親や親族が亡くなり、田や畑を相続することになった方に向けて、最初に何をすればよいかを整理します。農地の相続では、不動産としての名義を変える相続登記と、農地の管理者である農業委員会への届出という、目的の違う2つの手続きを期限内に済ませる必要があります。そのうえで、自分で耕すのか、農地バンクに貸すのか、売るのかを決めていきます。本記事は、誰が・いつまでに・どこへ動けばよいかを、選択肢ごとに解説します。

まず押さえたい要点

農地を相続したときにやるべきことは、大きく「名義を整える手続き」と「これからどうするかの選択」に分かれます。手続きには期限があり、選択を先送りすると農地が荒れて選択肢自体が狭まります。全体像を表で確認します。

項目 内容
誰が 相続や遺贈、遺産分割などで田・畑(農地)の権利を取得した相続人です。地元を離れて暮らす方や、農業を続けるか迷っている方も対象になります。
何を 法務局での相続登記(名義変更)と、農業委員会への農地法第3条の3の届出です。続けて、自分で耕す・貸す・売るのいずれかを選びます。
いつまでに 相続登記は取得を知った日から3年以内、農業委員会への届出は取得を知った時点からおおむね10か月以内です。相続税が発生する場合の申告・納税は相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。
費用 相続登記には登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)がかかります。手続きを怠った場合は、相続登記・農業委員会への届出とも10万円以下の過料の対象です。自分で耕す・貸す場合は相続税の納税猶予を受けられることがあります。
次の一歩 まず法務局と農業委員会で手続きを進め、並行して自分で耕す・貸す・売るの方針を固めます。詳細は法務省・農林水産省・国税庁の各ページをご覧ください。

農地の相続で必要な2つの手続き

農地を相続したとき、よく混同されるのが「相続登記」と「農業委員会への届出」です。この2つは別の制度であり、片方を済ませてももう片方の義務はなくなりません。それぞれ管轄も期限も罰則も異なるため、両方を期限内に行います。

相続登記は、その土地の所有者が誰かを公的に記録する不動産登記簿の名義を、亡くなった方から相続人へ変える手続きです。窓口は法務局(登記所)です。一方、農業委員会への届出は、農地の権利が誰に移ったかを地域の農地管理者である農業委員会に把握してもらうための手続きで、窓口は農地のある市区町村の農業委員会です。2つの手続きの違いを表で確認します。

区分 相続登記(名義変更) 農業委員会への届出
根拠 不動産登記法(相続登記の申請義務化) 農地法第3条の3
窓口 法務局(登記所) 農地のある市区町村の農業委員会
期限 取得を知った日から3年以内 取得を知った時点からおおむね10か月以内
怠った場合 10万円以下の過料 10万円以下の過料(虚偽の届出も対象)
役割 所有権を公的に記録し権利関係を明確にする 農地の権利移動の把握と有効利用(貸し手探し等の相談)

農業委員会への届出は権利を移転させる効力を持つものではなく、あくまで権利移動を把握するための手続きです。所有権の移転を法的に確定させるには、別途、相続登記が必要になります。

名義変更(相続登記)は3年以内に

不動産を相続した場合の対応方法のフロー図。遺言書の有無と遺産分割の成否で、遺贈の内容に基づく所有権移転登記・遺産分割の結果に基づく相続登記・相続人申告登記の3つに分かれ、いずれも3年以内に申請する。
法務省「相続登記の申請義務化に関する概要資料(リーフレット)」(PDF):遺言書の有無や遺産分割の状況に応じて、どの登記をいつまでに申請するかを示したフロー図。

相続によって不動産を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつその不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請します。これは2024年(令和6年)4月1日から義務化されました。正当な理由がないのに申請を怠ると、10万円以下の過料の対象になります。

遺言や遺産分割の協議で取得者が決まった場合は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容に応じた登記を申請します。注意したいのは、2024年4月1日より前に開始した相続でも義務化の対象になる点です。施行日前に相続して名義を放置している農地は、2027年(令和9年)3月31日までに相続登記を済ませる必要があります。

遺産分割の話し合いがすぐにまとまらない場合の備えとして、相続人申告登記という簡易な手続きも用意されています。3年以内に自分が相続人であることを登記官に申し出れば、ひとまず申請義務を果たしたものと扱われます。これは特定の相続人が単独で申し出ることができます。登録免許税は、相続登記では固定資産税評価額の0.4%が目安です。

農業委員会への届出はおおむね10か月以内に

相続(遺産分割や包括遺贈、相続人への特定遺贈を含む)などで農地の権利を取得したときは、その権利を取得したことを知った時点からおおむね10か月以内に、農地のある市区町村の農業委員会へ届け出ます。農地法第3条の3に基づく手続きで、田・畑だけでなく採草放牧地も対象です。届出をしなかった場合や虚偽の届出をした場合は、10万円以下の過料の対象になります。

手続き自体は難しくありません。権利を取得した人の氏名・住所、土地の所在や地番・面積、取得した日と事由、取得した権利の種類などを届出書に記入して提出します。届出様式は各農業委員会の窓口やホームページで入手でき、農林水産省の共通申請サービス(eMAFF)を使えばオンラインで届け出ることもできます。

この届出には、その後の活用につながる利点もあります。相続した方が地元を離れていて自分では手入れができないとき、農業委員会は農地の管理についての相談に応じたり、地元で借り手を探すあっせんに動いたりします。届出書には、第三者への所有権移転や賃借権の設定について農業委員会のあっせんを希望するかどうかを記載する欄もあります。耕作の予定が立たない農地ほど、早めに届け出て相談につなげる意味があります。

自分で耕す・貸す・売るの選び方

名義を整えたら、その農地をこれからどうするかを決めます。選択肢は大きく「自分で耕す」「貸す」「売る」の3つです。耕作も貸付けもせずに放置すると、農地は雑草や病害虫の発生源となり、やがて遊休農地になります。地域の農地利用にも支障が出るため、放置という選択肢は実質的に避けたいところです。3つの方向性を比較します。

選択肢 主な進め方 向いている人・メリットと注意
自分で耕す 自ら農業経営を始める、または続けます。設備や販路を引き継ぎます。 農地を手元に残せます。一定の要件を満たせば相続税の納税猶予の対象になります。労力・技術・販路の確保が前提です。
貸す 農地バンク(農地中間管理機構)を通じて担い手へ貸し付けます。 自分で耕せなくても農地を維持でき、賃料が入ります。貸付けでも納税猶予を受けられる場合があります。借り手とのマッチングに時間がかかることがあります。
売る 農地として売却します。買い手は原則として農業者で、農業委員会の許可が必要です。 管理の負担と固定資産税から解放されます。農地の売買には制限があり、買い手が限られる点に注意します。

貸す場合は農地バンク(農地中間管理機構)へ

農地バンクによる農地の権利移動のイメージ図。農地の出し手から農地バンクが借り受け、担い手である受け手へ貸し付けることで、農地の集約化等を実現する流れを示す。
農林水産省「農地中間管理事業リーフレット」(PDF):農地の出し手から農地バンクが借り受け、担い手へ貸し付けて集約化を進める仕組みを示したイメージ図。

自分では耕せないが手放したくない、という場合の中心的な選択肢が農地バンクです。農地バンクは農地中間管理機構の通称で、都道府県に1つ設けられた公的な機関です。農地を貸したい人から借り受け、規模拡大を目指す担い手へまとめて貸し付けることで、地域の農地の集積・集約を進めます。

貸し手にとっての利点は複数あります。賃料は農地バンクが収受して支払うため確実に振り込まれ、複数の担い手に貸す場合でも契約や賃料の事務が1本にまとまります。一定の要件のもとで固定資産税の軽減措置を受けられる場合があり、貸付期間が終われば農地は手元に戻ります。なお、2025年(令和7年)4月からは、農地の貸し借りは原則として農地バンクを経由する仕組みに移行しました。貸付けを検討する際は、まず農業委員会や農地バンクの窓口に相談するのが入口になります。

自分で耕す場合と相続税の納税猶予

相続した農地で自ら農業を続ける場合、相続税の負担が課題になることがあります。これを和らげるのが相続税の納税猶予の特例です。農業を営んでいた被相続人から一定の相続人(農業相続人)が農地等を相続し、その農地で農業を続ける場合、農地の評価額のうち農業投資価格を超える部分に対応する相続税額の納税が猶予されます。農業投資価格は、農地が農地として取引される場合の本来の価格を国税局長が決定したもので、宅地並みに評価される場合に比べて税負担を抑えられます。

この特例は、自分で耕す場合だけでなく、農地中間管理機構(農地バンク)への貸付けなど一定の「特定貸付け等」を行う場合にも適用されます。適用を受けるには、相続税の申告書を申告期限内(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)に提出し、猶予税額などに見合う担保を提供します。猶予を受けた後も、申告期限から3年ごとに継続届出書を提出し続ける必要があります。

猶予された税額は、農業相続人が亡くなったとき、後継者へ農地を生前一括贈与したとき、または三大都市圏の特定市以外の区域にある市街化区域内農地等について申告期限の翌日から20年間農業を続けたとき(都市営農農地等を有しない相続人に限る)などに免除されます。一方、途中で農業経営をやめたり、対象農地の面積の20%を超える部分を譲渡したりすると、猶予が打ち切られ、猶予税額と利子税を納めることになります。要件は細かく、市街化区域内の農地や生産緑地では扱いが変わるため、適用を検討する際は税務署や税理士に確認しましょう。

遊休農地にしないために

農地の相続でもっとも避けたいのは、名義も使い道も決めないまま放置し、農地が荒れてしまうことです。耕作されない農地は雑草が茂って病害虫の温床になり、周囲の営農に迷惑をかけます。荒れた農地は元に戻すのに費用と手間がかかり、貸し手・買い手も見つかりにくくなって、選択肢そのものが狭まります。

相続登記の義務化と農業委員会への届出は、いずれも「使われない農地」を生まないための仕組みでもあります。自分で耕せないと早い段階で分かっているなら、農業委員会への届出のときに貸し手探しのあっせんを希望し、農地バンクへの貸付けにつなげるのが現実的です。相続を機に、農地を地域の担い手に活かしてもらう道を選ぶことが、結果として自分の負担も軽くします。

キーワード解説

相続登記

相続によって取得した不動産の所有者名義を、亡くなった方から相続人へ変更する不動産登記です。2024年4月1日から申請が義務化され、取得を知った日から3年以内に法務局へ申請します。怠ると10万円以下の過料の対象になります。

農地法第3条の3の届出

相続などで農地や採草放牧地の権利を取得したことを、農業委員会に知らせる届出です。取得を知った時点からおおむね10か月以内に行います。権利移転の効力を生じさせるものではなく、相続登記とは別の手続きです。

農地バンク(農地中間管理機構)

農地を貸したい人から借り受け、担い手へまとめて貸し付ける公的機関で、都道府県に1つ設けられています。賃料が確実に支払われる、契約事務が1本化される、期間終了後に農地が戻るといった利点があります。2025年4月からは農地の貸し借りが原則この仕組みを経由します。

相続税の納税猶予

農業相続人が農地等を相続して農業を続ける場合や、農地バンク等へ特定貸付けを行う場合に、農業投資価格を超える部分の相続税の納税が猶予される特例です。申告期限内の申告と担保提供が必要で、3年ごとの継続届出を行います。死亡や20年の営農継続などで猶予税額が免除されます。

遊休農地

現に耕作されておらず、今後も耕作される見込みがない農地などを指します。放置すると荒廃して病害虫の温床となり、周囲の営農や農地の有効利用に支障をきたします。相続を機に、耕す・貸す・売るのいずれかへ早めにつなげることが大切です。

いま確認しておきたいこと

農地を相続したら、まず自分が「相続でその農地の権利を取得した相続人」に当たるかを確認します。当たる場合は、相続登記(3年以内)と農業委員会への届出(おおむね10か月以内)の2つを、それぞれ法務局と農業委員会で進めます。相続税が発生しそうなときは、申告・納税の期限が相続開始を知った日の翌日から10か月以内である点も合わせて確認しましょう。

次に、その農地を自分で耕すのか、貸すのか、売るのかの方針を早めに固めます。自分で耕せない見込みなら、農業委員会への届出のときに貸し手探しのあっせんを希望し、農地バンクへの貸付けや相続税の納税猶予の活用を相談するのが入口です。手続きの様式・期限や納税猶予の要件は変わることがあるため、法務省・農林水産省・国税庁の該当ページや、地元の農業委員会・法務局・税務署の窓口で最新の情報をご覧ください。