概要

自分で経営を始める新規就農には、研修や就農直後の生活を支える資金と、機械・施設の初期投資を支える補助があります。これらをまとめたのが、農林水産省の新規就農者育成総合対策です。本記事では、「いくら・何年・どんな条件でもらえるか」を、これから申請する人の判断に沿って整理します。令和8年度は資金が増額され、対象や枠組みにも変更がありました。最新の要件や金額は、お住まいの市町村・都道府県の窓口と農林水産省の一次情報をご覧ください。

項目内容
想定読者 これから就農する人(研修中)就農して5年以内の新規就農者です。伴走する家族・JA・市町村や都道府県の担当者にも役立ちます。
準備の資金 就農準備資金:研修中の生活を支えます。月13.75万円(年最大165万円)を最長2年間、原則49歳以下が対象です。
開始の資金 経営開始資金:就農直後を支えます。月13.75万円(年165万円)を最長3年間、認定新規就農者が対象です。
投資の支援 経営発展支援事業:機械・施設に補助対象事業費の上限1,000万円(経営開始資金と併用時は500万円)。国費の上限は500万円(同250万円)です。
主な条件 前年の世帯所得600万円以下。研修後・就農後に一定期間営農を継続すること。満たさないと交付停止・返還です。
申請窓口 経営開始資金・経営発展支援事業は原則市町村。就農準備資金は市町村のほか、研修先によって都道府県等・全国機構が窓口です。

まず全体像──「準備・開始・発展」の3つで就農を支える

就農準備資金(研修中・月13.75万円を最長2年)と経営開始資金(就農後・月13.75万円を最長3年)の交付額・対象者・主な交付要件・事業の流れをまとめた農林水産省の概要図。
農林水産省「就農準備資金・経営開始資金」(令和8年度):就農準備資金・経営開始資金の概要

自分で経営を始めるルートの支援は、就農の段階に沿って3つに分かれます。研修中の生活を支える就農準備資金、就農直後の生活を支える経営開始資金、機械・施設などの初期投資を支える経営発展支援事業です。「準備して、始めて、発展させる」という流れに資金がひもづいていると考えると、自分が今どの段階かが見えてきます。これらをまとめた枠組みが、農林水産省の新規就農者育成総合対策です。

就農準備資金と経営開始資金は、貸付けではなく交付金です。要件を満たして使い続けるかぎり返す必要はありません。ただし、研修や就農を途中でやめる、所得が基準を超えるといった場合には返還や交付停止の対象になります(詳しくは後半で整理します)。

誰が対象か──原則49歳以下、自分で経営を始める人

3つの支援に共通する入口は、原則49歳以下で、次世代の農業者になる意欲を持っていることです。そのうえで、使える資金は就農の段階で分かれます。これから研修を受ける人就農準備資金新たに経営を始める人経営開始資金機械・施設をそろえる人経営発展支援事業です。

このうち経営開始資金と経営発展支援事業は、自分で経営を始める(独立・自営就農する)認定新規就農者に絞られます。鍵となるのが認定新規就農者という立場で、市町村に青年等就農計画を認定してもらうことで得られます。この2つを使うには、先に認定を受けておくことが出発点になります(認定の仕組みは別記事で扱っています)。なお、農業法人に雇われて働く雇用就農を目指す人は、就農準備資金(研修中)を使えるほか、雇い主側が受け取る雇用就農資金という別の仕組みがあります。「経営者として始める」のか「まず雇われて学ぶ」のかで、使える支援が変わります。

就農準備資金──研修中に月13.75万円を最長2年

就農準備資金は、就農に向けて技術や知識を身につける研修期間中の生活を支える資金です。金額は月13.75万円(1年で最大165万円)で、交付期間は最長2年間(海外研修を行う場合に限り最長3年)。全額が国費でまかなわれます。

受け取るための主な要件は、次のとおりです。これから研修先を探す人は、この条件に合う研修になっているかを早めに確かめておくと安心です。

  • 都道府県などが認めた研修機関で、おおむね年間1,200時間以上・おおむね1年以上研修を受けること。
  • 前年の世帯所得が原則600万円以下であること。
  • 研修に備えて傷害保険に加入し、就農のポータルサイト「農業をはじめる.jp」に研修計画を登録すること。

このほか、常勤雇用や生活費目的の他の給付を受けていないことなどが条件です。親の経営を継ぐ親元就農を予定する場合は、就農後5年以内の経営継承を確約するなど追加の要件があります。詳しい要件は農林水産省の一次情報をご覧ください。

経営開始資金──就農直後に月13.75万円を最長3年

経営開始資金は、新たに経営を始めた直後の生活を支える資金です。金額は月13.75万円(1年で165万円)で、交付期間は最長3年間。こちらも全額が国費で、夫婦がともに要件を満たして共同経営する場合は、2人合わせて1.5倍が交付されます。

就農準備資金と違い、計画の認定と農地の裏づけが入口になります。主な交付要件は次のとおりです。

  • 独立・自営就農する認定新規就農者であること(農地の権利を持ち、自分の名義で出荷・経理を行うなど経営の実態を備えていること)。
  • 経営開始後5年後までに農業で生計が成り立つ、実現可能な計画であること。
  • 地域計画の目標地図に位置付けられている(見込まれる)か、農地中間管理機構から農地を借り受けていること。
  • 前年の世帯所得が原則600万円以下であること。

親などから経営を継ぐ場合は、経営の多角化や新技術の導入など、新規参入者と同等の経営リスクを負う取組が条件です。単に既存の経営を引き継ぐだけでは対象になりません。

経営発展支援事業──機械・施設の初期投資を半分支える

経営発展支援事業の概要図。通常枠は国費上限500万円(経営開始資金の交付対象者は250万円)、補助率は国の補助上限2分の1で都道府県支援分の2倍を国が支援。特別枠(地域計画早期実現支援枠)は国費上限600万円。本人負担分は金融機関からの融資が要件。
農林水産省「経営発展支援事業」(令和8年度):経営発展支援事業の概要

生活費を支える2つの資金に対し、機械・施設などの初期投資を支えるのが経営発展支援事業です。対象は、機械・施設の取得や改良・リース、家畜の導入、果樹・茶の新植や改植などで、就農直後にまとまった設備投資が必要な人にとって経営の立ち上がりを大きく左右します。

仕組みは、都道府県が新規就農者を支援するとき、その都道府県の支援分の2倍を国が上乗せする形で、国の補助は事業費の2分の1までです。おおむね事業費の半分を国と都道府県が支え、残りが本人負担になるイメージです。

補助対象となる事業費の上限は1,000万円(国費の上限500万円)。ただし、生活費を支える経営開始資金を受ける人は500万円(国費上限250万円)に下がります。対象は49歳以下の認定新規就農者です。このほか、地域計画と結びついた特別枠(国費上限600万円)もあり、これは後半で触れます。

いずれの枠でも、本人負担分について金融機関から融資を受けることが要件です。自己資金だけでそろえる前提ではなく、融資とセットで使う設計のため、資金計画を立てる段階で取引のある金融機関にも相談しておくと進めやすくなります。

3つを合わせるといくらか

3つの支援は、就農の段階に応じて組み合わせて使えます。一通り活用すると、生活費を支える2つの資金(就農準備資金 年165万円×2年+経営開始資金 年165万円×3年)だけで最長5年・合わせて800万円規模になり、そこに機械・施設の初期投資の補助が加わります。経営が軌道に乗るまでの数年間を、生活と投資の両面で支える設計です。

ただし、これは上限まで使えた場合の目安で、実際の交付額は研修期間や計画、所得によって変わります。また、いずれも「就農を続けること」が前提の支援です。途中でやめると返還の対象になるため、受け取る総額の大きさだけでなく、続けられる計画かどうかを見極めることが大切になります。

いつ・どこへ・どう申請するか

申請の窓口(交付主体)は、資金によって異なります。経営開始資金と経営発展支援事業は、原則として市町村が窓口です。就農準備資金は、市町村のほか、都道府県域の研修機関(農業大学校など)で研修する場合は都道府県等、全国を対象とする教育機関で研修する場合は全国農業委員会ネットワーク機構が窓口になります。

大まかな流れは、相談 → 計画の作成・承認 → 交付申請です。経営開始資金では、まず青年等就農計画を市町村に認定してもらい認定新規就農者になることが起点になります。就農準備資金では、研修計画を承認してもらい、傷害保険への加入と「農業をはじめる.jp」への登録を済ませます。交付申請は研修や経営を始めたあとに行い、その後は半年ごとなどに状況を報告していきます。

注意したいのは、申請のしかたは市町村・都道府県によって運用が異なる点で、サポート体制を整えていない市町村では交付を受けられないこともあります。研修先や就農地を決める前の早い段階で、就農予定地の市町村・都道府県の新規就農相談窓口に相談しておくことが、つまずきを避ける近道です。

受け取った後に注意すること──交付停止と返還

これらの資金は、受け取って終わりではありません。要件を満たさなくなると交付停止になり、場合によっては受け取った分の返還を求められます。これから申請する人ほど、ここを理解しておくことが、安心して使うための前提になります。返還・停止になるのは、主に次のような場合です。

  • 所得が基準を超えたとき:前年の世帯所得が600万円を超えると交付停止です(経営開始資金は、その後600万円以下に戻れば翌年から再開できます)。
  • 研修・経営をやめたとき:研修や農業経営を途中でやめる・適切に行っていない・状況報告を怠るといった場合は、残りの期間分などが返還の対象になります。
  • 研修後に就農しないとき:就農準備資金は、研修終了後おおむね1年以内に就農しないと、受け取った全額が返還の対象になります。

加えて、就農後も一定期間(就農準備資金は交付期間の1.5倍など、経営開始資金は交付期間と同程度)営農を続けないと、続けなかった期間に応じた返還が生じます。研修や資金だけ受けて早期に離農するケースを防ぐための仕組みです。病気や災害などやむを得ない事情があると認められた場合は、返還を求められないことがあります。具体的な期間・従事日数などの条件は、農林水産省の一次情報をご覧ください。

令和8年度の変更点──資金の増額と新しい枠

これから申請する人が押さえておきたいのが、令和8年度の変更です。最も大きいのは資金の増額です。就農準備資金・経営開始資金とも、令和7年度までの月12.5万円(年150万円)から、月13.75万円(年165万円)に引き上げられました。年あたり15万円増えるため、これから申請する人には追い風です(令和7年度以前から研修・経営を始めている人の、その年度以前にかかる分は月12.5万円で計算されます)。

もう一つが、経営発展支援事業の特別枠(地域計画早期実現支援枠)です。地域計画で農地の集積目標が高い地域などを対象に、機械・施設の導入に加え、法人化・専門家活用といった経営移譲の取組まで、国費上限600万円で支援します。地域全体で農地の受け手を早く確保しようという、地域計画と結びついた枠です。なお、これらの金額や枠組みは年度ごとに見直されるため、申請の前に最新の要綱をご覧ください。

次の一歩──まず相談する先と関連記事

ここまでの内容をふまえると、これから動き出すために確かめておきたいのは、次の点です。

  • 自分がどの段階か:これから研修なら就農準備資金、これから経営開始なら経営開始資金、設備投資が必要なら経営発展支援事業、と段階に合わせて使う支援を見極めます。
  • 認定の準備:経営開始資金・経営発展支援事業は認定新規就農者であることが前提です。青年等就農計画の認定に向けた準備を、市町村と早めに進めます。
  • まず相談する先:就農予定地の市町村・都道府県の新規就農相談窓口に相談します。研修や就農地を決める前の段階で相談しておくと、資金の要件に沿った計画を立てやすくなります。研修先探しや制度の入口としては、ポータルサイト「農業をはじめる.jp」も使えます。

雇われて就農するルート(雇用就農資金)や、資金の前提となる認定新規就農者の仕組みは、それぞれ別の記事で扱っています。あわせてご覧ください。金額や要件の詳細、最新の様式は、農林水産省の一次情報と各市町村・都道府県の案内をご覧ください。

キーワード解説

新規就農者育成総合対策

新規就農を、研修・経営開始・経営発展の各段階で支える農林水産省の対策の総称です。就農準備資金・経営開始資金・経営発展支援事業などを含みます。前身の農業次世代人材投資事業(さらに前は青年就農給付金)を引き継ぎ、令和4年度に再編されました。

就農準備資金

就農に向けた研修期間中の生活を支える交付金です。原則49歳以下が対象で、月13.75万円(年最大165万円)を最長2年間交付します。認められた研修機関での研修(おおむね年間1,200時間以上)、傷害保険への加入、ポータルサイトへの計画登録などが要件です。返す必要はありませんが、研修後に就農しない場合などは返還の対象になります。

経営開始資金

新たに経営を始めた直後の生活を支える交付金です。独立・自営就農する認定新規就農者が対象で、月13.75万円(年165万円)を最長3年間交付します。前年の世帯所得600万円以下などが要件で、交付期間と同程度の営農を続けないと返還の対象になります。

経営発展支援事業

新規就農者の機械・施設などの初期投資を支える事業です。都道府県の支援分の2倍を国が上乗せし、国の補助は事業費の2分の1までです。通常枠は補助対象事業費の上限が1,000万円(経営開始資金の交付対象者は500万円)で、本人負担分は金融機関からの融資が要件です。

認定新規就農者

新たに農業経営を始める青年等が作る「青年等就農計画」を、市町村が認定することで得られる立場です。経営開始資金や経営発展支援事業を受けるための前提になります。原則49歳以下などの要件があります。

目標地図(地域計画)

地域計画のうち、おおむね10年後に誰がどの農地を使うかを示した地図です。経営開始資金などでは、ここに位置付けられている(または見込まれる)こと、あるいは農地中間管理機構から農地を借り受けていることが要件になります。

農業をはじめる.jp

全国新規就農相談センターが運営する、新規就農の相談・情報のポータルサイトです。就農準備資金では、ここに研修計画などを登録することが交付の要件になっています。研修先や支援制度を調べる入口としても使えます。

まとめ

独立して農業を始めるルートには、研修中を支える就農準備資金、就農直後を支える経営開始資金、機械・施設の投資を支える経営発展支援事業という3つの支援があります。令和8年度から資金は月13.75万円(年165万円)に増額され、特別枠も新設されました。いずれも原則49歳以下で、前年の世帯所得600万円以下や営農の継続が条件です。これから就農する人は、まず自分がどの段階かを見極め、就農予定地の市町村・都道府県の相談窓口に早めに相談することが、これらの支援を活かす第一歩になります。詳しい要件や最新の金額は、農林水産省の一次情報をご覧ください。

出典:農林水産省「就農準備資金・経営開始資金」、同「経営発展支援事業」(いずれも令和8年度)。交付額・要件・申請様式・返還の取扱いなどの詳細や最新情報は、農林水産省の一次情報と、お住まいの市町村・都道府県の案内をご覧ください。