六次産業化とは、農林漁業者が生産(1次)に加工(2次)・販売(3次)まで一体的に取り組み、新たな付加価値を生み出す考え方です。この記事では、六次産業化の意味と概念、メリット・デメリットと成功事例、根拠となる六次産業化・地産地消法、総合化事業計画の認定要件、市場の規模感、そして六次産業化を発展させた地域資源活用価値創出の考え方と事例まで解説します。交付金・支援対策の全体像は、姉妹記事の地域資源活用価値創出対策の解説をご覧ください。
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が | 主に農林漁業者およびその組織する団体(主たる構成員・出資者である法人を含む)。促進事業者(農林漁業者等以外の者)の取組を計画に位置づけることも可能です。地元企業・ベンチャー・研究機関・農村関係人口など、多様な主体の参画が想定されています。 |
| 何を | 六次産業化(1次・2次・3次の一体的推進)に加え、農林水産物以外の地域資源と他分野連携による地域資源活用価値創出。国の認定を受けた総合化事業には、資金特例・施設整備の交付金・専門家派遣などが紐づきます。 |
| いつまでに | 総合化事業計画の認定では、計画期間(目安5年)の終了時点で売上・所得の指標を満たす設計が必要です。政府方針は、コーディネーター派遣により2025年度までにモデル事例300件の創出を目標に掲げます(各計画の期限は個別の認定・交付要領に従います)。 |
| 市場規模 | 令和6年度の六次産業化市場は年間総販売2兆4,707億円(農業・漁業生産関連事業)。総合化事業計画の認定件数は23,404件です。個別の補助率・上限額は農山漁村振興交付金の要綱・公募ごとに異なります。 |
| 関連記事 | 交付金・支援対策の全体像は地域資源活用価値創出対策の解説、ソフト支援は推進事業の解説をご覧ください。 |
六次産業化とは
六次産業化とは、農業を1次産業だけにとどめず、加工などの2次産業、サービスや販売などの3次産業まで含め、1次から3次まで一体化した産業として農業の可能性を広げる考え方です(1×2×3=6)。農林漁業者が生産から加工・販売まで一体的に取り組むことで、農林水産物に新たな付加価値を生み出し、所得の向上につなげます。
この考え方は法律にも根拠があります。地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律(通称:六次産業化・地産地消法。公布:平成22年12月3日、六次産業化関係の施行:平成23年3月1日)の前文は、一次産業としての農林漁業と二次産業の製造業、三次産業の小売業等の事業を総合的かつ一体的に推進し、地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取組と定義しています。後述する地域資源活用価値創出は、この六次産業化を土台に、農林水産物以外の資源や他分野・多様な主体を加えて発展させた枠組みです。
六次産業化のメリットと注意点(デメリット)
六次産業化に取り組むかを判断するには、得られる効果と、続けるうえでの注意点の両方を押さえておくことが大切です。
メリット
- 所得・付加価値の向上:加工・販売まで自ら担うことで、これまで流通や加工業者が得ていた付加価値を生産者側に取り込めます。
- 価格決定力と販路の多様化:直売所・ネット販売・観光農園・農家レストランなど、市場出荷以外の販路を持てます。
- 規格外品の活用:加工に回すことで、市場に出しにくい規格外の農産物も収入につなげられます。
- 地域の雇用・関係人口:加工・販売・体験事業は地域の雇用を生み、ブランド化や交流人口の拡大にもつながります。
注意点(デメリット)
- 生産とは別のノウハウ・初期投資:加工・販売・集客は生産とは異なる技術と設備投資が必要で、人手も割かれます。
- 本業がおろそかになるリスク:手を広げすぎると、肝心の生産や品質管理に支障が出ることがあります。
- 販路の確保が難しい:つくっても売り先が定まらないと在庫を抱えます。販路を見据えた計画が前提です。
- 許可・表示などの規制対応:加工食品の製造には営業許可や食品表示などの対応が必要です(加工食品の販売許可の解説もあわせてご覧ください)。
こうした注意点を踏まえ、総合化事業計画の認定(売上5年5%増・終了年度黒字)や六次産業化プランナーの伴走支援を活用すると、無理のない事業設計につなげやすくなります。
政府方針における位置づけ
六次産業化と地域資源活用価値創出の推進は、食料・農業・農村基本計画(令和7年4月閣議決定)をはじめ、複数の政府方針で位置づけられています。付加価値向上の観点では、農業の高付加価値化と、地域資源を最大限活用した高付加価値型の産業・事業の創出が重要とされ、地域の農業者による加工・販売、観光農園、農家レストラン等による六次産業化の推進が具体策として挙げられています。
農村振興の経済面では、農業所得と農業以外の所得を合わせた一定の所得確保に向け、農林水産物に限らない多様な地域資源の活用と、農業者以外の主体の参画による付加価値創出が必要とされています。六次産業化、農泊、農福連携など地域資源をフル活用した他分野連携の取組を進め、地元の若者や事業者による域内起業・事業展開を後押しする方針です。
関連する閣議・本部決定では、コーディネーター派遣とデジタル技術の活用によるモデル事例の創出、官民共創による伴走支援、専門人材の派遣・育成と優良事例の横展開も方針に含まれます。
六次産業化・地産地消法と総合化事業の認定
同法は、農林漁業者及びその組織する団体が主体的に行う新事業の創出等に対して支援を行う法律です。農林水産大臣は、農林漁業経営の改善のための総合化事業について計画の認定を行い、各種法律の特例措置の対象とします。あわせて六次産業化プランナーの派遣や農山漁村振興交付金により、新商品開発や加工・販売施設の整備等を支援します。
総合化事業の内容
総合化事業は、次のいずれかに該当する取組です。
- 自ら生産する農林水産物等を不可欠な原材料として用いた新商品開発・生産又は需要の開拓
- 自ら生産する農林水産物等についての新たな販売方式の導入又は販売方式の改善
- 上記を行うために必要な生産方式の改善
農林漁業者等が総合化事業計画を策定し国の認定を受けて実施するほか、促進事業者(農林漁業者等以外の者)による取組を計画に位置づけることも可能です。
認定の経営改善要件
農林漁業の経営改善に関する認定要件として、次の2指標をすべて満たすことが求められます。
- ア)農林水産物等及び新商品の売上高が、5年間で5%以上増加すること
- イ)農林漁業及び関連事業の所得が事業開始時から終了時までに向上し、終了年度は黒字となること
主な支援策
- 各種法律の特例:農業改良資金融通法に基づく償還期限・据置期間の延長、都市計画法上の市街化調整区域における開発行為の手続特例など
- 農山漁村振興交付金:新商品開発・販路開拓への補助、新たな加工・販売等に必要な施設整備への補助
- 専門家の派遣:中央・都道府県に配置するプランナーによる、販路開拓や加工技術の習得等のアドバイス
認定の申請は、農林漁業者等が総合化事業計画を作成し、農林水産大臣(地方農政局等の窓口)に提出して受けます。申請手続・様式や個別の支援メニューは、農林水産省の六次産業化・地域資源活用価値創出の案内および都道府県の窓口で確認できます。交付金の補助率・上限額など支援の詳細は、姉妹記事の地域資源活用価値創出対策の解説をご覧ください。
市場規模と直売所の現状
農林水産省統計部の六次産業化総合調査(令和6年度)では、六次産業化に相当する農業・漁業生産関連事業の年間総販売金額は2兆4,707億円です。内訳の例は、農産物直売所が約1兆1,344億円(45.9%)、農産加工が約1兆61億円(40.7%)、水産加工が約1,931億円(7.8%)などです。
農業・漁業の加工・直売分野は年間総販売の約96%を占め、令和6年度の加工・直売の市場規模は約2.3兆円に達します。加工・直売分野は平成23年度の約1.7兆円台から拡大し、令和6年度は約2.2兆円台です。
総合化事業計画の認定件数は、令和6年度時点で23,404件です(推移は増加傾向)。
農産物直売所は全国で約2万960施設、年間総販売額は約1.1兆円です。令和6年度の施設数の運営主体別では、農業経営体が11,270施設(53.8%)、農業協同組合が2,170施設(10.4%)、その他が7,520施設(35.9%)です。販売総額では、農業経営体が1,962億円(17.3%)、農業協同組合が4,384億円(38.7%)、その他が4,998億円(44.1%)となり、施設数のシェアと販売額のシェアは一致しません。
地域資源活用価値創出の考え方と事例
地域資源活用価値創出は、従来の六次産業化を発展させ、文化・歴史、森林、景観など農林水産物以外の地域資源も活用します。農林漁業者に加え地元企業など多様な主体が参画・連携し、農山漁村の所得向上と雇用創出を図る取組です。
事業のイメージは、「多様な資源×多様な事業分野×多様な事業主体」で付加価値を創出する構図です。地域資源の例には、農林地、森林、自然・景観、文化・歴史、農業遺産、かんがい施設遺産、古民家・空家、廃校、バイオマスなどがあります。事業分野には、加工販売、観光・旅行、福祉、教育、芸術、スポーツ、健康医療、エネルギー、アウトドア、イベントなどが含まれます。主体には農林漁業者、地元企業、ベンチャー企業、研究機関、農村マルチワーカー、農村関係人口、農村RMOなどが参画します。
具体的な事例は次のとおりです。
- 栃木県宇都宮市:タケノコや栗の加工販売に加え、竹林景観を映画ロケ地や観光商品として活用(農産物・景観×加工販売・観光旅行×農林漁業者・地元企業)
- 栃木県壬生町:森林をフィールドとしたサバイバルゲーム事業と、参加料の一部を森林所有者へ還元(森林×スポーツ×ベンチャー企業)
- 長崎県大村市:六次産業化による農産加工品の製造・販売に加え、食育体験・収穫体験などのメニュー展開(農産物×加工販売・観光旅行・教育×農林漁業者・地元企業)
支援の方向性は、農山漁村の地域資源をフル活用した取組の支援と、他産業起点の取組など他分野との連携の一層の促進です。これらを後押しする農山漁村振興交付金の「地域資源活用価値創出対策」は、創出支援型・産業支援型・定住促進・交流対策型など類型ごとに支援メニューが分かれます。対策ごとの補助内容は、姉妹記事の地域資源活用価値創出対策の解説で確認できます。
よくある質問
六次産業化とは何ですか
六次産業化とは、農林漁業者が生産(1次産業)に加えて、加工(2次産業)や販売・サービス(3次産業)まで一体的に取り組み、農林水産物に新たな付加価値を生み出す考え方です。1×2×3=6から「六次」と呼びます。観光農園や農家レストラン、農産物の加工品づくりと直売などが代表例です。
六次産業化のメリット・デメリットは何ですか
メリットは、加工・販売まで自ら担うことで付加価値を取り込み所得が上がること、直売所・観光農園・農家レストランなど販路が多様化すること、規格外品を活用できること、地域の雇用や関係人口が生まれることです。一方の注意点(デメリット)は、加工・販売が生産とは別のノウハウと初期投資を要すること、本業がおろそかになりやすいこと、販路確保が難しいこと、加工食品の営業許可や食品表示などの規制対応が必要なことです。
六次産業化の例にはどのようなものがありますか
栃木県宇都宮市ではタケノコや栗の加工販売に加え、竹林景観を映画ロケ地や観光商品として活用しています。栃木県壬生町は森林を使ったサバイバルゲーム事業を展開し、参加料の一部を森林所有者へ還元しています。長崎県大村市は農産加工品の製造・販売に食育体験・収穫体験を組み合わせています。いずれも地域資源を分野横断で生かした取組です。
総合化事業計画とは何ですか
総合化事業計画は、六次産業化・地産地消法に基づき農林漁業者等が作成し、農林水産大臣の認定を受ける計画です。認定を受けると、各種法律の特例、農山漁村振興交付金、六次産業化プランナーの派遣といった支援の対象になります。
総合化事業計画の認定要件はどのようなものですか
経営改善に関する2つの指標をすべて満たすことが必要です。1つは農林水産物等及び新商品の売上高が5年間で5%以上増加すること、もう1つは農林漁業及び関連事業の所得が事業開始時から終了時までに向上し、終了年度に黒字となることです。
どこに相談・申請すればよいですか
総合化事業計画の認定申請は、地方農政局等の窓口に行います。事業計画づくりや販路開拓、加工技術の習得は、中央・都道府県に配置された六次産業化プランナーが助言します。交付金の補助率・上限額など支援の詳細は、姉妹記事の地域資源活用価値創出対策の解説をご覧ください。
地域資源活用価値創出と六次産業化はどう違いますか
六次産業化は農林水産物を中心に1次・2次・3次を一体化する考え方です。地域資源活用価値創出は、これを発展させ、文化・歴史、森林、景観など農林水産物以外の地域資源や、農林漁業者以外の多様な主体・他分野まで広げた枠組みです。令和4年度から導入され、令和6年度までは農山漁村発イノベーションと呼ばれていました。
次の一歩
六次産業化や地域資源活用に取り組むなら、まず地域の都道府県・地方農政局の窓口に相談し、自社の取組が総合化事業計画の対象になるかを確認してください。あわせて六次産業化プランナーの助言を受け、売上5%増・終了年度黒字という認定要件に沿った事業計画を組み立てると進めやすくなります。交付金など支援策を具体的に検討する段階では、姉妹記事の地域資源活用価値創出対策の解説と推進事業の解説を続けてご覧ください。
キーワード解説
地域資源活用価値創出
農林水産物や農林水産業に関わる多様な地域資源を活用して付加価値を創出し、農山漁村の所得向上と雇用機会の確保を図る取組です。令和4年度から六次産業化を発展させた枠組みとして位置づけられ、令和6年度までの呼称は農山漁村発イノベーションでした。
六次産業化
1次・2次・3次産業を一体的に進める農業のあり方です。六次産業化・地産地消法に基づく総合化事業の認定・支援が中心となる制度群の基盤です。
総合化事業計画
農林漁業者等が策定し農林水産大臣の認定を受ける計画です。認定により経営改善要件の下で総合化事業を実施し、法律特例・交付金・プランナー派遣などの支援対象となります。
促進事業者
農林漁業者等以外の者が行う、六次産業化・地域資源活用に資する取組です。総合化事業計画に位置づけることで、地域の多様な主体による連携が可能です。