都市の住宅地のすぐそばにある畑で農業を始めたい、あるいは持っている生産緑地を誰かに貸して活かしたい——そう考えても、「都市で農地は借りられるのか」「貸したら返してもらえるのか」と迷う方は多いです。この記事では、都市農業とは何かをおさえたうえで、都市で農地を借りる・貸す方法、都市農地の貸借の円滑化に関する法律による農地法の特例、生産緑地の活用、市民農園という関わり方、そして相談先までを、借りたい人・貸したい人の双方の視点で整理します。
この記事の要点
| 知りたいこと | この記事でわかること |
|---|---|
| 都市農業とは | 市街化区域などにある農業です。面積は全国の農地の1.3%ですが、新鮮な農産物の供給や防災空間など多面的な役割を担います。 |
| 都市で農地を借りるには | 貸借円滑化法を使えば、生産緑地内の農地を借りて耕作できます。まずは市区町村の農政担当・農業委員会に相談します。 |
| 生産緑地を貸すと | 同じ法律により、貸しても相続税の納税猶予が続き、期間が終われば返還されます。買い取られたり所有権を失ったりはしません。 |
| もっと気軽に関わるには | 農地を借りずに、市民農園・体験農園の区画を利用して野菜づくりを楽しむ方法があります。 |
| 相談先 | 農地の所在地の市区町村(農政担当)・農業委員会です。農林水産省「都市農業の振興」も参考になります。 |
都市農業とは
都市農業とは、市街化区域など、人が多く住む都市の区域やその周辺で営まれる農業のことです。住宅地に隣り合う畑や、駅から近い農園を思い浮かべるとイメージしやすいです。消費地に近いという立地を活かし、面積の小ささからは想像できないほど大きな役割を担っています。
都市農業には、次のような多面的な役割があります。
- 消費地に近い場所からの、新鮮な農産物の供給
- 災害時の避難場所やオープンスペースとなる防災空間の確保
- 緑にふれられる良好な景観の形成
- 都市の中の国土・環境の保全
- 都市住民が土にふれる農業体験の場の提供
都市農業はどのくらいの規模か
都市農業の農地は、面積では全国の農地のごく一部です。一方で、農業産出額に占める割合は面積比を上回り、消費地に近い立地が活かされていることがわかります。
| 指標 | 全国 | 都市農業 |
|---|---|---|
| 農地面積 | 427.2万ha | 5.7万ha(1.3%) |
| うち生産緑地 | — | 1.2万ha(0.3%) |
| 農業産出額 | 9兆5,543億円 | 1,736億円(1.8%、推計) |
都市農業の農地は減り続けています。市街化区域内の農地は、平成6年の137,643haから令和5年の56,807haへと、およそ4割の水準まで減少しました。担い手の減少や高齢化が進むなか、残った農地、とりわけ生産緑地内の農地を、意欲のある人が借りて活用することが大切になっています。そこで整えられたのが、これから説明する「借りやすく・貸しやすい仕組み」です。
都市で農地を借りるには
都市で農地を借りて本格的に耕作したい場合、活用できるのが都市農地の貸借の円滑化に関する法律(平成30年法律第68号)です。この法律は、貸借を円滑にして都市農地の有効活用を図り、都市農業の機能を発揮させることで都市住民の生活の向上に役立てることを目的としています。生産緑地内の農地を、所有者から借りて耕作したい担い手のための仕組みです。
農地法の特例で「貸しても返ってくる」
この法律のポイントは、通常の農地の貸し借りに使われる農地法の一部が適用されない(特例が設けられている)ことです。所有者が安心して貸せるよう、次のような特例があります。
- 法定更新(農地法第17条)が適用されません。通常の農地賃貸借では、期間が終わっても契約が自動で更新されることがありますが、この特例によりその更新が働きません。借りる期間の終わりがはっきりするため、所有者は将来の計画を立てやすくなります。
- 期間が終われば返還されます。事業計画に基づく都市農地の活用が終わった後(賃貸借の期間が終わった後)は、農地が所有者に返還されます。
農地を借りて始めるときは、事業計画の内容・借りる期間・終了後の返還の条件を、契約の前に所有者とよく確認します。施設の整備や土づくりといった投資をするなら、その回収の見込みもあわせて計画に書き込んでおくと安心です。
どこに相談するか
都市で農地を借りたいと思ったら、その農地の所在地の市区町村(農政担当)や農業委員会に相談するのが第一歩です。対象の農地が市街化区域内・生産緑地内かどうか、円滑化法が使えるか、事業計画の様式はどうなっているかを確認できます。
なお、都市部に限らず農地を借りて規模を広げたい場合は、各都道府県に置かれた農地バンク(農地中間管理機構)を使う方法もあります。農地の貸し借りの基本的な仕組みは、農地バンクの仕組みとは?メリット・デメリットを解説で整理しています。
貸す側のメリットと返還の条件
生産緑地などの都市農地を持っているものの、自分では耕作を続けにくくなった——そんな所有者にとっても、貸借円滑化法は使いやすい仕組みです。貸すことをためらう主な理由は「貸したら返ってこないのではないか」「税の優遇がなくなるのではないか」という不安ですが、この法律はその両方に配慮しています。
- 貸しても返ってきます。前述のとおり法定更新が適用されないため、契約で定めた期間が終われば農地は所有者に返還されます。引き続き貸したい場合は、あらためて契約を結ぶこともできます。
- 貸しても相続税の納税猶予が続きます。生産緑地は、所有者が自ら耕作することを条件に相続税の納税猶予を受けられますが、この法律にもとづいて貸した場合も猶予が継続します。自分で耕作できなくなっても、農地として活かしながら優遇を受け続けられます。
貸す前に確かめておきたいのは、借り手の事業計画の内容と、契約で定める返還の条件です。誰に・どのくらいの期間・どのような条件で貸すのかは、所有者と借り手、そして市区町村との間で先に整理しておきます。納税猶予が続くかどうかなど税の取り扱いは個別の事情で変わるため、適用できるかは市区町村の窓口や税務署で確認します。
相続した農地をどう扱うか迷っている場合は、貸す・売る・自分で耕すといった選択肢の整理から始めると判断しやすくなります。詳しくは農地の相続手続き|貸す・売る・耕すの選び方をご覧ください。
生産緑地との関係
都市農地の活用を考えるうえで欠かせないのが生産緑地です。生産緑地(生産緑地地区)とは、都市計画で農地などを残すために定められた区域で、都市農業の重要な部分を占めます。先に見たとおり、都市農業の農地5.7万haのうち1.2万haが生産緑地です。
生産緑地は、原則として農地として管理することが求められる代わりに、税の優遇を受けられます。これまで「自分で耕作する」ことが優遇の前提でしたが、貸借円滑化法によって、貸しても優遇を受けながら農地として活かせる道が広がりました。耕作を続けにくくなった生産緑地を手放さずに守るうえで、借りる人・貸す人をつなぐこの仕組みが役立ちます。
市民農園・体験農園という関わり方
「農地を借りて経営する」となるとハードルが高いと感じる方には、もっと気軽に都市農業に関わる方法があります。市民農園や体験農園です。
市民農園は、自治体や農家、企業などが整備した農地を区画ごとに利用し、自分で野菜や花を育てられる仕組みです。体験農園は、農家の指導を受けながら種まきから収穫までを体験できる形が多く、道具や苗が用意されていることもあります。いずれも農地そのものを借りる契約とは異なり、利用者として参加できるため、これから土にふれてみたい都市住民の入口として向いています。区画の空き状況や利用方法は、市区町村や運営者の案内で確認します。
借りる・貸すまでの流れ
都市農地の貸し借りは、所有者と借り手だけで進めるのではなく、市区町村が間に入って事業計画を確認しながら進めます。おおまかな流れは次のとおりです。
- 対象の農地が市街化区域内・生産緑地内かどうかを確認します。
- 市区町村の農政担当・農業委員会に相談し、貸借円滑化法が使えるか、事業計画の様式を確認します。
- 借りる期間・賃料・終了後の返還の条件、施設整備があれば回収の見込みを事業計画にまとめます。
- 所有者と借り手が、返還の条件まで含めて合意します。
- 市区町村の手続きを経て契約し、借り手が耕作を始めます。
よくある質問
都市農業とは何ですか
市街化区域など、都市やその周辺で営まれる農業のことです。農地面積は全国の1.3%ですが、新鮮な農産物の供給、防災空間や景観の確保、国土・環境の保全、農業体験の場の提供など、多面的な役割を担います。
都市で農地を借りるには誰に相談しますか
まずは農地の所在地の市区町村(農政担当)や農業委員会に相談します。対象の農地が生産緑地内かどうか、都市農地の貸借の円滑化に関する法律が使えるか、事業計画の様式などを確認できます。
生産緑地を貸すとどうなりますか
都市農地の貸借の円滑化に関する法律にもとづいて貸すと、契約期間が終われば農地は所有者に返還され、相続税の納税猶予も続きます。買い取られたり所有権を失ったりすることはありません。自分で耕作できなくなっても、農地として活かしながら所有を続けられます。
貸した農地は返してもらえますか
返してもらえます。この法律では法定更新(農地法第17条)が適用されないため、契約で定めた期間が終われば農地は所有者に返還されます。引き続き貸したい場合は、あらためて契約を結ぶこともできます。
農地を借りずに都市農業に関わる方法はありますか
あります。市民農園や体験農園の区画を利用すれば、農地を借りる契約をしなくても、自分で野菜づくりを楽しんだり、農家の指導を受けながら収穫まで体験したりできます。空き状況や利用方法は市区町村や運営者の案内で確認します。
次の一歩
都市で農地を借りたい方も、生産緑地を貸して活かしたい方も、最初の一歩は同じです。農地の所在地の市区町村(農政担当)・農業委員会に相談しましょう。対象の農地が生産緑地内かどうか、都市農地の貸借の円滑化に関する法律を使えるか、事業計画や契約の進め方を具体的に確認できます。気軽に始めたい方は、あわせて市民農園・体験農園の空き区画も問い合わせてみてください。
キーワード解説
都市農業
市街化区域など、都市やその周辺で営まれる農業です。消費地に近い立地を活かした農産物の供給と、防災・景観・環境などの多面的な機能を担います。
都市農地の貸借の円滑化に関する法律
都市農地の貸借を円滑にし、担い手の確保と都市農業の機能発揮を目的とする法律(平成30年法律第68号)です。法定更新の不適用などの農地法の特例により、所有者は貸しても農地が返還され、相続税の納税猶予も続きます。
生産緑地
都市計画で農地などを残すために定められた区域(生産緑地地区)です。農地として管理する代わりに税の優遇を受けられ、都市農地の重要な部分を占めます。