農作業中の熱中症で亡くなる方が急増しています。農林水産省が令和8年4月に公表した最新の資料によると、直近の農作業死亡事故287人のうち熱中症は59人で、前年から22人増えました。労働者を雇う農業者には熱中症対策がすでに義務化されており、家族経営でも雇用があれば対象です。この記事では、農家・農業法人が夏の作業で実践したい予防策、義務化された措置への対応、暑さそのものを避ける省力化への支援策をまとめます。制度の詳細は記事末尾の一次情報をご覧ください。
まず、この記事の要点です。
| 誰が | 暑い時期に作業するすべての農家・農業法人。労働者を雇う農業者(家族経営で雇用がある場合を含む)は熱中症対策の義務対象です。 |
|---|---|
| 何を | 20分おきの休憩と水分・塩分補給、2人以上での作業、暑さ指数に基づく作業計画。雇用がある場合は連絡体制の整備と「熱中症」対応フローの掲示が必要です。 |
| いつ | 7月1日〜9月30日は「夏の熱中症等対策声かけ期間」です。特に危険が高まる時期として、関係機関を挙げた声かけ運動が行われます。 |
| 補助 | ドローン散布の作業委託、自動水管理装置、ヒートポンプなど暑さを避ける生産方式への転換に、スマート農業関連などの補助事業を活用できます。 |
| 詳しくは | 農林水産省「農作業安全対策」ページと、お住まいの都道府県・普及指導センター・JAの研修をご覧ください。 |
農作業中の熱中症死亡は5年で2.5倍に増えています
農林水産省の農作業死亡事故調査によると、農作業中の熱中症による死亡者は毎年増え続け、直近の調査(令和6年発生分)では59人と、5年間で2.5倍以上になりました。農業機械・施設以外の作業に係る死亡事故のうち半数を熱中症が占めます。5月〜9月に限ると、熱中症以外の事故も97人から128人へ増えており、夏場の高温による疲労が転落や草刈り中の事故にも影響していると分析されています。熱中症警戒アラートの発表回数も直近年は1,749回と高止まりしており、この傾向はその後も変わっていません。
死亡事故の多くは1人作業で起きています。ビニールハウス内でのマルチ張り、水田畦畔の草刈り、梯子を使った枝切りなど、日常の作業中に発症し、発見が遅れて重篤化するケースが目立ちます。熱中症は自分では症状を自覚しにくく、「もう少しで終わるから」と作業を続けるうちに体温が危険な水準まで上がります。
日本の年平均気温は上昇を続けており、統計開始以降の高温上位3年はいずれも直近の3年間です。熱中症のリスクが高い状況は今後も続くと想定されるため、注意喚起だけでなく、作業のやり方そのものを見直す構造的な対策が必要になっています。
労働者を雇う農業者は熱中症対策が義務です
厚生労働省は労働安全衛生規則を改正し、令和7年6月1日から、労働者を雇用するすべての事業者に熱中症対策を義務付けました。法人か家族経営かを問わず、1人でも雇用していれば農業者も対象です。義務付けられているのは次の2点です。
- 熱中症のおそれがある作業者を早期に発見するための体制整備(連絡先・報告ルートの明確化)
- 重篤化を防止するための措置の実施手順の作成と、関係作業者への周知
農林水産省は「熱中症」対応フローのひな型を作成し、連絡先などの必要事項を記載して事業所内に掲示するよう呼びかけています。ひな型には、発症者・発見者が誰に連絡し、症状が改善しない場合にいつ救急要請するかの流れが整理されています。担当者に連絡がつかないときは応急処置と救急要請を優先し、事後に連絡する運用です。従業員を雇っている方は、夏本番の前にフローを作成・掲示し、休憩場所と飲料の備えを済ませておきましょう。
雇用がない個人経営の方に法律上の義務はありませんが、1人作業こそ発見が遅れて重篤化しやすいため、次に述べる予防の基本と連絡手段の確保が欠かせません。
予防の基本は休憩・水分塩分・2人作業です
農林水産省の研修資料とチェックシートが挙げる予防の基本は次のとおりです。
- 高温時の作業を避ける。日中の気温が高い時間帯を外して作業します。一般に70歳以上の方はのどの渇きや気温の上昇を感じづらくなるため、特に注意が必要です。
- 単独作業を避ける。なるべく2人以上で作業し、時間を決めて声をかけ合います。やむを得ず1人で作業する場合は、家族に作業場所と終了予定を伝えましょう。位置情報共有アプリも活用できます。
- 20分おきに休憩と水分補給をする。のどが渇いていなくても、20分おきにコップ1〜2杯以上を目安に水分を取ります。涼しい日陰で作業着を緩め、体温を下げましょう。
水分補給には、カフェインを含まない水や麦茶が適しています。大量に汗をかいた後は塩分・糖分を含むスポーツドリンクが最適です。経口補水液は初期症状が出た際に効果が高い一方、常用は避けます。
体を冷やす道具も充実してきました。ファン付きウェアや冷却ベストで体温上昇を防ぎ、深部体温を計測して休憩のタイミングを知らせるウェアラブル端末、経口補水液や冷却グッズをまとめた救急セットなど、作業内容に合わせて組み合わせましょう。
暑さ指数を作業計画に使いましょう
その日の作業をするかどうかは、気温だけでなく暑さ指数(WBGT)で判断します。暑さ指数は環境省の熱中症予防情報サイトで地域ごとに公表されており、33に達すると熱中症警戒アラートが発表されます。毎朝メールで受け取る配信サービスもあります。
実際の作業環境は公表値より厳しいことがあります。厚生労働省のガイドラインでは、作業服による補正を暑さ指数に加算してリスクを評価します。たとえばフード付きのカッパを着用した場合は暑さ指数に11を加算して判断します。ビニールハウス内や炎天下の収穫はリスクの高い作業として特定し、黒球付きの暑さ指数計で作業場所の値を測ることも有効です。暑さ指数が高い日にやむを得ず作業する場合は、作業を短時間に区切り、休憩を増やして身体への負担を抑えましょう。
熱中症かなと思ったときの対応
めまい・立ちくらみ・筋肉痛・大量の汗など異常を感じたら、すぐに作業を中断します。涼しい場所へ移動し、衣服を緩めて首筋・脇の下・足の付け根を冷やし、水分・塩分を補給します。意識がもうろうとしている、呼びかけへの返答がおかしい場合は、ためらわず119番(判断に迷うときは#7119)に連絡してください。
熱中症は回復した後に症状が悪化するケースがあります。仕事が終わった後でも体調が悪化したと感じたら、すぐに救急要請しましょう。
暑さを避ける省力化にも補助を活用できます
農林水産省は、休憩や水分補給といった回避行動の啓発に加えて、夏の暑い時間帯の作業そのものを減らすホワイト生産方式への転換を「農作業における熱中症等対策総合パッケージ」として推進しています。柱は3つあり、それぞれ補助事業を活用できます。
| 取組 | 内容の例 | 主な支援策 |
|---|---|---|
| スマート農業技術の導入 | 水管理の遠隔操作・自動化、生育予測システムによる業務量の平準化 | スマート農業技術活用促進総合対策 |
| 農業支援サービスの活用 | ドローンによる農薬・肥料散布の委託、リモコン草刈機を持つ事業者への作業委託 | 農業支援サービス事業インキュベーション・加速化事業 |
| 農作物の高温対策 | 遮光資材、細霧冷房、天窓、ヒートポンプの活用 | グリーンな栽培体系への転換サポート |
具体像は品目ごとに示されています。水田作なら農薬散布・追肥をドローンサービスに委託し、畦畔除去で草刈り面積を減らしつつ自動水管理装置を入れる。果樹なら省力樹形への転換と高所作業台車・自動草刈機。施設園芸ならヒートポンプを複合環境制御装置でコントロールし、遮光剤の塗布でハウス内温度を下げる、といった組み合わせです。夏の作業のどこに高温暴露が集中しているかを洗い出し、外部化・自動化できる作業から転換を検討しましょう。
研修と声かけの期間が設けられています
農林水産省は毎年4月1日〜6月30日を「熱中症等対策研修強化期間」とし、都道府県・JAなどを通じて研修を実施しています。研修では熱中症対策アイテムの活用、草刈りや高所作業など夏季作業のリスク、発症時の対応を専用テキストで学べます。直近年度の農作業安全研修の受講者は約21万1千人と前年度から5万人増え、熱中症対策研修の実施回数は1.5倍に拡大しました。
リスクが特に高まる7月1日〜9月30日は「夏の熱中症等対策声かけ期間」です。「いのちをうばう、夏のひとり作業」をキャッチフレーズに、チラシの配布や資材販売・配達の機会を捉えた声かけ、SNS・防災無線などでの注意喚起が行われます。研修に参加できない場合も、農林水産省や厚生労働省のチラシ・パンフレットで学べます。家族や地域で互いに声をかけ合いましょう。
夏は熱中症以外の事故にも注意が必要です
直近の調査では、農作業死亡事故287人のうち最も多いのは農業機械作業に係る事故の156人です。その半数以上を機械の転落・転倒が占め、乗用型トラクターによる事故が最多です。夏場は高温による疲れから、高所からの転落や草刈り中の事故も増えます。熱中症対策と併せて、トラクターのシートベルト着用、傾斜地や畦畔際での転倒防止、刈払機の取り扱いにも注意を払いましょう。
機械側の安全対策も進んでいます。農研機構の安全性検査は新制度に移行し、シートベルト非着用時に警報を発する装置などが基準に加わりました。国の補助事業等を活用して対象の農業機械を購入・リースする場合は、安全性検査合格機の中から選ぶことが要件になっています。また、道路運送車両の保安基準の改正により、令和9年1月1日以降に生産される農耕トラクタの新車には座席ベルトの装備が義務付けられます。
キーワード解説
暑さ指数(WBGT)
熱中症リスクを判断するため、気温・湿度・輻射熱(日差し・照り返し)の3要素を組み合わせて計算された指標です。環境省の熱中症予防情報サイトで地域ごとの値を確認でき、黒球付きの暑さ指数計で作業場所の実測もできます。値が高いほど熱中症になりやすく、作業服によっては補正値を加算して評価します。
熱中症警戒アラート
暑さ指数が33に達すると環境省・気象庁が発表する注意情報です。発表回数は年々増えており、アラートが発表された日は作業時間の変更や中止を検討します。
ホワイト生産方式
スマート農業技術や農業支援サービス、農作物の高温対策を組み込み、夏の暑い時間帯の作業を減らす生産方式です。農林水産省が熱中症対策の構造的な柱として転換を推進しており、導入には補助事業を活用できます。
よくある質問
家族だけで経営していても熱中症対策の義務はありますか
労働者を雇用していなければ法律上の義務対象ではありません。ただし、パート・アルバイトを含めて1人でも雇用していれば、家族経営でも早期発見の体制整備と対応手順の作成・周知が義務になります。雇用がない場合も、単独作業を避ける・連絡手段を確保するなど同じ水準の備えをおすすめします。
水分補給は何を飲めばよいですか
カフェインを含まない水や麦茶が適しています。大量に汗をかいた後は、塩分・糖分を含むスポーツドリンクが最適です。経口補水液は熱中症の初期症状が出たときには効果が高いものの、日常的な常用は避けてください。
ファン付きウェアやヒートポンプの導入に補助はありますか
個人の対策アイテム単体への全国一律の補助はありませんが、ヒートポンプなど施設の高温対策設備や、自動水管理装置などのスマート農業機器の導入は、グリーンな栽培体系への転換サポートやスマート農業関連の補助事業の対象になり得ます。公募時期や要件は年度で変わるため、都道府県・地方農政局の案内をご覧ください。