台風や大雪でハウスが倒壊すれば、施設の再建費用だけでなく、その作期の収入まで失います。風や雪に強い耐候性ハウスへの建て替えを考えるとき、最初の壁になるのが「価格の見当がつかない」ことです。この記事では、農林水産省の委託調査で明らかになった低コスト耐候性ハウスの価格の実態と、費用を左右する仕様の考え方、建設・補強に使える産地生産基盤パワーアップ事業の補助を整理します。施設園芸の農家・産地・JAの担当者に向けた解説です。

耐候性ハウスの費用と支援の要点

要点を表にまとめました。

対象となる方 台風・大雪に備えてハウスの新設・建て替え・補強を考えている施設園芸の農家・農業法人・JA・産地です。
価格の目安 調査事例では10アール当たりの本体価格が数百万円〜1,700万円程度です。作物・軒高・間口・耐風速・内部設備で大きく変わります。
補助 産地生産基盤パワーアップ事業の整備事業で2分の1以内です。既存ハウスの再整備・改修(補強・資材交換)にも支援があります。
相談先 都道府県の担当窓口と地域農業再生協議会です。事業への参加は産地パワーアップ計画に基づきます。

耐候性ハウスと低コスト耐候性ハウス

耐候性ハウスは、台風の強風や積雪に耐えられるよう構造を強化した農業用ハウスです。骨組みに鉄骨を多く使った堅牢なつくりで、一般的なパイプハウスより強く、ガラス温室より安い、中間の位置づけになります。このうち、ガラス温室より大幅に低いコストで一定の耐候性(目安として耐風速50m/s級など)を確保したものが「低コスト耐候性ハウス」と呼ばれ、国の補助事業の整備対象になっています。

国内の園芸用ハウス約4万2,000ヘクタールの内訳をみると、金属パイプ等のハウスが76.5%、鉄骨(アルミ骨)ハウスが23.5%、ガラス温室は3.8%です。低コスト耐候性ハウスはパイプハウスより高価なため、実際には国や県の補助事業を使って建設されるのが通常です。

価格はどれくらいか

耐風速35m/sと50m/sの低コスト耐候性ハウスの10アール当たり本体価格の散布図。作物や軒高・間口により数百万円から1,700万円程度まで幅がある。
農林水産省「令和3年度農業用ハウスの低コスト化に向けた価格及び見積に関する調査委託事業報告書」

農林水産省の委託調査(低コスト耐候性ハウスの価格を分析した数少ない公式調査)が、国の助成で建てられたハウスの出来高設計書をもとに実際の価格を分析しています。その後に価格構造が大きく変わる要因はなく、いまも価格感の目安として参考になります。10アール(1,000平方メートル)当たりの本体価格は、耐風速50m/sの事例でミニトマト130万〜1,390万円、ナス620万〜680万円、ニラ990万〜1,710万円、ピーマン980万円など、耐風速35m/sの事例で小ねぎ360万〜1,210万円などでした。同じ作物でも数倍の開きがあり、平均値や相場を一つ示せるものではないというのが調査の結論です。

価格を動かす主な要素は、作物に合わせた設計(畝幅・栽培方式)、軒高と間口、被覆資材、換気窓などの構造、そしてカーテン・暖房・環境制御といった内部設備です。軒高・間口が大きくなるほど単位面積当たりの本体価格は上がる傾向があります。導入する前に「何をどう作って、収量と単価をどれだけ見込むか」を固めることが、過剰な仕様と費用を防ぐ出発点になります。

耐風速の決め方で費用が1割変わる

調査がもう一つ明らかにしたのが、耐風速の仕様と費用の関係です。耐風速50m/sを40m/sに落としても費用はほとんど変わらない一方、35m/sまで抑えると本体費用を1割前後削減できます。国の補助事業の運用では、対象地域の過去の最大瞬間風速からみて50m/s未満が妥当と判断される場合には35m/sを下限にできるとされています。

実際には「とにかく頑丈に」と風速50m/s以上の過剰な仕様を選んでいる事例が多いことも指摘されています。地域の観測記録に基づいて必要十分な耐候性を選ぶことが、安全性を落とさずに費用を下げる王道です。設計の目安になる地域ごとの設計用風速・積雪深は、日本施設園芸協会の「園芸用施設設計施工標準仕様書」に付表としてまとめられています。

見積もりの取り方でも差がつく

ハウスの見積書は業者ごとに項目や粒度が異なり、そのままでは比較が難しいのが実情です。調査では、複数の業者から相見積もりを取って交渉すること自体が低コスト化につながるとして、見積項目の標準化案も示されました。発注時には、栽培作物・栽培期間、目標収量と単価、予算、施工範囲を仕様書で明確にし、本体と内部設備を分けて複数社に見積もりを依頼しましょう。補助金の申請手続を含めて施主代行業者に「丸投げ」すると、コスト意識が働きにくくなることも調査は指摘しています。

建てるときに使える補助金

産地生産基盤パワーアップ事業(収益性向上対策)の採択要件・支援対象者・支援対象となる取組・補助率。整備事業に低コスト耐候性ハウスが含まれ、補助率は2分の1以内。
農林水産省「産地生産基盤パワーアップ事業(収益性向上対策・生産基盤強化対策)」

低コスト耐候性ハウスの建設をカバーする代表的な補助事業が、産地生産基盤パワーアップ事業の収益性向上対策です。集出荷貯蔵施設や農産物処理加工施設と並んで、低コスト耐候性ハウスが整備事業の対象に位置づけられており、補助率は2分の1以内等です。実績でも、国が直近に助成した低コスト耐候性ハウスの78%がこの事業によるもので、パイプハウス資材や雨よけハウスなど生産資材の導入(2分の1以内)も基金事業で支援されます。

受けるための枠組みは「産地単位」です。地域農業再生協議会等が作成する産地パワーアップ計画(収益性向上タイプ)に参加する農業者・農業者団体等が対象で、個別経営体も計画に参加すれば活用できます。販売額の増加や生産コストの削減といった成果目標と面積要件は産地(計画)側が満たすもので、ハウスを建てる農業者個人にすべてが課されるわけではありません。品目ごとの面積要件には、中山間地域での実施や稲から高収益作物への転換の場合の緩和措置があります。

既存ハウスの補強・建て替えへの支援

産地生産基盤パワーアップ事業(生産基盤強化タイプ)の農業用ハウス再整備・改修の支援内容。パイプ交換・補修・補強、被覆資材の交換、新規就農者への継承の流れを示す図。
農林水産省「産地生産基盤パワーアップ事業(収益性向上対策・生産基盤強化対策)」

「新設までは踏み切れないが、いまのハウスを強くしたい」という場合は、同じ事業の生産基盤強化タイプが選択肢になります。次世代への継承を前提に、既存ハウスの骨組みとなるパイプの交換・補修・補強、被覆資材や内張フィルムの交換・追加、パイプハウスの建て直しに必要な資材の購入などが支援対象です。後継者のいないハウスを新規就農者や受け皿組織へ引き継ぐ体制づくりとセットで使う枠組みで、低コスト耐候性ハウスへの建て直しは整備事業(収益性向上対策)側で対応します。

このほか、暖房の重油依存から抜け出すヒートポンプ等への転換を支援する施設園芸エネルギー転換枠も同事業に設けられています。防災と省エネの投資をまとめて計画すると、産地パワーアップ計画に載せやすくなります。

導入までの流れ

補助を使って耐候性ハウスを整備する場合の大まかな流れです。

  1. 都道府県の担当窓口または地域農業再生協議会に相談し、産地パワーアップ計画(収益性向上タイプ)への参加を検討します。
  2. 作物・栽培方式・目標収量と単価を固め、地域の気象記録に基づいて必要な耐風速・耐雪性を決めます。
  3. 本体と内部設備を分けた仕様書を作り、複数の施工業者から相見積もりを取ります。
  4. 取組主体事業計画を作成し、協議会長等の承認を受けて整備に着手します。
  5. 整備後は、計画の成果目標(原則、事業実施年度の翌々年度が目標年度)に向けて毎年度の実施状況を報告します。

キーワード解説

低コスト耐候性ハウス

台風の強風などに耐える構造(目安として耐風速50m/s級)を、ガラス温室より大幅に低いコストで実現した農業用ハウスです。骨組みに鉄骨を多用した堅牢なつくりで、国の補助事業の整備対象になっています。

産地生産基盤パワーアップ事業

産地の収益力強化と生産基盤の強化・継承を支援する国の事業です。収益性向上対策(低コスト耐候性ハウス等の整備、補助率2分の1以内等)と生産基盤強化対策(既存ハウスの再整備・改修等)からなり、産地パワーアップ計画に参加する農業者・団体が活用できます。

設計用風速・積雪深

ハウスの構造設計で前提にする、地域ごとの風速・積雪の基準値です。過去の最大瞬間風速・最大積雪深の観測記録から算出され、日本施設園芸協会「園芸用施設設計施工標準仕様書」の付表にまとめられています。

施主代行業者

ハウスの設計・見積もり・補助金申請などの手続を農家に代わって進める事業者です。便利な一方、仕様や費用の判断まで任せきりにするとコストが膨らみやすいことが国の調査で指摘されています。

よくある質問

耐候性ハウスの価格の相場はありますか

一律の相場はありません。国の調査事例では、10アール当たりの本体価格は数百万円から1,700万円程度まで幅がありました。作物に合わせた設計、軒高・間口、耐風速、内部設備で大きく変わるため、仕様を固めたうえで複数業者の相見積もりで比較するのが現実的です。

補助金はどれだけ受けられますか

産地生産基盤パワーアップ事業の整備事業で2分の1以内等の補助を受けられます。産地パワーアップ計画(収益性向上タイプ)に参加する農業者・農業者団体等が対象で、個別経営体も参加できます。まずは都道府県の担当窓口か地域農業再生協議会にご相談ください。

耐風速はどう選べばよいですか

地域の過去の最大瞬間風速の記録に基づいて選びます。国の補助事業の運用では、50m/s未満が妥当と判断される地域では35m/sを下限にでき、50m/sから35m/sに抑えると本体費用を1割ほど削減できます。40m/sへの緩和ではほとんど費用が変わらないため、35m/sが妥当かどうかが検討の分かれ目です。

いまあるパイプハウスの補強にも補助はありますか

あります。産地生産基盤パワーアップ事業の生産基盤強化タイプで、既存ハウスのパイプの交換・補修・補強や被覆資材の交換、パイプハウスの建て直し資材の購入が支援されます。次世代への継承の体制づくりと一体で取り組むことが前提です。低コスト耐候性ハウスへの建て替えは整備事業側で対応します。