平地に比べて条件の不利な中山間地域では、傾斜や狭い区画で生産コストがかさみ、高齢化・耕作放棄・鳥獣害といった課題も重なります。それでも国は、中山間地域を食料供給と国土・環境を支える基盤と位置づけ、条件不利を補う支援をいくつも用意しています。柱になるのは、生産条件の不利を直接補う中山間地域等直接支払制度です。この記事では、中山間地域の農家・集落・自治体に向けて、どんな支援が使えるのか、直接支払の対象や集落協定の進め方までをわかりやすく整理します。

中山間地域への支援の全体像

支援は単発の補助金ではなく、生産条件を「支える」、所得で「稼ぐ」、外部人材と「関わる」という3つの方向をセットで組み合わせる考え方です。まず全体像を表で押さえます。

項目 内容
どんな地域が対象か 平地に比べて傾斜地が多く生産条件が不利な中山間地域です。全国の農家数・耕地面積・農業産出額の約4割を占めます。
主な課題 高齢化と担い手不足、傾斜地ゆえの高い生産コスト、耕作放棄地(荒廃農地)の増加、鳥獣害です。
使える支援 生産条件の不利を補う中山間地域等直接支払制度、農地・水路を地域で守る多面的機能支払交付金、農地の基盤整備、農村RMOなどの生活支援です。
進め方 多くの支援は集落での話し合いと集落協定づくりが入口です。市町村・都道府県が相談窓口です。
中山間地域の農家数・耕地面積・産出額約4割、支える・稼ぐ・関わる3柱の施策、令和2年の人口・土地・農家・産出額比較表。
中山間地域への支援の3つの柱と主要指標(出典:農林水産省「令和6年度 食料・農業・農村白書」

中山間地域とは|条件不利地域の実態

中山間地域は、平野の外縁部から山間地にかけて広がる、平地に比べて農業の生産条件が不利な地域です。傾斜がきつく、一枚あたりの区画が狭く、水路や農道も整えにくいため、平地と同じ作物をつくっても労力とコストがかさみます。こうした地域は条件不利地域とも呼ばれ、特定農山村法や山村振興法など複数の法律で振興の対象に位置づけられています。

条件は不利でも、中山間地域が担う役割は大きく、全国の農家数・耕地面積・農業産出額のいずれも約4割を占めます。棚田や谷あいの水田は、食料を生産するだけでなく、雨水を一時的にためて洪水を防ぎ、水源を養い、美しい景観や生物の多様性を守る働きも果たします。こうした働きを多面的機能と呼びます。中山間地域の農業が続くかどうかは、地域に暮らす人だけでなく、下流域や都市に住む人の暮らしにも関わります。

数字で見る中山間地域(令和2年)

人口では全国の約1割にとどまる中山間地域が、土地と生産では大きな割合を占めます。令和2年の主な指標は次のとおりです。

指標 全国(A) 中山間(B) B/A
人口1億2,615万人1,336万人10.6%
総土地面積3,780万ha2,412万ha63.8%
耕地面積437万ha167万ha38.1%
林野面積2,477万ha1,845万ha74.5%
総農家数175万戸78万戸44.7%
販売農家数103万戸44万戸42.6%
農業産出額8兆9,557億円3兆5,856億円40.0%
農業集落数13.8万集落7.5万集落54.1%
第1次産業就業者196万人74万人37.8%

人口1割強の地域が、耕地面積・農家・産出額の約4割を担います。林野面積の74.5%も中山間地域に集中しており、後述する鳥獣害や多面的機能の話につながります。条件が不利でも、ここで農業を続けることが全国の食料供給と国土保全を支えています。

中山間地域が直面する課題

支援を考える前に、中山間地域が抱える課題を整理します。多くの地域で重なって起きており、支援メニューはこれらに対応する形で組まれています。

高齢化と担い手不足

農業者の高齢化と後継者不足は全国共通の課題ですが、中山間地域ではより深刻です。集落の戸数が少ないため、数人の離農でも農地の管理や水路の清掃といった共同作業が立ち行かなくなります。担い手が一人に集中し、その人が高齢になると地域全体の農地が一気に守れなくなる構造です。

耕作放棄地(荒廃農地)の増加

担い手がいなくなった農地は、耕作されないまま荒廃農地になりやすく、いったん荒れると元に戻すには草刈り・抜根・耕起などの手間がかかります。傾斜地で機械が入りにくい区画ほど放棄が進みやすく、放棄地は鳥獣の隠れ場所にもなって被害を広げます。荒廃農地を増やさないこと、そして使える農地に戻すことが、中山間地域の支援の大きな目的です。

鳥獣害

中山間地域は林野が大きな割合を占め、田畑が森林と接しています。イノシシやシカ、サルによる農作物被害は収穫を直接減らすだけでなく、被害が続くと営農意欲そのものを下げ、耕作放棄をさらに進める悪循環を招きます。侵入防止柵の設置や捕獲、緩衝帯の整備など、地域ぐるみの鳥獣害対策が欠かせません。

中山間地域で使える支援

ここからは、中山間地域で実際に使える主な支援を紹介します。生産条件を「支える」、所得で「稼ぐ」、外部人材と「関わる」の順に見ていきます。

中山間地域等直接支払制度

中山間地域の支援の柱が中山間地域等直接支払制度です。傾斜などの条件で平地より生産コストがかさむ農地に対し、その不利を補うための交付金を直接支払います。受け取るには、集落などで集落協定を結び、5年以上にわたって農業生産活動と農地・水路の管理を続けることが条件です。交付金は個人の収入になるだけでなく、農道や水路の補修、共同で使う機械の購入、鳥獣害対策など、地域で決めた使い道に充てられます。傾斜の度合いや農地の種類で交付単価が変わるため、自分の農地が対象になるか、単価がどれくらいかは市町村の窓口でご確認ください。制度の仕組みと、あわせて使われることの多い多面的機能支払については、中山間地域等直接支払・多面的機能支払の詳しい解説もご覧ください。

多面的機能支払交付金

多面的機能支払交付金は、農地や農業用水路、農道といった地域資源を、農業者だけでなく地域住民も加わって共同で守る活動を支援する制度です。草刈りや水路の泥上げ、農道の補修といった日常の保全活動から、水路や農道を長く使うための補修・更新までが対象です。中山間地域等直接支払とあわせて活用している集落も多く、二つの制度をどう組み合わせるかは地域の実情で決められます。

農地の基盤整備

狭く分散した区画や傾斜地は、そのままでは大型機械やスマート農業を使いにくいため、区画の拡大や水路・農道の整備といった基盤整備で営農しやすくします。中山間地域では、農地バンク(農地中間管理機構)を活用して、農家の費用負担なしで基盤整備を進められる仕組みもあります。荒れてしまった農地を使える状態に戻す取組については、遊休農地の解消対策と農地バンクの条件の解説で詳しく整理しています。

農村RMOなどの生活支援

中山間地域では、農業の継続と暮らしの維持は切り離せません。そこで、農地の保全と買い物・見守りといった生活支援を一体で担う農村RMO(農村型地域運営組織)づくりが後押しされています。集落単位では人手が足りなくなった作業を、複数の集落が連携して担う体制を整えることで、農地と暮らしの両方を支えます。地域づくりの土台になる仕組みは、農村振興プラットフォームの解説もあわせてご覧ください。

稼ぐ・関わる

条件不利を補うだけでなく、所得を伸ばし、外部の人材を呼び込む取組も支援の対象です。「稼ぐ」では、地域の特性を活かした高収益作物や有機農業・複合経営、農地・水利・販売施設の総合整備、スマート農業技術の導入、地域資源を活かしたブランド化・商品開発などが進められています。「関わる」では、棚田や農業遺産への地域住民・企業の参加、滞在型市民農園や体験農園の整備などで、移住・関係人口の入口を広げます。

集落での取り組み方|集落協定の進め方

中山間地域の支援の多くは、個人ではなく集落での話し合いが出発点になります。とくに中山間地域等直接支払では、集落協定を結ぶことが交付の前提です。進め方の目安は次のとおりです。

  1. 集落で話し合い、高齢化・耕作放棄・鳥獣害のうち何が最優先の課題かを共有します。
  2. 対象になりそうな農地と参加者を確かめ、5年間続けられる体制かを見極めます。
  3. 交付金の使い道(農道・水路の補修、共同機械、鳥獣害対策など)を地域で決めます。
  4. 市町村に相談し、集落協定を作成して制度の申請に進みます。

話し合いの段階から市町村の担当部署に相談すると、自分たちの集落で使える制度の組み合わせや、協定づくりの進め方を具体的に教えてもらえます。一つの集落で人手が足りないときは、近隣の集落と連携して広域で協定を結ぶ方法もあります。

よくある質問

中山間地域とは何ですか

平野の外縁部から山間地にかけて広がる、平地に比べて農業の生産条件が不利な地域です。傾斜地が多く区画が狭いため生産コストがかさみます。条件不利地域とも呼ばれ、全国の農家数・耕地面積・農業産出額の約4割を占めます。

中山間地域ではどんな支援がありますか

生産条件の不利を補う中山間地域等直接支払制度を柱に、農地・水路を地域で守る多面的機能支払交付金、農地の基盤整備、農村RMOなどの生活支援があります。さらに高収益作物やスマート農業など所得を伸ばす取組、関係人口を広げる取組も対象です。

中山間地域等直接支払の対象は誰ですか

傾斜などの条件で生産が不利な農地で農業を続ける農業者や集落が対象です。集落協定を結び、5年以上にわたって農業生産活動と農地・水路の管理を続けることが条件になります。傾斜の度合いや農地の種類で交付単価が変わるため、対象かどうかは市町村の窓口でご確認ください。

集落協定とは何ですか

中山間地域等直接支払を受けるために、集落などで結ぶ取り決めです。対象農地の管理方法、参加者の役割、交付金の使い道などを地域で定め、5年以上にわたって農業生産活動を続けることを約束します。協定づくりは市町村に相談しながら進めます。

支援はどこに相談すればよいですか

農地のある市町村の農政担当部署が最初の相談窓口です。制度の組み合わせや申請の進め方は市町村や都道府県が案内します。集落での話し合いの段階から相談すると、自分たちの地域に合った支援を選びやすくなります。

次の一歩

中山間地域で使える支援は、自分の農地や集落の状況によって選ぶ制度が変わります。まずは農地のある市町村の農政担当部署に相談し、中山間地域等直接支払の対象になるか、集落協定をどう進めるかを確かめましょう。あわせて多面的機能支払や基盤整備、生活支援のどれを組み合わせられるかを聞いておくと、地域での話し合いを具体的に進められます。傾斜地や鳥獣害など個別の事情がある場合も、都道府県の窓口で使える制度を整理してもらえます。

キーワード解説

中山間地域

平野の外縁部から山間地にかけて広がる、平地に比べて農業生産条件が不利な地域です。条件不利地域とも呼ばれ、食料供給と多面的機能の両面で重要な役割を担います。

中山間地域等直接支払制度

傾斜などで生産コストがかさむ農地に対し、その不利を補う交付金を直接支払う制度です。集落協定を結び、5年以上にわたって農業生産活動を続けることが条件になります。

多面的機能支払交付金

農地・農業用水路・農道といった地域資源を、農業者と地域住民が共同で守る活動を支援する交付金です。草刈りや水路の補修などの保全活動が対象になります。

集落協定

中山間地域等直接支払を受けるために集落などで結ぶ取り決めです。対象農地の管理方法、参加者の役割、交付金の使い道を地域で定めます。

農村RMO(農村型地域運営組織)

農地の保全と、買い物・見守りといった生活支援を一体で担う組織です。集落単位では支えきれなくなった農地と暮らしを、地域ぐるみで守る体制づくりを進めます。