物流2024年問題とは? 食品物流で何が起きているのか
産地で収穫した野菜や果物がスーパーや食卓に届くまでには、集荷・保管・輸送・配送という長い道のりがあります。その「物流」を支える現場では今、人手不足の深刻化とコストの上昇が大きな課題になっています。トラックドライバーの高齢化と採用難、倉庫・市場での作業の属人化、産地と消費地をつなぐ経路の非効率などです。
そこに加わったのが物流2024年問題です。2024年4月からトラックドライバーの時間外労働に年960時間の上限が適用され、1人あたりが運べる距離・量が短くなりました。長距離輸送ほど影響が大きく、対策をとらなければ全国で輸送力が不足するおそれがあります。こうした要因が重なり、食品を「届ける力」そのものが弱まることが懸念されています。
2024年問題が食品流通に与える影響
食品物流は、ほかの貨物よりも2024年問題の影響を受けやすい分野です。生鮮品や冷蔵・冷凍品が多く鮮度を保ったまま速く運ぶ必要があること、市場や量販店の早朝納品・多頻度小口配送が前提になっていること、納品時の長い荷待ち・荷役(手作業の積み下ろし)がドライバーの拘束時間を押し上げてきたことが背景にあります。輸送できる距離が短くなれば、遠隔産地の出荷や長距離輸送に支障が出かねません。
コスト面の負担も重くなっています。飲食料品を扱う卸売業では、売上に占める経費の割合が令和5年度時点で12.4%に達しています。このままでは、産地も小売も、そして消費者の手元も、持続可能な供給を維持しづらくなります。納品期限など商慣習の見直しも欠かせず、賞味期限までの納品期限を緩める動きについては1/3ルールと食品の商慣習見直しもあわせてご覧ください。
そこで国は、物流の標準化(例:パレットの規格統一)やデジタル化・共同化を後押しし、「少ない人手とコストで、確かに届ける」仕組みへと組み替えようとしています。物流革新に向けた取組の推進は、そうした食料供給の安定と流通経費の削減を目指す農林水産省の施策の総称です。以下では、国が何を後押しするのか、主な事業と予算の概要を整理します。
物流革新に向けた取組の推進とは
| 誰が | 農林水産省(大臣官房新事業・食品産業部 食品流通課等)が所管しています。事業の実施主体は、食品流通業者で構成される協議会、民間団体、卸売市場開設者などです。 |
|---|---|
| 何を | 物流の標準化(標準パレット導入)、デジタル化・データ連携、モーダルシフト、ラストワンマイル配送、中継共同物流拠点の整備、卸売市場の高度化、輸出物流の構築などです。 |
| いつまでに | 令和12年度までに、飲食料品卸売業の売上高に占める経費の割合を12.4%(令和5年度実績)から10%へ削減することを政策目標に据えています。各事業の公募・申請期限は年度ごとに告示されます。 |
| 予算 | 令和8年度予算概算決定額は約264億円(前年度比ほぼ同額)。令和7年度補正予算は約100億円。内訳は後述の事業別予算を参照してください。 |
パレット標準化・共同輸配送
輸送力が細る2024年問題に対し、国は「少ない人手で運ぶ」ための効率化を三つの柱で後押ししています。柱になるのがパレットの標準化と共同輸配送です。
① パレット標準化・デジタル化と、最後の一歩(ラストワンマイル)
標準パレット(荷物を載せる台の規格をそろえる)を導入すると、産地・市場・小売の間で積み替えがフォークリフトで一気に進み、手作業の積み下ろしや荷待ちが減ります。あわせて、伝票の電子化やトラック予約システムで荷待ち時間を短くし、モーダルシフト(トラックだけでなく鉄道・船も使う取り組み)やラストワンマイル(消費地に届ける最後の配送)の工夫を進めます。倉庫や市場で人手を減らす自動化・省力化の設備・機器の導入も支援の対象です。
② 中継共同物流拠点での共同輸配送
複数の荷主の荷物を一度にまとめて、中継輸送や共同輸配送をするための中継共同物流拠点の整備を支援します。ここを整えることで、トラックの空き走行を減らし、鉄道・船への積み替えもしやすくなります。
③ 産地から港・空港まで、そして輸出物流
産地から港湾・空港まで無駄の少ないルートと体制をつくる取組や、地方の港・空港を使った輸出用の物流を新たにつくる取組を支援します。デジタル化や自動化の設備導入も含まれます。
政策目標——経費比率をどこまで下げるか
国は、飲食料品を扱う卸売業について、経費比率を12.4%から令和12年度までに10%へ引き下げることを目標にしています。物流の効率化とコスト削減を通じて、食料を安定して届ける基盤を強くする、という位置づけです。
次の図2では、こうした支援が産地の集荷から消費地の配送まで、どのような流れで使われるかを示しています。
主な事業の内容と予算(令和7〜8年度)——自分はどれを確認すべきか
物流革新の予算は、「設備・機器を入れたい事業者」向けと「拠点・市場の整備を進める自治体・開設者」向けに分かれています。どちらも公募・申請の窓口や期限は事業ごとに異なるため、まずは自分の立場でどの事業が該当しそうかを押さえてから、農林水産省の一次情報で公募要領を確認するのがおすすめです。以下は、読者が「どの事業をチェックすべきか」を判断しやすいよう、役割と予算の特徴を整理したものです(出典:農林水産省「物流革新に向けた取組の推進」関連資料)。
主な事業のまとめ
図2の流れ(産地集荷→中継→拠点→消費地配送)のどこを担うかで、該当しそうな事業が変わります。
① まず設備・機器や伴走支援から始めたい——持続可能な食品等流通対策・緊急対策
持続可能な食品等流通対策事業は、令和8年度概算4.2億円・令和7年度補正19.67億円です。標準パレット、デジタル化・データ連携、モーダルシフト、ラストワンマイル、省力化設備の導入などが対象です。補助率は定額または2分の1以内など事業により異なります。
食品等物流合理化緊急対策事業(令和7年度補正)では、同様の取組に加え、専門家派遣による伴走支援(物流生産性向上推進事業)や、地方港湾・空港を使った輸出物流の構築(輸出物流構築事業)、中継共同物流拠点の緊急整備(中継共同物流拠点施設緊急整備事業)が含まれます。相談から入りたい場合は推進事業の伴走支援、輸出や拠点整備を検討している場合は輸出物流構築・拠点緊急整備を、公募要領で確認するとよいでしょう。
② 卸売市場・共同物流拠点の「施設」を整えたい——強い農業づくり総合支援交付金
強い農業づくり総合支援交付金の食品流通拠点整備は、令和8年度概算で約120億円(前年度比ほぼ同額)と、物流革新関連では最も規模が大きい枠です。卸売市場施設整備(効率化・自動化・共同輸配送・デジタル化・輸出向けコールドチェーン・防災など)と共同物流拠点施設整備が対象です。補助率は4分の10(4/10)・3分の1(1/3)以内などです。市場開設者や協議会などが実施主体となるため、自治体・JA・卸売市場関係者は、地域の計画と照らして該当メニューがないか早めに確認する価値があります。
③ 卸売市場の再編・集約・輸出高度化を急ぎで進めたい——卸売市場緊急整備事業
卸売市場緊急整備事業(令和7年度補正)は約78億円です。市場の再編・集約や輸出拡大に向けた高度化がテーマです。補正予算のため、公募・申請期限が比較的早く設定されている可能性があります。市場整備を検討している開設者・自治体は、令和7年度中の募集有無とスケジュールを優先的に確認するとよいでしょう。
④ 産地の集出荷・青果物の流通改善から入りたい——国産青果物安定供給体制構築事業
物流革新の「産地にいちばん近い」メニューが国産青果物安定供給体制構築事業です。加工・業務用野菜産地の物流合理化、青果物の流通合理化支援、園芸産地づくり、花き流通効率化、生育予測・集出荷システムの導入、出荷規格の見直し実証などが含まれます。卸売市場・共同物流拠点の整備とあわせて、産地の集出荷体制の合理化も対象です。JA・産地団体・自治体が農家に「まずどこを説明するか」を考えるとき、この事業を入口にすると、現場の実感に合わせて話しやすいことがあります。
各事業の補助率・必要書類・申請期限は年度・公募ごとに変わります。上記はあくまで「どの事業を確認すべきか」の目安です。実際の申請には、必ず農林水産省または所管窓口の最新の公募要領をご確認ください。
食品流通拠点整備のイメージ
定温施設、ドックシェルター、自動搬送装置などの導入が補助対象となります。
対象者と事業の流れ
主な対象者
協議会、開設者、流通業者など、事業ごとに異なります。
- 食品流通業者等で構成される協議会や民間団体(持続可能な食品等流通対策、物流生産性向上推進、輸出物流構築など)。
- 卸売市場開設者、流通業者・物流業者等(中継共同物流拠点、卸売市場整備など)。
交付の仕組み
国から都道府県や協議会・開設者等へ交付金や補助金が交付され、産地集荷から消費地配送までの新たな食品流通網の構築や、卸売市場・共同物流拠点の整備が進められます。
申請を検討するときのポイント
公募は年度・事業ごとに告示されます。対象者、補助率(定額・2分の1以内・4分の10(4/10)・3分の1(1/3)以内など)、必要書類、締切日は公募要領で必ず確認してください。持続可能な食品等流通対策や物流生産性向上推進事業では、協議会を構成して申請する形が多く、単体の企業だけでなく産地・市場・物流が連携した取組が想定されています。不明点は農林水産省の公募要領の問い合わせ先や所管窓口で確認してください。
キーワード解説
物流2024年問題
2024年4月からトラックドライバーの時間外労働に年960時間の上限が適用され、1人あたりが運べる距離・量が減って輸送力が不足する問題です。長距離・多頻度の輸送ほど影響が大きく、生鮮・冷蔵が多い食品物流では特に対策が急がれます。
標準パレット
規格が統一されたパレット(荷物を載せる台)を使うことで、産地・市場・小売間で積み替えがしやすくなり、効率化とコスト削減につながります。
モーダルシフト
トラックだけでなく、鉄道・船舶を活用して輸送する取組です。環境負荷の軽減や、ドライバー不足の緩和が期待されます。
ラストワンマイル配送
消費地の「最後の一マイル」、つまり末端の配送を指します。地域に合わせた配送形態の工夫が支援対象になる場合があります。
中継共同物流拠点
複数の荷主やルートの荷物を一度に集約し、中継輸送や共同配送を行う施設です。大型車対応のトラックバースや、定温施設・ドックシェルターの整備が補助の対象です。
コールドチェーン
生鮮食品などを生産から消費まで一定の低温でつなぐ物流です。輸出や卸売市場の高度化では、輸出先国までの衛生管理基準の確保が求められることがあります。
卸・メーカー・物流・商社が準備すべきこと
Q. 自社はどの事業の対象になりますか?
立場によって入口が変わります。設備・機器(パレット・省力化機械・トラック予約システムなど)を入れたい卸・メーカー・物流は、持続可能な食品等流通対策事業や食品等物流合理化緊急対策事業が入口です。市場・共同物流拠点の施設を整える開設者・自治体は強い農業づくり総合支援交付金や卸売市場緊急整備事業、産地の集出荷から改善したいJA・産地は国産青果物安定供給体制構築事業が近い枠です。
Q. まず何から準備すればよいですか?
自社が物流のどこ(産地集荷→中継→拠点→消費地配送)を担うかを整理し、ボトルネック(荷待ち・手荷役・空車・庫内作業)を洗い出すところからです。多くの事業は協議会など連携体での申請が前提になるため、取引先の卸・メーカー・物流・市場と組む相手を早めに見極めておくと動きやすくなります。商社が関わる輸出では、地方港湾・空港を使った輸出物流の枠も候補になります。
Q. 設備投資のほかに使える支援はありますか?
専門家による伴走支援(物流生産性向上推進事業)で計画づくりから相談できます。あわせて、合併・事業譲渡・物流の共同化といった事業再編そのものを後押しする金融支援もあり、低利融資や債務保証の対象になる場合があります。詳しくは食品流通の合理化・再編支援(農業競争力強化支援法)をご覧ください。
次の一歩
「物流革新に向けた取組の推進」は、パレット標準化・共同輸配送・デジタル化、中継拠点や卸売市場の整備、輸出物流の構築を通じて、2024年問題のもとでも食料を安定して届ける基盤を強くする農林水産省の施策です。令和8年度も約264億円規模の予算で複数の事業が並行して動いています。
まずは自社・団体の役割から対象になりそうな事業を1〜2件に絞り、連携できる取引先に声をかけてみましょう。そのうえで、農林水産省の公募情報で該当事業の公募要領(対象・補助率・締切)を確認し、計画づくりに不安があれば伴走支援や所管窓口に相談するのが次の一歩です。