戦後に植えられた人工林の手入れが滞り、土砂災害のリスクや木材活用の機会損失が課題になっています。森林をお持ちの方で、相続したばかりの山林の扱いに迷っている方や、隣地とまとめて整備したい方は、森林経営管理制度を一度確認してみてください。本記事では、市町村への委託の流れと、所有者・市町村・林業経営者の役割を整理します。
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰に | 森林を所有し、伐採・造林・保育などの経営管理を自分では続けにくい方、相続山林の活用を検討する方、近隣と一体で手入れしたい方。 |
| 何を | 所有者の義務、市町村による意向調査、経営管理権の委託、林業経営者への再委託(経営管理実施権)、市町村による間伐等、集積計画の考え方。 |
| いつから | 制度は平成31年4月1日に施行されています。手続の開始時期や委託の可否は市町村ごとに異なります。 |
| 詳細はどこで | 林野庁「森林経営管理制度(森林経営管理法)について」、パンフレット「あなたの“森林”手入れができていますか?」(PDF)、森林の所在する市町村。 |
制度が目指すこと
日本の国土の約三分の二は森林です。人工林は間伐などの手入れを続けないと、下層植生が乏しくなり、災害に弱い状態になります。一方、世代交代や生活様式の変化で、手入れが滞る森林が増えています。
森林の約三割は、相続登記が行われていないなどの理由で、所有者がすぐには判明しない状況にあります。所有者が分からないままでは、地域の防災や資源活用のための整備が進みにくくなります。
また、森林所有者の約九割は、林業経営だけを見ると小規模な所有です。意欲のある林業経営者が、周辺の森林とあわせて道を整備し、一体的に手入れすれば、木材生産につながる場合もあります。
森林経営管理制度は、こうした課題に対し、人と森林をつなぐため、市町村を通じて所有者・林業経営者・地域が協力する枠組みです。
森林所有者の義務と市町村への委託
森林経営管理法第3条第1項では、森林所有者は、その森林について、適時に伐採、造林及び保育を実施することにより、経営管理を行わなければならないと定められています。
ご自身での管理が難しい場合は、お持ちの森林がある市町村に相談してください。市町村は、これまでどのように管理してきたか、今後どうしたいかなどを把握するため、意向調査(調査票の送付・返送など)を行います。
意向調査で市町村への委託を希望し、市町村が必要と判断した森林では、所有者の同意のうえ、市町村が経営管理権の設定を受けます。市町村ごとに委託を受ける基準が異なるため、必ずしもすべての森林が委託の対象になるわけではありません。不明な点は、早めに市町村へ確認してください。
制度の主な流れ
- 森林所有者による経営管理の責務の明確化——適時の伐採・造林・保育を実施する義務があります。
- 市町村による意向調査と委託の受付——所有者自らが経営管理を実行できない場合、市町村が委託を受けます。所有者不明の森林などには特例が設けられ、都道府県が市町村の事務を代替執行する場合もあります。
- 林業経営に適した森林の再委託——自然的条件などから林業経営に適すると判断された森林は、市町村が林業経営者に再委託します。都道府県は、経営管理実施権の設定を希望する民間事業者を公募・公表します。
- 再委託に至らない森林の市町村管理——林業経営に適さない森林や、再委託までの間の森林は、市町村が自ら間伐などを実施します(市町村森林経営管理事業)。
経営管理受益権・経営管理権・経営管理実施権
制度では、伐採・造林・保育などを実施するために、次の権利が位置づけられます。
- 経営管理受益権——森林所有者の委託を受け、市町村が伐採等を実施するために市町村に設定される権利です。
- 経営管理権——所有者から市町村への委託に基づく権利です。意向・申出を経て設定されます。
- 経営管理実施権——市町村の委託を受け、民間の林業経営者が伐採等を実施するための、経営管理権に基づく権利です。
林業経営に向かない森林は市町村が管理し、向いている森林は市町村から林業経営者へ任せる、という分担が図られます。
集積計画と周辺森林との一体管理
小規模な所有地でも、周囲の森林とあわせて集積計画に沿って管理すれば、道の整備や一体的な手入れが可能になる場合があります。所有者は集積計画案の提示に対し同意する流れが想定されています。計画の詳細は林野庁の森林・林業関連施策の案内もあわせてご覧ください。
委託がもたらしうる効果
- 防災・地域の安全——集落に近く土砂崩れのおそれがある森林では、林業経営には向かなくても、市町村による防災目的の間伐が行われることがあります。
- 木材としての活用——周辺の森林とまとめて管理することで林業経営が可能になり、市町村から委託を受けた林業経営者による木材生産につながる場合があります。放置していた森林が整備され、販売収入が得られたケースも紹介されています。
- 地域資源としての活用——所有者が分からず連絡が取れない状態では整備が進みにくい森林も、制度を通じて市町村が関与する道が開けます。
効果や収入、委託の可否は森林の条件と市町村の方針によります。具体的な見通しは、意向調査の前後で市町村にご相談ください。
森林所有者が取るべきこと
まず、お持ちの森林の所在市町村へ連絡し、意向調査の有無や委託の手続を確認してください。林野庁の森林経営管理制度(森林経営管理法)についてでは、法令・事務の手引、所有者不明森林の特例、研修・事例集なども公開されています。
令和8年4月施行の森林経営管理法改正など、最新の制度変更がある場合は、林野庁サイトの改正チラシや説明資料もあわせてご覧ください。
キーワード解説
経営管理・経営管理権
森林について、適時の伐採・造林・保育を行うこと全般を指します。市町村が所有者から委託を受ける場合に設定される権利を経営管理権といいます。
意向調査
市町村が森林所有者に対し、これまでの管理のしかたや今後の希望などを確認する調査です。委託の可否判断の材料になります。
経営管理実施権
市町村が林業経営者に再委託したとき、民間事業者が伐採等を実施するための権利です。都道府県による公募・公表と関連します。
経営管理受益権
所有者の委託に基づき、市町村が伐採・造林・保育等を行うために市町村側に設定される権利です。
集積計画
小規模な森林を周辺とまとめて管理・利用するための計画です。所有者の同意を経て進められます。