事業系食品ロス削減で最も議論が集中するのが、フードチェーン上の商慣習です。本記事は、農林水産省の情勢資料第3章「事業系食品ロスの削減に向けた取組」のうち、商慣習の見直し(p.31–38)に相当する部分を、納品期限・賞味期限の両面から解説します。製造・卸・小売・物流のどこにロスが発生するかを押さえたうえで、国が推進する三本柱の取組と、業界の事例・数値を整理します。
概要
フードチェーン上、どこでロスが生じるか
商慣習の見直しを理解するには、まず工程ごとのロスの種類を整理します。資料では次のように整理されています。
- メーカー:返品、未出荷による廃棄
- 卸売:納品期限切れ在庫、返品、廃棄・転送
- 小売:販売期限切れ在庫
これらはいずれも、小売が設定するメーカーからの納品期限や店頭での販売期限と深く関係します。多くの場合、製造日から賞味期限までの期間を3等分し、第1区間の終わりまでに納品、第2区間の終わりまでに販売する慣行(いわゆる3分の1ルール)が、過剰な返品・廃棄の一因とされています。メーカーだけ、小売だけでは解決できず、フードチェーン全体での合意が必要です。
3分の1ルールと納品期限の緩和(1/2ルール)
現行のイメージ(賞味期限6か月の例)
賞味期限が6か月の商品を例にすると、製造日から賞味期限までの6か月を3等分し、おおよそ2か月目末までに小売へ納品、4か月目末までに店頭販売を終える、というイメージで運用されることが多いです(実務では「賞味期限の1/3」「2/3」という表現で契約されます)。
この結果、納品期限前に出荷できなかった在庫、販売期限前に売れ残った在庫がロスとして廃棄・処分されやすくなります。メーカー側では納品期限に間に合わない未出荷・返品、卸側では期限切れ在庫、小売側では販売期限切れが発生します。
緩和後:1/2ルールへ
見直しの方向性は、賞味期間の1/3ではなく1/2までに小売へ納品してよい(1/2ルール)ことです。6か月の例では、納品可能期間が約2か月から約3か月へ延び、店頭販売期間もそれに応じて設計し直すことで、同じ賞味期限でも流通・販売の余裕が生まれます。
小売側は「販売期間が短くなるのでは」と懸念する一方、製造・卸側は納品余力の改善を期待します。国・業界は、推奨3品目(飲料・菓子・カップ麺)から順次、加工食品全体へ拡大する方針です。
物流拠点の違いと中間流通の連動
専用物流センター
自社または専用の物流センターを保有する事業者は、納品期限のハンドリングを自社判断で調整しやすいです。小売が納品期限を緩和しても、物流段階で旧い期限基準が残っていれば効果は限定的です。
汎用物流センター
他社と物流センターを共有する場合、納品期限は他社の基準に合わせる必要があり、単独の小売・メーカーだけでは変更できません。平成30年度以降、汎用物流センターを利用する地方の食料品スーパー等で納品期限緩和の実証が行われ、取組の横展開が課題とされています。
資料が強調するのは、小売店舗での緩和と、専用・汎用を問わず中間流通での緩和が連動することです。店舗だけ期限を延ばしても、物流センター入庫時点で拒否されればロスは減りません。
対象品目の拡大と市場規模
納品期限緩和は、家庭で比較的短期間に消費される加工食品のうち、緩和しても店舗販売・家庭消費への影響が少ない品目から拡大します。平成28年経済センサスに基づく市場規模の例は次のとおりです(資料記載)。
| カテゴリー | 市場規模(目安) |
|---|---|
| 食料品・飲料製造業(全体) | 約33兆円 |
| その他加工食品 | 約28兆円 |
| 清涼飲料 | 約2.2兆円 |
| 菓子 | 約2.2兆円 |
| 即席麺 | 約0.4兆円 |
| レトルト食品 | 約0.2兆円 |
推奨3品目は、飲料、菓子(賞味期間180日以上)、カップ麺です。これを基本に、レトルト・袋麺・調味料・スープ・缶詰・冷凍食品等へ拡大します。
取組例として、セブン&アイ・ホールディングスは2019年7月、全国のセブン-イレブン・イトーヨーカドー・ヨークベニマル・ヨークマートにおいて、納品期限緩和の対象を調味料・レトルト食品等へ含む常温加工食品全カテゴリーへ順次拡大すると発表しています。
賞味期限の年月表示化
制度・推進の背景
賞味期限が3か月を超える食品については、表示を「年月日」から「年月」にすることも可能です。食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチーム(平成24年度~、製造・卸・小売の話し合いの場)は、消費者に分かりやすい表示の工夫と、日付順納入による流通段階のロス防止を推奨しています。
ただし、年月表示にすると表示上の「日」が切り捨てされるため、賞味期間が最大で約1か月短く見える場合があります。その状態で納品期限が3分の1ルールのままだと、製造側にとって実質的な販売可能期間がさらに縮むため、納品期限の緩和とセットでなければ取組が進みにくい、という整理が資料にあります。
業界・企業の事例
- 日本醤油協会:過度な日付管理が深夜・早朝操業や返品の原因だったため、「醤油の日付表示に関するガイドライン」で賞味期限3か月超は原則年月表示。
- 全国清涼飲料連合会:平成30年9月、「食品ロス発生抑止・削減に向けた賞味期限の年月表示に関する清涼飲料水自主ガイドライン」を公表し、業界全体で年月表示化を推進。
- 全日本菓子協会:賞味期限延長と年月表示化の進捗を毎年調査し、実施を呼びかけ。
- 味の素:賞味期間1年以上の家庭用製品について、平成29年8月より「年月日」から「年月」への変更対象を拡大し、賞味期限延長を併施。
進捗(流通経済研究所調べ・令和6年10月末)
対象22,658商品のうち、大括り化(年月表示化等)済みは7,261商品、今後の予定196商品です。カテゴリー別の内訳は次のとおりです。
| カテゴリー | 商品数 | 大括り化済 | 今後の予定 |
|---|---|---|---|
| 清涼飲料 | 4,344 | 2,334 | 31 |
| 菓子 | 8,714 | 3,279 | 101 |
| レトルト食品 | 1,271 | 373 | — |
| 調味料 | 8,329 | 1,275 | 64 |
| 合計 | 22,658 | 7,261 | 196 |
年月表示化の期待効果(流通・小売)
製・配・販連携協議会第2WG報告(2014年7月)・流通経済研究所の試算が、年月表示化の効果として資料に引用されています。
スーパー専用センターでの数値例
- 保管料 2.7%減、パレット枚数 3.2%減、出庫作業 3.0%減
- 拠点間転送 1.9%減、処分販売 7.9%減
- 売上経費率 0.036%減
- 入荷業務省力化 429円/出荷1億円、商品補充効率化 831円/出荷1億円
- 棚卸し 581円/月、日付逆転によるトラック待機改善 980円/出荷1億円
年月表示化すると、在庫商品と入荷商品の賞味期限が同一になるケースが増え、商品補充時の作業が約10%程度軽減する効果が期待されます。メーカー・卸・小売の各段階で、保管スペースの効率化、ピッキング・期限確認業務の軽減、日付逆転(古い期限の商品が後から入ること)の減少につながります。
小売と製造の利害と「先入れ先出し」ルール
年月日表示(例:2020.6.17)から年月表示(例:2020年6月)に変えると、小売・卸にとっては次のメリットがあります。
- 先入れ先出しルール(仕入れ済みより賞味期限が前の商品は仕入れない)の運用で、日付逆転による流通廃棄を削減できる
- 保管・運搬・販売期限チェックの能率向上、管理コスト削減
一方、製造側のデメリットとして、「日」の切り捨てにより、表示上の賞味期間が最大1か月短くなる点が挙げられます。小売からは「納品期限見直しのメリットが見えにくい」、製造からは「納品期限が厳しいままでは年月表示だけでは限界」という意見が資料に整理されています。
したがって、メーカーにおける賞味期限の延長と年月表示化と、卸・小売における納品期限の見直しは、セットで設計する必要があります。
賞味期限の延長
製造・包装・品質保持技術の進歩により、科学的根拠に基づき賞味期限を見直す取組が進んでいます。商慣習検討ワーキングチームは、再検証と消費者理解の醸成を前提に、延長を推奨しています。
事例:日本即席食品工業会
平成25年6月、「即席めんの期限表示設定のためのガイドライン」を改訂。平成26年春から、賞味期限を1~2か月延長した製品を上市しています。
| 製品 | 従来 | 延長後(例) |
|---|---|---|
| 袋麺 | 6か月 | 8か月 |
| カップ麺 | 5か月 | 6か月 |
延長の進捗(令和6年10月末・流通経済研究所)
22,658商品のうち、896商品で延長を実施、今後延長予定337商品です。菓子537・調味料180・清涼飲料145など、カテゴリーごとに進捗に差があります。
三位一体の取組(緩和・年月表示・延長)
常温流通の加工食品について、国は次の三つを同時に進める方針です。
- 納品期限の緩和:1/3ルールから1/2ルールへ。小売の販売期間短縮懸念とセットで設計。
- 賞味期限の年月表示化:日付逆転防止・店頭管理の省力化。製造側の「日切り捨て」懸念とセットで設計。
- 賞味期限の延長:品質科学に基づく再設定。消費者への説明と併せて実施。
資料の模式図では、賞味期限を延長したうえで年月表示にし、納品期限・販売期限をそれぞれ2か月ずつ確保する例(製造日から賞味期限まで4か月の商品など)が示されています。いずれか一つだけでは、相手方のメリットが見えず、ロス削減効果も限定的になります。
事業者が取り組む際の実務的な順序としては、①自社・取引先のロス発生箇所の把握、②製造側の表示・期限設計の見直し、③契約上の納品・販売期限の再交渉、④物流拠点ルールの整合、⑤消費者向け説明、という流れが想定されます。毎年10月30日の全国一斉商慣習見直しの日には、取組事業者の公表も行われ、他社事例の参照が可能です。
キーワード解説
3分の1ルール
製造日から賞味期限までの期間を3等分し、1/3までに納品・2/3までに販売する商慣習。見直しでは1/2ルール(1/2までに納品)への緩和が推進されています。
商慣習検討ワーキングチーム
食品ロス削減のため、製造・卸・小売が参画する業界の話し合いの場。平成24年度から設置され、表示・期限・物流の推奨をとりまとめています。