古くなった品種の植え替えや省力的な栽培方法への転換を考えている果樹生産者は、改植・新植の費用と、収穫できるようになるまでの管理費用の両方で国の支援を受けられます。この記事では、農林水産省「果樹農業生産力増強総合対策」の令和8年度予算資料に基づき、果樹経営支援対策事業の支援単価、未収益期間の支援、対象となる園地の条件を整理します。単価や要件の詳細は一次情報をご覧ください。
制度の全体像
改植・新植に関わる支援を、誰が・何を・どれだけ受けられるかの順にまとめます。
対象となる方は
支援の対象になるのは、「地域計画の目標地図に位置付けられた者(見込みを含む)が、将来にわたって営農を行うことが確実な園地」の改植・新植です。地域の農業の将来像を描く地域計画に、園地の担い手として位置付けられていることが前提になるため、まだ位置付けられていない方は市町村の農政担当に相談しましょう。
対象となる品目・品種や省力樹形は、産地計画または地域計画で今後振興すべきと定められたものに限られます。また、省力樹形などへの改植・新植が優先的に支援されます。
どれだけ受けられるか
改植・新植の支援は定額で、栽培方法と品目によって単価が決まっています。単価は10アールあたりの金額で、括弧内が新植の場合です。
| 区分 | 栽培方法と品目 | 支援単価(10アールあたり) |
|---|---|---|
| 省力樹形 | 根域制限栽培(みかん等のかんきつ類) | 111万円(新植108万円) |
| 根域制限栽培(ぶどう、なし、もも等) | 100万円(新植99万円) | |
| 超高密植(トールスピンドル)栽培(りんご) | 73万円(新植71万円) | |
| V字ジョイント栽培(なし、りんご、もも等) | 73万円(新植71万円) | |
| 高密植低樹高(新わい化)栽培(りんご) | 53万円(新植52万円) | |
| ジョイント栽培(なし、もも、すもも、かき等) | 33万円(新植32万円) | |
| 朝日ロンバス方式(りんご) | 33万円(新植32万円) | |
| 慣行樹形等 | みかん等のかんきつ類 | 23万円(新植21万円) |
| りんご等の主要果樹 | 17万円(新植15万円) | |
| りんごのわい化栽培、加工用ぶどうの垣根栽培 | 33万円(新植32万円) |
整列的な配置などで省力樹形の要件の一部を満たす「省力的な植栽方法」は、定額ではなく2分の1以内の補助率です。補助対象となる植栽密度の範囲は別に定められているため、植え付けの計画を立てる前に確かめましょう。
改植・新植をすると、収穫できるようになるまでの数年間は収入が途絶えます。この未収益期間への支援として、果樹未収益期間支援事業により、農薬代・肥料代などの幼木の管理経費を10アールあたり22万円受けられます。内訳は10アールあたり5.5万円×実施年の翌年から4年分で、初年度に一括で交付されます。
改植以外に受けられる支援
果樹経営支援対策事業では、改植・新植とあわせて園地の条件を良くする取組も支援されます。
- 小規模園地整備・設備の導入:園内道の整備、傾斜の緩和、土壌土層改良、排水路、用水・かん水設備、防風ネット、防霜ファン、モノレールなどの設置。支援単価はみかん等のかんきつ類が10アールあたり10万円、りんご等の主要果樹が10アールあたり8万円、その他の果樹は2分の1以内です。
- 高温障害への技術的対策:遮光ネット、土壌被覆資材、細霧冷房などの高温対策資機材の導入や、マメコバチ増殖のための巣箱設置・繭洗浄の経費を、2分の1以内で受けられます。
- 放任園地の発生防止:病害虫の温床となる荒廃園地などの解消・発生防止に向けた、産地内の合意形成に基づく伐採や植林の取組が支援されます。
- 一斉改植の掛かり増し経費:自園地をまとめて省力樹形に一斉改植し、成園までの間は離農園地などの代替園地で営農を続ける場合、代替園地に対して10アールあたり56万円(11.2万円×成園までの5年分、初年度に一括交付)を受けられます。
果樹農業生産力増強総合対策とは
果樹経営支援対策事業は、持続的生産強化対策事業のうち「果樹農業生産力増強総合対策」の一部です。令和8年度の予算概算決定額は55億5,600万円で、前年度の53億2,300万円から増えています。事業目標には、果実の生産量を令和5年度の245万トンから令和12年度までに256万トンへ拡大することが掲げられています。
背景には、整枝・せん定など機械化が難しい作業の多い果樹農業で生産者の減少や高齢化が進み、栽培面積の減少が続いていることがあります。総合対策は改植・新植の支援のほか、新規就農希望者が研修後に園地を引き継ぐ果樹型トレーニングファームの整備、苗木・国産花粉の安定供給、加工・業務用果実の生産流通、高温に対応した産地の構造転換モデルの実証まで、5つの柱で果樹産地の生産基盤を支えます。
申請の流れ
支援は、国から全国団体(果樹農業振興特別措置法に基づく指定法人である公益財団法人中央果実協会)を通じ、都道府県の果樹関係法人などを経て、果樹生産者や農業者の組織する団体に交付されます。生産者が国へ直接申請する仕組みではありません。
取組を検討する場合は、産地の協議会やJA、都道府県の果樹関係法人(果実基金協会など)、市町村の農政担当に相談することから始めましょう。年度ごとに要望調査や公募の時期が決まっているため、改植を予定する年の前年から早めに動くと確実です。
注意点
- 支援単価は上限を示したもので、審査や予算の範囲内で決まります。単価や要件は年度によって見直されることがあります。
- 補助対象となる植栽密度の範囲が定められています。植栽計画が要件を満たすか、申請前に窓口で確かめましょう。
- 対象となる品目・品種は産地計画・地域計画で振興すべきと定められたものに限られます。植えたい品種が対象かどうかの確認が必要です。
- 未収益期間支援は改植・新植とセットの支援です。管理経費だけを単独で受けることはできません。
キーワード解説
改植・新植
改植は、既存の果樹を伐採・抜根して、優良な品種や省力的な樹形の果樹に植え替えることです。新植は、果樹が植わっていない土地に新たに植え付けることを指します。この事業では改植と新植の両方が支援され、単価は改植の方がやや高く設定されています。
省力樹形
整枝・せん定や収穫の作業を減らせるように樹の形や配置を工夫した栽培方法です。りんごの超高密植(トールスピンドル)栽培は慣行の1.7倍以上、みかんの根域制限栽培は慣行の2倍以上の単位収量が見込まれます。労働力が減るなかで産地の生産量を保つ切り札として、慣行樹形より高い単価で優先的に支援されます。
未収益期間
改植・新植をしてから、幼木が育って収穫・出荷できるようになるまでの期間です。果樹は植え付けから収穫まで長い年月を要するため、この間の農薬代・肥料代などの管理経費が果樹未収益期間支援事業で支援されます。
地域計画の目標地図
地域計画は、農業経営基盤強化促進法に基づき市町村が策定する、地域農業の将来の設計図です。そのうち目標地図は、10年後にどの農地を誰が耕作するかを示した地図で、この事業では目標地図に位置付けられた(見込みを含む)方の園地が支援対象になります。