スマ転事業は、産地における品目ごとの技術課題の解決に向けて、スマート農業技術と新たな生産方式の導入を一体的に実施する取組を支援する農林水産省の事業です。要件を満たせば個人経営の農業者でも、農業機械の購入費の2分の1以内・上限2.5億円の補助を受けられます。本記事では、地域型と広域型の違い、補助対象経費と補助率、面積要件、要望調査から申請までの流れを整理します。最新の募集情報や詳細な要件は農林水産省の一次情報をご覧ください。
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が | 農林水産省(農産局技術普及課)が所管します。支援対象は、産地スマート計画に参加して事業を実施する農業者・農業者団体等(地域型)、都道府県域等をまたいで事業を実施する農業者・農業者団体等(広域型)です。個人経営の方も対象になります。 |
| 何を | 品目ごとの技術課題の解決に向け、スマート農業技術と新たな生産方式を一体的に導入する取組が支援されます。農業機械の購入・リース費、研修やデータ利用などの関連経費、栽培体系の転換に必要な経費が補助対象です。事業実施期間は1年以内(産地スマート計画は3年以内)です。 |
| 補助額 | 機械導入費は2分の1以内(さとうきびは10分の6以内)、研修費・データ利用料などのソフト経費は定額です。上限は支援対象者当たり合計2.5億円(定額分は1,500万円)です。 |
| いつまでに | 公募・要望調査を通じて実施され、予算の残額に応じて追加の募集が行われます。直近では令和8年6月16日から追加の公募・要望調査が行われました。地域型の日程は都道府県ごとに異なります。 |
| 詳しくは | 地域型は市区町村の地域農業再生協議会等(市町村・JA等)、広域型は地方農政局等に相談しましょう。制度の正本は農林水産省「スマート技術体系への転換」ページにあります。 |
スマ転事業とは
スマ転事業の正式名称はスマート技術体系への包括的転換加速化総合対策事業です。農業者の高齢化・減少が進む中で、労働生産性の高い農業構造への転換に向けて、スマート農業技術の現場導入と、その効果を高める栽培体系への抜本的な転換を総合的に支援します。中心となるメニューがスマート技術体系転換加速化支援で、農業機械の導入費や関連経費の補助を受けられます。
ポイントは、スマート農業技術の導入だけでは対象にならないことです。新たに導入する農業機械または生産方式のいずれかにスマート農業技術を取り入れ、直播栽培への転換や機械化一貫体系の導入など「新たな生産方式」とセットで取り組む必要があります。逆に、スマート農業技術と一体的に活用するのであれば、自動化機能のない農業機械やアタッチメントも補助対象になり得ます。
対象となる方は
事業は、取組の範囲によって地域型(都道府県域等をまたがない)と広域型(都道府県域等をまたぐ)に分かれます。北海道では総合振興局・振興局の管轄域が「都道府県域等」の単位です。さらに地域型は、スマート農業技術活用促進法に基づく生産方式革新実施計画の認定を受けているか(計画認定者か)どうかで、作成する計画と申請先が変わります。促進法の制度全体はスマート農業技術活用促進法の解説記事で整理しています。
農業者団体には、農業協同組合、農事組合法人、農地所有適格法人、その他農業者が組織する団体が含まれます。市町村や公社、土地改良区なども取組主体になれます。地域型(計画認定者以外)は、農業者が単独で応募する形ではなく、地域協議会等が作成する産地スマート計画に参加する形で事業を活用します。1事業者の計画だけで産地スマート計画を構成する場合でも、計画への位置付けが必要です。
どれだけ補助を受けられるか
補助対象経費は次の3区分です。機械はリース導入も対象で、大型機械や複数台の導入もできます。
| 区分 | 対象経費 | 補助率 |
|---|---|---|
| ① 機械導入 | 農業機械の購入またはリース導入に係る費用 | 2分の1以内(さとうきびは10分の6以内) |
| ② ソフト経費 | ①に係る人材育成に要する研修受講費・免許取得費、ソフトウェア・データ通信・データ利用等に係る契約料、導入機械の保険料など | 定額(上限1,500万円) |
| ③ 栽培体系の転換 | ①で導入した機械の利用効率を高める栽培体系への転換に必要な経費(畔取り、畦の緩傾斜化、改植など) | 2分の1以内 |
補助上限は、支援対象者(取組主体)当たり①〜③の合計で2.5億円(事業費ベースで5億円)です。果樹・茶では改植・新植に係る経費や改植に伴う未収益期間の支援(定額)、園内道の整備費も、野菜では高度環境制御装置の導入費も対象に含まれます。ドローンのオペレーター育成研修や生育予測システムの利用料といったソフト経費まで一体で支援される点が、機械単体の補助と異なるところです。
満たすべき主な要件
主な要件は次の3つです。
- スマート農業技術と新たな生産方式の導入を一体的に行うこと。補助を受ける農業機械は、これらの取組に関連するものに限られます。
- 労働生産性を5%以上向上する目標と、品目ごとに設定された技術課題の成果目標(単収や品質の向上など)の両方の実現を目指すこと。
- 地域型(計画認定者以外)は、地域単位で策定する産地スマート計画に位置付けられていること(計画認定者は不要)。広域型は、複数の都道府県域等にわたる広域スマート計画を策定し、面積要件を満たすことが必要です。
品目ごとの技術課題
支援対象になるのは、品目ごとに定められた技術課題の解決につながる取組です。自分の品目でどの取組が当てはまるかが、計画づくりの出発点になります。
| 品目区分 | 対象品目 | 技術課題 |
|---|---|---|
| 土地利用型作物 | 稲、麦、豆類、種子 | 直播栽培の導入、自動化農機等の導入、土地生産性(収量性)の向上、品質の向上 |
| 畑作物 | ばれいしょ、てん菜、かんしょ、さとうきび | 大規模化に対応した機械化体系の導入、直播栽培等の省力作業体系の導入、機械化一貫体系の導入 |
| 野菜・花き | 野菜、花き | 機械化一貫体系の導入、高温障害対策技術の導入、自動化農機等の導入、高度環境制御装置の導入、機械利用効率を高めるための動線の確保等の栽培体系等の導入 |
| 果樹・茶 | 果樹、茶 | 自動化農機等の導入、機械利用効率を高める省力樹形等の導入 |
取組の例として、水稲では自動操舵システムを活用した直播栽培の導入、畑作物では栽培管理システムのデータ共有・分析と大型ロボットトラクターの組み合わせ、野菜では出荷予測システムのデータに基づく収穫機での一斉収穫、果樹では自動追従運搬車と省力樹形の導入が挙げられています。
成果目標の設定
成果目標は2本立てで設定します。必須が労働生産性の5%以上向上で、労働生産性は「生産量・販売額・栽培面積のいずれか」を労働時間で割って算出します。これに加えて、品目ごとに定められた選択目標(単収の増、生産コストの削減、上位規格品割合の増、契約取引割合の増、輸出向け出荷量の増など)から1つを選びます。目標年度は原則として事業実施年度の翌々年度で、目標年度まで毎年度、実施状況を関係機関に報告します。
面積要件
産地スマート計画・広域スマート計画には、品目ごとに面積要件があります。平地の主な基準は次のとおりです。
| 品目区分 | 品目 | 面積要件(平地) |
|---|---|---|
| 土地利用型作物 | 稲 | 50ヘクタール |
| 麦 | 北海道60ヘクタール、都府県30ヘクタール | |
| 大豆 | 20ヘクタール | |
| 雑豆・落花生 | 北海道25ヘクタール、都府県10ヘクタール | |
| 種子 | 15ヘクタール | |
| 畑作物・地域特産物 | ばれいしょ | 北海道50ヘクタール、都府県25ヘクタール |
| かんしょ | 25ヘクタール | |
| 種苗(ばれいしょ) | 北海道25ヘクタール、都府県10ヘクタール | |
| てん菜 | 50ヘクタール | |
| さとうきび | 10ヘクタール | |
| 茶 | 10ヘクタール | |
| 果樹 | 果樹 | 露地10ヘクタール、施設5ヘクタール、その他3ヘクタール |
| 野菜 | 野菜 | 露地10ヘクタール、施設5ヘクタール |
| 花き | 花き | 露地5ヘクタール、施設3ヘクタール |
中山間地域等では要件が緩和され、5戸以上の農業者が参加するか、取組面積が1ヘクタール以上であれば満たせます。面積要件は産地スマート計画に取り組む「産地」全体で判断されるため、個々の農業者は、要件面積の一部の農地だけで機械導入等を行えます。例えば、地域全体で野菜20ヘクタールを栽培する10名の産地が計画を作成すれば、実際に機械を導入するのが5名でも要件を満たせます。共同出荷やデータ共有などのつながりを持つ農業者の集まりを「産地」として計画を作ることもできます。広域型は複数県の農地を合算した面積で判断されます。
申請の流れ
地域型(計画認定者以外)の場合、読者である農業者・農業法人の動きはおおむね次の流れになります。
- 市区町村の地域農業再生協議会等(市町村・JA等)に相談し、自分の産地で産地スマート計画が作成されているか、参加できるかを把握します。
- 産地スマート計画の成果目標につながる取組内容・成果目標を定めた取組主体事業計画の案を作成し、地域農業再生協議会等に相談・提出します。
- 地域農業再生協議会等が産地スマート計画を都道府県に提出し、都道府県が都道府県事業計画を策定して国に申請します。
- 国の審査・採択と計画の承認後、交付申請を行い、補助金の交付を受けます。補助金は基本的に都道府県から交付され、市町村や地域協議会等を経由する場合もあります。
- 事業を実施し、事業実施年度の翌年度から目標年度(原則翌々年度)まで毎年度、実施状況を報告します。目標年度の翌年度に評価を行います。
計画認定者は、認定された生産方式革新実施計画に基づくスマート技術高度利用計画を作成すれば、産地スマート計画を介さずに都道府県へ直接申請できます。広域型は、農業者等が広域スマート計画を作成し、地方農政局等(地方農政局の管轄をまたぐ場合は、事務所が所在するか主たる活動を行う農地の所在する都道府県を管轄する地方農政局等)に直接提出します。
採択の仕組み
採択はポイント制です。成果目標をポイント化し、点数の高い計画から予算の範囲内で配分対象が選ばれます。
- 労働生産性の向上(10点満点):5%以上2点、9%以上4点、13%以上6点、16%以上8点、20%以上10点
- 品目別の成果目標に応じたポイント(10点満点)
- この2つの合計が10点に満たない場合は採択されません。
加算ポイントもあります。スマート農業技術活用促進法に基づく計画認定(または期間中の認定が確実)で7点が付くほか、高温対策の実施(3点)、将来像が明確化された地域計画への位置付け(5点)、都道府県の普及組織等によるサポート(5点)、輸出の重点品目(5点。いちご・たまねぎ・りんご・ぶどう・輸出用米など。準重点品目は3点)のいずれか1つを選んで加算できます。地域型には都道府県加算もあります。
予算は「土地利用型作物」「畑作物」「野菜・花き」「果樹・茶」の4つの品目類型ごとに枠(各10億円)が設けられ、それぞれの中でポイントの高い順に採択されます。2回目以降の公募は残額に応じて実施されます。
要望調査と募集スケジュール
スマ転事業は令和7年度補正予算で措置され、公募・要望調査を通じて実施されています。直近では令和8年6月16日から追加の公募・要望調査が行われました。広域型は公示ページで募集期間が公表され(直近の提出期間は令和8年7月10日まで)、地域型の要望調査は都道府県を通じて行われるため、日程は都道府県ごとに異なります。
公募は予算の残額に応じて追加で実施されることがあります。地域型は産地スマート計画の作成・承認に地域協議会等・都道府県との調整が必要で、時間がかかります。次の募集に間に合わせるためにも、導入を検討している方は、市区町村の地域協議会等への相談と計画づくりを早めに始めましょう。最新の募集情報は農林水産省「スマート技術体系への転換」ページで公表されます。
スマ転事業の位置づけと予算
スマ転事業は、スマート農業・農業支援サービス事業導入総合サポート事業の一つとして実施されています。予算は令和7年度補正予算156億5,800万円の内数、令和8年度当初予算25億3,000万円の内数です。事業目標として、スマート農業技術の活用割合を令和12年度までに50%以上へ向上させることが掲げられています。機械導入を支援するスマート技術体系転換加速化支援のほか、実証展示ほ場の設置やシンポジウムの開催などで先進的な取組の横展開を図る全国推進事業で構成されます。
スマート農業技術活用促進法の生産方式革新実施計画の認定と組み合わせると、都道府県への直接申請や採択時の7点加算に加え、日本政策金融公庫の長期低利融資や税制の特例も視野に入ります。計画認定による金融・税制の特例、みどり投資促進税制、農業支援サービスの活用まで含めたスマート農機導入支援の全体像は、スマート農機の導入に使える支援の解説記事で整理しています。
よくある質問
個人の農業者でも補助を受けられますか
受けられます。必要な要件を満たせば、個人経営の方でも農業機械の購入費用の2分の1以内の支援が受けられます。ただし地域型(計画認定者以外)では、単独で申請する形ではなく、地域農業再生協議会等が作成する産地スマート計画に自分の取組主体事業計画を位置付ける必要があります。まず市区町村の地域協議会等に相談しましょう。
スマート農業技術活用促進法の計画認定は必須ですか
必須ではありません。生産方式革新実施計画の認定は本事業の要件にはなっていません。認定を受けた方には、産地スマート計画を介さず都道府県に直接申請できる、採択審査で7点の加算を受けられるという利点があります。事業実施期間中に認定を受けることが確実な方も計画認定者として扱われます。
スマート機能のない農業機械も補助対象になりますか
対象になり得ます。スマート農業技術と一体的に活用する農業機械であれば、スマート農機以外の機械も対象です。例えば、栽培管理システムをスマート農業技術として導入してデータの共有・分析による栽培管理を行う場合、その取組に必要であれば、スマート要素のない農業機械やアタッチメントも補助対象になり得ます。
中古の農業機械も対象になりますか
都道府県が必要と認める場合に限り支援対象です。故障による事業中止を防ぐため、都道府県が事業実施方針に承認基準を設定するなどの運用が想定されています。詳細な補助要件は実施要領に定められているため、導入前に都道府県や地域協議会等に相談しましょう。なお、中古機械でも一般競争入札または複数業者による見積り合わせが必要です。
次の一歩
スマ転事業は計画づくりから採択まで地域ぐるみの調整が必要な事業です。導入したい機械が決まっている方も、次の順で動くと確実です。
- 自分の品目の技術課題(直播栽培、機械化一貫体系、高温障害対策、省力樹形など)と、導入したいスマート農業技術・機械・新たな生産方式の組み合わせを整理します。
- 県内で完結する取組なら市区町村の地域農業再生協議会等に、県域をまたぐ取組なら地方農政局等に相談し、要望調査・公募の日程を把握します。
- 労働生産性5%以上向上の成果目標を、自分の経営データ(労働時間・生産量・販売額)から試算し、計画案の作成に進みます。
キーワード解説
スマート農業技術
情報通信技術を用い、農業に必要な認知・予測・判断・動作の能力の全部または一部を代替・補助・向上させることで、農作業の効率化や身体負担の軽減、経営管理の合理化を通じて生産性を相当程度向上させる技術です。自動操舵システム、ロボットトラクター、ドローン、リモコン草刈機、自動収穫機、ハウスの環境制御システム、経営・生産管理システムなどが該当します。
産地スマート計画
都道府県スマート農業ビジョンに基づき、地域協議会長等が作成する計画です。品目・技術課題・成果目標ごとに作成し、労働生産性の向上目標、導入するスマート農業技術、取組面積、参加者などを定めます。実施期間は3年以内で、品目ごとの面積要件があります。地域型(計画認定者以外)で補助を受ける農業者は、この計画に位置付けられた取組主体事業計画を作成します。
生産方式革新実施計画
スマート農業技術活用促進法に基づき、農業者がスマート農業技術の活用と新たな生産方式の導入をまとめて記載し、国の認定を受ける計画です。スマ転事業では、認定者(計画認定者)は産地スマート計画を介さずに都道府県へ直接申請でき、採択審査で7点が加算されます。認定により長期低利融資や税制の特例も利用できます。
地域農業再生協議会
市町村・JA・担い手農家などの地域の関係者で構成される協議会です。スマ転事業の地域型では、産地スマート計画の作成主体であり、農業者が取組主体事業計画を相談・提出する窓口になります。事業の申請は地域協議会等の単位で都道府県に対して行われます。