「果物が高くて買えない」という声は、データでも裏づけられます。消費者アンケートで果物を毎日食べない理由の1位は「値段が高い」(50.6%)でした。では、なぜ果物はここまで高くなったのでしょうか。この記事では、農林水産省「果樹をめぐる情勢」(令和8年5月)に基づいて、果物の値上がりの構造的な理由と、天候による年ごとの価格変動の仕組みを整理します。果物を買う方にも、果樹を作る農家・産地の方にも役立つ需給の見取り図です。
果物の値上がりの要点
要点を表にまとめました。
| 何が起きているか | 国産果実の卸売価格は平成28年の1キログラム当たり375円から令和7年には536円へ上昇しました。令和7年産は主要品目がそろって平年より高値です。 |
|---|---|
| 主な理由 | 生産量がピーク時の3分の1に減り、需要の減少以上に供給が縮小しているためです。高単価品種への転換と気象災害も重なっています。 |
| 今後の見通し | 担い手の減少という構造要因が続くため、価格水準は当面高止まりしやすい状況です。国は改植支援などで生産基盤の立て直しを進めています。 |
果物の価格はいまどうなっているか
直近の令和7年産は、主要な果物がそろって平年(過去6か年平均)より高くなりました。4大市場の卸売価格でみると、りんごは平年比122%、ももは121%、なしは115%、うんしゅうみかんは111%、ぶどうは109%、かきは107%です。
値上がりの背景は品目ごとに異なります。りんごは前年冬の大雪による枝折れ・幹割れに小雨による小玉化が重なり、卸売数量が平年より2割減りました。ももは前年夏の高温による「双子果」や障害果が多発し、数量は平年の5割減です。うんしゅうみかん・ぶどう・かきは数量自体は平年並みでしたが、それでも価格は平年を上回りました。数量が減っていない品目まで高いことが、果物の値上がりが天候だけの問題ではないことを示しています。
理由1:生産量がピークの3分の1まで減った
もっとも大きな理由は、国内の果実生産量の長期的な減少です。生産量は戦後大きく伸び、昭和54年に685万トンでピークを迎えました。その後は減り続け、令和6年度は約224万トン(概算)と、ピーク時の3分の1程度です。栽培面積も昭和55年の40万ヘクタールから令和6年は19万ヘクタールへ半減しました。
担い手の減少が供給縮小の根っこにあります。果樹の販売農家数は平成12年の34万戸から令和2年には17万戸へ半減し、経営者が60歳以上の割合は8割を超えました。果樹は植えてから収穫まで年数がかかる永年性作物で、園地の管理には手間もかかります。やめる農家の分を新しい担い手がすぐには埋められず、供給力の低下が続いています。
理由2:需要の減少以上に供給が減っている
「人口が減って果物を食べる人も減っているのだから、価格は下がるのでは」と考えたくなりますが、実際は逆です。日本人1人1年当たりの果実消費量は平成6年度の44キログラムから令和6年度は30キログラムへ減りました。それでも価格が上がるのは、需要の減少以上のペースで生産量が減っているからです。
国産果実の卸売数量は平成28年の239万トンから令和7年には182万トンへ約24%減りました。同じ期間に卸売価格は1キログラム当たり375円から536円へ約43%上昇しています。売る量が減っても単価が上がった結果、果実の産出額はむしろ増加傾向で、令和6年は1兆112億円と1兆円を超えました。つまり果物の高値は、縮む供給に需要が追いついていない市場の姿そのものです。
理由3:高品質・高単価の品種に置き換わっている
平均価格を押し上げているもう一つの要因が、品種の入れ替わりです。国は果樹経営支援対策事業などで優良品目・品種への改植(植え替え)を支援しており、平成19年度からの転換面積は累計1万4,870ヘクタールに達しました。代表例がシャインマスカットで、栽培面積は平成28年の1,196ヘクタールから令和5年には2,925ヘクタールへと2倍以上に増えています。
消費者ニーズに合った高品質な果実への転換は、農家の手取りを支える戦略でもあります。贈答用や高級品種の比重が高まれば、店頭で目にする果物の平均価格は上がります。「果物が高くなった」という体感には、果物そのものが高級化しているという側面も含まれています。
理由4:高温・大雪など気象災害が追い打ちをかけている
年ごとの価格変動を大きくしているのが気象です。地球温暖化が進むなかで、うんしゅうみかんの浮皮や日焼け、りんご・ぶどうの着色不良、なし・ももの「みつ症」など、高温による生理障害が各地で発生しています。果樹は永年性作物のため、高温や大雪のダメージはその年だけでなく翌年以降の収穫にも尾を引きます。
令和7年産では、りんごの大雪被害・小玉化(数量2割減)、ももの双子果多発(数量5割減)が価格を押し上げました。うんしゅうみかんやりんごは、栽培に適した温度帯が年々北上するという予測もあり、産地では優良着色系品種への転換、遮光資材やかん水による対策、中晩柑や亜熱帯果樹への転換といった適応の取組が進められています。
輸入果物は代わりになるか
国内で食べられる果実の63%は輸入品です(令和5年推計)。ただし内訳をみると、生鮮用輸入の63%はバナナで、果汁など加工品が輸入全体の59%を占めます。りんご・みかん・ぶどうのような国産の主力品目と直接競合するものは限られており、国産果実の値上がりを輸入品がそのまま埋められる構図にはなっていません。
その輸入も、生鮮果実は令和3年の184万トンをピークに減少傾向で、令和7年は173万トンでした。世界的な果実需要の高まりや調達コストの上昇を踏まえると、「国産が高ければ安い輸入品を増やせばよい」という選択肢は以前ほど簡単ではなくなっています。
消費者は果物とどう向き合っているか
果物を毎日食べない理由のアンケート(中央果実協会、令和7年度)では、「値段が高い」が50.6%で最多、次いで「日持ちせず買い置きできない」34.5%、「皮を剥くなど手間がかかる」22.4%でした。1人1日当たりの果実摂取量は約79グラムで、国の健康づくり運動「健康日本21(第三次)」が掲げる目標200グラムに約120グラム足りていません。特に20〜50歳代の不足が目立ちます。
高くて手が出にくいという現実と、健康のためにもっと食べてほしいという政策目標の間には、大きな開きがあります。国や生産者団体は「毎日くだもの200グラム運動」やカットフルーツなど食べやすい提供方法の開発で消費の裾野を広げようとしています。
果物の価格はこれからどうなるか
短期的には、その年の天候次第で上下します。豊作なら平年並みに戻る品目も出ますが、構造的な要因(担い手の減少・供給力の縮小・高単価品種へのシフト)は数年で変わるものではなく、果物の価格水準は当面、高止まりしやすいとみるのが自然です。
国は令和7年4月に新たな果樹農業振興基本方針を定め、省力樹形の導入や優良品種への改植・新植の支援、トレーニングファームによる担い手育成など、生産基盤を立て直す対策を進めています。ただし果樹は改植から収穫まで数年の未収益期間があるため、供給が目に見えて回復するまでには時間がかかります。果樹農家にとっては、高値は所得機会である一方、高温対策や災害への備え(果樹共済・収入保険など)がこれまで以上に経営を左右します。
キーワード解説
卸売価格・平年価格
卸売市場で取引される価格です。平年価格は過去6か年の平均値で、その年の価格が高いか安いかを測る物差しになります。本記事の旬別価格は京浜・名古屋・京阪神地域の4大市場(37市場)の数値です。
高温障害
夏の高温で果実に出る生理障害の総称です。うんしゅうみかんの浮皮・日焼け、りんご・ぶどうの着色不良、なし・ももの「みつ症」などがあり、収量と品質を下げて価格変動の要因になります。
優良品種への改植
古い品種の樹を抜いて、需要のある品種に植え替えることです。国の果樹経営支援対策事業などで支援されており、平成19年度以降の転換面積は累計1万4,870ヘクタールです。
永年性作物
果樹のように一度植えると長年にわたって収穫を続ける作物です。植えてから収穫までに数年かかるため、需給の変化に供給がすぐには追いつかず、価格変動や災害の影響が長引きやすい特徴があります。
よくある質問
果物はなぜこんなに高いのですか
国内の生産量がピーク時の3分の1まで減り、人口減少による需要の減少以上に供給が縮んでいるためです。担い手の減少と高齢化で生産の回復には時間がかかるうえ、シャインマスカットのような高単価品種への転換や、高温・大雪による不作も価格を押し上げています。
令和7年産で特に高い果物は何ですか
りんごです。大雪による枝折れと小玉化で卸売数量が平年より2割減り、価格は平年比122%となりました。ももも高温による双子果の多発で数量が5割減り、価格は平年比121%です。なし(115%)、うんしゅうみかん(111%)、ぶどう(109%)、かき(107%)も平年より高くなっています。
輸入果物が増えれば安くなりますか
期待しにくい状況です。輸入生鮮果実の6割はバナナで、国産の主力品目を置き換えるものではありません。輸入量自体も令和3年をピークに減少傾向にあり、輸入品が国産果実の高値を打ち消す構図にはなっていません。
果物の価格は今後下がりますか
天候に恵まれた年には平年並みに戻る品目もありますが、供給の縮小という構造要因が続く限り、価格水準は高止まりしやすいとみられます。国は改植支援や省力樹形の導入で生産基盤の立て直しを進めていますが、果樹には収穫までの未収益期間があるため、供給の回復には時間がかかります。