農業の持続的な発展には、経営意欲のある農業者が創意工夫を生かした経営を展開していくことが重要です。本記事では、令和6年度食料・農業・農村白書第2章第6節「経営意欲のある農業者による創意工夫を生かした農業経営の展開」に沿い、認定農業者制度から労働力確保、金融までの動向を整理します。
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が | 主に経営意欲のある農業者、認定農業者、法人経営体、雇用労働者、外国人人材。国は農林水産省が、都道府県・JA・関係機関と連携して支援します。 |
| 何を | 認定農業者制度による経営改善の後押し、法人化・経営基盤強化、経営管理能력の向上、労働環境整備と人材確保(特定技能・育成就労)、農業向け金融の動向整理などです。 |
| いつまでに | 各施策は継続的な取組です。令和6(2024)年6月に農業経営基盤強化促進法が改正され、育成就労制度は令和9(2027)年度第1四半期の運用開始に向け準備が進んでいます。 |
| いくら | 本節は補助金の交付制度ではなく動向の整理です。主要数値は、認定農業者21.7万経営体(割合24.5%)、法人経営体3万3,400(令和6年)、雇用者55万人、外国人人材5.8万人、農協系統の新規長期貸付3,801億円(令和5年度)などです。 |
持続的な農業経営を支える取組
農業法人の経営基盤強化には、従事者の経営管理能力向上、雇用確保に資する労働環境の整備、自己資本の充実が必要です。白書第2章第6節では、認定農業者制度、法人化の進展、経営基盤の強化、労働力確保、農業金融の5つの論点を取り上げています。
認定農業者制度による経営発展の後押し
認定農業者制度は、農業者が作成した農業経営改善計画を市町村等が認定する制度です。認定数(認定農業者数)は令和5(2023)年度、前年度比1.4%減の21.7万経営体となりました。一方、農業経営体全体の減少に伴い、農業経営体に占める認定農業者の割合は前年度比0.9ポイント上昇し24.5%です。
法人経営体の認定数は一貫して増加し、令和5(2023)年度は前年度比1.4%増の2.9万経営体、法人経営体に占める認定農業者の割合は87.2%です。農林水産省は、認定農業者が改善計画を達成できるよう、農地の集積・集約化や経営所得安定対策等の支援措置を講じています。
法人化の進展と規模拡大
農業経営の法人化には、経営管理の高度化、安定的な雇用、円滑な経営継承、雇用による就農機会の拡大などの利点があります。令和6(2024)年の法人経営体数は前年比1.2%増の3万3,400経営体です。農産物販売金額の37.9%、経営耕地面积の23.4%(いずれも令和2年)を法人等の団体経営体が占め、シェアは拡大傾向です。
都府県の経営耕地面积規模別では、平成12(2000)年以降、5ha未満の経営体数は減少する一方、10ha以上は一貫して増加しています。30ha以上の経営体では、法人経営体の割合が平成27(2015)年50.0%から令和2(2020)年60.0%に拡大。離農した経営体の農地の受け皿となり、法人の大規模化が進んでいます。
農林水産省は、都道府県の農業経営・就農支援センターによる経営相談や専門家を活用した助言等を通じ、法人化・経営改善を支援しています。
法人の財務基盤
農業法人の損益分岐点比率は過半の部門で90%を超え、売上高の減少に対する耐性が低い状況です。本業の収益性を示す売上高営業利益率は、ほとんどの営農類型でマイナスです。
自己資本比率はおおむね30%を下回り、借入金依存度は50%を上回る水準です。経営規模や産業特性の異なる他産業の中規模企業と一概に比較はできませんが、農業法人は総じて債務超過のリスクが高く、財務基盤が脆弱な実態にあります。経営改善を通じた基盤の強化が求められています。
経営管理能력の向上
効率的かつ安定的な農業経営が生産の相当部分を担う構造を確立するには、営農類型や地域特性に応じた基盤整備と、法人等による規模拡大・事業多角化に必要な経営管理能력の向上が重要です。
令和6(2024)年6月、民間セクターを会員とする「農業経営人材の育成に向けた官民協議会」が設置され、経営戦略や財務・労務管理の研修プログラム策定、財務分析システムの開発等に取り組んでいます。各都道府県では農業経営塾の開講など、リ・スキリングを含む研修機会の提供も進んでいます。
令和6(2024)年6月に改正農業経営基盤強化促進法が公布され、農地所有適格法人が食品事業者等との連携による農業経営発展計画について農林水産大臣の認定を受けた場合、議決権要件の特例が措置されます。
労働力確保の課題
農業就業者のうち雇用者数は、平成12(2000)年の30万人から令和6(2024)年55万人に増加しています。一方、生産年齢人口の減少が避けられない中、各産業で人材獲得競争が激化する見込みです。
農林漁業の有効求人倍率は平成26(2014)年以降1.0倍を超過し、人手不足が継続しています。人材を雇用する経営体が人と農地の受け皿となる事例が増える中、雇用労働力を確保できなければ地域農業を支えることが難しくなります。
令和6(2024)年1〜2月の調査では、労働環境改善の必要性について「改善する必要がある」と回答した経営体は約6割(60.8%)。改善点として「賃金の上昇」「農業機械等の導入による作業負荷軽減」「労働時間の短縮」等が挙げられています。
労働環境改善と現場の取組
農林水産省は、雇用人材の確保・育成と労働環境改善を推進しています。産地の農業経営体と地方公共団体等で構成される地域協議会等による、昇給制度の導入や作業工程の見直し等の取組を支援しています。労働力募集アプリの活用、繁閑期の異なる複数産地でのリレー雇用も支援対象です。
熊本県益城町の株式会社みっちゃん工房は、ベビーリーフ栽培への転換と規模拡大の中で子育て世代の従業員を雇用。出産退職を契機に働き方改革に取り組み、希望に沿った勤務シフト、パートも利用できる育児休業、退職金共済、決算報告会と定期面談による情報開示、経費削減時の賃上げを導入しました。離職者が減り、正社員の求人応募も増加。労働時間短縮と売上増の両立にも成功しています。
外国人人材と産地連携
令和6(2024)年の農業分野の外国人人材は、特定技能制度の活用が進み、前年比7千人増の5万8千人です。
山形県天童市では、おうとう栽培の収穫・出荷作業集中による農繁期の人手不足に対し、市職員の副業許可や援農ボランティアバス、令和6(2024)年度にはJR東日本・NTT東日本・日本郵便と連携した企業連携プログラムを実施。スマートフォンアプリで1日単位のマッチングと異業種合同ディスカッションで、民間企業従業員による収穫支援を促進しています。
特定技能と育成就労制度
特定技能制度は平成31(2019)年に運用が開始され、農業を含む16分野で一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れています。「特定技能1号」(在留期間通算5年上限)と「特定技能2号」(更新制限なし)があり、農業分野はいずれも対象です。令和6(2024)年12月末時点の農業分野の特定技能在留外国人人数は29,331人(前年同月末比5,470人増)です。
令和6(2024)年6月、技能実習制度を発展的に解消し、人手不足分野の人材育成・確保を目的とする育成就労制度が創設されました。3年間の就労で特定技能1号水準の技能を有する人材を育成し、一定要件の下で転籍を認める等、労働者の権利保護も図ります。令和7(2025)年3月に基本方針が閣議決定され、令和9(2027)年度第1四半期の運用開始に向け準備が進んでいます。
農業金融の動向
農業向け融資は、農協系統金融機関・地方銀行等の一般金融機関が短期運転資金や中期設備資金を、日本政策金融公庫(公庫)が長期・大型設備資金を補完する形で担っています。
平成30(2018)年度と令和5(2023)年度を比較すると、新規貸付額は農協系統3,801億円(4,226億円から減)、一般金融機関4,017億円(4,108億円から減)、公庫749億円(1,007億円から減)と、いずれも減少しています。
物価高騰等の影響を受けた農業者等の円滑な資金融通のため、金融支援対策を講じています。令和6(2024)年9月の「農林中金の投融資・資産運用に関する有識者検証会」では、令和7(2025)年1月の報告書で、農林中央金庫法等の改正を含む組織・運用体制の見直しと農業出融資の拡大が提言されました。
キーワード解説
認定農業者制度
農業者が経営改善のために作成した農業経営改善計画を市町村等が認定する制度です。認定を受けると、農地の集積・集約化や経営所得安定対策等の支援措置の対象となります。
法人経営体
株式会社や有限会社、農業生産法人など、法人形態で農業経営を行う経営体です。経営管理の高度化、安定的雇用、経営継承の円滑化などが期待されます。
損益分岐点比率
売上高の減少に対する耐性を示す指標の一つです。比率が高いほど、売上が少し減っただけで赤字に転じやすいことを意味します。白書では農業法人の多くの部門で90%を超えています。
特定技能
人手不足が続く分野で、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れる在留資格です。農業分野は「特定技能1号」「特定技能2号」のいずれも対象となっています。
育成就労制度
令和6(2024)年6月公布の改正により創設された制度です。技能実習制度を発展的に解消し、3年間の就労を通じて特定技能1号水準の人材を育成・確保することを目的とします。
リ・スキリング
職業能力の再開発・再教育のことです。農業者が経営課題に対応する人材を育成・確保するため、農林水産省が推進しています。