ハウスの加温にかかる燃料費は、施設園芸の経営を大きく圧迫します。重油やガスの価格が高止まりするなかで、収量や品質を保ちながら燃料の使用量そのものを減らせれば、コストの体質を変えられます。国はみどりの食料システム戦略推進交付金の省エネルギー型ハウス転換事業で、地域の協議会が省エネ設備の導入や栽培方法の見直し、地中熱・廃熱などの活用を進める取組を後押しします。この記事では、対象になる省エネ設備・取組、補助の考え方、そして燃料費が高いときに使えるセーフティネットを含めた対策の全体像を、施設園芸の農家・産地の目線でわかりやすく整理します。
この支援のポイント
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| こんな人に | 加温の燃料費が重い施設園芸の農家、省エネ・脱炭素に取り組みたい産地。実施するのは、農家・自治体・関連団体が集まった協議会等です。 |
| 何ができる | ①地中熱・地下水熱・工場廃熱・温泉熱などの活用に向けた賦存量調査やマップ作成と、②エネルギー投入量の少ない栽培への転換実証。実証では局所加温や既存ハウスの改良を組み合わせ、燃料の使用量を減らします。 |
| 補助率 | 国・都道府県の負担は定額・1/2以内です(総合対策全体の枠の目安)。交付の筋道は国→都道府県→協議会等です。 |
| めざす姿 | 加温面積に占めるハイブリッド型園芸施設等の割合を50%へ(令和12年[2030年])。化石燃料を使わない園芸施設への移行が事業目標です。 |
| 次の一歩 | 産地で①再エネ活用の調査か②低投入栽培の実証かを切り分け、構成員のみどり認定・特定区域の有無を整理して、都道府県の交付要綱・公募案内に沿って事業化します。 |
省エネルギー型ハウス転換事業とは
省エネルギー型ハウス転換事業は、施設園芸の燃料費・エネルギー負担を減らすために、地域の協議会等が省エネと再生可能エネルギーの活用へ踏み出す取組を支援する枠です。温度やCO2濃度を制御するためにエネルギーを多く使う施設園芸で、収量・品質を大きく落とさずに投入量を減らす栽培体系へ移すことが柱になります。
事業目標は、加温面積に占めるハイブリッド型園芸施設等の割合を令和12年(2030年)までに50%へ高めることです。これは、重油やガスなどの化石燃料に頼り切らない園芸施設への移行を意味します。協議会等は、活用できる再生可能エネルギーの賦存量調査や、省エネと生産性を両立する栽培体系への実証、その成果の産地内への普及を進めます。
対象になる省エネ設備・取組
支援の対象は、大きく次の2本柱です。自分の産地でどちらから取り組むかを切り分けると、事業化の道筋が描きやすくなります。
1.再生可能エネルギーの活用推進
地域の地中熱・地下水熱、工場廃熱、温泉熱など、加温に使える再生可能エネルギーを見つけ、使えるようにするための調査・準備を支援します。具体的には次のとおりです。
- 検討会の開催
- 先進事例等の調査
- 活用できるエネルギーの賦存量調査と、賦存量を把握するための情報収集
- 賦存量マップの作成
地中熱・地下水熱・廃熱・温泉熱などがどれだけ使えるかを把握すれば、化石燃料だけに依存しない加温・環境制御の選択肢が広がります。
2.エネルギー投入量の少ない栽培への転換実証
エネルギー投入量の少ない栽培への転換は、次の3段階で設計します。
- 地域に適した持続的な栽培体系の検討。実証する栽培管理方法や資機材を選びます。
- エネルギー投入量の低減に向けた栽培体系の実証。投入エネルギーを減らす栽培管理・資機材の導入、エネルギーロスの抑制、既存ハウスの改良(リノベーション)などを行い、あわせて収量・品質の維持・向上も実証します。
- 新たな栽培体系の横展開。マニュアル作成やセミナー等で成果を産地へ広げます。
実証の選択肢には、必要な範囲だけを温める局所加温技術(作物の株元に電熱線を通すなど、投入エネルギーの低減)と、夏の高温対策(生産性の維持・向上)を組み合わせる方法があります。環境負荷の低減に取り組んだ農産物への消費者理解を促す取組も、選べるメニューに含まれます。
優先して採択される取組
次の取組は優先的に採択されます。産地で事業を組み立てるときの後押しになります。
- みどりの食料システム法に基づく特定区域での取組
- 構成員(農業者、民間団体等)のみどり認定等
補助の考え方
交付の筋道は国→都道府県→協議会等で、国・都道府県の負担は定額・1/2以内です。検討会と賦存量調査・マップ作成、栽培体系の実証(局所加温・高温対策・リノベーション等)、その知見のマニュアル化・公表へとつなげる流れで設計します。
事業の予算規模は、みどりの食料システム戦略推進交付金(総合対策)全体の枠のうちの内数として、次のとおりです。
- 令和8年度当初予算の内数:574百万円(前年度612百万円)
- 令和7年度補正予算の内数:4,000百万円(前年度3,828百万円)
この事業は農林水産省農産局園芸作物課が所管し、公募は都道府県を通じて行われます。補助率・上限額・対象経費の詳しい条件と公募の時期は、年度や都道府県によって異なります。実際に申請するときは、管轄の都道府県の交付要綱・公募案内で最新の内容をご覧ください。
燃料費対策の全体像
燃料費の負担を下げる道筋は、大きく2つに分けて考えると整理しやすくなります。一つは、省エネ設備やハウス転換で燃料の使用量そのものを減らす構造的な対策です。省エネルギー型ハウス転換事業は、ここを後押しします。地中熱や廃熱の活用、局所加温、ハウスの改良などで、価格が上がっても影響を受けにくい体質へ変えていく取組です。
もう一つは、燃料価格が急に上がったときに当面の負担を和らげるセーフティネットです。施設園芸では、農家とJA等が事前に資金を積み立て、燃油価格が一定の基準を超えたときに補填を受けられる仕組みがあります。価格高騰の波をしのぐための備えで、構造的な省エネ対策と性格が違います。詳しくは施設園芸の燃料セーフティネットの解説をご覧ください。
この2つは、どちらか一方ではなく組み合わせて使うものです。短期はセーフティネットで価格高騰をしのぎつつ、中長期では省エネ設備・ハウス転換で使用量を減らし、補填に頼り過ぎない経営へ近づけます。省エネや脱炭素への移行は燃料費対策の中心であり、農業の気候変動対応とも重なります。気候変動への向き合い方は農業の気候変動対応の解説もあわせてご覧ください。
3つの支援の使い分け
施設園芸の燃料費・省エネに使える国の支援は、性格の違う3つを組み合わせて考えると整理できます。設備・栽培で使用量を減らすのが省エネルギー型ハウス転換事業、価格高騰の月に差額を補填するのが燃料価格高騰対策のセーフティネット、環境にやさしい生産体系そのものへ転換するのがグリーンな生産体系加速化事業です。
| 支援 | 支援のタイプ | 主な支援内容 | 実施主体 | 補助率・規模 | こんなときに |
|---|---|---|---|---|---|
| 省エネルギー型ハウス転換事業(この記事) | 構造対策(使用量を減らす) | 再生可能エネルギーの賦存量調査・マップ作成、エネルギー投入量の少ない栽培への転換実証(局所加温・既存ハウスの改良等) | 地域の協議会等 | 定額・1/2以内(国→都道府県→協議会等) | 燃料の使用量そのものを中長期で減らしたい |
| 施設園芸等燃料価格高騰対策のセーフティネット | 価格対策(差額を補填する) | A重油等の価格が発動基準価格を上回った月に補填金を交付。国と生産者が1対1で積立 | 施設園芸農家3戸以上等で構成する農業者団体等 | 補填単価×補填対象数量(原則は当月購入数量の70%) | 燃料価格の急騰を当面しのぎたい |
| グリーンな生産体系加速化事業 | 生産体系の転換(技術検証) | 環境にやさしい栽培・飼養技術の検証、検証に必要なスマート農業機械等の導入(栽培事業のみ) | 地域の協議会等 | 定額・1/2以内(国→都道府県→協議会等) | 化学農薬・化学肥料を減らしグリーンな生産体系へ転換したい |
省エネルギー型ハウス転換事業とグリーンな生産体系加速化事業は、どちらもみどりの食料システム戦略推進交付金の枠で、交付の筋道(国→都道府県→協議会等)と負担割合(定額・1/2以内)は共通です。ねらう成果が「エネルギーの使用量削減」か「化学農薬・化学肥料の削減」かで使い分けます。セーフティネットはこの交付金とは別の燃料価格高騰対策で、積立方式による補填という性格が異なります。
よくある質問
省エネ型ハウス転換事業とは何ですか
みどりの食料システム戦略推進交付金の枠の一つで、施設園芸の燃料費・エネルギー負担を減らすために、地域の協議会等が再生可能エネルギーの活用や省エネ・低投入栽培の実証を進める取組を支援する事業です。加温面積の50%を、化石燃料を使わないハイブリッド型園芸施設等へ移すこと(令和12年)が目標です。
どんな設備が対象ですか
地中熱・地下水熱・工場廃熱・温泉熱などの再生可能エネルギーの活用に向けた調査やマップ作成と、エネルギー投入量の少ない栽培への転換実証が対象です。実証では、必要な範囲だけを温める局所加温技術、エネルギーロスを抑える資機材、既存ハウスの改良(リノベーション)などを組み合わせます。
補助はどのくらいですか
国・都道府県の負担は定額・1/2以内が目安です。事業の予算規模は、交付金全体の内数として令和8年度当初予算で574百万円、令和7年度補正予算で4,000百万円です。補助率・上限・対象経費の細かい条件は年度や都道府県で異なるため、管轄の都道府県の交付要綱・公募案内で最新の内容をご確認ください。
燃料費が高いとき他に使える支援はありますか
燃油価格が急に上がったときに当面の負担を和らげる仕組みとして、農家とJA等が資金を積み立て、価格が基準を超えると補填を受けられるセーフティネットがあります。省エネ型ハウス転換事業が使用量を減らす構造的な対策なのに対し、こちらは価格高騰をしのぐ備えです。詳しくは施設園芸の燃料セーフティネットの解説をご覧ください。
省エネ型ハウス転換事業とグリーンな生産体系加速化事業はどう違いますか
どちらもみどりの食料システム戦略推進交付金の枠で、負担は定額・1/2以内、交付は国→都道府県→協議会等という点は共通です。違いはねらう成果です。省エネ型ハウス転換事業はエネルギー投入量の削減(燃料の使用量を減らす)が目的で、グリーンな生産体系加速化事業は化学農薬・化学肥料の削減や省力化を両立する生産体系への転換が目的です。産地の課題が燃料費なら前者、環境負荷の低減や有機・減化学なら後者を軸に組み立てます。3つの支援の違いは3つの支援の使い分けの表で確認できます。
次の一歩
まずは産地で、再生可能エネルギーの活用調査から始めるのか、それとも低投入栽培の実証から始めるのかを切り分けましょう。あわせて、協議会の構成員にみどり認定を受けた農業者がいるか、みどりの食料システム法に基づく特定区域に当たるかを整理すると、優先採択につながりやすくなります。具体的な進め方は、管轄の都道府県の農政担当やみどりの食料システム関連の窓口に相談し、交付要綱・公募案内に沿って事業化を進めましょう。
キーワード解説
みどりの食料システム戦略推進交付金
食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立を目指す「みどりの食料システム戦略」の実現に向け、環境負荷低減や有機・省エネなどの取組を支援する交付金の総称です。省エネルギー型ハウス転換事業は、そのうち施設園芸の省エネルギー化・再生可能エネルギー活用に関する枠です。
みどり認定
環境負荷の低減に取り組む農業者等に対する国の認定制度です。協議会の構成員にみどり認定を受けた農業者がいるかどうかが、優先採択の材料の一つになります。
再生可能エネルギー
地中熱・地下水熱・工場廃熱・温泉熱など、地域で加温に活用しうるエネルギーです。どれだけ使えるかを賦存量調査で把握し、賦存量マップとして整理します。化石燃料のみに依存しない加温・環境制御の選択肢を広げるための前提情報です。
エネルギー投入量の少ない栽培
温度・CO2濃度等の環境制御に要するエネルギーを、収量・品質を維持しながら減らす栽培体系です。栽培管理・資機材の実証、既存ハウスの改良、マニュアル化・セミナーによる横展開までが支援の流れです。
ハイブリッド型園芸施設等
化石燃料を使用しない、または大幅に削減した加温・環境制御を行う施設園芸の類型です。令和12年(2030年)までに、加温面積の50%をこの類型へ移行することが事業目標です。
局所加温技術
ハウス全体ではなく、作物や区画に必要な範囲だけを加温して、投入エネルギーを抑える技術です。低投入栽培の実証では、夏の高温対策(生産性の維持)と組み合わせて検証します。