有機農業やカバークロップ(緑肥)に取り組む農家・農業法人は、環境保全型農業直接支払交付金で、取組面積10アールあたり2,000円から14,000円の交付金を毎年受けられます。申請の入口は農地のある市町村です。この記事では、令和8年度の対象者・対象取組ごとの交付単価・申請手続の年間スケジュールを整理します。取組要件の詳細は、農林水産省の要綱・要領と市町村の案内でご確認ください。
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が | 化学肥料・化学農薬を5割以上低減して環境保全型農業に取り組む農業者団体(複数の農業者でつくる任意組織)。単独の農業者(個人・法人)は、市町村が特に認める場合に対象になります。 |
| 何を | 有機農業・堆肥の施用・緑肥の施用・総合防除・炭の投入の全国共通取組と、都道府県が設定する地域特認取組に対する面積払いの交付金を受けられます。 |
| 単価 | 有機農業は10アールあたり14,000円(そば等雑穀・飼料作物は3,000円)、緑肥の施用は5,000円など。国と地方の合計額です。 |
| いつまでに | 交付申請書は市町村が定める日まで、実施状況報告書等は令和9年1月末日までに提出します。 |
| 詳しくは | 農地のある市町村の担当窓口へ相談しましょう。要綱・要領・申請様式は農林水産省のホームページに掲載されています。 |
対象となる方は
申請主体になれるのは、複数の農業者、または複数の農業者と地域住民等で構成される任意組織(農業者団体)です。環境保全型農業を推進する任意のグループや、農協の生産者部会、多面的機能支払の活動組織などがこれにあたります。同一団体内に、対象活動に取り組む農業者が2名以上いることが必要です。団体は代表者と組織の規約を定め、組織としての口座を開設します。
単独で取り組みたい農業者(個人・法人)にも道はあります。「集落の耕地面積の一定割合以上の農地で対象活動を行う農業者」か「複数の農業者で構成される法人(農業協同組合を除く)」のいずれかに該当し、かつ市町村が特に認める場合に対象になります。
そのうえで、交付金の支援を受ける農業者は次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
- 主作物を販売する目的で生産していること
- みどりチェックのチェックシートの各取組をチェックしたうえで提出すること
- 環境保全型農業の取組を広げる推進活動(技術向上や理解促進に係る活動等)に取り組むこと
チェックシートの提出には省略の仕組みがあります。GLOBALG.A.P.・ASIAGAP・JGAPの第三者認証や、国際水準GAPガイドラインへの準拠が確認済みで第三者確認の仕組みを持つ都道府県GAP等を取得している場合は、認証書の写し等を提出すれば、チェックシートの提出を省略できます。
なお、申請受付事務や交付金の負担が難しい市町村もあります。取組を始める前に、農地のある市町村へ本事業の申請が可能かどうかを尋ねておきましょう。
対象取組と交付単価
交付の前提になるのは、化学肥料・化学農薬の使用を都道府県の慣行レベルから原則5割以上低減することです。この低減とあわせて行う対象取組に対して、面積に応じた交付金を受けられます。令和8年度の全国共通取組と交付単価(10アールあたり・国と地方の合計)は次のとおりです。
| 全国共通取組 | 区分 | 交付単価(10アールあたり) |
|---|---|---|
| 有機農業 | そば等雑穀・飼料作物以外 | 14,000円 |
| うち炭素貯留効果の高い有機農業 | 2,000円を加算 | |
| そば等雑穀・飼料作物 | 3,000円 | |
| 堆肥の施用 | 作物共通 | 3,600円 |
| 緑肥の施用 | 作物共通 | 5,000円 |
| 総合防除 | そば等雑穀・飼料作物以外 | 4,000円 |
| そば等雑穀・飼料作物 | 2,000円 | |
| 炭の投入 | 作物共通 | 5,000円 |
各取組の中身も押さえておきましょう。有機農業は、国際水準の有機農業を実施する取組で、移行期も対象です。有機JAS認証の取得は求められません。堆肥の施用は「炭素貯留効果の高い堆肥の水質保全に資する施用」を指し、主作物の栽培期間の前後いずれかに、10アールあたり0.5トン(水稲)または1トン(水稲以外)以上の堆肥を農地へ施用します。緑肥の施用は、カバークロップ・リビングマルチ・草生栽培のいずれかを実施する取組です。総合防除は、総合防除実践指標の6割以上を達成し、畦畔除草管理や交信攪乱剤の利用等の活動を行います。炭の投入は、10アールあたり50キログラムまたは500リットル以上の炭を農地へ施用する取組です。
主作物が水稲の場合は追加の条件があります。堆肥の施用・緑肥の施用・総合防除では、水田からのメタン排出削減に資する取組として、水稲を栽培する年度の長期中干し、または前年度の湛水不実施もしくは秋耕のいずれか1つ以上をあわせて行います。
本制度は予算の範囲内で交付金を交付する仕組みです。申請額の全国合計が予算額を上回った場合、交付額が減額されることがあります。令和8年度の予算概算決定額は2,804百万円(前年度と同額)で、うち交付金本体が2,686百万円です。
地域特認取組
全国共通取組のほかに、地域の環境や農業の実態等を勘案して都道府県が国へ申請し、地域を限定して支援の対象とする「地域特認取組」があります。対象取組と交付単価は都道府県により異なるため、自分の地域で使える取組は都道府県・市町村に確認しましょう。なお、令和7年度から「冬期湛水」「夏期湛水」「中干し延期」「江の設置」等は多面的機能支払の交付金に移管されています。
取組拡大加算
有機農業を地域に広げる活動にも交付金が上乗せされます。有機農業(そば等雑穀・飼料作物以外)に新たに取り組む農業者の受入れ・定着に向けて、栽培技術の指導等の活動を実施する農業者団体は、その活動によって新たに有機農業を開始した農業者の取組面積に応じ、新規取組面積10アールあたり4,000円の加算を受けられます。
申請の窓口と手続の流れ
申請から交付までの手続は、すべて農地のある市町村を窓口に進みます。令和8年度のスケジュールは次のとおりです。
| 手続 | 期限と内容 |
|---|---|
| 事業計画の認定 | 令和8年6月末まで。5年間の事業計画と営農活動計画書に、構成員が取り組む対象活動の面積や推進活動の計画を記載し、市町村の認定を受けます。初回の計画認定が令和3年度の場合は、令和8年度に改めて認定を受けます。令和4〜7年度に認定を受けている場合は、内容に変更があれば計画変更の申請または届出を行います。 |
| 交付申請書 | 市町村が定める日まで(毎年度)。交付を受ける予定の金額等を記載して提出します。 |
| 対象活動の実施 | 堆肥の施用、有機農業の取組等の対象活動と推進活動を実施します。 |
| 実施状況報告書等 | 令和9年1月末日まで。構成員ごとの取組面積や団体の推進活動を記載し、みどりチェックのチェックシートや生産記録等とまとめて提出します。令和9年3月末までに取組が終わる予定のものも対象です。 |
| 実績報告書 | 市町村が定める日まで。交付金の使いみち等を記載して提出します。都道府県や市町村が取組内容を確認した後、交付金が支払われます。 |
| 営農活動実績報告書 | 令和9年4月末まで。実施状況報告書からの変更内容を記載して提出します。実施状況報告書の提出時点で対象活動を実施済みで、報告内容に変更がない場合は省略できます。 |
書面のほか、農林水産省共通申請サービス(eMAFF)による電子申請もできます。電子申請にはデジタル庁が提供するgBizIDの取得が必要で、農業者団体または法人名でアカウントを取得します。ただし現在、電子申請を利用できる市町村は限られているため、事前に市町村へeMAFFの利用可否を確かめましょう。
環境保全型農業直接支払交付金とは
環境保全型農業直接支払交付金は、「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律」に基づき、農業の持続的発展と多面的機能の健全な発揮を図るため、環境保全に効果の高い営農活動を支援する制度です。多面的機能支払・中山間地域等直接支払と並ぶ日本型直接支払制度の一つで、国と地方が交付金を分担します。
支援対象の取組は、環境への効果と結び付いています。農地に還元された堆肥や緑肥の一部は土壌有機炭素として土壌中に貯留され、地球温暖化防止に貢献します。化学肥料・化学農薬を使用しない有機農業などを行うことで、様々な生物が地域で育まれ、生物多様性の保全にもつながります。
要件の背景には、令和4年に制定された「みどりの食料システム法」があります。持続可能な食料システムの構築に向け、調達から生産、加工・流通の各段階で環境負荷の低減に取り組むことが基本方針に位置づけられ、農林水産省の各種補助事業等では環境配慮のチェック・要件化(みどりチェック)が導入されました。本交付金でも、チェックシートの全項目のチェックと翌年度の取組計画の記入が交付要件です。
注意したい点
- 交付単価は国と地方の合計額で、都道府県によって異なる場合があります。実際の単価は都道府県・市町村に確かめましょう。
- 交付金は国が2分の1、都道府県と市町村がそれぞれ4分の1を負担する仕組みです。このため、交付金の地方負担や申請受付事務が難しい市町村では申請できないことがあります。着手前に農地のある市町村へ申請の可否を尋ねましょう。
- 申請額の全国合計が予算額を上回った場合、交付額が減額されることがあります。
- 「冬期湛水」「夏期湛水」「中干し延期」「江の設置」等は、令和7年度から多面的機能支払へ移管されており、本交付金の地域特認取組では扱われません。
キーワード解説
慣行レベル
各地域で慣行的に行われている化学農薬の使用回数と化学肥料の使用量(窒素成分量)について、都道府県が特別栽培農産物に係る表示ガイドラインに基づき作物ごとに定めた基準です。本交付金の「5割低減」は、この慣行レベルとの比較で判定されます。各都道府県の慣行レベルは、農林水産省と都道府県のページで公表されています。慣行レベルが設定されていない作物でも、有機農業の取組は、都道府県が支援対象と判定し公表している場合に対象になります。
カバークロップ
主作物の栽培期間の前後に、土壌を覆うように作付けする緑肥作物です。すき込むことで有機物が土壌に還元され、土壌有機炭素の貯留につながります。生育中は地表を覆うため、雨による土壌の流出を防ぎ、雑草を抑える効果もあります。令和8年度の全国共通取組では、リビングマルチ(主作物の畝間に麦類などを同時に栽培する取組)、草生栽培(果樹園等の地表面を牧草などで覆う取組)とともに「緑肥の施用」に含まれ、10アールあたり5,000円の交付対象です。なお、本交付金の前身にあたる環境保全型農業直接支援対策では、カバークロップに10アールあたり8,000円の単価が設定されていた時期があります(平成26年度など)。検索結果には古い単価の情報が残っていることがありますが、令和8年度の単価は緑肥の施用の5,000円です。
みどりチェック
みどりの食料システム法に基づき、農林水産省の各種補助事業等で、環境にやさしい農林漁業に必要な最低限の取組を要件化する仕組みです。本交付金では、チェックシート(15項目)の実施状況欄すべてにチェックし、翌年度の取組計画にもチェックしたうえで提出することが交付要件です。チェックシートは実施状況報告書等とあわせて市町村へ提出します。
炭素貯留効果の高い有機農業
土壌診断を実施したうえで、堆肥の施用・緑肥の施用・炭の投入のいずれかをあわせて行う有機農業です。有機農業(そば等雑穀・飼料作物以外)の交付単価14,000円に、10アールあたり2,000円が加算されます。
国際水準GAP
食品安全・環境保全・労働安全・人権保護・農場経営管理の5分野を含む農業生産工程管理(GAP)の国際的な水準です。GLOBALG.A.P.・ASIAGAP・JGAPの第三者認証や、農林水産省が国際水準GAPガイドラインへの準拠を確認済みで第三者確認の仕組みを持つ都道府県GAP等を取得している場合は、認証書の写し等の提出により、みどりチェックのチェックシート提出を省略できます。
よくある質問
単独の農業者でも申請できますか
申請主体は、複数の農業者でつくる農業者団体が基本です。単独の農業者(個人・法人)は、集落の耕地面積の一定割合以上の農地で対象活動を行うか、複数の農業者で構成される法人(農業協同組合を除く)にあたり、かつ市町村が特に認める場合に申請できます。まずは農地のある市町村に相談しましょう。
有機JAS認証は必要ですか
必要ありません。本交付金の有機農業は国際水準の有機農業を実施する取組で、移行期も対象です。有機JAS認証を取得している方や、認証を申請してほ場の転換を始めている方は、それを証明する書類と生産記録を提出すれば、農場管理シート等の提出を省略できます。
多面的機能支払や中山間地域等直接支払と併用できますか
併用できます。中山間地域等直接支払交付金は、平地との条件格差に着目して協定農用地の全体面積に支払われるもので、取組の掛かり増し経費を支援する本交付金とは性格が異なるため、原則として重複して申請できます。ただし、本交付金で取り組む行為(カバークロップなど)が中山間地域等直接支払の集落協定の活動として選択されている場合は申請できません。また、多面的機能支払などほかの支払で支援を受けている取組を、本交付金の推進活動として数えることはできません。3つの支払は日本型直接支払として申請書類等が一本化されており、多面的機能支払や中山間地域等直接支払の組織が、本交付金の農業者団体として申請することもできます。
交付金はいつ支払われますか
対象活動と報告を終えた後に支払われます。令和8年度は、実施状況報告書等を令和9年1月末日までに、実績報告書を市町村が定める日までに提出し、都道府県・市町村が取組内容を確認した後に交付金を受け取れます。
交付単価は全国一律ですか
全国一律ではありません。交付単価は国と地方の合計額で、都道府県が設定するため、都道府県によって異なる場合があります。地域特認取組は、対象取組と交付単価そのものが都道府県ごとに異なります。実際に受けられる単価は、都道府県・市町村に確かめましょう。