人口減少と高齢化で国内消費の減少が見込まれるなか、農林水産業・食品産業は海外市場で稼ぐ方向への転換が欠かせません。本記事では、令和6年度食料・農業・農村白書第3章第2節「輸出拡大等による『海外から稼ぐ力』の強化」に沿い、実行戦略の考え方から産地支援、政府一体の規制対応、食品の海外展開とインバウンドまでを整理します。

概要

項目 内容
誰が 輸出に取り組む農林水産事業者、食品製造・流通事業者、認定品目団体、JAグループ、JETRO・JFOODO等。国は農林水産省が中心に、関係省庁・在外公館と連携します。
何を マーケットイン輸出、輸出重点品目の促進、産地・人材・物流の強化、輸入規制・検疫の撤廃・緩和、GFVCによる食品の海外展開、インバウンドによる食関連消費の拡大などです。
いつまでに 各品目の輸出目標は2025年を目安に設定(例:牛肉は2019年297億円→2025年1,600億円)。輸出促進法に基づく体制整備や検疫協議は継続的に進めます。
いくら 本節は単一の補助金制度の説明ではなく動向の整理です。主要指標は、輸出割合2%(2019年)、訪日外客3,687万人(2024年)、福島事故関連の輸入規制を維持する国・地域は6(2024年度)などです。

国内依存から海外市場へ

世界の農林水産物・食品の輸出割合。日本2%、米国11%、オランダ87%等。マーケットイン転換、実行戦略の3つの基本方針。
令和6年度 食料・農業・農村白書第3章第2節(1ページ目)

政府は令和2(2020)年11月に農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略を策定し、その後も改訂を重ねて取組を進めています。本節では実行戦略に基づく施策に加え、食品産業の海外展開やインバウンドによる食関連消費の拡大も含め、「海外から稼ぐ力」の強化を扱います。

輸出拡大には、海外が求める量・価格・品質・規格で継続供給すること、輸出先の衛生検疫規制や規格基準への適合が必要です。令和元(2019)年の我が国の農林水産物・食品の輸出割合は2%で、主要国と比べて低い水準です。潜在的なニーズはある一方、バリューチェーン全体をプロダクトアウトからマーケットインへ転換することが求められます。

実行戦略の基本方針は、(1) 我が国の強みを最大限発揮する、(2) マーケットインで輸出に挑む事業者を後押しする、(3) 省庁の垣根を超え政府一体で輸出の障害を克服する、の3点です。

輸出重点品目と国別目標

輸出重点品目29品目の一覧(牛肉、コメ、果樹、水産、清酒等)と品目別輸出目標の例(牛肉・コメ・りんご・ぶり)。
令和6年度 食料・農業・農村白書第3章第2節(2ページ目)

海外で評価される強みがあり、輸出拡大の余地が大きく、関係者が一体となった促進が効果的な品目として、輸出重点品目29品目選定しています。牛肉、豚肉・鶏肉、鶏卵、乳製品、果樹・野菜、水産物、茶、コメ・米粉製品、木材、加工食品、清酒・ウイスキー・焼酎などが含まれます。

輸出重点品目以外についても、輸出目標と課題・対策を明確化した産地・事業者には引き続き支援します。品目ごとにターゲット国・地域別の輸出目標を設定し、現地販売を伸ばす課題と克服策を整理しています。例として、牛肉は2019年297億円から2025年1,600億円、コメ・パックご飯等は145億円から177億円、ぶりは229億円から542億円が目標です。輸出先の多角化のため、ポテンシャルの高い新規ターゲット国・地域も位置付けています。

認定品目団体とオールジャパン

認定農林水産物・食品輸出促進団体15団体の一覧(菓子、木材、真珠、日本酒、コメ、花き、青果、茶、錦鯉、醤油・味噌、ホタテ、養殖魚、畜産、カレー等)。
令和6年度 食料・農業・農村白書第3章第2節(3ページ目)

輸出促進法(正式名称:農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律)に基づき、輸出重点品目ごとに生産から販売まで連携する法人を認定品目団体として認定しています。令和7(2025)年3月末時点で15団体(27品目)です。

認定品目団体は、市場調査やジャパンブランドによる共同プロモーションなど、個々の産地・事業者では取り組みにくい非競争分野の活動を担います。JETRO、JFOODO等とも連携し、輸送リスクへの対応や将来的な自己財源による業界支援も期待されています。

販路開拓と海外でのプロモーション

海外日本食レストラン数約18.7万店、日本産食材サポーター店約6千店、JETROのショールーム、JFOODOのホタテCM等。
令和6年度 食料・農業・農村白書第3章第2節(4ページ目)

JETROは輸出制度・マーケット情報の提供、海外見本市出展、商談会、サンプルショールームによるマッチング等で輸出事業者を支援しています。JFOODOは現地の「日本産が欲しい」需要づくりとして、SNS・デジタル広告、小売・外食とのPRイベント等を認定品目団体等と連携して実施しています。

令和5(2023)年の海外における日本食レストラン数(概数)は、令和3(2021)年の15万9千店から約2割増の18万7千店です。日本産食材を積極的に使う「日本産食材サポーター店」は、令和7(2025)年3月末で約6千店が認定されています。農林水産省は、日本料理技能試験の普及、外国人向け招聘研修、料理コンテスト、海外料理学校での講座等により、日本食・食文化の担い手育成と発信を進めています。

今後は認定品目団体・JETRO・JFOODOが連携を強化し、日系市場の拡大に加え、未開拓の有望エリアや非日系市場の開拓に重点を置いた取組を一体的に進める方針です。

輸出支援プラットフォーム

輸出支援プラットフォームの拠点10か国・地域(米国、中国、香港、台湾、EU、タイ、シンガポール、ベトナム、マレーシア、UAE)。
令和6年度 食料・農業・農村白書第3章第2節(5ページ目)

主要輸出先では、在外公館・JETRO海外事務所・JFOODO海外駐在員等で輸出支援プラットフォームを設置し、現地発の情報提供や新商流の開拓を行っています。令和6(2024)年度はマレーシア(クアラルンプール)、UAE(ドバイ)を新設し、設置は合計10か国・地域です。

プラットフォームは現地の食品事業者や日本食レストランのネットワーク構築、輸出希望事業者への情報提供、オールジャパンのプロモーション戦略の立案等に協力します。日系市場への偏重や既存商流の奪い合いを避け、非日系商流への新規アプローチを強化する点にも留意しています。

輸出チャレンジ事業者への投資支援

マーケットイン輸出産地の育成、公庫融資・税制特例、輸出産地サポーター、GFP会員10184、JA輸出関係連絡協議会。
令和6年度 食料・農業・農村白書第3章第2節(6ページ目)

マーケットインへの転換には、リスクを取って輸出向け生産・輸出に挑む事業者が不可欠です。農林水産省は輸出産地の育成・展開と、規制・ニーズに対応した産地・事業者への重点支援を進めています。

輸出先の規制に対応した施設整備など、収益化まで時間を要する投資には、輸出促進法に基づく公庫融資(農林水産物・食品輸出基盤強化資金、沖縄振興開発金融公庫でも貸付)や輸出事業用資産の割増償却の活用を促しています。投資円滑化法に基づく民間投資主体への資金供給促進にも取り組みます。

輸出促進法に基づく輸出事業計画を踏まえた産地形成の施設整備、水田転換による果樹・野菜の輸出産地育成、畜産のコンソーシアム(生産から輸出まで一貫した体制)の育成を支援します。専門知見を持つ輸出産地サポーターを地方農政局等に配置し、GFP(Global Farmers/Fishermen/Foresters/Food Manufactures Project)会員は令和7(2025)年2月時点で10,184です。成熟度に応じたサポートと輸出スタートアップの増加が課題です。

産地形成とJA・関係機関の連携

JA輸出関係連絡協議会、園芸作物輸出産地形成全国キャラバン、JA全農・JETRO・JFOODO連携協定、GFPビジネスパートナー活用例。
令和6年度 食料・農業・農村白書第3章第2節(7ページ目)

農協系統は取扱量は多い一方、継続的な出荷や輸出向け物流への対応などマーケットイン輸出の課題が多く、国と農協系統の連携が重要です。令和6(2024)年1月にJAグループと輸出関係連絡協議会を設置し、フラッグシップ輸出産地の認定・公表や輸出人材の育成・確保等を紹介しました。ワーキンググループで農協を核とした産地形成、輸出物流、人材育成を協議しています。

同年6月からJAグループ・JETRO・日本青果物輸出促進協議会と連携した園芸作物の輸出産地形成支援に係る全国キャラバンを開催。同年7月にはJA全農・JETRO・JFOODOの3者で日本産農畜産物の輸出促進に向けた連携協定を締結し、産地形成と海外販路開拓の有機的連携を図っています。

輸出人材の育成・確保

輸出人材不足とGFP・内閣府プロ人材事業のマッチング事例(醤油醸造、農園)。おいしい日本届け隊官民共創プロジェクト。
令和6年度 食料・農業・農村白書第3章第2節(8ページ目)

輸出先のニーズや検疫条件、輸出実務に精通し、輸出向け生産や販路開拓に対応できる人材不足が大きな課題です。教育機関との連携による育成、GFP支援下での輸出実務経験者とのマッチングを進めます。

IT・マーケティング・デザイン等の多様な知見との共創が必要です。GFPと内閣府プロフェッショナル人材事業の連携で、静岡県の醤油醸造(欧州・北米向けマーケティング人材)、鹿児島県の農園(かぼちゃ輸出の貿易・大ロット販路人材)などのマッチングが実現しています。令和6(2024)年3月にはおいしい日本、届け隊官民共創プロジェクトを立ち上げ、多様な人材の参画と裾野拡大を進めます。

政府一体での規制対応

福島第一原発事故・ALPS処理水に伴う輸入規制の動向、動植物検疫協議、輸出証明書の電子化・第三者検査。
令和6年度 食料・農業・農村白書第3章第2節(9ページ目)

マーケットイン輸出には、現地での情報収集・売込み、輸入規制に関する政府間協議、食品安全、知的財産、流通・物流、研究開発など、政府による環境整備が欠かせません。農林水産物・食品輸出本部の下で実行計画(輸出促進法に基づく農林水産物及び食品の輸出の促進に関する実行計画)を策定し、輸出重点品目を中心に戦略的な協議を行っています。

東京電力福島第一原発発電所事故後、55か国・地域で輸入停止や検査証明・検査強化等の措置がありました。令和6(2024)年度は仏領ポリネシアで撤廃、台湾で緩和され、規制を維持する国・地域は6まで減少しました。ALPS処理水の海洋放出(令和5年8月開始)後、中国・香港・マカオ・ロシアは日本産水産物等の輸入停止を実施。IAEAの評価を踏まえ、令和6年9月の日中「共有された認識」に基づき、モニタリング後の輸入再開に向け協議を進め、令和7年3月の経済対話でも協議推進で一致しています。

動植物検疫では、令和6(2024)年度にフィリピン向けいちご、タイ向けゆず・きんかんの輸出が解禁されました。鳥インフルエンザ発生道県では道県単位で輸出停止し、防疫完了から28日経過後に検疫協議を実施します。輸出証明書の電子発行、手数料のオンライン納付(令和6年10月から一部開始)、改正植物防疫法に基づく第三者機関による輸出検査も進めています。

加工食品と地域の中小事業者

輸出先規制に対応したHACCP施設整備、地域の中小食品製造事業者の連携による海外市場調査・販路開拓支援。
令和6年度 食料・農業・農村白書第3章第2節(10ページ目)

輸出先の規制に対応するHACCP対応施設等の計画的整備を支援し、厚生労働省と連携して輸出促進法に基づく適合施設の認定を迅速化します。単独では大ロット輸出や海外小売の売場確保が難しい地域の中小食品製造事業者には、関係者連携による海外市場調査・販路開拓・輸出用商品開発の支援が重要です。

食品の海外展開とインバウンド

訪日外客数の推移(令和6年3687万人)、インバウンド食関連消費額の増加、SAVOR JAPAN認定43地域。
令和6年度 食料・農業・農村白書第3章第2節(11ページ目)

食品事業者の海外展開は、日本産原材料の現地加工や日本食の普及を通じ、輸出との相乗効果が期待されます。農林水産省はグローバル・フードバリューチェーン(GFVC)推進官民協議会でのセミナー、海外展開ガイドラインの策定・普及、現地の物流・商流構築に係る設備投資の案件形成支援等に取り組み、制度融資の活用推進で更なる海外展開を図ります。

JNTOの調査では、令和6(2024)年の訪日外客数は前年から増加し3,687万人です。インバウンドによる食関連消費額も増加傾向にあり、海外からの需要として輸出と同様に収益確保に資する考えの下、拡大に取り組みます。

訪日外国人に調理法・食体験・地域文化を発信し、農山漁村への誘客を進めます。SAVOR JAPANは、食や食文化でインバウンドを図る地域を認定しオールジャパンで発信するブランドです。令和6(2024)年度に長野県松川町(五平餅)、山梨県みのぶ農泊地域(あけぼの大豆)を新たに認定し、同年12月時点で43地域です。JFOODOはJNTO等と連携し、人気の高い食品をターゲットにSNS等でプロモーションします。

キーワード解説

マーケットイン

海外市場のニーズや規格を先に捉え、生産から現地販売までバリューチェーンを組み立てる考え方です。プロダクトアウト(作れるものを売る)からの転換が輸出拡大の柱となっています。

輸出重点品目

農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略で選定した29品目です。海外での評価と輸出余地が大きく、関係者一体の促進が効果的な品目を中心に、国別目標と対策を設定しています。

認定品目団体

輸出促進法に基づき、輸出重点品目ごとに認定された法人です。市場調査や共同プロモーションなど、業界全体の輸出拡大に取り組みます。

輸出促進法

正式名称は農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律です。認定品目団体、輸出基盤強化資金、適合施設の認定、実行計画の策定など、輸出拡大の法的・制度的基盤を定めます。

輸出支援プラットフォーム

主要輸出先で、在外公館・JETRO・JFOODO等が連携して設置する支援体制です。現地情報の提供や新商流の開拓、プロモーション戦略の立案などを行います。

GFP

Global Farmers/Fishermen/Foresters/Food Manufactures Projectの略称です。輸出産地・事業者の育成と支援を行うプロジェクトで、会員向けのセミナーや海外イベント、人材マッチング等に活用されます。