概要

中山間の傾斜農地を耕す農家や集落協定の代表者、それを支えるJAや市町村の担当者にとって、農地を守りながら受け取れる交付金が日本型直接支払です。柱は2つあります。条件が不利な農地そのものを支える中山間地域等直接支払と、農地・水路・農道などを地域ぐるみで守る共同活動を支える多面的機能支払交付金です。「うちの農地は対象か」「10aあたりいくら受け取れるか」「何年続ける約束か」「何をすればよいか」を判断できるよう、対象・単価・年数・手続きを整理します。最新の要件や地域ごとの取扱いは、市町村と農林水産省の一次情報をご覧ください。

項目内容
想定読者 中山間の傾斜農地を耕す農家・集落営農・農業法人、集落協定の代表者の方です。JAの営農指導員や市町村の農政・農村振興担当にも役立ちます。
2つの制度 中山間地域等直接支払(条件不利の補正)と多面的機能支払交付金(共同活動の支援)です。いずれも農村振興局が所管します。
中山間
いくら
田の急傾斜で10aあたり21,000円、緩傾斜で8,000円です(畑・草地は別単価)。基礎単価は8割、体制整備で10割になります。
多面的機能
いくら
都府県の田で農地維持3,000円、共同活動2,400円、施設の長寿命化4,400円です(10aあたり、3つ合算で最大9,200円)。
約束する年数 どちらもおおむね5年間の活動継続が前提です。中山間は集落協定、多面的機能は事業計画(原則5年)で結びます。
相談先 交付を受ける実務は市町村、制度の問い合わせは地方農政局です。申請の提出期限は例年6月末です。

日本型直接支払とは──2つの交付金の全体像

日本型直接支払は、農業が持つ多面的な機能(洪水や土砂崩れを防ぐ、美しい風景や生き物のすみかを守るなど)を支えるため、国と地方自治体が農業者・地域に交付金を出す仕組みです。「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律」(多面的機能発揮促進法)に基づく安定的な措置として、いずれも農林水産省 農村振興局が所管します。

柱になるのが、この記事で扱う2つの交付金です。中山間地域等直接支払は、傾斜があるなど条件が不利な農地そのものに着目し、平地との生産条件の差を補います。多面的機能支払交付金は、農地・水路・農道などを地域ぐるみで守る共同活動に着目し、担い手に集中しがちな維持管理を地域で支えます。着目点が違うため、同じ地域で両方に取り組むこともできます(使い分けは後半で整理します)。なお、化学肥料・化学合成農薬を減らす取組を支える環境保全型農業直接支払交付金も日本型直接支払の一つですが、本記事では中山間と多面的機能の2つを掘り下げます。

【制度1】中山間地域等直接支払──誰が・どの農地が対象か

中山間地域等直接支払制度の対象地域(特定農山村法・山村振興法・過疎法・棚田地域振興法等の指定地域)と、急傾斜・緩傾斜・小区画など対象となる農用地の基準を示した制度概要のページ。
農林水産省「中山間地域等直接支払制度 第6期対策パンフレット」(令和8年4月):対象地域と対象農用地

中山間地域等直接支払は、生産条件が不利な中山間地域等で、集落などを単位に農用地を維持・管理する取決め(協定)を結び、それにしたがって農業生産活動を行う場合に、面積に応じて一定額を交付する仕組みです。対象になるかは「地域」と「農用地」の両方で決まります。

対象地域は、特定農山村法・山村振興法・過疎法・棚田地域振興法などの地域振興立法で指定された地域です(離島振興法・半島振興法など八法のほか、これに準じて都道府県知事が定める地域も含みます)。

対象農用地は、その地域のなかで傾斜などの基準を満たす農地です。代表的なのは急傾斜地(田は1/20以上、畑・草地等は15度以上)と緩傾斜地(田は1/100以上、畑・草地等は8度以上)で、このほか小区画・不整形な田や、高齢化率・耕作放棄率の高い集落の農地も含みます。第6期対策では、交付対象を農振農用地区域内かつ地域計画区域内の農用地に整理しました。自分の農地が当てはまるかは、まず市町村に確認するのが近道です。

取り組む主体は、複数の農業者などが結ぶ集落協定が基本です(認定農業者などが結ぶ個別協定もあります)。いずれも5年間農業生産活動などを続けることが前提になります。

中山間はいくら・どんな約束か──交付単価と集落協定

中山間地域等直接支払の交付単価表。田は急傾斜21,000円・緩傾斜8,000円、畑は急傾斜11,500円・緩傾斜3,500円、草地は急傾斜10,500円・緩傾斜3,000円(10aあたり)。基礎単価は交付単価の8割、体制整備単価は10割という単価の仕組みも示す。
農林水産省「中山間地域等直接支払制度 第6期対策パンフレット」(令和8年4月):交付単価と単価の仕組み

交付単価(10aあたりの上限単価)は地目と傾斜の区分で決まります。代表的な田は次のとおりで、畑・草地・採草放牧地はこれより低い別単価です。

区分(田)10aあたり単価
急傾斜(1/20以上)21,000円
緩傾斜(1/100以上)8,000円
小区画・不整形な田など緩傾斜と同額

畑は急傾斜11,500円・緩傾斜3,500円、草地は急傾斜10,500円・緩傾斜3,000円など、地目と傾斜の区分により異なります。詳しい単価表は第6期対策パンフレットをご覧ください。なお、これらは上限単価で、申請額の全国合計が予算額を上回ると減額されることがあります。

同じ単価でも、活動の中身によって受け取れる割合が変わります。耕作放棄の防止や水路・農道の管理といった基礎的な活動だけなら基礎単価(交付単価の8割)、体制づくりの前向きな活動に取り組むと体制整備単価(10割)です。第6期では、10割単価の要件が「ネットワーク化活動計画の作成」(協定期間中=令和11年度までに完了)に整理されました。受け取った交付金は、参加者の話合いで地域の実情に応じて幅広く使えます。約束した5年間に活動が行われなくなると原則として交付金の返還が必要ですが、病気・高齢・自然災害などやむを得ない事由があるときは免除されます。

第6期のこれから──取り組みやすく見直し、新設の加算を活かす

第6期対策(令和7〜11年度)は、高齢化が進む集落でも続けやすいよう見直されたのが特徴です。これからの5年間で活かせる加算措置として、新たに2つが設けられました。いずれも体制整備単価の集落協定が対象で、交付単価に上乗せされます。

  • ネットワーク化加算:複数の集落協定の連携・統合などを行い、中心的な人材を確保して活動を続ける場合の加算です。協定面積に応じた段階単価で、5haまでの部分は10,000円/10a(上限100万円/年度)。事務の一元化や草刈り・農作業の共同化につながります。
  • スマート農業加算:リモコン式自走草刈機による除草、ドローンによる播種・防除、水管理システムの導入など、省力化に向けた取組への加算です。5,000円/10a(上限200万円/年度)で、急傾斜地での草刈りの負担を軽くする手段として活用できます。

このほか、棚田を支える棚田地域振興活動加算(急傾斜10,000円/10aなど)や超急傾斜農地保全管理加算(6,000円/10a)もあります。いずれも令和11年度が期限のため、5年間の計画として早めに検討しておくとよいでしょう。荒廃した農地を協定に取り込んで復旧する取組も、令和11年度までの復旧を前提に交付対象になります。加算ごとの単価や要件の詳細は第6期対策パンフレットをご覧ください。

【制度2】多面的機能支払交付金──2階建ての仕組みと取り組む組織

多面的機能支払交付金の構成図。農地維持支払交付金(草刈り・泥上げ等の基礎的保全活動)と、資源向上支払交付金(軽微な補修・農村環境保全などの共同活動、および施設の長寿命化のための活動)の2階建て構造を示す。
農林水産省「令和8年度 多面的機能支払交付金のあらまし」(令和8年4月):交付金の構成

もう一つの柱が多面的機能支払交付金です。中山間が「条件不利な農地」に着目するのに対し、こちらは農地・水路・農道などを地域ぐるみで守る「共同活動」に着目します。担い手に集中しがちな維持管理を地域で支え、農地の集積を後押しする狙いがあります。仕組みは大きく2階建てです。

  • 農地維持支払(1階):農地法面の草刈り、水路の泥上げ、農道の路面維持といった基礎的な保全活動を支えます。施設の点検や年度活動計画の策定、将来に向けた保全管理構想の作成なども含みます。
  • 資源向上支払(2階):地域資源の質を高める活動を支えます。さらに2つに分かれ、(1)水路・農道・ため池の軽微な補修や、外来種の駆除・生きもの調査などの共同活動と、(2)未舗装農道の舗装や老朽化した水路の更新など施設の長寿命化のための活動があります。

取り組む主体は活動組織広域活動組織です。農地維持支払は、農業者だけの組織でも、農業者と地域住民・自治会・JA・土地改良区などで構成する組織でも取り組めます。広域活動組織は、旧市区町村単位など広いエリアで複数の集落や関係団体が協定を結ぶ組織で、対象農用地が200ha以上(北海道は3,000ha以上)あることなどが基本です。一方、資源向上支払の共同活動は、農業者だけの組織は対象外で、地域住民など農業者以外も加わる組織が対象になります。

多面的機能はいくら・何年か──交付単価と費用負担

多面的機能支払交付金の交付単価表。都府県の田は農地維持3,000円・資源向上(共同)2,400円・施設の長寿命化4,400円で、3つに取り組むと合算9,200円。畑・草地、北海道の単価も併記(10aあたり)。
農林水産省「令和8年度 多面的機能支払交付金のあらまし」(令和8年4月):対象農用地と交付単価

交付単価は、農地維持・資源向上(共同)・施設の長寿命化のそれぞれで決まり、組み合わせて取り組めます。代表的な都府県の田は次のとおりで、畑・草地、北海道はこれより低い別単価です。

区分(都府県の田)10aあたり単価
農地維持支払3,000円
資源向上支払(共同活動)2,400円
資源向上支払(長寿命化)4,400円
3つすべてに取り組む場合合算で最大9,200円

畑・草地はこれより低い単価で、北海道も別単価です(田の農地維持は2,300円など)。長寿命化は1工事あたり200万円未満が原則で、田んぼダム加算(400円/10a)などの加算もあります。詳しい単価は令和8年度のあらましをご覧ください。

活動期間は原則5年間です。組織を設立し、5年間の事業計画を作って市町村の認定を受け、毎年度活動を実施・報告します。約束した活動ができなくなると交付金の返還が必要ですが、自然災害や農業者の死亡・高齢・病気などやむを得ない理由があるときは免除されます。

費用は国だけでなく地方自治体も負担します。交付金は国から都道府県、都道府県から市町村へと流れ、活動組織には市町村から交付されます。負担割合は国1/2・都道府県1/4・市町村1/4です。中山間地域等直接支払も同じく、国が費用の半分を負担し、残りを都道府県と市町村が分担します。

2つの制度はどう使い分ける・併用できるか

2つの制度は趣旨と対象が異なります。中山間地域等直接支払は、傾斜などで条件が不利な農地そのものを支え、その不利を補正することがねらいです。多面的機能支払交付金は、農地・水路・農道などを地域ぐるみで守る共同活動を支えます。傾斜があるかどうかにかかわらず、農振農用地区域内の農用地などが対象になります。

この2つは、同じ地区で同時に取り組むこともできます。条件不利な傾斜農地で中山間の交付を受けつつ、地域の水路・農道の維持を多面的機能支払で支える、という組み合わせです。ただし対象が重なる活動は、二重に交付を受けるのではなく、活動ごとにどちらの交付金で支えるかを切り分けます。両方を検討する場合は、対象農地の重なりと役割分担を市町村と相談して整理しておくと、申請も運用もスムーズです。

全国の実施状況──多くの集落が活用

2つの制度は全国に広く根づいています。令和6年度の実施状況(令和7年8月公表)では、中山間地域等直接支払約1,000市町村・協定面積66万ha多面的機能支払交付金農地維持支払約1,450市町村・認定農用地233万haに上ります。高齢化や担い手不足のなかで集落の共同活動を続けるための土台として、両制度の役割はこれからも続きます。

申請・手続きの進め方と相談先

どちらの制度も、実務の窓口は市町村です。市町村が協定や事業計画を認定し、交付金を支払います。制度そのものについての問い合わせは、最寄りの地方農政局などが受け付けています。進め方は、おおむね次の流れです。

  • まず市町村に相談する:自分の農地が対象地域・対象農用地に当たるか、どちらの制度(または両方)が使えるかを確認します。地域協議会が窓口になっている場合もあります。
  • 地域・組織で話し合う:中山間は集落で協定の内容(活動、交付金の使い方、役割分担)を、多面的機能は活動組織を設立して事業計画を話し合います。5年間続ける前提なので、誰が担うかの見通しも含めて合意します。
  • 市町村に申請する:協定書や事業計画書を市町村に提出します。提出期限は例年6月末(多面的機能は6月30日が基本)で、市町村により異なる場合があります。
  • 活動・記録・報告:計画にしたがって活動し、作業や金銭の記録を残して年度ごとに報告します。

つまずきやすいのは、5年間の継続という約束です。高齢化や担い手不足で活動が続けられなくなると返還の対象になりますが、中山間ではネットワーク化や役員の継承計画で体制を整える、多面的機能では広域活動組織で事務を共同化するといった備えができます。提出書類への押印は原則省略でき、多面的機能ではオンライン申請も使えます。

いま確認しておきたいこと

2つの制度を経営や地域に活かすうえで、これから確認しておきたいのは次の点です。

  • 対象かどうか:自分の農地が指定地域・対象農用地に当たるか、傾斜区分(田の急傾斜/緩傾斜など)はどれかを市町村に確認します。中山間と多面的機能の両方が使えるかも合わせて聞きます。
  • いくら・どの単価か:中山間は地目と傾斜で単価が決まり、基礎単価(8割)か体制整備単価(10割)かで変わります。多面的機能は農地維持・共同活動・長寿命化のどこまで取り組むかで変わります。自分の農地でいくらになるか試算しておきます。
  • 5年続けられる体制:5年間の活動継続が前提です。中山間のネットワーク化加算スマート農業加算や、多面的機能の広域化は、続けやすい体制づくりの後押しになります。
  • 期限と手続き:申請は例年6月末が目安です。第6期(令和7〜11年度)の加算は令和11年度が期限のため、早めに計画を立てておきます。

キーワード解説

日本型直接支払

多面的機能発揮促進法に基づき、農業の多面的機能の維持・発揮を支えるために国と地方自治体が交付金を出す仕組みの総称です。中山間地域等直接支払、多面的機能支払交付金、環境保全型農業直接支払交付金の3つからなり、いずれも農林水産省 農村振興局が所管します。

中山間地域等直接支払

傾斜などで生産条件が不利な中山間地域等の農用地を対象に、集落協定などを結んで5年間農業生産活動を続ける場合に、面積に応じて交付する制度です。平地との生産条件の差を補い、農業生産活動の継続を支えます。令和7年度から第6期対策(令和7〜11年度)が始まりました。

多面的機能支払交付金

農地・水路・農道などを地域ぐるみで守る共同活動を支える交付金です。農地維持支払と資源向上支払の2階建てで、活動組織・広域活動組織が原則5年間の事業計画にもとづいて取り組みます。担い手に集中しがちな維持管理を地域で支え、農地の集積を後押しします。

農地維持支払

多面的機能支払の1階部分で、農地法面の草刈り、水路の泥上げ、農道の路面維持など、地域資源の基礎的な保全活動を支えます。都府県の田は10aあたり3,000円です。農業者だけの組織でも取り組めます。

資源向上支払

多面的機能支払の2階部分で、地域資源の質を高める活動を支えます。水路・農道の軽微な補修や農村環境の保全などの「共同活動」と、未舗装農道の舗装や老朽化した水路の更新などの「施設の長寿命化」に分かれます。共同活動は農業者以外も加わる組織が対象です。

ネットワーク化加算・ネットワーク化活動計画

中山間地域等直接支払の第6期で、複数の集落協定の連携・統合や、自治会・学校・企業など多様な組織の参画によって共同活動を続ける体制づくりを進める計画がネットワーク化活動計画です。10割単価(体制整備単価)の要件であり、これに基づいて中心的人材の確保などを行う取組には、新設のネットワーク化加算(最大10,000円/10a、上限100万円/年度)が上乗せされます。

スマート農業加算

中山間地域等直接支払の第6期で新設された加算です。リモコン式自走草刈機による除草、ドローンによる播種・防除、水管理システムの導入など、作業の省力化・効率化に向けた取組を支援します。単価は5,000円/10a(地目によらず)、上限は200万円/年度です。

棚田地域振興法・指定棚田地域

荒廃の危機に直面している棚田を支えるための法律で、令和元年8月に施行されました。同法に基づき指定された「指定棚田地域」は、令和7年2月時点で41道府県733地域あります。指定棚田地域内の農用地は中山間地域等直接支払の対象になり、棚田地域振興活動加算も活用できます。

まとめ

中山間の傾斜農地を耕す農家や集落、それを支えるJA・自治体にとって、日本型直接支払の2つの交付金は、農地を守りながら活動を続けるための土台です。条件不利な農地そのものを支える中山間地域等直接支払(田の急傾斜で10aあたり21,000円など)と、共同活動を支える多面的機能支払交付金(都府県の田で3つ合算9,200円まで)は、着目点が違うため同じ地域で組み合わせて使えます。どちらもおおむね5年間の活動継続が前提で、第6期(令和7〜11年度)ではネットワーク化加算スマート農業加算など、高齢化のなかでも続けやすくする後押しが用意されました。自分の農地が対象か、いくらになるか、5年続けられるかを、まず市町村に相談して確かめることが第一歩です。最新の要件や地域ごとの取扱いは、農林水産省の一次情報をご覧ください。