国内市場の縮小が見込まれるなか、農林水産業・食品産業は海外で稼ぐ力の強化が急務です。輸出拡大、食品事業者の海外展開、訪日外国人の食関連消費を一体で進めることで、現地での食体験から訪日意欲を喚起し、日本産原材料の輸出や「本場」の日本食需要につなげます。本記事では2030年目標、2024年の輸出・インバウンドの実績、重点品目と支援の仕組みを整理します。

概要

項目 内容
誰に 輸出・海外展開を検討する農林水産事業者、食品・外食事業者、インバウンド需要を見据える産地・自治体の方です。
何を 三本柱と2030年目標輸出の実績輸出重点品目輸出促進の取組食品産業の海外展開インバウンド食消費です。
数値 輸出額(2024年)1.5兆円→2030年5兆円、海外展開収益(2023年)1.7兆円→2030年3兆円、食関連消費(2024年)2.3兆円→2030年4.5兆円です。
詳細は 農林水産省「農林水産物・食品の輸出」、同省「令和6年度 食料・農業・農村白書」をご覧ください。

三本柱と2030年目標

政府は、農林水産物・食品の輸出拡大を加速するとともに、食品産業の海外展開、インバウンドによる食関連消費の拡大を連携して推進します。輸出では現地で用いる原材料の輸出をけん引し、日本食・食文化の現地浸透、ECサイトや現地スーパー・日本食レストランでの食体験を通じて訪日意欲を喚起します。訪日後は「本場」の食体験で日本食を身近に楽しみ、日本食ファンを育てます。

こうした相乗効果を通じて、農林水産業・食品産業の「海外から稼ぐ力」を強化します。新たな食料・農業・農村基本計画では、2030年目標として次の3指標が設定されています。

  • 農林水産物・食品の輸出額——現状1.5兆円(2024年)→目標5兆円(2030年)
  • 食品産業の海外展開による収益額——現状1.7兆円(2023年)→目標3兆円(2030年)
  • インバウンドによる食関連消費額——現状2.3兆円(2024年)→目標4.5兆円(2030年)
輸出拡大・食品産業の海外展開・インバウンド食関連消費拡大の三本柱。現地食体験から訪日・本場体験・日本食ファン化への流れと、2030年目標(輸出5兆円、海外展開3兆円、食関連消費4.5兆円)。
輸出・海外展開・インバウンドの連携と2030年目標(出典:農林水産省「令和6年度 食料・農業・農村白書」

農林水産物・食品の輸出

2030年に輸出額5兆円を目指します。2024年の輸出額は1兆5,071億円で過去最高を更新しました。中国及び香港向け輸出は、日本産水産物の輸入規制等の影響により減少した一方、それ以外の国・地域向けは大きく増加しています。

2024年1〜12月の輸出先国・地域別輸出額トップ10。米国2,429億円、香港2,210億円、台湾1,703億円、中国1,681億円など。農産物・林産物・水産物の内訳と前年比。
2024年の輸出先国・地域別輸出額(出典:農林水産省「農林水産物・食品の輸出」/財務省「貿易統計」)

輸出先としては、米国が最大(2,429億円、構成比17.2%、前年比+17.8%)で、次いで香港(2,210億円、▲6.6%)、台湾(1,703億円、+11.1%)、中国(1,681億円、▲29.1%)の順です。EU向けは858億円(+18.5%)です。

順位 輸出先 輸出額 前年比
1米国2,429億円+17.8%
2香港2,210億円▲6.6%
3台湾1,703億円+11.1%
4中国1,681億円▲29.1%
5韓国911億円+19.8%
6ベトナム862億円+23.7%
7タイ628億円+22.9%
8シンガポール557億円+1.7%
9オーストラリア328億円+5.6%
10フィリピン287億円▲6.0%

品目別の動向(2024年)

品目別では、牛肉(648億円、+12.1%)、(120億円、+27.8%)、緑茶(155億円、+19.8%)、りんご(201億円、+20.5%)などが2桁%増加しました。一方、水産物の多くは中国及び香港による輸入規制等の影響で減少しています。水産物(調製品除く)は2,819億円(▲6.3%)、水産物計は3,609億円(▲7.5%)です。

2024年の品目別輸出額。農産物9816億円(+8.4%)、水産物3609億円(▲7.5%)、林産物5340億円(+4.8%)。牛肉、米、緑茶、りんご等の増減と水産物の減少。
2024年の品目別輸出額の概要(出典:農林水産省「農林水産物・食品の輸出」
区分 主な品目 2024年実績
畜産牛肉648億円(+12.1%)
穀物米(援助米除く)120億円(+27.8%)
青果りんご201億円(+20.5%)
緑茶155億円(+19.8%)
水産ホタテ貝(生鮮等)695億円(+0.9%)
水産かつお・まぐろ類201億円(▲11.3%)
水産なまこ(調製)105億円(▲38.0%)
加工日本酒435億円(+5.8%)

輸出重点品目

海外で評価される日本の強みを有し、輸出拡大余地が大きく、関係者一体の輸出促進活動が効果的な品目を輸出重点品目として選定しています。令和7年5月に「なし」「牡蠣・牡蠣加工品」を追加し、計31品目です。重点品目以外でも、輸出事業計画の認定を受けるなど輸出目標と課題・対策を明確化した産地等には、引き続き支援が行われます。

輸出重点品目31品目の一覧。牛肉、豚肉、鶏肉、鶏卵、牛乳乳製品、果樹・野菜、米・茶、切り花、清涼飲料水、菓子、味噌・醤油、清酒、ウイスキー、本格焼酎・泡盛、製材、合板、ぶり、たい、ホタテ貝、牡蠣、真珠、錦鯉などと各国での強み。
輸出重点品目31品目と海外での評価(出典:農林水産省「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」

例として、和牛は世界中で認知が高く、日本産米は寿司・おにぎり向きの品質で日本食普及とともに拡大が見込まれます。緑茶は健康志向と和食関心を背景に、ホタテ貝は水産物のなかで輸出額トップクラスです。令和7年5月追加のなし牡蠣・牡蠣加工品は、アジアでの浸透に加え、生食用需要の高い欧米への販路拡大も期待されています。

輸出促進の取組

輸出促進法や輸出拡大実行戦略に基づき、政府一体となって次の取組を進めています。

輸出促進の取組。品目団体認定(27品目15団体)、GFP登録1万人超、フラッグシップ輸出産地80産地、輸入規制国55から6へ、輸出支援プラットフォーム10か国16拠点。
政府一体の輸出促進取組(出典:農林水産省「農林水産物・食品の輸出」
  • 品目団体の認定——令和7年7月までに27品目15団体を認定。品目団体を中核としたオールジャパンによる輸出促進を展開します。
  • GFP(農林水産物・食品輸出プロジェクト)——登録者数は1万人以上(令和7年7月末)。コミュニティサイトでのマッチング、規制情報等の提供などのサービスがあります。
  • フラッグシップ輸出産地——輸出先のニーズや規制に対応した量を継続的に供給する産地80産地を認定しています。
  • 輸入規制・輸出障壁への対応——原発事故後に日本産食品の輸入規制を措置した国・地域は55から、令和7年6月時点で6(中国、香港、マカオ、韓国、台湾、ロシア)に減少しました。中国・ロシア・香港・マカオはALPS処理水の海洋放出に伴い日本産水産物等の輸入停止措置が続いていますが、中国については令和7年6月に輸入解禁が公告され、輸出関連施設の再登録手続完了後に輸出再開が見込まれます。
  • 輸出支援プラットフォーム——令和7年6月までに10か国・地域16拠点を設置。米国(LA、NY、ヒューストン)、EU(パリ、ブリュッセル)、中国(北京、上海、広州、成都)、香港、台湾、タイ、ベトナム、シンガポール、マレーシア、UAEなどで、輸出事業者を包括的・専門的・継続的に支援します。

食品産業の海外展開

食品事業者の海外展開支援は、「グローバル・フードバリューチェーン推進官民協議会」(GFVC)の枠組みの下で、情報提供・ビジネスマッチング、海外現地での物流・商流構築に係る投資案件形成への支援が行われます。農林水産物・食品の輸出に寄与する食品製造業・外食産業を重点的に支援します。

食品産業の海外展開支援と収益推移。GFVC(民間806社・関係機関167)、投資可能性調査支援、外食「大戸屋」のタイ・台湾展開事例。2014〜2023年の海外展開収益額推移(2023年1.7兆円)。
食品産業の海外展開支援と収益額の推移(出典:農林水産省「令和6年度 食料・農業・農村白書」

GFVCは2014年6月に発足し、2025年6月時点で民間企業806社、関係機関・団体167が参加しています。セミナーによる優良事例や公的支援メニューの紹介、輸出支援プラットフォームによる現地情報発信、海外展開ガイドラインの策定、官民ビジネス・ミッションの派遣、投資可能性調査(FS)支援事業などが用意されています。

2023年の食品産業の海外展開による収益額は、対前年比8.7%増の1.7兆円で過去最高です。内訳は対外直接投資収益1兆6,882億円、知的財産等使用料1,635億円です(食品の製造・卸売・小売・外食に加え、農林水産業・木材製造の海外展開収益を含む)。

外食の事例として、定食店「大戸屋ごはん処」は2005年1月にタイへ進出し、2024年5月時点でタイ・台湾を中心に展開しています。海外店舗でも日本産の米・魚・調味料の使用と店内調理にこだわり、日本食の品質を現地で再現しています。

インバウンドによる食関連消費

2030年目標として、インバウンドによる食関連消費額4.5兆円が設定されています。インバウンドによる食関連消費の拡大は、海外の日本食ファンを増やすことで輸出拡大との相乗効果を発揮します。

インバウンド食関連消費額と訪日外国人旅行者数の推移。2024年食関連消費2兆3346億円、訪日3687万人。1人当たり旅行支出22.7万円(宿泊7.7万、買物6.6万、飲食4.9万円)。
インバウンド食関連消費額と訪日外国人旅行者数(出典:観光庁「訪日外国人消費動向調査」JNTO「訪日外客統計」

令和6(2024)年のインバウンドによる食関連消費額は2兆3,346億円で過去最高です。訪日外国人旅行者数は3,687万人で、こちらも過去最高を記録しました。2024年の訪日外国人1人当たりの旅行支出は22.7万円と推計されます。費目別では、宿泊費7.7万円が最も高く、次いで買物代6.6万円飲食費4.9万円の順です。食関連消費は飲食費に加え、買物代のうち食関連分(令和6年は3,687億円)を含みます。

キーワード解説

輸出重点品目

輸出拡大実行戦略で選定した31品目です。海外での評価と輸出余地が大きく、関係者一体の促進が効果的な品目を中心に、国別目標と対策を設定しています。

GFP

Global Farmers/Fishermen/Foresters/Food Manufactures Project(農林水産物・食品輸出プロジェクト)の略称です。輸出産地・事業者の育成と支援を行い、登録者向けにマッチングや規制情報の提供などのサービスがあります。

フラッグシップ輸出産地

輸出先国・地域のニーズや規制に対応した農林水産物を、求められる量で継続的に輸出する産地として認定された80産地です。

輸出支援プラットフォーム

主要輸出先で、在外公館・JETRO・JFOODO等が連携して設置する支援拠点です。現地情報の提供や新商流の開拓、プロモーション戦略の立案などを行います。

GFVC

グローバル・フードバリューチェーン推進官民協議会の略称です。食品事業者の海外ビジネス展開を後押しする官民の情報交換・発信の場として、2014年6月に発足しました。

インバウンド

訪日外国人旅行者の受入・消費を指します。本記事では、訪日外国人の飲食費と食関連の買物代を合わせた「食関連消費額」を扱います。