牛舎の新築や補改修、搾乳ロボット・飼料収穫機の導入といった大型投資には、畜産クラスター事業(正式名称:畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業。令和7年度補正予算の所要額591億円)で補助率2分の1以内の補助を受けられます。この記事では、対象となる畜産農家の条件、補助率と上限、新設された持続性向上タイプ、申請の流れを整理します。採択条件や様式の最終判断は、農林水産省の要綱・要領と都道府県・地方農政局の最新の案内をご覧ください。
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が | 畜産クラスター協議会を地域で構成し、畜産クラスター計画で中心的な経営体に位置付けられた畜産農家・農業法人(酪農・肉用牛を含む畜産経営)が補助を受けられます。 |
| 何を | 牛舎・堆肥舎などの施設整備、搾乳ロボット・飼料収穫機など20区分の機械導入(リース方式)、経営改善に向けた実証の取組に補助を受けられます。 |
| 補助率 | 施設整備・機械導入は2分の1以内、実証支援は定額です。 |
| 補助上限 | 施設整備は年5億円(野生鳥獣被害防止施設は2,000万円)、実証支援は240万円以内(広域的な取組は360万円以内)です。 |
| いつまでに | 施設整備事業・実証支援事業は随時募集です(令和8年5月時点の追加要望調査)。実証支援の最終締切は令和8年10月30日で、施設整備の要望提出期限は都道府県ごとに設定されます。 |
| 詳しくは | 都道府県の畜産主務課・地方農政局へ要望を出せます。地域に協議会があるかは、市町村の畜産担当課かJAに相談しましょう。 |
対象となる方は
補助を受けられるのは、地域の畜産関係者(畜産農家、JA、市町村、飼料生産組織など)で構成する畜産クラスター協議会が策定した畜産クラスター計画に、中心的な経営体として位置付けられた畜産農家・農業法人です。個々の農家が単独で国へ申請する仕組みではなく、協議会の計画に自分の投資を位置付けてもらう形で参加します。施設は協議会などの取組主体が整備し、中心的な経営体に貸し付ける方式も認められます。
畜種の限定はなく、酪農・肉用牛・養豚・養鶏などの畜産経営が対象です。酪農では、経産牛1頭当たりの飼料作付面積(北海道40アール、都府県10アール)を満たすことを要件に、成牛舎・搾乳牛舎の整備支援が再開されました。国産飼料購入分の面積換算や、都府県では給与飼料量の10%分を国産に置き換える方法でも要件を満たせます。
令和7年度補正で新設された持続性向上タイプでは、中小規模の生産者、新規就農者、経営の継承者が活用しやすくなりました。収益性の向上に直ちに結びつかない取組でも成果目標に設定でき、協議会内に支援チームを立ち上げれば新規就農・経営継承の支援や家畜導入も対象になります。
どれだけ補助を受けられるか
補助率は施設整備・機械導入とも2分の1以内で、補助上限と達成すべき成果目標は事業ごとに異なります。
| 事業 | 補助率・補助上限 | 成果目標 |
|---|---|---|
| 施設整備事業 | 2分の1以内。上限は年5億円(2年までの事業計画を申請可能)で、野生鳥獣被害防止施設は2,000万円です。 | 収益性向上タイプは、1頭当たり販売額の増加・生産コストの削減・所得の増加のいずれかを整備後5年以内に10%以上達成します(正規雇用者が常時6人以上の大規模経営は15%以上)。 |
| 機械導入事業 | 2分の1以内(リース方式)。対象は20区分の機械装置です。 | 収益性向上タイプは、同じ3指標のいずれかを導入年度の翌年度に5%以上達成します(大規模経営は8%以上)。 |
| 実証支援事業 | 定額。上限は240万円(広域的な取組は360万円、子牛生産対策は2,000万円)です。 | 収益力向上につながる定量的な指標を設定し、実施年度の4年後に達成します。 |
持続性向上タイプの成果目標は、収益指標の代わりに、国産飼料利用量の5%(都府県は3%)以上の増加、堆肥の販売量・販売単価の5%以上の増加、家畜疾病発生率の5%低減、支援チームの構築と年3回の支援会議の開催など、環境・担い手・家畜衛生のテーマから1つないし2つを選んで設定できます。
建築コストの高騰対策として、施設の面積当たり上限単価(基準事業費)も引き上げられました。知事が認めた場合(知事特認)は基準単価の1.5倍まで、TMRセンターや哺育・育成センターなどの共同利用施設は1.8倍まで認められます。例として肉用牛舎は1平方メートル当たり6万2,000円から7万3,000円に、TMRセンターの飼料庫は8万9,000円から12万6,000円に上がりました。
施設整備で受けられる支援
施設整備事業では、家畜飼養管理施設(牛舎・豚舎など)、家畜排せつ物処理施設(堆肥舎など)、自給飼料関連施設、畜産物の加工・展示・販売施設と、これらの補改修に補助を受けられます。新規就農者等の家畜導入も支援対象です。
令和7年度補正からは、消毒ゲート・シャワー室・柵や舗装などの家畜衛生施設と、金網柵・電気柵などの野生鳥獣被害防止施設が加わりました。持続性向上タイプなら、堆肥舎など収益に直結しない施設だけの改修でも申請でき、その場合は収益性向上の成果目標が不要です。農場の分割管理に対応した整備も支援されます。
機械導入で受けられる支援
機械導入事業では、飼料給与機械、畜舎温度制御機械、搾乳機械、家畜飼養管理機械、飼料播種・追播機械、飼料収穫・調整機械、草地等管理機械、堆肥調整散布用機械、動力源など20区分の機械装置を、リース方式で導入する経費の2分の1以内の補助を受けられます。リース方式では、機械の取得価額から補助金相当額を差し引いた額をもとにリース料(基本貸付料)が算定されるため、毎回の支払いを補助分だけ抑えられます。搾乳ロボットや自動給餌機のようなスマート機械も対象です。
令和7年度補正では使い勝手が広がりました。酪農における地域内の経産牛頭数による増頭制限は撤廃され、中古機械は三者見積もりを省略できます(都道府県による価格の妥当性の判断が必要です)。これまで使途が限定されていたホイルローダー等の動力源は、畜産・酪農分野に限り使途を限定せずに導入できます。持続性向上タイプでは、乗用型消毒装置、野生鳥獣防除機械、アニマルウェルフェア機械、飼料生産用ドローンなどが対象に加わり、トラクターの導入に知事特認が不要になりました。
調査・分析への支援
実証支援事業では、協議会の収益性向上に向けた新たな取組の実証として、獣医師による疾病対策・繁殖改善の指導、畜産コンサルタントによる経営分析、粗飼料分析・土壌分析、給与試験などに定額(240万円以内、広域的な取組は360万円以内、子牛生産対策は2,000万円以内)の補助を受けられます。施設や機械の整備前に、地域一体で経営改善策を検証する使い方ができます。
令和7年度補正で変わった点
従来の収益力強化への支援に加えて、農業構造転換集中対策として持続性向上タイプが追加されました。集中対策期間の特例で、国産飼料の生産・利用、雇用の創出、新規就農・経営継承、アニマルウェルフェア、家畜衛生、野生鳥獣害防止対策といった、収益性の向上には直ちに結びつかない取組からも成果目標を選べます。
酪農への支援も再開されました。搾乳牛舎の申請受付が再開され、機械導入の頭数制限は撤廃されています。畜舎の建築費が高騰するなか、知事特認単価の引上げ(基準単価の1.3倍から1.5倍へ、共同利用施設は1.8倍)と合わせて、規模拡大だけでなく現有施設の維持・更新にも使いやすい制度に変わりました。
申請の流れと募集状況
申請は次の流れで進みます。地域に協議会がなければ、新たに設立して参加できます。
- 地域の畜産関係者で畜産クラスター協議会を構成し、畜産クラスター計画を策定します(自分の投資計画を中心的な経営体の取組として位置付けてもらいます)。
- 都道府県の畜産主務課へ要望を提出します。提出期限は、地方農政局等への提出期限を踏まえて都道府県が決め、管内の協議会・生産者に周知されます。
- 都道府県・地方農政局等を経て農林水産本省が要望を受理し、約1〜2カ月後に予算の割当が行われます。その後、事業実施計画の承認を経て着工・導入に進みます。
令和8年5月時点の追加要望調査では、施設整備事業と実証支援事業が随時募集となっています。実証支援事業の最終締切は令和8年10月30日です。施設整備事業は、都道府県が要望の有無を令和8年8月31日までに国へ報告する日程です。検討中の方は早めに都道府県窓口へ意向を伝えましょう。
申請時の要件確認も強化されています。環境負荷低減の取組を確認する「みどりチェックシート」の確認が本格化したほか、生乳需給安定クロスコンプライアンスが新たに追加されました。要望を出す前に、協議会・都道府県とチェック項目を確認しておくと手戻りを防げます。
補助金を受け取った年度の税務にも注意しましょう。施設整備・機械導入の補助金は事業収入として課税対象になり得ますが、補助金を固定資産の取得・改良に充てた場合は、所得税法・法人税法に基づく圧縮記帳の適用を受けられます。農林水産省が「畜産クラスター事業等に係る税務申告時の取扱いについて」として案内を公表しているので、申告前にご覧ください。
畜産クラスター事業とは
畜産クラスター事業は、畜産農家と地域の関係者がぶどうの房(クラスター)のように結集し、地域ぐるみで畜産の収益性・持続性・社会的価値を高める取組を支援する事業です。正式名称は畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業で、令和7年度補正予算の所要額は畜産クラスター事業だけで約534億円(53,438百万円)に上ります。国の交付金は基金管理団体や都道府県・市町村を通じて協議会に交付され、施設整備は2分の1以内、機械はリース事業者等を通じた導入費の2分の1以内、実証は定額で支援されます。
関連事業として、高齢の繁殖雌牛から若い繁殖雌牛への更新を支援する優良繁殖雌牛更新加速化事業(約38億円。奨励金は優良な繁殖雌牛が1頭10万円、遺伝的多様性に配慮した繁殖雌牛が1頭15万円)と、省力化のためのICT関連機械の導入を支援するICT化等機械装置等導入事業(19億円。スマート農業技術活用促進法の計画認定を受ければ一体的な施設の補改修も対象)が同じ予算で措置されています。特別対策事業全体の令和7年度補正予算額は591億円です。
事業目標には、牛肉の生産量を令和12年度までに35万トンから36万トンへ増やすこと、飼料自給率を27%から28%へ高めることが掲げられ、生産基盤の維持・強化を目的とした政策として位置付けられています。
キーワード解説
畜産クラスター協議会
畜産農家、JA、市町村、飼料生産組織、乳業・食肉事業者など地域の関係者で構成する組織です。地域ぐるみで収益性などを高める畜産クラスター計画を策定し、国の交付金の受け皿になります。事業への参加はこの協議会を通じて行います。
畜産クラスター計画
協議会が策定する、地域の畜産の収益性向上や持続性向上の計画です。1頭当たり販売額の増加、生産コストの低減、所得の増加、国産飼料の利用拡大といった成果目標を設定し、その実現に必要な施設整備や機械導入が補助対象になります。
中心的な経営体
畜産クラスター計画のなかで、地域の畜産の収益性向上等に中心的に取り組む経営体として位置付けられた畜産農家・農業法人です。施設整備や機械導入の補助は、この位置付けを受けた経営体が対象になります。協議会等が整備した施設の貸付けを受ける形でも参加できます。
知事特認
施設整備の面積当たり上限単価(基準事業費)について、都道府県知事が地域の実情を踏まえて基準額を超える単価を認める仕組みです。令和7年度補正では上限が基準単価の1.5倍(TMRセンター・哺育・育成センターなどの共同利用施設は1.8倍)に引き上げられました。持続性向上タイプのトラクター導入では知事特認そのものが不要になりました。
次の一歩
牛舎の建て替えや搾乳ロボットの導入を検討しているなら、市町村の畜産担当課かJAに連絡し、地域の畜産クラスター協議会の有無と計画の内容を確認しましょう。協議会がない地域でも新設して参加できます。施設整備・実証支援は随時募集中のため、都道府県の畜産主務課に要望の意向を早めに伝えると、要望調査の日程に乗りやすくなります。対象施設・機械の一覧や成果目標の詳細は、農林水産省の要綱・要領のページでご覧ください。
よくある質問
個人の畜産農家でも利用できますか
利用できます。国へ単独で申請する仕組みではないため、地域の畜産クラスター協議会が策定する畜産クラスター計画に、中心的な経営体として位置付けられることが条件です。令和7年度補正の持続性向上タイプでは、中小規模の生産者や新規就農者・経営継承者も活用しやすくなりました。
地域に畜産クラスター協議会がない場合はどうすればよいですか
協議会を新たに設立して参加できます。畜産農家、JA、市町村、飼料生産組織など地域の関係者で構成すればよく、まずは市町村の畜産担当課かJAに相談しましょう。
対象となる畜種に制限はありますか
畜種の限定はなく、酪農・肉用牛・養豚・養鶏などの畜産経営が対象です。酪農は、経産牛1頭当たりの飼料作付面積(北海道40アール、都府県10アール)の要件を満たせば、成牛舎・搾乳牛舎の整備支援も受けられます。
老朽化した畜舎の建て替えや補改修も対象になりますか
対象になります。施設整備事業では牛舎などの新築だけでなく補改修にも補助を受けられます。持続性向上タイプなら、堆肥舎など収益に直結しない施設だけの改修でも申請でき、その場合は収益性向上の成果目標が不要です。
中古機械の導入は対象になりますか
対象になります。持続性向上タイプの新設で中古機械の導入も支援を受けられるようになり、令和7年度補正からは三者見積もりを省略できます(都道府県による価格の妥当性の判断が必要です)。