台風・凍霜害・ひょう害と、果樹の経営は毎年の気象リスクと隣り合わせです。この減収に備える国の制度には、農業保険法に基づく果樹共済と収入保険の二つがあり、両方には入れないため、果樹農家はどちらかを選ぶことになります。この記事では、農林水産省の資料に基づいて果樹共済の仕組み(対象品目・補償内容・掛金)を整理し、収入保険との違いと選び方の目安をまとめます。掛金や補償の具体額は地域・作物で異なるため、最終的には加入先の窓口でご確認ください。
果樹の災害補償の要点
要点を表にまとめました。
| 対象となる方 | りんご・ぶどう・うんしゅうみかんなど果樹を栽培する農家・農業法人です。 |
|---|---|
| 選べる制度 | 果樹共済(災害による減収を品目ごとに補償)と収入保険(価格低下も含む経営全体の収入減少を補償)のどちらか一方です。 |
| 掛金 | 果樹共済は「共済金額×掛金率」で、半分を国が負担します。収入保険の保険料等にも国の補助があります。 |
| 相談先 | 地域のNOSAI(農業共済組合等)です。両制度の掛金・補償を試算して比較できます。 |
果樹共済と収入保険はどう違うか
二つの制度の違いを表にまとめました。
| 項目 | 果樹共済 | 収入保険 |
|---|---|---|
| 補償の対象 | 自然災害(風水害・干害・寒害・雪害など)、火災、病虫害、鳥獣害による果実の減収や樹体の損害です。 | 自然災害による減収に加え、市場価格の低下など、経営全体の収入減少を幅広く補償します。 |
| 補償の単位 | 果樹の品目(類区分)ごとに加入します。 | 品目を問わず、農業経営全体の収入で判定します。 |
| 主な加入要件 | 組合等の区域内で対象果樹を栽培し、類区分ごとの栽培面積が一定以上(5〜30アールの範囲内で組合等が設定)あることです。青色申告は必須ではありません。 | 青色申告の実績(原則1年以上)がある農業者です。 |
| 国の支援 | 掛金の2分の1を国が負担します。 | 保険料・積立金に国の補助があります。 |
| 両制度の関係 | 同じ品目の収穫期について同時には加入できません。収入保険へ移る場合、果樹共済の共済関係は解除され、掛金は払い戻されます。 | |
大づかみに言えば、果樹共済は「災害で収穫が減ったとき」の品目単位の備え、収入保険は「理由を問わず収入が落ちたとき」の経営単位の備えです。以下、果樹共済の中身を順に見ていきます。
果樹共済とは
果樹共済は、農業保険法に基づく農業共済制度の一つです。多数の農業者が掛金を出し合って共同の準備財産をつくり、災害があったときに被災した農業者へ共済金を支払う相互扶助の仕組みで、大災害に備えて政府の再保険も付いています。水稲などの農作物共済と違い、果樹共済は地域の実態に合わせて組合等が任意に実施する事業のため、まずはお住まいの地域のNOSAI(農業共済組合等)で実施の有無をご確認ください。
加入できるのは、組合等の区域内に住所があり、対象果樹の栽培面積(類区分ごと)が一定以上ある農業者です。面積の基準は5アールから30アールの範囲内で組合等が定めます。
対象になる果樹(16種類)
収穫共済の対象は、うんしゅうみかん、なつみかん、いよかん、指定かんきつ(はっさく・ぽんかん・ネーブルオレンジ・ぶんたん・たんかん・さんぼうかん・清見・日向夏・セミノール・不知火・河内晩柑・ゆず・はるみ・レモン・せとか・愛媛果試第28号・甘平)、りんご、ぶどう、なし、もも、おうとう、びわ、かき、くり、うめ、すもも、キウイフルーツ、パインアップルの16種類です。ガラス温室などで栽培される果樹は果樹共済の対象外で、こうした果樹は収入保険などで備えることになります。
収穫共済と樹体共済
果樹共済には2種類あり、両方に入ることも一方だけに入ることもできます。
- 収穫共済:年産ごとの果実の減収(方式によっては品質低下も)を補償します。
- 樹体共済:将来にわたって果実を生む資産である樹そのものの枯死・流失・滅失・埋没・損傷を補償します。損害額が10万円または共済価額の1割のいずれか小さい金額を超えたときに共済金を受け取れます。
台風や豪雪で樹が折れる・倒れるといった被害は、その年の減収だけでなく翌年以降の収穫にも響きます。樹体共済は、この「木を失うリスク」に備えられる果樹ならではの補償です。
どんな被害で共済金を受け取れるか
補償の対象になる共済事故は、風水害・干害・寒害・雪害その他の気象上の原因(地震・噴火を含む)による災害、火災、病虫害、鳥獣害です。凍霜害やひょう害、夏の高温・干ばつによる減収も気象上の原因による災害に含まれます。
補償される期間(共済責任期間)は、多くの引受方式で花芽の形成期から果実の収穫まで、おおむね1年半です。果樹は開花の前年に花芽がつくられるため、翌年の実りのもとになる花芽が受けた災害まで補償の対象になります。春からの短い期間だけを対象にする短縮方式を選べる品目もあります。
共済金の受け取り方(引受方式)
収穫共済では、減収をどう測って支払うかの方式(引受方式)を選びます。主な方式は次のとおりです。
| 方式 | 支払いの考え方 | 支払開始のライン |
|---|---|---|
| 全相殺減収方式 | 農家ごとの実収穫量が基準収穫量をどれだけ下回ったかで支払います。出荷資料や青色申告書等で収穫量を確認できる方が選べます。 | 減収が基準収穫量の2割(または3割・4割)超 |
| 半相殺方式 | 被害を受けた樹園地の減収量の合計で支払います。 | 減収が基準収穫量の3割(または4割・5割)超 |
| 地域インデックス方式 | 都道府県単位の統計収量が基準を下回ったかどうかで支払います。掛金が低めです。 | 減収が1割(または2割・3割)超 |
| 災害収入共済方式 | 災害で収穫量が減り、生産金額(売上)が基準の8割(または7割・6割)に達しないときに支払います。品質低下による収入減も拾えます。 | 生産金額が基準生産金額の8割(または7割・6割)未満 |
このほか、品質を加味して減収を測る全相殺品質方式があります。選べる方式は品目や地域、出荷・申告資料の有無によって異なります。支払開始のラインを低くするほど補償は手厚くなり、掛金は高くなります。
掛金はどれくらいか
掛金は「共済金額(補償の上限額)×共済掛金率」で決まり、その2分の1を国が負担します。掛金率は品目・方式・地域の被害実績によって異なります。農林水産省のリーフレットの試算例(10アール当たり・全国平均・国庫負担後)では、農業者が支払う掛金は収穫共済でうんしゅうみかん3,591円(災害収入共済方式)・りんご5,481円(半相殺減収総合短縮方式)・ぶどう4,969円(全相殺減収方式)、樹体共済でうんしゅうみかん1,187円・りんご1万1,696円・なし8,520円です。
掛金率には危険段階別料率が採用されています。共済金の受け取りがない年が続くと料率区分が基本1段階ずつ下がる仕組みで、被害の少ない農家ほど掛金が安くなります。自分の園地に防災施設を設置している場合の割引もあります。
どれだけ受け取れるか
共済金は「共済金額×損害割合に応じた支払割合」で計算され、損害が大きいほど支払割合が上がります。農林水産省のリーフレットの試算例(10アール当たり・全国平均)では、収穫量が50%減少した場合の共済金はうんしゅうみかん7万1,000円・りんご7万6,000円・ぶどう12万3,000円、収穫が皆無になった場合はうんしゅうみかん18万9,000円・りんご26万円・ぶどう32万3,000円です。
樹体共済の試算例(樹齢25年生・付保割合8割)では、樹が半損した場合にうんしゅうみかん78万円・りんご102万円・なし154万円、全損した場合にうんしゅうみかん156万円・りんご204万円・なし307万円を受け取れます。樹体の資産価値は樹齢を考慮して設定され、その8割を上限に共済金が支払われます。
被害を受けたら、遅滞なく組合等へ事故発生を通知し、収穫期に損害を通知します。その後、組合等の調査(出荷数量の調査や現地調査など)を経て損害額が認定され、共済金が支払われます。
収入保険の仕組み
収入保険は、品目の枠にとらわれず、農業経営全体の収入が基準より下がったときに補てんを受けられる保険です。自然災害による減収だけでなく、市場価格の低下、けがや病気で収穫できない場合など、経営者の努力では避けられない収入減少を幅広くカバーします。加入できるのは青色申告を行っている農業者(原則1年以上の実績)で、実施主体は全国農業共済組合連合会(NOSAI全国連)です。保険料・積立金には国の補助があります。
果樹共済と収入保険は、同じ品目の収穫期について同時には加入できません。果樹共済の加入後に収入保険へ移る場合は、組合等に申し出れば共済関係が解除され、掛金の全額と事務費賦課金の全部または一部が払い戻されます。
どちらを選ぶかの目安
選び方は経営のリスクの中身で決まります。
- 果樹共済が向いている方:青色申告をしていない方。台風・凍霜害・ひょうなど災害リスクへの備えを品目ごとに手厚くしたい方。樹体まで補償を掛けたい方(樹体共済は収入保険にはない補償です)。
- 収入保険が向いている方:青色申告の実績があり、災害だけでなく価格低下のリスクにも備えたい方。複数品目や加工・直売など経営全体でリスクを管理したい方。ガラス温室で果樹を栽培している方。
どちらが有利かは、品目構成・地域の災害頻度・販売単価の変動によって変わります。NOSAIの窓口では両制度の掛金・補償の試算を比較できるため、更新時期の前に一度試算してもらうのが確実です。
加入の流れ
果樹共済に加入する手順は次のとおりです。
- 地域のNOSAI(農業共済組合等)に、果樹共済の実施品目と加入時期を問い合わせます。
- 収穫共済・樹体共済の別、引受方式、支払開始割合(補償の厚さ)を選びます。
- 栽培する対象果樹のすべてについて加入を申し込み、組合等の承諾で共済関係が成立します。
- 共済責任期間が始まる前の定められた日までに掛金を払い込みます(申請により延納・2回分納も可能です)。
一度加入すると、申出により翌年以降も自動で継続される特約を付けられます。やめる意思表示をしない限り申込みがあったものとして扱われるため、方式や補償割合を見直したい年は申込期間中に組合等へ相談しましょう。
キーワード解説
収穫共済
果樹共済のうち、年産ごとの果実の減収(方式により品質低下も)を補償するものです。基準収穫量からの減収割合が支払開始のラインを超えると共済金を受け取れます。
樹体共済
果樹共済のうち、樹そのものの枯死・流失・滅失・埋没・損傷を補償するものです。損害額が10万円または共済価額の1割のいずれか小さい金額を超えたときに支払われます。
基準収穫量
平年並みの天候・管理で期待できる収穫量(標準収穫量)を、隔年結果の状況で調整したものです。減収がどれだけ生じたかを測る物差しになります。
危険段階別掛金率
農家ごとの過去の共済金受取実績に応じて掛金率を上下させる仕組みです。共済金の受け取りがなければ料率区分は基本1段階ずつ下がり、掛金が安くなります。
収入保険
青色申告を行う農業者が加入でき、自然災害や価格低下などによる農業経営全体の収入減少を補てんする保険です。NOSAI全国連が実施し、農業共済と同時には加入できません。
よくある質問
果樹共済と収入保険は両方入れますか
同じ品目の収穫期について両方には入れません。どちらかを選びます。果樹共済の加入後に収入保険へ移る場合は、組合等に申し出れば共済関係が解除され、掛金の全額が払い戻されます。
掛金はどれくらいかかりますか
「共済金額×掛金率」で決まり、半分を国が負担します。全国平均の掛金標準率(補償限度7割の全相殺減収方式)は、りんご4.598%、ぶどう3.073%、うんしゅうみかん4.213%などで、農家負担はこの半分です。実際の掛金率は地域・方式・自身の被害実績(危険段階)で変わるため、NOSAIで試算してもらいましょう。
夏の高温による日焼け果や着色不良も補償されますか
高温や干ばつは気象上の原因による災害に当たるため、それによる減収は収穫共済の対象になります。品質低下による収入の落ち込みまで拾いたい場合は、品質を加味する全相殺品質方式や、生産金額で判定する災害収入共済方式が向いています。選べる方式は品目・地域によって異なります。
樹が台風で倒れた場合はどうなりますか
樹体共済に加入していれば、樹体の枯死・流失・滅失・埋没・損傷が補償の対象です。損害額が10万円または共済価額の1割のいずれか小さい金額を超えたときに、損害の程度に応じた共済金を受け取れます。収穫共済だけでは樹体の損害は補償されないため、樹体まで守りたい場合はあわせて加入しましょう。