鹿やイノシシを解体する行為そのものに免許や資格は要りません。分かれ目は「売るかどうか」です。自分や家族で食べる自家消費なら特別な許可は不要ですが、ジビエとして商品にして人に販売するには、食品衛生法に基づく食肉処理業の営業許可を受けた施設で処理・加工しなければなりません。混同されがちですが、狩猟免許は「捕る」ための資格、食肉処理業の営業許可は「売る」ための許可で、まったくの別物です。この記事では、解体・販売に必要な免許と許可の境目、処理施設の作り方、国産ジビエ認証、衛生管理、販路づくりまでを、ジビエ事業を始めたい狩猟者・処理加工事業者の目線で整理します。
この記事の要点
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰向けの記事か | 鹿・イノシシの解体や販売に免許が要るのか知りたい狩猟者、捕獲した個体をジビエとして売りたい方、処理・加工・販売を始めたい事業者、鳥獣害対策とあわせて地域の流通を検討する自治体・農協の方です。 |
| 解体に免許は要る? | 解体行為そのものに免許・資格は要りません。自家消費なら特別な許可は不要です。商品として販売する場合だけ、食肉処理業の営業許可を受けた施設での処理・加工が必要になります。 |
| 販売に必要なもの | 食品衛生法に基づく食肉処理業の営業許可を受けた処理施設での処理・加工が前提です。狩猟免許は捕獲のための資格で、これとは別物です。あわせて国産ジビエ認証を取ると、安全な国産ジビエであることを客観的に示せます。 |
| カギになること | 捕獲から冷蔵・加工までの時間管理と衛生管理、そして売り先(販路)の確保です。捕獲を担うジビエハンターの確保もセットで設計します。 |
| 相談先・一次情報 | 営業許可・施設基準は都道府県・保健所へ、制度の全体像は農林水産省「ジビエ利用の推進」をご覧ください。 |
鹿・イノシシの解体に免許や資格は要る?
結論から言うと、捕獲した鹿やイノシシを解体する行為そのものには、免許も資格も要りません。判断の分かれ目は「その肉をどうするか」です。
- 自分や家族で食べる(自家消費)——解体も食べることも、特別な許可なしでできます。
- 商品として人に販売する——食肉処理業の営業許可を受けた施設での処理・加工が必須です。許可施設を通さない肉は売れません。
もう一つ混同されやすいのが、狩猟免許と販売許可の関係です。狩猟免許は野生鳥獣を「捕る」ための資格で、わな猟・網猟・銃猟などの種類ごとに都道府県知事が交付します。これに対し、食肉処理業の営業許可は捕った肉を「売る」ための許可です。狩猟免許を持っていても、それだけでジビエを販売できるわけではありません。逆に、捕獲を他のハンターに任せて買い取り、自分は処理施設で加工・販売だけを担う形もあります。「捕る資格」と「売る許可」は切り離して考えましょう。
調理師免許についても、持っているだけでジビエの食肉処理・販売ができるわけではありません。販売の可否を決めるのは、あくまで施設ごとに受ける食肉処理業の営業許可です。次の表で、目的別に何が必要かを整理します。
| やりたいこと | 狩猟免許 | 食肉処理業の営業許可 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 自分で捕って自分で食べる | 捕獲方法により必要 | 不要 | 自家消費は販売にあたりません。ただし生食・加熱不足は食中毒の危険があります。 |
| 捕った肉を解体して販売する | 自分で捕るなら必要 | 必要 | 許可を受けた処理施設での処理・加工が前提です。 |
| 他のハンターから買い取って加工・販売する | 不要 | 必要 | 捕獲は委ね、処理・販売だけを担うモデルです。 |
| 処理済みのジビエを飲食店で出す・小売する | 不要 | 仕入れ元が取得 | 許可施設で処理された肉を仕入れます。提供形態により別の営業許可が要ることがあります。 |
狩猟免許の取り方や種類(わな猟・網猟・銃猟)、わなでの捕獲については鳥獣被害対策の解説もあわせてご覧ください。販売を前提にした処理施設・許可・衛生管理の進め方は、このあと順に説明します。
ジビエ利用の現状|捕獲のうち食肉になるのは約1割
まず、ジビエ事業がどれくらいの規模で、これからどこへ伸びようとしているのかを押さえます。令和5年度のジビエ利用量は2,729トンで、全国772の処理加工施設において182,627頭・羽がジビエとして解体されました。利用量は平成28年度の1,283トンから着実に増えています。
一方で、捕獲された鹿・イノシシのうちジビエとして食肉加工・流通された割合は約1割にとどまります(捕獲者による自家消費を除く)。残りは未利用や別用途に流れており、ここに新規参入の余地があります。令和7年4月に閣議決定された食料・農業・農村基本計画では、令和12年のKPIとしてジビエ利用量4,000トンが掲げられ、捕獲から消費まで各段階の対策が進められています。捕獲頭数を増やすだけでは利用量は伸びず、処理能力・販路・衛生管理を高めることが目標達成のカギです。
利用量の推移
| 年度 | 利用量(トン) |
|---|---|
| 平成28年度 | 1,283 |
| 令和元年度 | 1,629 |
| 令和3年度 | 2,085 |
| 令和5年度 | 2,729 |
用途は食用が中心で、ペットフード等も含まれます(令和5年度)。鹿・イノシシは鳥獣被害対策で捕獲される農作物被害の原因でもあり、ジビエはその捕獲鳥獣を地域資源として活かす出口にあたります。
捕獲から販売までの流れ
ジビエは、生きた野生鳥獣を「処分」で終わらせず、安全な食肉にして売り先まで届ける一連の流れで成り立ちます。大きく次の4段階です。
- 捕獲——衛生管理の知識を持つジビエハンター等が、食用を前提に捕獲します。捕獲後は速やかに止め刺し・血抜きを行います。
- 搬入——捕獲した個体を、できるだけ早く処理施設へ運び込みます。気温や時間が肉の品質と安全性を左右します。
- 処理・加工——食肉処理業の営業許可を受けた処理施設で、解体・精肉・冷蔵・冷凍を行います。基準を満たす施設での処理が販売の前提です。
- 流通・消費——精肉・加工品として、飲食店・小売・直販・通販などへ届けます。用途に応じて食用・ペットフード等に商品化します。
この流れのどこか一つでも止まると、捕獲した個体は売り物になりません。自分がどの段階を担い、どこを地域の他者と分担するのかを最初に決めると、必要な許可・設備・人が見えてきます。
販売に必要な許可・認証
「自分で捕った肉だから自由に売れる」わけではありません。野生鳥獣の肉を商品として人に販売するには、次の許可・認証が関わります。
食肉処理業の営業許可
捕獲した鹿・イノシシを解体・精肉してジビエとして販売するには、食品衛生法に基づく食肉処理業の営業許可が必要です。許可は施設ごとに受けるもので、その許可を受けた処理施設で処理・加工した肉でなければ、原則として販売できません。さらに、加工品をつくる・飲食店で提供するといった事業内容によっては、別の営業許可が必要になることもあります。
施設の構造設備の基準や、許可申請の具体的な手順・必要書類は都道府県・保健所が所管し、地域によって運用が異なります。新たに処理施設を整備する前に、必ず管轄の保健所へ事前相談し、自分の計画でどの許可が必要かを確認しましょう。
国産ジビエ認証
安全なジビエの提供と消費者の安心のため、国産ジビエ認証の仕組みが平成30年5月に公表されました。これは、衛生管理やトレーサビリティの基準を満たした処理施設を第三者が認証する制度で、令和7年6月末時点の認証施設数は31件です。
営業許可が「販売してよいかどうか」の最低ラインであるのに対し、国産ジビエ認証は「安全な国産ジビエであること」を客観的に示す上乗せの証です。レストラン・百貨店・直販で訴求したいなら、認証施設での処理、あるいは認証基準に沿った衛生管理を前提にすると、取引先や消費者に説明しやすくなります。認証の対象や審査の基準は、国産ジビエ認証委員会の案内をご覧ください。
衛生管理のポイント|捕獲から処理までの時間が品質を分ける
ジビエの品質と安全性は、捕獲した瞬間から始まる時間管理で大きく変わります。家畜と違い、野生鳥獣は捕獲のタイミングや場所を選べないため、捕獲・搬入・冷蔵・加工の各段階を短時間でつなぐ設計が欠かせません。衛生管理の土台になるのが、厚生労働省が平成26年(2014年)11月に定めた「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」です。鹿・イノシシを念頭に、①捕獲、②運搬、③食肉処理、④加工・調理・販売、⑤消費の各段階で守るべき衛生管理を定めており、処理施設の運用はこの指針に沿って組み立てます。生または加熱不十分なジビエはE型肝炎ウイルスや腸管出血性大腸菌、寄生虫による食中毒の危険があるため、中心部までしっかり加熱して提供することが前提です。
- 捕獲直後——速やかに止め刺し・血抜きを行い、内臓の状態や外傷を確認します。食用に適さないと判断したら無理に流通させません。
- 搬入まで——気温が高い時期ほど傷みやすいため、できるだけ早く処理施設へ運び、冷蔵までの時間を短くします。
- 処理・冷蔵——許可を受けた施設で速やかに解体・冷却し、コールドチェーン(低温流通)を切らさずに保管・出荷します。
- 記録——いつ捕獲し、どう処理したかを記録すると、トレーサビリティと取引先への説明に役立ちます。
こうした衛生管理を捕獲側から徹底するために、衛生管理の知識を持つジビエハンターの存在が重要になります。施設の認証と、捕獲を担うジビエハンターの確保はセットで考えましょう。
販路・ブランド化と事例(ART CUBE)
許可を取り、安全に処理できても、売り先がなければ事業は続きません。販路は、飲食店への精肉卸、小売・百貨店での販売、直販・通販、ペットフードなど用途に応じて広げられます。「安全な国産ジビエ」を旗印にブランド化すると、価格と取引を安定させやすくなります。
その先行事例が株式会社ART CUBEです。同社は平成30年に第1号の国産ジビエ認証を取得し、令和6年度鳥獣被害対策優良活動表彰で農林水産大臣賞を受賞しました。取組の特徴は次のとおりです。
- 国の指針を上回る厳格な独自ルールを設け、捕獲は社員または契約ジビエハンターのみが担当します。
- 新鮮な肉の確保・処理・加工を徹底します。
- ジビエハンターガイドブックを普及し、講習会・視察を受け入れています。
- 百貨店等で販売し、販路を確保しています。
事業モデルは大きく二つに分かれます。一つは「捕獲→短時間で処理→コールドチェーン→販路」までを一社で握るモデル、もう一つは地域で捕獲・処理・販売を分担するモデルです。自社の強み(捕獲網・施設・販路のどれを持つか)に合わせて役割分担を決めると、無理なく始められます。
使える支援
ジビエ利用の拡大は、捕獲対策とあわせて国の交付金で後押しされています。代表的なのが鳥獣被害対策を支える鳥獣被害防止総合対策交付金で、その中にジビエ利用の拡大を支援する枠が設けられています。処理加工施設の整備や利用の取組などが支援の対象になり得ます。
対象となる取組の範囲、補助率、申請の窓口・時期は年度や地域で変わります。具体的な活用可否や手続きは、市町村・都道府県・地方農政局など実施主体の最新の案内で確認しましょう。
よくある質問
鹿やイノシシの解体に免許や資格は要りますか
解体する行為そのものには、免許も資格も要りません。自分や家族で食べる自家消費なら、特別な許可なしで解体・調理できます。免許や許可が必要になるのは「売る」場合で、商品として販売するには食肉処理業の営業許可を受けた施設で処理・加工することが前提です。また、生や加熱不足のジビエは食中毒の危険があるため、自家消費でも中心部までしっかり加熱しましょう。
狩猟免許があればジビエを販売できますか
できません。狩猟免許は野生鳥獣を「捕る」ための資格(わな猟・網猟・銃猟などの種類があります)で、肉を「売る」ための許可とは別です。販売するには、食肉処理業の営業許可を受けた処理施設での処理・加工が必要です。自分で捕って売るなら狩猟免許と営業許可の両方が関わり、捕獲を他のハンターに任せて加工・販売だけを担うなら狩猟免許は要りません。
捕獲した鹿やイノシシを売るのに許可は要りますか
はい。野生鳥獣の肉を商品として販売するには、食品衛生法に基づく食肉処理業の営業許可を受けた処理施設で処理・加工することが前提です。許可を受けた施設で扱った肉でなければ、原則として販売できません。事業内容によっては、ほかの営業許可が必要になることもあります。
自分で捕った肉を販売できますか
捕獲しただけの肉をそのまま売ることはできません。販売するには、許可を受けた処理施設で処理・加工する必要があります。自分の施設で処理して売りたい場合は、まず食肉処理業の営業許可を受けることから始めます。自家消費(自分や家族で食べる)と、商品として販売することは扱いが異なります。
ジビエ処理施設を作るには何が必要ですか
食肉処理業の営業許可を受けるための構造設備の基準を満たす施設が必要です。基準の詳細や申請手順は都道府県・保健所が所管し、地域によって運用が異なります。建てる前に管轄の保健所へ事前相談し、必要な設備と書類を確認しましょう。あわせて、捕獲から搬入までの時間を短くできる立地・体制も検討します。
国産ジビエ認証とは何ですか
安全なジビエの提供と消費者の安心のために平成30年5月に公表された制度で、衛生管理やトレーサビリティの基準を満たした処理施設を第三者が認証します。営業許可が販売の最低ラインであるのに対し、認証は「安全な国産ジビエであること」を客観的に示す証です。令和7年6月末時点で31施設が認証を受けています。
ジビエハンターとは何ですか
ジビエに必要な衛生管理の知識を持つ捕獲者です。食用を前提に、捕獲後すぐの処理や搬入までの時間管理を意識して捕獲します。ART CUBEの事例では、契約ジビエハンターのみが捕獲を担い、品質と安全性を保っています。
次の一歩
ジビエ販売を始めると決めたら、次の順で動くと進めやすくなります。
- まず管轄の保健所へ、自分の計画でどの営業許可が必要か、施設にどんな基準が求められるかを相談しましょう。
- 処理施設の整備や捕獲の体制づくりで使える支援は、市町村・都道府県の鳥獣被害対策・ジビエ利用の窓口に確認しましょう。
- 「安全な国産ジビエ」として売りたいなら、国産ジビエ認証委員会の案内で認証の対象・基準を確認し、取得を検討しましょう。
キーワード解説
狩猟免許
野生鳥獣を捕獲するための資格で、わな猟・網猟・第一種銃猟・第二種銃猟の種類があります。都道府県知事が試験を行い交付します。捕獲のための資格であって、捕った肉を販売するための許可(食肉処理業の営業許可)とは別物です。
国産ジビエ認証
安全なジビエ提供のための認証制度です。衛生管理やトレーサビリティの基準を満たした処理施設を第三者が認証します。営業許可とは別の、上乗せの信頼の証として使えます。
ジビエハンター
ジビエに必要な衛生管理の知識を持つ捕獲者です。食用を前提に、捕獲後すぐの処理や搬入までの時間管理を意識して捕獲します。ART CUBE事例では契約ジビエハンターのみが捕獲を担当しています。