肥料・農薬・配合飼料・農業機械といった農業資材の費用は、経営を圧迫する重い負担です。この高い資材費を下げるための国の仕組みが、農業競争力強化支援法に基づく資材分野の事業再編支援です。資材を作る・売る会社の合併や事業統合を後押しし、良質で安い資材が農家に届く体制づくりを進めます。この記事では、価格引き下げの狙い、誰が対象か、どんな支援が使えるか、農家にどう関係するかを、読者目線で整理します。
農業資材の価格引き下げ・事業再編支援の全体像
制度の登場人物と中身を、まず表で押さえます。資材を扱う事業者が動き、その効果を農家が受け取る、という関係です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が動くか | 農業資材事業者(肥料・農薬・配合飼料の製造・卸売・小売、農業機械の卸売・小売など)が再編の主体です。資材費に悩む農家は、コスト低減・所得向上という効果を受け取る側として制度に位置づけられます。 |
| 何をするか | 合併・分割・事業譲渡・株式交換・設備導入などの事業再編を、5年以内の事業再編計画にまとめ、国が認定します。認定後は公庫・基盤整備機構などの支援を使い、独占禁止法や雇用への配慮といった要件に沿って進めます。 |
| いつまでに | 計画期間は5年以内です。生産性・供給・財務の各目標は、原則として計画終了年度に達成状況を確かめます。相談は計画を作る前から、農林水産省・支援機関・公正取引委員会へ進められます。 |
| 支援の中身 | 一律の補助金額ではなく、債務保証・融資・信用状・手続き簡素化などです。基盤整備機構の保証は借入の50%(上限25億円)、保証期間5年または10年、公庫のスタンドバイ・クレジットは法人あたり4億5千万円まで、飼料製造向けの長期低利融資は負担額の8割・償還10〜20年など、措置ごとに条件が異なります。 |
農業資材の事業再編支援とは
農業の持続的な発展には、農家が生産コストと流通コストを下げ、農業所得を高めていくことが欠かせません。その柱の一つが、国による農業資材事業の再編支援です。
農業競争力強化支援法は、平成29年5月に成立した法律です。農家の努力だけでは難しい良質かつ低廉な農業資材の供給と農産物流通・加工の合理化を、事業者の再編などで前へ進め、農業の競争力を強化します。この法律のうち資材分野が、肥料・農薬・配合飼料・農業機械を扱う事業者の再編を後押しし、安い資材が農家に届く供給体制を整えます。農産物の流通・加工分野も同じ法律でまとめて支援しており、流通・加工側の取組は食品流通・加工の合理化支援の解説で整理しています。法律全体の枠組みは農業競争力強化支援法の解説をご覧ください。
資材価格の引き下げを目指す狙い
この支援が見据えるゴールは、農家に届く農業資材の価格を下げ、経営の負担を軽くすることです。肥料・農薬・配合飼料・農業機械は農業経営の大きなコスト要因であり、ここが下がれば農業所得は上向きます。
そのために支援が動かすのは、資材を供給する事業者の側です。事業者が合併や事業統合で生産・流通のコストを減らせば、その分を価格の引き下げや、機能性・利便性を高めた新商品の開発に回せます。実際、認定計画には「良質かつ低廉な農業資材の供給に関する目標」を定める決まりがあり、既存商品の価格引下げや、農家の経営安定につながる取組を、生産者へ及ぼす効果として定量的な目標に落とし込みます。資材費の負担軽減が、制度の出発点であり到達点です。
事業再編・参入を後押しする支援内容
支援の対象は、おおむね次の農業資材関連事業です。これらの事業者が再編や新たな供給体制づくりに乗り出すとき、計画の認定を受けて支援を使えます。
- 肥料・農薬・配合飼料の製造事業
- 肥料・農薬・配合飼料・農業機械の卸売事業
- 肥料・農薬・配合飼料・農業機械の小売事業(2020年4月以降に対象へ追加)
外国法人を含む会社や、有限責任事業組合契約に基づく組合も、条文上の対象に含まれます。人口減少・高齢化や事業承継を背景に、再編は供給体制を維持・強化する有効な選択肢です。
再編に該当する行為
計画に盛り込める事業再編には、次のような行為があります。
- 合併、会社分割、農業資材の生産または販売事業の譲渡・譲受け
- 株式の交換・移転、資産の譲渡・譲受け、出資の受入れ
- 他社の株式または持分の取得・譲渡(関係事業者となる・ならない場合に限る)
- 会社の設立または清算、有限責任事業組合への出資
- 保有施設の相当程度の撤去、設備の相当程度の廃棄
- 農業資材に係る新たな生産・販売方式の導入、設備等の利用による生産または販売の効率化
計画の認定までの流れ
支援を受けるには、おおむね次の3段階を踏みます。
- 相談:計画を作る前から、農林水産省の総合窓口・品目別窓口、支援機関(中小企業基盤整備機構、日本政策金融公庫)、公正取引委員会などへ事前に相談できます。
- 事業再編計画の作成:再編の内容と、後述する3系統の目標を計画に盛り込みます。計画期間は5年以内、必要資金と調達方法の記載、技術・資金面の実施可能性、雇用の安定、独占禁止法への配慮などが必要です。
- 申請〜認定:支援機関の審査などを経て、国が認定します。認定された計画のうち、申請書本文の一部はホームページで公表されます(企業秘密に当たる部分は除けます)。
計画に定める3つの目標
認定計画には、次の3系統の目標を定量的に定めます。価格引き下げや経営強化を「やります」で終わらせず、数値で約束させる仕組みです。
1. 生産性の向上に関する目標。計画終了年度に、開始直前の事業年度の値を上回ることが必要な指標は、次のいずれかです(減価償却費・研究開発費を控除する前の営業利益で算定する営業利益率を含みます)。
- 営業利益額を総資産額で除した値
- 有形固定資産回転率
- 施設または設備の稼働率
- 従業員1人あたり付加価値額
- 上記に相当するその他の指標
2. 良質かつ低廉な農業資材の供給に関する目標。既存商品の価格引下げや、機能性・利便性を高めた新商品の開発・生産・販売などが当たります。農業資材の販売コストの低減や農業経営の安定・発展につながる取組で、生産者へ及ぼす効果について定量的な目標を定めます。
3. 財務内容の健全性の向上に関する目標。終了年度に、原則として次の両方を満たします。
- ① 有利子負債の抑制:有利子負債合計額から(現金預金+信用度の高い有価証券等の評価額+運転資金額)を差し引いた額が、留保利益額+減価償却費+前事業年度からの引当金増減額の10倍以下であること
- ② 経常収支:経常収入額が経常支出額を上回ること
このほか計画全体として、国の実施指針に照らして適切であること、記載した取組が農家のコスト低減や所得向上に効果があると見込まれること、独占禁止法に抵触しないこと、雇用の安定への配慮なども必要です。
認定後に使える支援措置
計画が認定されると、事業者の規模や再編の内容に応じて、次の支援を使えます(○は対象、-は対象外です)。
| 支援措置 | 概要 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|---|
| 独立行政法人中小企業基盤整備機構による債務保証 | 民間金融機関からの借入れに対し保証。保証割合50%(上限25億円)、保証期間5年または10年 | ○ | ○ |
| 日本政策金融公庫による信用状(スタンドバイ・クレジット) | 中小企業者と海外現地法人が共同で海外再編する場合の現地資金調達支援。保証限度額4億5千万円/法人 | ○ | - |
| 日本政策金融公庫による長期・低利融資 | 飼料製造事業の再編計画向け。貸付限度は負担額の8割、償還10〜20年、据置3年以内 | ○ | - |
| 事業譲渡時の債権者催告手続の簡素化 | 認定計画に従う債務移転で、催告通知を一括化可能。1か月以上返答がなければ同意があったものとみなす場合あり | ○ | ○ |
海外での資本提携・現地調達、原料タンクの増設や高機能製造機の取得、民間借入に対する保証など、再編の場面ごとに対応する支援が用意されています。各措置の詳しい条件は、農林水産省サイトの掲載内容が正本です。
農家への影響と活かし方
この制度で申請や計画作成を行うのは資材事業者であり、農家が直接手続きをする制度ではありません。それでも、資材費に悩む農家にとって関わりは大きいといえます。
第一に、再編が進めば肥料・農薬・配合飼料・農業機械の価格引き下げや新商品の供給につながり、資材費の負担軽減という形で経営に効いてきます。第二に、取引先の資材メーカーや販売店が再編・事業承継を検討しているなら、この支援を使うことで供給が安定し、地域の資材調達網が維持されます。日頃つきあいのある資材店や農協の購買担当に、この制度の活用余地を投げかけてみる価値があります。
農家自身が今できることは、自分の経営でどの資材費が重いかを把握し、価格や品質の動きに目を配ることです。資材メーカー・流通の側にいる方は、再編による効率化が制度の支援対象になる点を押さえ、計画作成の前段階から相談を始めるのが近道です。
よくある質問
農業資材の事業再編支援とは何ですか
農業競争力強化支援法に基づき、肥料・農薬・配合飼料・農業機械を扱う事業者の合併や事業統合を後押しする仕組みです。事業者が生産・流通のコストを下げ、良質で安い資材を農家に供給できる体制づくりを国が支援します。
資材価格は下がるのですか
価格の引き下げは制度の中心的な狙いです。認定計画には「良質かつ低廉な農業資材の供給に関する目標」を定める決まりがあり、既存商品の価格引下げや経営安定につながる取組を定量的な目標にします。ただし下げ幅は計画ごとに異なり、すべての資材が一律に下がるわけではありません。
どんな支援がありますか
一律の補助金ではなく、中小企業基盤整備機構の債務保証(借入の50%、上限25億円)、日本政策金融公庫のスタンドバイ・クレジット(法人あたり4億5千万円まで)や飼料製造向けの長期低利融資、事業譲渡時の債権者催告手続の簡素化などです。事業者の規模や再編の中身で使える措置が変わります。
農家にどう関係しますか
申請するのは資材事業者ですが、再編で資材の価格引き下げや新商品供給が進めば、農家の資材費負担が軽くなります。取引先の資材メーカーや販売店が再編・事業承継を考えているときは、この支援の活用を相談してみると、地域の資材調達網の維持につながります。
次の一歩
資材費に悩む農家は、まず自分の経営でどの資材費が重いかを整理し、価格や品質の動きを取引先と話し合いましょう。資材メーカー・流通の側で再編を検討しているなら、計画を作る前から、農林水産省の総合窓口・品目別窓口や、中小企業基盤整備機構・日本政策金融公庫、公正取引委員会へ相談しましょう。これまでの認定事例・関係法令・申請様式・Q&Aは農林水産省の専用サイトに載っており、「農業競争力強化支援法」で関連ページをたどれます。
キーワード解説
農業競争力強化支援法
平成29年5月に成立した法律です。農業資材・農産物流通等の事業者による事業再編等を促進し、良質かつ低廉な農業資材の供給や流通・加工の合理化を通じて農業の競争力を強化します。
農業資材事業者
肥料・農薬・配合飼料・農業機械などの製造・卸売・小売を行う事業者です。この支援制度では、これらの事業者が再編計画の主体になります。
事業再編
合併、分割、事業譲渡、株式交換・移転、設備導入・廃棄など、事業構造や資本関係を変える一連の行為です。支援法では、計画に沿った再編に金融・手続き上の支援を用意しています。
事業再編計画
再編の内容、必要資金、5年以内の実施期間、生産性・供給・財務の目標などを記載し、国が認定する計画です。認定を受けた計画に基づき、公庫・基盤整備機構などの支援措置を使えます。
良質かつ低廉な農業資材の供給
支援法の目的の柱の一つです。価格引下げや高機能な新商品の供給など、農家のコスト低減・経営安定に効く取組を、計画上の定量的目標として定めます。