ハウスのヒートポンプや木質バイオマス暖房機などの省エネ設備は、農林水産省のみどりの食料システム戦略推進交付金のメニューである省エネルギー型ハウス転換事業で、導入費用の補助を受けられます。設備導入の補助率は2分の1以内、上限額は2,000万円で、施設野菜・花き・果樹が対象です。農業者を含む協議会などの体制をつくり、省エネ栽培の実証とセットで設備を導入する仕組みで、申請の窓口は都道府県です。この記事では、補助対象になる設備の一覧、補助率・上限額と要件、申請の流れ、そしてヒートポンプ・局所加温など設備ごとの特徴と省エネ効果の目安を整理します。交付金の制度全体の仕組みは別記事で解説しています。
この補助のポイント
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| こんな人に | 燃油暖房の費用を減らしたい施設野菜・施設花き・施設果樹の農家・農業法人と、その産地を支えるJA・自治体です。 |
| 対象設備 | ヒートポンプ、木質バイオマス利用加温設備、地下水・地中熱利用システム、多段式サーモ装置、循環扇、局所加温装置、外張多重化・内張多層化設備などの省エネ機器・設備です。 |
| 補助率 | 設備の導入・既存ハウスの改良は2分の1以内です。検討会・実証・環境影響評価などの取組は定額で支援を受けられます。 |
| 補助額 | 転換に向けた取組全体で上限2,500万円、うち設備の導入等は上限2,000万円です。 |
| 詳しくは | 協議会・市町村・JAなどが事業実施計画書を都道府県知事に提出します。公募の時期・様式は都道府県の案内をご覧ください。 |
補助の対象になる省エネ設備
省エネルギー型ハウス転換事業は、A重油などの化石燃料に頼った加温から、収量・品質を落とさずに燃料使用量と温室効果ガスの排出量を減らす栽培体系(省エネルギー型ハウス)へ転換する取組を支援します。補助対象の省エネ機器・設備として、交付等要綱に次の設備が挙がっています。
| 区分 | 設備の例 | ねらい |
|---|---|---|
| 加温方式の転換 | ヒートポンプ、木質バイオマス利用加温設備、地下水・地中熱利用システム | 燃油暖房機の稼働を電気・木質燃料・地中熱などに置き換え、化石燃料の使用量そのものを減らします。 |
| 保温・空気循環 | 外張多重化設備、内張多層化設備、循環扇、熱交換換気装置 | ハウスから逃げる熱を減らし、温度ムラをなくして暖房効率を高めます。 |
| 温度管理・局所加温 | 多段式サーモ装置、局所加温装置 | 必要な時間帯・場所だけを温め、投入エネルギーを抑えます。 |
| 生産性の維持・向上 | 炭酸ガス発生装置、二酸化炭素貯留・供給装置、高度環境制御装置、細霧冷房装置、隔離ベッド栽培装置 | 省エネ技術と組み合わせて、収量・品質を維持・向上させます。 |
省エネ機器の実証に必要であれば、太陽光発電などの自家消費用発電システムも導入できます。ただし発電量は、実証ほ場内で利用する消費電力量が上限です。購入だけでなくリース導入や既存ハウスの改良(リノベーション)も対象に含まれます。
補助率と上限額
交付率は取組の内容によって変わります。検討会の開催や栽培体系の実証、環境影響評価などの取組は定額で、機械・設備の導入と既存ハウスの改良は2分の1以内です。上限額は次のとおりです。
| 取組 | 交付率 | 上限額 |
|---|---|---|
| 省エネルギー型ハウスへの転換に向けた取組全体(検討会・実証・設備導入・環境影響評価・横展開) | 定額(設備導入等を除く) | 2,500万円 |
| うち、機械・設備の導入等、既存ハウスの改良 | 2分の1以内 | 2,000万円 |
| うち、マニュアル作成・技術講習会などの横展開 | 定額 | 500万円 |
たとえば導入費用が4,000万円の設備なら、2分の1の2,000万円まで補助を受けられる計算です。なお、この事業には地中熱や温泉熱など地域エネルギーの賦存量調査・マップ作成に取り組むメニューもあり、その場合の上限額は1,500万円です。調査を含む事業全体の構成は別記事で解説しています。
リース導入の場合の助成額は、リース物件の購入価格(税抜き)にリース期間と法定耐用年数の比率を掛け、さらに交付率(2分の1以内)を掛けて計算します。リース期間は法定耐用年数以内とし、リース事業者へ納入する事業者は原則3者以上の見積りで選びます。
設備ごとの特徴と省エネ効果
どの設備でどれだけ燃料を減らせるかは、農林水産省の「施設園芸省エネルギー生産管理マニュアル」に実証データがまとまっています。主な設備・技術ごとの特徴と効果の目安は次のとおりです。
ヒートポンプ
ヒートポンプは電気で熱をくみ上げて暖房する設備で、燃油暖房機の稼働を置き換えることで化石燃料の使用量を減らせます。家庭用のエアコンと同じように冷房・除湿の機能も持つため、暖房の省エネにとどまらない使い方ができる点が特徴です。
夏の高温期には夜間冷房として活用できます。日射のない夜間は冷房負荷が日中の1〜2割に下がるため、暖房用に導入した能力でも冷房に回せます。実証試験では、バラの夜間冷房で切り花重量が約5割増加し、トマトの夜間冷房・除湿では裂果や尻腐れ果が抑えられて可販果収量が約2倍になるなど、品質・収量面の効果が幅広い品目で確認されています。梅雨どきの除湿運転は、灰色かび病やべと病など多湿で発生しやすい病害の抑制につながり、農薬使用量の削減も期待できます。
除湿運転は冷房運転を兼ねるため室温が下がります。冬場に室温を保ちながら除湿するには、燃油暖房機と組み合わせて運転するなどの工夫が必要です。ヒートポンプと燃油暖房機を併用する形は、化石燃料に頼り切らないハイブリッド型の加温として、この事業がめざす転換の柱になっています。
木質バイオマス利用加温設備
木質ペレットやチップなどを燃料とする加温設備です。重油の代わりに木質燃料を燃やすことで、加温に係る化石燃料の使用量と温室効果ガスの排出量を減らせます。燃料を地域の木質資源でまかなえれば、燃油価格の変動の影響を受けにくい経営にも近づきます。
ヒートポンプと同じく、導入によるCO2の排出削減量はJ-クレジット制度の認証対象です。クレジットの売却益で導入費用の一部を回収する道もあります。
多段式サーモ装置と変温管理
多段式サーモ装置は、一日のうちで複数の暖房設定温度を切り替えられる装置です。夜温を一定に保つ恒温管理に対し、夕方・夜中・早朝で設定温度を変える変温管理を行うと、作物の生理に合わせた温度調整ができ、夜間の設定温度の引き下げで5%程度の省エネ効果が見込めます。
日射センサーと日射演算機能付きの環境制御装置を組み合わせれば、晴れの日と曇り・雨の日で転流促進時間帯の温度を変え、光合成の促進とさらなる省エネを両立できます。花きでは、日没後の3〜4時間だけ設定温度を高め、その後の夜間を低温で管理するEOD加温という技術もあり、スプレーギクやトルコギキョウの実証では重油・電力の消費量を30%程度削減しながら慣行と同等の収量・品質を確保できました。変温管理は品目・品種によって適する設定が異なるため、取り組む際は普及センターやJAなどの営農指導機関に相談しましょう。
局所加温装置
局所加温は、ハウス全体の管理温度を低めに設定し、作物の根圏や生長点だけを温める技術です。実証で確認された効果の目安は品目ごとに次のとおりです。
- イチゴのクラウン温度制御:生長点が集中する株元を20度前後に保ち、夜間の管理温度を下げます。冷温水製造装置と2連チューブを組み合わせた実証で光熱費を約4割削減し、収量増・果実肥大の促進も確認されました。
- ナスの株元加温:畝上の透明フィルムトンネルに温風ダクトを通すダクト加温で、燃料消費量を約半分にしながら12月以降の収量を確保できました。
- バラの株元加温:株元の温湯パイプで暖房効率を高め、投入エネルギーを約4割削減しつつ出芽・伸長を促進しました。
- トマトの生長点加温:送風ダクトを群落上に吊り下げて生長点付近を温め、収量を落とさずに燃料消費量を10%程度削減できました。
装置や資材の導入費用はかかりますが、収量の増加と燃料コストの低減をあわせて所得の向上が期待できる技術です。
外張多重化・内張多層化と循環扇
外張多重化設備・内張多層化設備は、ハウスの外張りを二重にしたり内張りカーテンを多層にしたりして、ハウスから逃げる熱を減らす被覆設備です。保温性が高まるほど暖房機の稼働そのものを抑えられるため、加温方式の転換と並ぶ省エネの土台になります。
循環扇はハウス内の空気をかくはんして温度ムラをなくし、暖房効率を高める設備です。ヒートポンプの除湿運転と組み合わせて作物周辺の気流を確保すれば、空気の滞留による病害リスクも抑えられます。熱交換換気装置は、換気の際に排気から熱を回収する設備で、換気にともなう熱損失を減らします。単価の小さい設備でも、被覆・気流・温度管理を組み合わせることで効果を積み上げられます。
補助を受けるための要件
この事業は設備の単純な買い替え補助ではなく、省エネ栽培体系の実証に必要な設備として導入する仕組みです。押さえておきたい要件は次のとおりです。
- 実証とセットで導入する:補助対象は、慣行の栽培体系と比べて燃料使用量・温室効果ガスを減らす技術の実証に直接必要な機械・設備に限られます。導入した設備の効果的な使い方や組合せを実証し、コストを含む導入効果を分析します。
- 実施主体は協議会・都道府県・市町村・農協:農業者個人は単独で申請できませんが、協議会の構成員や実証主体として参加すれば、自らのハウスで行う実証・設備導入の経費も交付対象になります。
- 対象品目は施設野菜・施設花き・施設果樹です。
- 保険への加入が必要:実証や設備導入に取り組む農業者は、園芸施設共済等または収入保険等に加入します。導入した農業機械では、盗難・天災補償を含む動産総合保険等への加入を処分制限期間中続けます。
- 機械は原則新品:中古は残存耐用年数2年以上で、地方農政局長等が必要と認めた場合に限り対象です。取得単価50万円以上の機器は原則3社以上の見積書を添付し、購入先の選定でも入札や複数見積りで事業費の低減を図ります。
- 交付決定前の経費は対象外:発注・契約は交付決定の通知を受けてから行います(緊急やむを得ない場合の交付決定前着手には届出が必要です)。
- 事業期間は原則1年以内:実証に複数年度が必要で都道府県知事が認める場合は、2年間まで実施できます。
- 成果目標を設定する:品目・ハウスごとの加温に係る温室効果ガス排出量の低減割合と、単収当たりの低減割合を目標に掲げ、目標年度まで毎年度実施状況を報告します。
申請の流れ
公募は都道府県を通じて行われます。おおまかな流れは次のとおりです。
- 都道府県の園芸・農業環境担当の窓口に相談し、公募の時期・様式を確認します。
- 農業者を含む協議会などの実施体制をつくります。協議会には規約・事務局・経理の管理体制が必要で、農業者等は必須の構成員です。
- 導入する省エネ設備と実証の内容、温室効果ガスの低減割合の成果目標を盛り込んだ事業実施計画書を作成し、都道府県知事に提出します。
- 交付決定の通知を受けてから、設備の発注・導入と実証を始めます。交付申請から決定までの標準的な期間は1か月です。
- 実証の結果と目標の達成状況を毎年度報告し、目標年度の翌年度に事業成果を評価して報告します。実証で得た知見は、マニュアルや技術講習会で産地に広めます。
導入後はJ-クレジットで上乗せの収益も
ヒートポンプや木質バイオマス暖房機の導入でCO2の排出量を削減した場合、その削減量を国が認証するJ-クレジット制度を活用できます。認証されたクレジットは売却でき、省エネによるランニングコストの低減に加えて、投資費用の回収や次の省エネ投資の原資にできます。温暖化対策の取組として、生産物や産地のPRにも生かせます。
JAが運営・管理者となり、複数の組合員の削減活動をまとめて登録するプログラム型プロジェクトという方法もあります。佐賀県のJAからつでは、ハウスみかん生産者のハウスにヒートポンプを導入する取組が農林水産分野で初のプログラム型プロジェクトとして登録され、延べ260件の組合員等の参加で約11.8万トンのCO2排出削減を見込んでいます。排出削減の見込量が大きくなるほど、書類作成や審査費用の支援も受けやすくなります。
よくある質問
ヒートポンプを導入するだけでも補助を受けられますか
設備の購入だけを単独で補助する事業ではありません。慣行栽培と比べて燃料使用量・温室効果ガスを減らす栽培体系の実証に直接必要な設備として導入する場合に、2分の1以内・上限2,000万円の補助を受けられます。実証・効果分析・成果の横展開まで含めた計画を協議会などで立てることが前提です。
個人の農家でも申請できますか
事業実施主体は協議会・都道府県・市町村・農協で、個人単独では申請できません。ただし、協議会の構成員や実証主体として位置付けられれば、自分のハウスで行う実証と設備導入の経費も交付対象になります。まずは地域のJA・市町村・都道府県の担当窓口に相談しましょう。
木質バイオマス暖房機も対象ですか
対象です。補助対象の省エネ機器・設備は、ヒートポンプ、木質バイオマス利用加温設備、地下水・地中熱利用システム、多段式サーモ装置、循環扇、熱交換換気装置、局所加温装置、外張多重化・内張多層化設備などです。
リースでの導入も補助を受けられますか
受けられます。リース期間は法定耐用年数以内とし、助成額はリース物件の購入価格(税抜き)にリース期間と法定耐用年数の比率、交付率(2分の1以内)を掛けて計算します。納入事業者は原則3者以上の見積りで選定し、支払申請時にはリース契約書の写しなどを添付します。
どこに申し込めばよいですか
事業実施計画書の提出先は都道府県知事です(実施主体が都道府県の場合は地方農政局等)。公募の時期・締切・様式は都道府県ごとに異なるため、園芸・農業環境部局の案内をご覧ください。この事業は農林水産省のみどりの食料システム戦略推進交付金の一メニューとして、国から都道府県を通じて交付されます。
キーワード解説
省エネルギー型ハウス
実証地域で慣行的に行われる栽培体系と比べて、加温に係る化石燃料の使用量と温室効果ガスの排出量を減らすこと、生産性を維持・向上すること、地域で普及する可能性があることの全てを満たす施設園芸の栽培体系です。設備の名称ではなく、栽培時期の変更や温度管理の工夫、省エネ機器の活用を組み合わせた体系全体を指します。
協議会
この事業の代表的な実施主体で、農業者等を必須の構成員とし、都道府県・市町村・農協のいずれかが加わって組織します。機械メーカーなどの民間事業者が参加して技術指導を行う体制も求められます。規約・事務局・経理の管理体制を備えることが要件です。
実証主体
事業実施計画で、省エネルギー型ハウスの実証を中心的に行う農業者・農業者団体として位置付けられた者です。実証主体が自ら行う実証や設備導入の経費も交付対象になるため、個々の農家が実際に補助を活用する入り口になります。
J-クレジット制度
省エネ設備の導入などによるCO2の排出削減量を、クレジットとして国が認証する制度です。プロジェクトの登録とモニタリングの2段階で認証を受け、クレジットは売却できます。プロジェクト登録の申請日から2年前の日以降に実施した取組が対象です。