田んぼやため池、里山林で生きものを守る取組が、国の「お墨付き」を受けられる仕組みが自然共生サイトです。地域生物多様性増進法に基づく令和8年度第1回認定(2026年6月)で56か所が新たに認定され、その4分の3が農業・農村に関係するサイトでした。この記事では、里山・農地で生物多様性の保全に取り組む農業法人・地域・自治体農政担当に向けて、自然共生サイトとは何か、農業でどう関われるか、誰がどんな流れで申請できるかを整理します。最新の要件・申請時期は、環境省・農林水産省の公式情報でご確認ください。
概要
| 何を | 民間の取組などで生物多様性の保全が図られている区域を、国が「自然共生サイト」として認定する仕組みです。 |
| 根拠 | 地域生物多様性増進法(2025年4月施行)。主務大臣(環境大臣・農林水産大臣・国土交通大臣)が計画を認定します。 |
| 誰が | 企業・農業法人・NPO・森林所有者などの民間主体。市町村が取りまとめる連携型の計画もあります。 |
| 対象の場所 | 里地里山、田んぼ、ため池、森林、企業緑地、沿岸域など。生物多様性を維持する取組に加え、管理放棄地の回復・創出も対象です。 |
| 直近の認定 | 令和8年度第1回(2026年6月)で56か所を認定。うち農林水産業・農山漁村関係が42か所。法施行後の累計は423か所です。 |
| 認定のメリット | 取組の対外的なアピール、企業の情報開示への活用、関係法令の手続きのワンストップ化・簡素化などの特例。 |
| 詳しくは | 環境省の自然共生サイトのページと、農林水産省みどりの食料システム戦略グループ、都道府県・市町村の窓口でご確認ください。 |
自然共生サイトとは
自然共生サイトは、民間の取組などによって生物多様性の保全が図られている区域を、国が認定する仕組みです。環境省が2023年から始めました。国立公園のような保護地域だけでなく、里地里山や田んぼ、ため池、企業緑地といった身近な自然も、そこで生きものが守られていれば認定の対象になります。
2024年4月には地域生物多様性増進法が制定され、2025年4月に施行されました。この法律に基づく認定制度では、自然共生サイト相当の生物多様性が豊かな場所を維持する取組に加えて、管理放棄地などで生物多様性を回復・創出する取組も、新たに認定の対象になりました。農地や里山を手入れして生きものが戻る環境を取り戻す活動も評価される、ということです。
背景にある30by30とネイチャーポジティブ
この制度の土台には、2023年3月に改定された「生物多様性国家戦略」があります。国家戦略は、生物多様性の損失を止めて反転させるネイチャーポジティブ(自然再興)と、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全する30by30目標を掲げました。
30by30を達成するには、国立公園などの保護地域を広げるだけでは足りません。里地里山や企業緑地、都市の緑地といった身近な自然を、保護地域以外で生物多様性の保全に役立つ区域(OECM)として位置づけていく必要があります。自然共生サイトは、その受け皿になる仕組みです。田んぼや里山で日々続けられている保全の営みが、国全体の目標に直接つながります。
認定される2種類の計画
地域生物多様性増進法の認定制度では、生物多様性の増進活動の計画を主務大臣(環境大臣・農林水産大臣・国土交通大臣)が認定します。計画は次の2種類です。
| 計画の種類 | つくる主体 | 中身の例 |
|---|---|---|
| 増進活動実施計画 | 企業・農業法人・NPO・森林所有者などの民間主体。 | 里地里山の保全、外来生物の防除、希少種の保護など、生物多様性の維持・回復・創出に役立つ活動を自ら作成・実施します。企業は情報開示などにも活用できます。 |
| 連携増進活動実施計画 | 市町村が取りまとめ役となり、地域の多様な主体と連携。 | 農業者・住民・企業・NPOなど地域のさまざまな担い手が力を合わせて行う保全活動を、市町村がまとめて計画にします。 |
どちらの計画も、まず作成して主務大臣に申請し、有識者の審査を経て認定されます。認定された増進活動の実施区域が、自然共生サイトになります。
農業・里山でどう関われるか
自然共生サイトは、農業・農村と相性のよい仕組みです。令和8年度第1回で認定された56か所のうち42か所(75%)が農林水産業・農山漁村に関係するサイトで、これは実施区域の生態系タイプが農地・森林・沿岸域に属するサイトを指します。田んぼやため池、里山林など、農業・農村が日ごろ守っている環境が、そのまま生物多様性の保全の場として評価されています。
認定された例には、水田の景観と生きものを守る三重県の「朝見の条里水田」、群馬県の「尾瀬」、神奈川県の「江の島里海保全サイト」などがあります。生きものが暮らす田んぼづくり、水田魚道の設置、ため池の保全、耕作放棄地を手入れして草地や湿地の環境を取り戻す取組などは、いずれも自然共生サイトの活動になり得ます。関連する取組は農業の気候変動・生物多様性への対応や環境にやさしい農業への転換支援もあわせてご覧ください。
認定されると何が良いか
認定を受けると、取組の内容に応じて、自然公園法・自然環境保全法・種の保存法・鳥獣保護管理法・外来生物法・森林法・都市緑地法にかかわる手続きのワンストップ化・簡素化といった特例を受けられます。生きものを守る活動に伴う許認可の手間を減らせるのが実務上の利点です。
あわせて、国のお墨付きを得ることで、取組を地域や取引先、消費者に対外的にアピールできます。企業や農業法人にとっては、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の流れの中で高まる自然資本の情報開示にも活用できます。里山や農地の保全を続ける動機づけと、活動の価値の「見える化」につながります。
認定の流れと申請できる人
申請できるのは、企業・農業法人・NPO・森林所有者などの民間主体(増進活動実施計画)と、地域の多様な主体を取りまとめる市町村(連携増進活動実施計画)です。個人や地域の活動組織も、計画をつくって取り組めます。認定の基本の流れは次のとおりです。
- 取組と区域を決める:田んぼ・ため池・里山林など、生物多様性を守る場所と活動の内容を決めます。
- 計画をつくる:増進活動実施計画(民間が単独で)または連携増進活動実施計画(市町村が取りまとめ)を作成します。
- 申請する:計画を主務大臣(環境大臣・農林水産大臣・国土交通大臣)に申請します。
- 審査・認定:有識者の審査を経て認定されます。認定された実施区域が自然共生サイトになります。
認定は年度内に複数回行われます。令和7年度は367か所、令和8年度は第1回(2026年6月)で56か所が認定されました。申請の受付時期や様式は募集ごとに定められるため、次の募集に向けて早めに準備を進めましょう。
よくある質問
個人の農家や小さな地域組織でも申請できますか
できます。増進活動実施計画は企業に限らず、農業法人・NPO・森林所有者・地域の活動組織なども作成・実施できます。地域で複数の主体が関わる場合は、市町村が取りまとめる連携増進活動実施計画という選び方もあります。まずは市町村や都道府県の窓口に相談しましょう。
補助金がもらえる制度ですか
自然共生サイトの認定そのものは、区域を国が認定する仕組みで、認定に伴って交付金が支払われる制度ではありません。実務上の利点は、関係法令の手続きの簡素化や、取組の対外的なアピール・情報開示への活用です。田んぼ・里山の保全にかかる費用は、多面的機能支払交付金や里山林の交付金など、別の支援制度とあわせて活用するとよいでしょう。
認定を受けると管理の義務が増えますか
認定は、これまで続けてきた保全の取組を計画として整理し、国が評価するものです。新たに過大な負担が生じるというより、日ごろの活動を計画に位置づける形になります。詳しい要件や更新のルールは、環境省の公式情報でご確認ください。
キーワード解説
自然共生サイト
民間の取組などによって生物多様性の保全が図られている区域を、国が認定する仕組みです。環境省が2023年に開始し、里地里山・田んぼ・ため池・森林・企業緑地・沿岸域などが対象になります。認定された増進活動の実施区域が自然共生サイトになります。
地域生物多様性増進法
正式名称は「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律」です。2024年4月に制定、2025年4月に施行されました。企業などがつくる生物多様性の増進活動の計画を、主務大臣(環境大臣・農林水産大臣・国土交通大臣)が認定します。
30by30目標とネイチャーポジティブ
ネイチャーポジティブは、生物多様性の損失を止めて反転させ、自然を回復軌道に乗せる考え方です。30by30目標は、その実現に向けて2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全することを指します。2023年3月改定の生物多様性国家戦略が位置づけました。