手塩にかけた田畑がイノシシやシカに荒らされる被害は、全国で年164億円にのぼります。捕獲だけ、柵だけでは被害が止まらないことも多く、効くのはとる・まもる・よせつけないの3つの柱を組み合わせることです。この記事では、被害の現状から、自分の農地で何から始めるか、電気柵などの侵入防止と捕獲の進め方、鳥獣被害防止総合対策交付金など使える支援までを、鳥獣害に悩む農家と自治体担当者に向けて解説します。
この記事の要点
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| こんな人に | イノシシ・シカ・サルの農作物被害に悩む農家、捕獲や防護柵を地域でまとめる自治体・JA・協議会・猟友会の担当者に役立ちます。 |
| 何が分かるか | 被害額と獣種別の内訳、対策の3つの柱、自分の農地で何から始めるか、侵入防止と捕獲の進め方、使える支援の探し方が分かります。 |
| 何から始めるか | まず害獣の種類・出る時間帯・侵入経路を記録し、侵入防止とえさ場・隠れ場の管理を組み合わせます。捕獲と支援は市町村の鳥獣対策担当に相談します。 |
| 相談先・詳細 | 市町村の鳥獣対策担当、鳥獣被害対策実施隊・協議会、農林水産省「鳥獣被害対策」をご覧ください。 |
鳥獣被害の現状|被害額の約6割がシカ・イノシシ
令和5年度の野生鳥獣による農作物被害額は164億円です。このうち約7割をシカ・イノシシ・クマ・サルが占め、なかでもシカとイノシシの2種だけで全体の約6割にのぼります。米や野菜、果樹、飼料作物が広く狙われ、収穫直前にまとめて食い荒らされると一年分の労力が無駄になります。
金額に表れない打撃も深刻です。被害が続くと営農の意欲が下がり、耕作をやめる農地が増え、その荒れ地が新たな獣のすみかや侵入経路になります。被害を放置するほど次の被害を呼ぶため、早めに手を打つことが大切です。
| 獣種 | 被害額(億円) |
|---|---|
| シカ | 70 |
| イノシシ | 36 |
| その他獣類 | 16 |
| カラス | 13 |
| その他鳥類 | 13 |
| サル | 7 |
| クマ | 7 |
被害額は平成22年度の239億円をピークに、対策が進んで減少傾向にあります。令和5年度は164億円まで下がりましたが、依然として農家経営に重くのしかかる規模です。下の図は、被害の全体像と対策の3つの柱、捕獲頭数の推移をまとめたものです。
鳥獣被害対策の3つの柱とは|とる・まもる・よせつけない
鳥獣被害対策の鉄則は、次の3つの柱を組み合わせることです。どれか一つだけに頼ると効果が長続きしません。
| 柱 | 考え方 | 主な取組 |
|---|---|---|
| とる(個体群管理) | 農地に被害を与える鳥獣を捕獲し、数を抑えます。 | 農地周辺などでの捕獲、わな・銃による有害鳥獣捕獲 |
| まもる(侵入防止) | 農地に入れない・近づけない物理的な壁をつくります。 | 電気柵・ワイヤーメッシュ柵など侵入防止柵の設置と管理、追払い |
| よせつけない(生息環境管理) | えさ場や隠れ場をなくし、農地を魅力のない場所にします。 | 収穫残さ・くず野菜の処理、放任果樹の伐採、やぶの刈払い・緩衝帯の整備 |
「とる」で数を減らしても、農地にえさと隠れ場が残っていれば別の個体がやってきます。「まもる」で柵を張っても、周りに引き寄せる要因があれば柵を乗り越えようとする圧力が高まります。だからこそ3つを同時に回すことが、被害を確実に減らす近道です。
自分の農地は何から始めるか
3つの柱の比重は、農地の置かれた状況で変わります。次の3点をもとに、力を入れる柱を決めます。
- 害獣の種類:シカやイノシシなら高さ・強度のある侵入防止柵が要になり、サルなら電気柵や追払いの工夫、カラスなど鳥類なら防鳥網が中心になります。
- 農地の位置:山林に接した農地は侵入されやすいため、まず「まもる」を厚くします。集落の中でも、放任果樹ややぶが近い農地は「よせつけない」が効きます。
- 周辺の林野や荒れ地:すみかになるやぶや耕作放棄地が周りに多い地域では、地域ぐるみで「よせつけない+とる」を進めないと、個々の対策が長続きしません。
目安として、山林に面した水田・果樹園ではまもる+とるを中心に、集落周辺にイノシシが出る地域ではよせつけない+とるを中心に組み立てると効果が出やすくなります。短期で効く侵入防止と、中長期で効く生息環境管理を分けて計画すると、毎年の手当てがしやすくなります。
侵入防止柵と捕獲の進め方
電気柵などの侵入防止柵
「まもる」の主役が電気柵やワイヤーメッシュ柵などの侵入防止柵です。被害を減らす力は強い一方で、効果は設置と管理の質で大きく変わります。柵の下の草が伸びて漏電すると電気柵は役に立たず、わずかなすき間や倒れた一区間からイノシシが侵入します。設置して終わりにせず、草刈りや点検、破れの補修を続けることが欠かせません。一枚の農地だけでなく、集落でまとめて囲うと侵入経路をふさぎやすく、効果が高まります。
捕獲の進め方
令和5年度の捕獲頭数は、シカ72万頭、イノシシ52万頭にのぼります。シカは平成26年度の59万頭から増え、令和3〜5年度は72万頭前後で推移しています。イノシシは令和3年度の53万頭から令和5年度は52万頭となっています。これだけ捕っても被害がゼロにならない地域が多く、捕獲と侵入防止、えさ場・隠れ場の管理を並行しないと、捕獲後も被害が続きます。
捕獲はわなや銃を使うため、資格や安全管理が必要です。個人で抱え込まず、市町村の鳥獣対策担当、鳥獣被害対策実施隊、地域の協議会や猟友会と連携して進めます。わなの設置や見回りを地域で分担する体制をつくると、捕獲を続けやすくなります。
使える支援|鳥獣被害防止総合対策交付金など
侵入防止柵の設置や捕獲の体制づくりには、国の鳥獣被害防止総合対策交付金などの支援を活用できます。これは、市町村が作る被害防止計画に基づいて、侵入防止柵の整備や捕獲機材の導入、地域ぐるみの取組などを後押しする制度です。
支援の対象・補助の額・要件は、地域や年度、取組の内容によって変わります。最新の条件はこの記事だけでは判断できないため、まずお住まいの市町村の鳥獣対策担当に相談し、地域の被害防止計画や協議会の枠組みに沿って活用できるか確認することが近道です。市町村独自の補助や、都道府県の支援が使える場合もあります。補助・技術支援の詳しい内容は、農林水産省や都道府県・市町村の案内をご覧ください。
捕獲した鳥獣はジビエとして活かせる
捕獲したシカやイノシシを地域の資源として活かす動きが広がっています。食肉(ジビエ)やペットフードなどに利用すれば、捕獲の担い手の収入につながり、捕獲を続ける力になります。「とる」を被害対策で終わらせず、地域の収入に変える取組です。捕獲鳥獣の活用についてはジビエ利用の現状と推進策の解説で詳しく整理しています。
よくある質問
鳥獣被害対策の補助金はありますか
あります。国の鳥獣被害防止総合対策交付金が代表的で、市町村の被害防止計画に基づいて侵入防止柵の整備や捕獲機材の導入などを支援します。対象や補助の額・要件は地域や年度で変わるため、まず市町村の鳥獣対策担当に相談し、地域の協議会の枠組みで活用できるか確認しましょう。市町村や都道府県の独自支援が使える場合もあります。
電気柵の費用は補助されますか
侵入防止柵の整備は、鳥獣被害防止総合対策交付金などの支援対象になり得ます。地域ぐるみで設置する取組が重視される傾向があり、補助の額や要件は地域・年度・設置の規模で異なります。具体的な補助の内容は、市町村の鳥獣対策担当や協議会で確認してください。
捕獲は誰に頼めばよいですか
まず市町村の鳥獣対策担当に相談します。多くの地域では、市町村が任命する鳥獣被害対策実施隊や、地域の協議会・猟友会が捕獲を担います。捕獲にはわな・銃の資格や安全管理が必要なため、地域の体制と連携して進めるのが基本です。
クマやサルの被害も対策の対象ですか
対象です。農作物被害額のうちクマ・サルもそれぞれ一定の割合を占め、対策の3つの柱の考え方は共通します。獣種ごとに有効な柵や追払いの方法が異なるため、自分の農地に出る獣種を見極めて手を打つことが大切です。地域での対応は市町村の鳥獣対策担当にご相談ください。
何から始めればよいですか
まず農地に出る害獣の種類・時間帯・侵入経路を記録します。そのうえで、短期で効く侵入防止(電気柵など)と、えさ場・隠れ場をなくす生息環境管理を組み合わせ、捕獲と支援は市町村の鳥獣対策担当に相談します。一枚の農地より集落でまとまって取り組むほうが効果が高まります。
次の一歩
被害を減らす最初の一歩は、一人で抱え込まず地域の窓口につながることです。まずお住まいの市町村の鳥獣対策担当に相談し、鳥獣被害対策実施隊や地域の協議会の取組に加わりましょう。そのうえで、害獣の記録をもとに侵入防止・生息環境管理・捕獲を組み合わせ、使える支援を確認しながら、できることから始めましょう。
対策の実務は個別の記事で深掘りしています。柵の種類と選び方は侵入防止柵の比較、電気柵の補助金と安全基準は電気柵の設置ルール、捕獲の許可と報奨金は有害鳥獣捕獲の仕組み、捕獲を担う資格は狩猟免許の取り方、地域の実行部隊は鳥獣被害対策実施隊の各記事をご覧ください。
キーワード解説
鳥獣被害対策の3つの柱
とる(個体群管理)・まもる(侵入防止)・よせつけない(生息環境管理)の組み合わせが、鳥獣被害対策の基本です。捕獲・侵入防止・えさ場や隠れ場の管理を同時に進めることで、被害を確実に減らせます。
鳥獣被害防止総合対策交付金
市町村が作る被害防止計画に基づいて、侵入防止柵の整備や捕獲機材の導入、地域ぐるみの取組などを支援する国の交付金です。対象や補助の額・要件は地域や年度で変わるため、市町村の鳥獣対策担当に確認します。
鳥獣被害対策実施隊
市町村が任命し、地域で捕獲や被害防止の活動を担う体制です。農家・猟友会員などで構成され、わなの設置・見回りや侵入防止の取組を地域ぐるみで進めます。捕獲を相談する身近な窓口になります。