき把握、翌年の施肥設計に活用)など、多様な技術が開発・普及されています。
スマート農業とは何か
「スマート農業」とは、ロボット、AI、IoTなど先端技術を活用する農業のことです。政府は「生産現場の課題を先端技術で解決する——農業分野におけるSociety5.0の実現」を掲げています。
スマート農業には、主に三つの効果があります。
① 作業の自動化 ロボットトラクターやスマートフォンで操作する水田の水管理システムなどの活用により、作業を自動化し人手不足の解消が可能になります。
② 情報共有の簡易化 位置情報と連動した経営管理アプリの活用により、作業の記録をデジタル化・自動化し、熟練者でなくても生産活動の主体になれることが期待されます。
③ データの活用 ドローン・衛星によるセンシングデータや気象データのAI解析により、農作物の生育や病害虫を予測し、高度な農業経営が可能になります。
生産から加工・流通・販売・消費に至るデータを連携・共有・提供する基盤として、農業データ連携基盤(WAGRI)やスマートフードチェーンプラットフォームの整備が進められています。
スマート農業をめぐる政策の流れ
2013年(平成25年)に「スマート農業の実現に向けた研究会」が立ち上げられ、スマート農業の将来像とロードマップが取りまとめられました。2019年(令和元年)からはスマート農業実証プロジェクト(〜令和6年)が始まり、スマート農業技術を生産現場に導入し、経営改善の効果を明らかにする取組が進められました。
農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドラインの策定、農業データ連携基盤(WAGRI)の構築、スマート農業推進総合パッケージの策定を経て、令和6年には「スマート農業技術活用促進法」が施行され、スマート農業技術に適した生産方式への転換を図りながら、現場導入の加速化と開発速度の引き上げを図る施策が本格化しています。
令和7年には新たな食料・農業・農村基本計画でスマート農業技術の推進がKPIとともに明記され、開発と普及の好循環を推進するため、多様なプレーヤーが参画するスマート農業イノベーション推進会議(IPCSA)が設立されました。
基本計画での位置づけ
食料・農業・農村基本法では、農業の持続的な発展を基本理念とし、望ましい農業構造の確立、将来の農業生産の方向性として生産性向上・付加価値向上・環境負荷低減を掲げています。
基本的施策として、担い手の育成・確保、農業法人の経営基盤強化、農地の集約化・効率的利用に加え、防災・減災、スマート農業、水田の畑地化も視野に入れた農業生産基盤の整備(第29条)、スマート農業技術等を活用した生産・加工・流通の方式の導入促進などによる「生産性の向上」(第30条)が位置づけられています。
食料・農業・農村基本計画(令和7年4月閣議決定)では、スマート農業技術は「農業者の減少下においても生産水準が維持できる生産性の高い食料供給を確立するために重要」であり、効果を最大化するには農業者自らが、スマート農業技術を活用した農業機械がより効率的に稼働できる生産方式に転換していく必要があるとしています。このため、スマート農業技術活用促進法及び基本方針に基づき開発・普及を進めるとともに、人材育成やネットワーク整備、サイバーセキュリティ対策等を関係府省庁で連携して推進し、IPCSAにより農業者が活用を判断する際に必要な情報の整理・発信や人材育成・マッチングのプラットフォームを構築するとしています。
基本計画が掲げる主な目標(KPI)
基本計画では、2030年(年度)を目安に次のようなKPI(目標指標)が掲げられています(数値は資料に基づく概略です)。
- 生産性の向上:1経営体当たり生産量を47t/経営体(2023年)→86t/経営体(1.8倍)に。
- 生産コストの低減:米(全体)15,944円/60kg(2023年)→13,000円/60kg。米(15ha以上の経営体)は11,350円→9,500円/60kg。小麦・大豆は2割減(現状比)を目標。
- スマート農業技術を活用した農地面積の割合:約20%(2024年)→50%。
- スマート農機の出荷台数割合:25%(2023年)→50%。
- スマート農業技術活用促進法の目標に掲げる技術の実用化割合:100%。
- 面積シェア・労働費削減:水稲作付面積15ha以上の経営体の面積シェアを約3割(2020年)→5割。大区画化等の実施地区における担い手の米生産コストの労働費削減割合は6割削減(現状比)。
- 単収・品種・サービス事業者等:単収の向上(米・小麦・大豆等)、多収化や高温耐性等に資する品種の育成35品種(純増)、サービス事業者の経営体数5,701経営体(2020年)→7,900経営体、支援対象スタートアップの売上額3,600億円など。
評価にあたっては、基準年(2023年)の資材価格・労賃等に基づき設定され、その時点の状況を踏まえて検証されることが記載されています。詳細は農林水産省の一次情報でご確認ください。
スマート農業技術活用促進法について
同資料の該当箇所では、「農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律」(令和6年法律第63号)の概要が詳述されています。同法は、生産方式革新実施計画や開発供給実施計画の認定制度、日本政策金融公庫の長期低利融資や行政手続の簡素化などの支援措置を定めています。制度の詳細は同資料の該当箇所および農林水産省の公式情報でご確認ください。
キーワード解説
- スマート農業:ロボット、AI、IoTなど先端技術を活用する農業。作業の自動化・情報共有の簡易化・データの活用により、人手不足の解消や生産性の向上が期待されます。
- 農業データ連携基盤(WAGRI):スマート農業に必要なデータを連携・共有・提供するためのデータプラットフォームです。
- 生産方式革新:スマート農業技術に適した生産方式への転換。ほ場の畝間拡大、均平化、合筆、作期分散、出荷の見直しなどを含み、技術の効果を最大限に引き出すために重要とされています。
- IPCSA(スマート農業イノベーション推進会議):スマート農業技術の開発・普及の好循環を推進するため、農業者や民間事業者、大学、地方公共団体等が参画し、技術の効果や事例の分析・評価、情報の整理・発信、人材育成・マッチング等を行うプラットフォームです。
- KPI(目標指標):基本計画等で掲げられる、達成度を測るための数値目標です。スマート農業に関しては、農地面積の割合、農機の出荷割合、生産コスト、単収などが設定されています。
まとめ
スマート農業をめぐる情勢では、基幹的農業従事者の減少を見据え、ロボット・AI・IoT等を活用したスマート農業技術の開発・普及と、それに適した生産方式への転換が国策として推進されています。2013年の研究会から実証プロジェクト、令和6年の活用促進法施行、基本計画でのKPI明記、IPCSAの設立まで、一連の流れを押さえておくと、現場での説明や今後の動向確認に役立ちます。数値や制度の詳細は、農林水産省の一次情報で必ずご確認ください。
【出典】農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」(2026年3月。本記事は同資料の3〜10枚目に基づいています)。本記事の数値・KPIは資料時点の情報です。制度の詳細は農林水産省 スマート農業等の公式情報でご確認ください。