農業競争力強化支援法とは、農業者の生産コストや流通コストを下げて所得の向上につなげるため、農業資材の価格引き下げや農産物の流通・加工の構造改革、関連する事業者の事業再編・参入を後押しする法律です。平成29年(2017年)5月に成立しました。農家にとっては、肥料や農業機械などの資材費の負担軽減や、農産物を売る流通の効率化につながる仕組みです。農業資材や流通の事業者にとっては、事業の再編・新規参入を計画認定と金融支援で支える枠組みになります。この記事では、法律の目的、農家・事業者への影響、計画認定や債務保証の仕組みまでを整理します。

農業競争力強化支援法の概要

項目 内容
どんな法律か 農業者の生産コスト・流通コストを下げ、所得を上げるため、農業資材の価格引き下げ、農産物の流通・加工の構造改革、事業者の事業再編・参入を後押しする法律です。平成29年(2017年)5月に成立しました。
農家への関係 肥料・農薬・農業機械などの資材費の負担軽減や、農産物を売る流通の効率化につながります。低価格な直進・自動操舵装置や農業機械のシェアリングなど、コストを下げる供給側の動きが広がる土台になります。
事業者への関係 農業用機械・種苗・農業用ソフトウェアなどを手がける農業生産関連事業への新規参入や、流通・加工分野の事業再編を支援します。計画認定を受けると、債務保証やスタンドバイ・クレジットなどの金融支援を利用できます。
価格・費用 計画認定を受けた事業者は、借入れの50%(上限25億円)を保証する債務保証などを利用できます。金利・手数料の細目は支援機関・借入先の条件に従います。農家への直接の費用負担を求める制度ではありません。

農業競争力強化支援法とは

農業の持続的な発展には、農業者が生産コストと流通コストを下げ、所得を上げる取組が欠かせません。ところが、肥料・農薬・農業機械といった農業資材の価格や、農産物の流通・加工にかかるコストは、農業者個人の努力だけでは下げにくいのが実情です。そこで農業競争力強化支援法は、農業者の努力では届きにくい良質かつ低廉な農業資材の供給と、農産物の流通・加工の合理化を実現するため、供給側・流通側の事業者を動かす措置を定めました。

平成29年(2017年)5月に成立した本法律は、大きく3つの柱で農業者を支えます。第一に農業資材の価格引き下げ、第二に農産物の流通・加工の構造改革、第三にこれらを担う事業者の事業再編・参入の支援です。農家にとっては自分の経営コストに関わる法律であり、農業資材や流通の事業者にとっては事業の再編・参入を後押しする枠組みになります。

農業競争力強化支援法の目的、支援対象事業、直進・自動操舵装置や農機シェアリングの参入事例、債務保証の活用例。
農林水産省「農業競争力強化支援法」関連資料(PDF):法律の目的・対象事業・参入事例

農業資材価格の引き下げ

肥料・農薬・農業機械などの資材費は、農業経営の大きな割合を占めます。本法律は、農業者が良質かつ低廉な農業資材を選べるようにするため、資材を供給する事業者の参入や事業再編を促し、価格・機能・利便性での競争を後押しします。具体的には、農業生産関連事業として次のような分野が支援の対象です。

  • 農業用機械製造事業(部品製造を含む)
  • 種苗の生産卸売事業
  • 農業用ソフトウェア作成事業
  • 農業用機械の利用促進に資する事業(賃貸、農業用機械を用いた農作業請負など)

認定された事例としては、トラクター向けの低価格な直進・自動操舵装置(GNSS・自動操舵機器)を製造・販売し、作業負担と資材コストを下げる取組があります。また、建設機械レンタル事業者が最新モデルの農業機械シェアリングに参入し、複数地域で利用時期をずらして機械を共同利用する取組も生まれています。後者では、立ち上げ資金・運転資金を民間金融機関から借り入れる際に、債務保証が適用される例があります。農家から見れば、こうした動きは資材の購入価格やリース・導入コストを抑える選択肢が増えることを意味します。なお、農業資材分野の事業再編を支える仕組みは農業資材事業再編支援でも整理しています。

農産物の流通・加工の構造改革

農業者の所得は、つくる段階だけでなく、農産物を売る段階の流通・加工コストにも左右されます。本法律は、流通・加工の事業者が再編・合理化を進めて、農産物がより効率的に消費者へ届く構造をつくることをめざします。中間マージンや物流の重複を減らし、農業者の手取りを高めることがねらいです。農家にとっては、出荷先や販路の選択肢が広がり、流通の効率化を通じて手取りの改善につながる方向の取組です。流通・加工分野での再編支援の具体的な仕組みは、流通・加工分野の再編支援でくわしく整理しています。

事業者の事業再編・参入の支援

資材価格の引き下げと流通・加工の構造改革を実現するには、それを担う事業者の動きが欠かせません。本法律は、農業生産関連事業への新規参入や、農業資材・流通分野での事業再編を、計画認定と金融支援で後押しします。計画が認定されると、次の支援メニューを利用できます。条件の細目は農林水産省の専用サイトに掲載されています。

支援機関・制度 内容 中小企業 大企業
独立行政法人中小企業基盤整備機構
債務保証
民間金融機関からの借入れに対し債務保証。保証割合50%25億円まで)、保証期間5年または10年
株式会社日本政策金融公庫
スタンドバイ・クレジット
中小企業者とその海外現地法人事業が海外で事業再編または事業参入を共同実施する場合、海外金融機関向けに公庫が信用状を発行(債務保証)。保証限度額4億5千万円/法人事業者

債務保証は、信用保証協会の保証が受けにくい場合の借入れニーズに応えるものです。中小企業は債務保証とスタンドバイ・クレジットの両方が対象で、大企業は債務保証のみが対象です(スタンドバイ・クレジットは中小企業者に限ります)。スタンドバイ・クレジットは、海外現地法人事業との共同で海外資金を調達するケース向けのため、国内の農機参入だけを想定する場合は主に債務保証が中心になります。

事業参入・参入計画と認定要件

事業参入とは、良質かつ低廉な農業資材の供給に資することを目的に、上記の農業生産関連事業を新たに行うことを指します。支援を受けるには、次の両方を記載した参入計画が必要です。

  • ①参入内容 … どの事業分野に、どのような形で参入するか
  • ②目標設定 … 農業資材の販売コスト低減や農業所得向上に効果があると見込まれる定量的な数値目標(新商品の売上高など)

目標の例には、価格・機能・利便性で一般的な商品より優れた商品の開発・生産・販売や、他事業者が扱っていない新商品の開発・生産・販売などがあります。認定要件としては、国の実施指針に照らして適切であること、計画の取組がコスト低減・所得向上に効果がある見込みがあること、技術的・資金的に実施可能であること(必要資金・調達方法の記載を含む)、同一分野の他事業者の活動を不当に阻害しないことなどが求められます。認定された計画は、申請書本文の一部がホームページで公表されます。企業秘密に当たる部分は公表資料から除くことができます。

計画認定・支援までの流れ

おおむね次の3ステップで進めます。支援機関(中小企業基盤整備機構・公庫など)への事前相談は、Step2・Step3と並行し、2〜3か月程度が目安です。

  1. Step1 相談 … 農林水産省農産局技術普及課生産資材対策室が総合窓口です。参入内容の整理から支援措置の説明まで幅広く相談できます。
  2. Step2 事業参入計画の作成 … ①参入内容と②目標の両方を記載します。
  3. Step3 申請〜認定 … 支援機関の審査などを経て、原則1か月程度で認定が進みます。その後、計画に沿って事業参入を実施します。

参入計画の計画期間は5年以内です。事業開始予定の2か月前までに相談することが求められます。認定前に既に農業生産関連事業へ参入済みの場合、支援措置は受けられない点に注意が必要です。金融支援を見込む場合は、認定前に事業を始めてしまわないよう、スケジュールを逆算します。

計画認定から支援までの3ステップ、認定要件、債務保証とスタンドバイ・クレジットの比較表、農林水産省サイト案内。
農林水産省「農業競争力強化支援法」関連資料(PDF):認定の流れ・支援措置・申請の留意点

生産者への影響と活かし方

本法律は事業者向けの支援が中心ですが、そのねらいは農業者の経営コストを下げ、所得を上げることにあります。農家から見たときの影響と活かし方を整理します。

  • 資材費の負担軽減 … 低価格な自動操舵装置や農業機械のシェアリングなど、資材コストを下げる選択肢が増えます。新しい資材・サービスが出てきたときは、価格・機能・導入コストを比べて選びます。
  • 流通・販路の効率化 … 流通・加工の合理化が進むと、出荷先や販路の選択肢が広がり、手取りの改善につながる可能性があります。
  • 機械のシェア・受託の活用 … 機械を自分で買わずに借りる、作業を受託してもらうといったサービスを使えば、設備投資を抑えながら規模拡大に取り組めます。

農業資材や流通の事業者として参入・再編を検討する場合は、本法律の計画認定と金融支援が直接の支えになります。関連する制度として、食料システム全体を対象とする食料システム法もあわせて確認すると、流通・加工の構造改革の方向性がつかみやすくなります。認定事例・法令・申請様式・Q&Aは、農林水産省の農業競争力強化支援法ポータルにまとまっています。

よくある質問

農業競争力強化支援法とは何ですか

平成29年(2017年)5月に成立した法律で、農業者の生産コスト・流通コストを下げて所得の向上につなげることをめざします。農業資材の価格引き下げ、農産物の流通・加工の構造改革、これらを担う事業者の事業再編・参入の支援を柱としています。

何のための法律ですか

農業者個人の努力だけでは下げにくい農業資材の価格や、農産物の流通・加工のコストを引き下げるための法律です。良質かつ低廉な農業資材の供給と、農産物の流通・加工の合理化を実現し、農業の競争力を高めることを目的としています。

農家に何が関係しますか

肥料・農薬・農業機械などの資材費の負担軽減や、農産物を売る流通の効率化に関わります。低価格な自動操舵装置や農業機械のシェアリングなど、コストを下げる供給側の動きが広がる土台になり、農家は資材や販路の選択肢が増えます。

どんな支援がありますか

農業生産関連事業に参入する事業者などが、計画認定を受けると金融支援を利用できます。具体的には、中小企業基盤整備機構による債務保証(借入れの50%、上限25億円、保証期間5年または10年)や、日本政策金融公庫によるスタンドバイ・クレジット(保証限度額4億5千万円/法人事業者)です。

誰が支援の対象ですか

農業用機械の製造、種苗の生産卸売、農業用ソフトウェアの作成、機械の賃貸・作業請負などの農業生産関連事業を新たに行う事業者です。中小企業は債務保証とスタンドバイ・クレジットの両方が対象で、大企業は債務保証のみが対象です。

次の一歩

農業競争力強化支援法は、農業資材の価格引き下げ、農産物の流通・加工の構造改革、事業者の事業再編・参入支援を通じて、農業者の生産コスト・流通コストを下げることをめざす法律です。農家にとっては資材費の負担軽減や販路の効率化につながり、農業資材や流通の事業者にとっては事業再編・新規参入を計画認定と金融支援で支える枠組みになります。

農業資材や流通の事業者として参入・再編を検討する場合は、まず農林水産省農産局技術普及課生産資材対策室の総合窓口に相談します。参入計画は5年以内の期間で、必要資金と調達方法まで書く必要があり、金融支援を見込むなら認定前に事業を始めない点に注意します。農家としては、新しく出てくる資材・機械サービスの価格・機能・導入コストを比べて、自分の経営コストを下げる選択肢として活かします。

キーワード解説

農業競争力強化支援法

平成29年5月成立の法律で、農業の競争力強化のため、農業資材の価格引き下げ、農産物の流通・加工の構造改革、事業者の事業再編・参入の促進を通じて、良質かつ低廉な農業資材の供給などをめざす枠組みを定めています。

農業生産関連事業

農業用機械の製造、種苗の生産卸売、農業用ソフトウェア作成、機械の賃貸・作業請負など、本法律の支援対象となる事業分野の総称です。

事業参入

良質かつ低廉な農業資材の供給に資する目的で、農業生産関連事業を新たに行うことです。認定前の参入済みは支援対象外です。

参入計画

参入内容(①)と数値目標(②)を記載した計画書です。国の実施指針に沿って認定を受け、支援措置の前提となります。

債務保証

中小企業基盤整備機構が、民間金融機関からの借入れについて一定割合・上限・期間で保証する制度です。本法律の認定計画に基づく借入れが対象となります。