猛暑が続く夏は、圃場の生育不良だけでなく、数か月後の出荷不足や卸売価格の高止まりにつながります。なぜそうなるのか、国は何を支援しているのか、現場では何から手を付ければよいのか——高温対策の全体像を整理します。
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰に | 露地・施設の野菜を生産する農業者、JA・指定産地の関係者、農政・流通に携わる方です。 |
| 何を | 猛暑と野菜価格・生産への影響、農水省の技術対策・予算事業、現場で取れる対策の整理です。 |
| いつ | 気象・価格の整理は主に令和6年・7年の夏を中心としています。支援事業の年度・要件は公募・要領で異なります。 |
| 詳細は | 農林水産省「野菜における夏季の高温対策」、「野菜高温対策をめぐる情勢(PDF)」をご覧ください。 |
猛暑が続く夏と、野菜価格への影響
令和6年夏(6〜8月)は、気温が全国的にかなり高く、東日本太平洋側では降水量がかなり多い一方、日照は東・西日本太平洋側などでかなり多い夏でした。令和7年夏は、北・東・西日本で気温がかなり高く、1898年の統計開始以降で最も暑い夏となりました。各産地では猛暑日(日最高気温35℃以上)や真夏日(30℃以上)が平年を大きく上回り、最高気温は37℃前後に達した地域もあります。
東京都中央卸売市場の指定野菜の価格は、令和6年に次のような動きがありました。1〜2月の暖冬で生育が前進した一方、2月下旬以降の低温や4月以降の天候不順で出荷が減り、3〜5月は高値傾向となりました。さらに夏場の高温などで夏季出荷分の生育不良や、秋冬作の播種・定植時の初期生育不良が生じ、7月中旬以降は平年を大きく上回る価格が続きました。令和5年・6年と、秋季以降も夏季の高温の影響が価格に残りやすい状況が続いています。
価格が動く背景には、単なる「その年の夏の不作」だけでなく、生育ステージをまたいだ影響があります。夏季の出荷期に歩留まりが落ちると同時に、後続産地の播種・定植時期に障害が出ると、数か月後の出荷まで供給が絞られ、価格の高止まりが長引きます。
生産面への影響
高温・強日射・多雨・少雨の組み合わせにより、野菜では次のような被害が広く報告されています。
- 生育初期:発芽不良、生育不良、定植・育苗期の障害
- 収穫期:歩留まりの低下、着色・着果の不良、日焼け果・裂果などの不良果、生理障害
- 病害虫:高温に伴う害虫の増加や、媒介する病害の発生
葉茎菜・果菜・根菜のいずれでも、生育初期から収穫期まで影響が及ぶため、品目や作型に応じた防除・環境管理・品種選定が必要になります。
農水省が進める高温対策
農林水産省は、現場での適応策の普及と、中長期の品種・技術開発を組み合わせて対策を進めています。
適応技術と高温耐性品種
産地では、遮光ネット・遮光資材、かん水管理、細霧冷房、適期・適切な防除、発生予察、ドローンを用いた防除などが取り組まれています。種苗メーカー等からは高温耐性品種が発売され、高温時の生育停滞・着果不良・生理障害・裂果などに強い特性を備えた品種の導入・転換が進められています。
産地生産基盤パワーアップ事業(令和6年度補正予算)
産地生産基盤パワーアップ事業では、高温対策栽培技術に計画的に取り組む産地に対し、生産資材の導入を支援します。遮光資材や細霧設備など、現場で必要な設備・資材を産地単位で整えるための枠組みです。単独の農家ではなく、産地・JA・指定産地などが計画としてまとめる形が想定されます。
技術開発予算(品種・技術・生産体系)
遮光資材の導入や耐暑品種への転換など、現場ですぐに取り組める適応策と、産地単位の設備支援に加え、国は技術開発予算を使って中長期の研究開発も進めています。猛暑が常態化する見込みのなか、10年・20年先を見据えて「何を育て、どう作り、どう供給するか」を改めて整える枠組みです。
研究開発の柱は、次の3つに分かれます。
- 品種:気候変動に適応する高温耐性など、革新的な特性を持つ品種の開発。高温時の生育停滞・着果不良・生理障害など、従来品種では限界が出やすい特性を、育種で克服する取り組みです。
- 技術:遮光・細霧冷房・防除など、個別の現場対策を超え、気候変動下でも安定して使える新しい栽培・管理技術の開発・体系化です。
- 生産体系:開発した品種と技術を組み合わせ、気候変動下でも安定的に野菜を生産・出荷できる生産の仕組み全体を確立する取り組みです。
これらの研究開発は国主導で推進されます。現場の適応策が「その年の乗り切り」であるのに対し、技術開発予算は将来の猛暑に備えた土台づくりを担います。
品種開発では、高温耐性をはじめとする新しい特性を持つ品種の育成が中心です。次の段階では、そうした品種を活かす栽培技術と、産地全体の生産・出荷の仕組みまで含めた研究開発が、国主導で進められます。
対策を進めたい農業従事者が取れること
政策を踏まえ、現場では次のような段階で検討できます。
| 段階 | 取り組み |
|---|---|
| すぐ始められる | 遮光・細霧冷房・かん水の見直し、発生予察に基づく防除、自圃場の課題に合った高温耐性品種への転換 |
| 産地でまとめる | 高温対策栽培技術の計画を産地・JA等で共有し、産地生産基盤パワーアップ事業の対象として生産資材導入の支援を検討する |
| 情報の活用 | 農水省の「野菜における夏季の高温対策」に掲載の産地事例、地球温暖化影響調査レポート、都道府県・研究機関の技術指導を参照する |
補助・交付の要件、対象経費、申請主体は年度ごとに異なります。採用可否や様式は、地方農政局・都道府県・JAの案内と最新の公募情報をご覧ください。
キーワード解説
猛暑日
日最高気温が35℃以上の日をいいます。真夏日(30℃以上)とあわせて、夏季の高温ストレスの強さを把握する指標として用いられます。
高温耐性品種
高温時の生育停滞、着果不良、生理障害、裂果などに比較的強い品種です。種苗メーカー等が開発・販売し、産地での導入が進められています。
産地生産基盤パワーアップ事業
令和6年度補正予算等の枠組みで、高温対策栽培技術に計画的に取り組む産地に対し、生産資材の導入を支援する事業です。産地単位での計画と申請が前提となります。