食品をつくり、運び、売り、提供する事業者には、環境負荷の低減や人権への配慮、食品ロスの削減といったサステナビリティの取り組みが、取引や評価の前提として求められるようになりました。EUの開示規制や取引先からの要請、消費者の意識の高まりが背景にあります。食品産業のサステナビリティとは具体的に何をすることか、企業はどんな食品ロス対策を進めているのか、商慣習の見直しや消費者理解の醸成、そして自社で何から始められるかまでを、農林水産省の数値とともに整理します。
この記事の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰に向けた記事か | 食品の製造・卸売・小売・外食に携わる事業者と、原材料の調達・サプライチェーンを担う担当者向けです。サステナビリティに関心のある消費者にも役立ちます。 |
| 何がわかるか | 食品産業のサステナビリティの全体像、企業が進める食品ロス対策と食品リサイクル、商慣習の見直し、消費者理解の醸成、自社が今日から始められる取り組みです。 |
| なぜ取り組むのか | 温室効果ガス・水質などの環境負荷低減と、強制労働・児童労働などの人権配慮が国際的に求められるためです。EUでは開示やデューディリジェンスを求める指令が発効し、現地で活動する日系企業も対象になり得ます。 |
| 主な目標と数値 | 事業系の食品ロスは平成12年度比で令和12(2030)年度までに60%削減します(食品リサイクル法の新基本方針、令和7年3月策定)。令和4年度の食品ロスは472万トン、うち事業系は236万トン、持続可能な原材料調達に取り組む上場食品企業は41.6%です。 |
食品産業のサステナビリティとは
食品産業のサステナビリティとは、原材料の調達から製造、包装、流通、消費に至る一連の流れで、環境への負荷と人権への影響を抑えながら事業を続けられる状態にしていくことです。具体的には、持続可能な方法で生産された原材料への切り替え、包装・流通の省力化、食品ロスの削減と食品リサイクル、調達先での人権への配慮などが柱になります。
取り組みが求められる背景には、国際的な要請があります。温室効果ガスの削減や水質の保全に加え、生産現場の人権(強制労働・児童労働など)への配慮が問われるようになりました。EUでは環境・人権に関する開示やデューディリジェンスを求める指令が発効し、EUで活動する日系企業も条件を満たせば適用対象となります。取引先や投資家がこうした対応を評価軸に加えるため、サステナビリティは一部の大企業だけの課題ではなくなっています。
農林水産省は、持続可能な食料システムの構築に向け、国産原材料の利用促進、環境・人権に配慮した調達の支援、地域の関係者が連携して新たなビジネスを生む仕組みづくりなどを進めています。日本の食品産業がこの流れに対応していくための後押しです。
環境負荷低減のための取り組み
環境負荷を下げる取り組みは、調達・包装・物流のそれぞれに広がっています。企業がどこから着手しているかを見ていきます。
持続可能な原材料調達
SDGsの取り組みが加速するなか、輸入原材料に関する持続可能な国際認証などが、欧米の食品企業を中心に拡大しています。国内でも、上場食品企業のうち「持続可能性に配慮した輸入原材料調達」に取り組む企業の割合は、令和5(2023)年で41.6%に達しました。短期的な売上の向上につながりにくく、コスト負担が増えるといった課題はありますが、農林水産省は入門書や人権尊重の手引きの作成、セミナーや優良事例の横展開、消費者理解の促進を進め、企業が取り組みやすい環境を整えています。
包装・物流の高度化とプラスチック対策
青果物や食品の品質・鮮度を保つには、収穫後から消費者に届くまでの温度・水分・ガスの管理と、輸送時の振動・衝撃の緩和が欠かせません。予冷や低温物流、熟成・劣化を抑える資材、衝撃緩和包装などの開発が進み、これまで輸送が難しかった商品の海外展開も広がっています。
農業・食品産業の分野ではプラスチック製品を多く使うため、持続的な利用への対応も必要です。農林水産省は、令和4(2022)年4月に施行されたプラスチック資源循環促進法(正式名称は「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」)に基づき、企業・団体の自主的な取り組みを促し、その発信を通じて国民の意識向上を図っています。
利用しやすい店舗づくり
令和6(2024)年4月には改正障害者差別解消法が施行され、外食産業でも高齢者や障害のある人が利用しやすいインクルーシブな環境づくりが期待されています。岐阜県岐阜市の病院が運営するカフェでは、嚥下調整食の提供や地域の飲食店への広め、介護予防教室・マルシェの共催など、地域に根ざした取り組みが行われています。
企業が進める食品ロス対策
食品ロス対策は、食品産業のサステナビリティのなかでも成果が数字で表れている分野です。発生量の現状と、企業が取り組む商慣習の見直しを順に見ていきます。日本全体の食品ロスの背景は日本の食品ロスの現状でも整理しています。
食品ロスの発生量と達成した目標
日本の食品ロス発生量は、令和4(2022)年度で前年度比51万トン減の472万トンと推計され、過去最少となりました。このうち食品産業で発生する事業系食品ロスは前年度比43万トン減の236万トンで、平成12(2000)年度比で令和12(2030)年度までに半減させる目標を達成しました。一般家庭で発生する家庭系食品ロスも、前年度比8万トン減の236万トンです。
新型コロナウイルス感染症による市場縮小の影響もありますが、納品期限の緩和や賞味期限表示の大括り化といったサプライチェーン全体の連携、小売店舗による「てまえどり」の促進など、食品企業の努力が相当程度寄与したと考えられています。
商慣習の見直しと「食の環(わ)」
農林水産省は令和7(2025)年3月、食品リサイクル法(正式名称は「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」)に基づく新たな基本方針を策定しました。平成12年度比で令和12(2030)年度までに事業系食品ロスを60%削減する新目標と、サプライチェーン全体での発生抑制・リサイクル拡大の方策を定めたものです。法制度の概要は食品リサイクル法で詳しく解説しています。
令和6(2024)年度には、関係府省庁が「食品ロス削減」「食品寄附促進」「食品アクセスの確保」を一体で進める概念として「食の環(わ)」を掲げ、共通ロゴでワンボイスの発信を行いました。あわせて毎年10月30日を「全国一斉商慣習見直しの日」と定め、賞味期間の3分の1を過ぎた商品の納品を拒む「3分の1ルール」の緩和や、賞味期限表示の大括り化(年月表示・日まとめ表示)を呼び掛けています。納品期限の緩和に取り組む事業者は、同年10月時点で339事業者に拡大しました。食品ロス削減の法的な枠組みは食品ロス削減推進法にまとまっています。
「食品廃棄物等の発生抑制に向けた取組の情報連絡会」では、食品寄附の税務取扱い、ロス削減に関する情報開示の事例、外食での食べ残しの持ち帰り促進などを共有しました。フードバンクなどへの寄附につながる供給体制の検討・実証のほか、AIなどを活用した需要予測の高度化、外食での食べ残し発生抑制の実証にも支援を行っています。国の災害用備蓄食品は、更新で役割を終えたものを原則フードバンク団体などに提供する「国の災害用備蓄食品の提供ポータルサイト」を設けています。
世界に目を向けると、国連環境計画(UNEP)の令和4(2022)年報告書では、家庭レベルで1日当たり10億食が廃棄されていると推計されています。食品ロスの削減は、日本の食品産業だけでなく地球規模の課題です。
食品リサイクルと現場の取り組み
農林水産省は環境省とともに、2050年のネット・ゼロ実現に向けて、売れ残り・食べ残し・製造過程で出る食品廃棄物の発生抑制と減量を進め、飼料・肥料などへの再生利用を促進しています。発生を減らしたうえで、出てしまったものは資源として活かす二段構えです。
埼玉県さいたま市のコープデリ生活協同組合連合会と東京都調布市のデリア食品株式会社は、パッケージサラダの製造で出るキャベツの芯(全体の約10%)を活用したスープなどを共同開発しました。芯は葉より甘み成分や繊維質が多く、加熱調理に向く特性を活かした取り組みです。
長崎県諫早市の長崎県立諫早農業高等学校では、家庭の食品残さから作った肥料で栽培試験を行い、化成肥料と同等の収量が得られることを確かめ、市の公民講座や食育教室で普及を進めています。この取り組みは令和5(2023)年度の第11回「食品産業もったいない大賞」で農林水産大臣賞を受賞しました。
消費者理解の醸成
持続可能な生産はコストを伴うため、その価値が消費者に伝わり、選んでもらえなければ続きません。消費者の意識はどこまで高まっているのかを確認します。
日本政策金融公庫の令和7(2025)年1月の調査では、環境に配慮した方法で栽培された農産物かどうかを「気にかけている」と回答した人は42.1%でした。サステナビリティ、フェアトレード、エシカル消費(倫理的消費)の認知度も、令和6(2024)年度には令和元(2019)年度と比べておおむね2〜4倍に高まっています(サステナビリティは15.3%から64.2%、フェアトレードは27.3%から47.9%など)。同じ調査では、環境配慮型農産物の購入で「割高でも選ぶ」とする人は59.4%に上りました。
産地と事業者が連携し、不揃いの規格外農産物などを実店舗やECで販売する取り組みも広がっています。持続可能なフードチェーンを保つには、消費者が取り組める行動を具体的に示すとともに、持続可能性に配慮した生産にはコストがかかることを正しく伝え、理解の醸成と行動の変化を促す必要があります。
あふの環2030プロジェクト
みどりの食料システム戦略の実現に向け、農林水産省・消費者庁・環境省が連携し、企業・団体が一体となって持続可能な生産・消費を促す「あふの環2030プロジェクト~食と農林水産業のサステナビリティを考える~」を推進しています。令和7(2025)年3月末の時点で、農業者や食品製造事業者など210社・団体が参画しています。
同プロジェクトでは「サステナブルが“推し”になる」をテーマに「サステナウィーク2024」を開催し、環境配慮型農産物の販売や消費に役立つ情報発信を集中して行いました。「サステナアワード2024」で動画作品を表彰するほか、消費者庁・農林水産省が共催する日経SDGsフォーラム消費者共創シンポジウムなどを通じ、持続可能な消費を後押ししています。企業にとっては、こうした枠組みへの参画が自社の取り組みを消費者に伝える機会になります。
企業ができること
ここまでの取り組みを踏まえ、自社で何から始められるかを整理します。規模を問わず着手しやすいものから挙げます。
- 食品ロスを減らす。需要予測の精度を上げて作りすぎ・仕入れすぎを抑え、賞味期限表示の大括り化や納品期限の緩和に取り組みます。出てしまった食品はフードバンクへの寄附や飼料・肥料へのリサイクルにつなげます。
- 商慣習を見直す。「3分の1ルール」の緩和など、取引先と連携してサプライチェーン全体でロスを生みにくい慣行に切り替えます。一社だけでは動きにくいため、業界の枠組みを活用します。
- 持続可能な調達を進める。国際認証を受けた原材料や国産原材料の利用、調達先での人権への配慮を、できる品目から広げます。農林水産省の手引きやセミナーを活用すると着手しやすくなります。
- 消費者に価値を伝える。あふの環2030プロジェクトなどの枠組みに参画し、取り組みの背景やコストを消費者に説明して、選ばれる商品づくりにつなげます。
すべてを一度に進める必要はありません。自社の事業に近い分野から一つ着手し、取引先や業界の枠組みと連携しながら広げていくのが現実的です。
よくある質問
食品産業のサステナビリティとは何ですか
原材料の調達から製造・包装・流通・消費までの流れで、環境への負荷と人権への影響を抑えながら事業を続けられる状態にしていくことです。持続可能な原材料への切り替え、包装・流通の省力化、食品ロスの削減と食品リサイクル、調達先での人権への配慮などが柱になります。
企業はどんな食品ロス対策をしていますか
需要予測による作りすぎの抑制、賞味期限表示の大括り化、「3分の1ルール」の緩和をはじめとする納品期限の見直し、小売店での「てまえどり」の促進などです。出てしまった食品はフードバンクへの寄附や飼料・肥料への再生利用につなげます。納品期限の緩和に取り組む事業者は令和6年10月時点で339事業者に拡大しました。
消費者にできることはありますか
あります。買い物では手前にある商品から取る「てまえどり」や、不揃いの規格外農産物を選ぶこと、家庭での「食べきり」を心がけることが食品ロスの削減につながります。環境やフェアトレードに配慮した商品を、価値を理解したうえで選ぶことも、持続可能な生産を支えます。
中小企業でも取り組めますか
取り組めます。需要予測の見直しや賞味期限表示の工夫など、規模が小さくても着手できる対策があります。農林水産省の入門書や手引き、セミナー、優良事例の横展開を活用でき、あふの環2030プロジェクトのような官民連携の枠組みにも参画できます。自社に近い分野から一つ始めるのが現実的です。
次の一歩
まずは自社のどこで食品ロスや環境負荷が発生しているかを洗い出し、着手しやすい一つを選びます。商慣習の見直しは取引先との連携が要になるため、業界の枠組みや農林水産省の手引きを起点にすると進めやすくなります。制度の詳しい中身は、日本の食品ロスの現状、食品ロス削減推進法、食品リサイクル法もあわせてご覧ください。最新の支援策や数値は、下記の農林水産省のページでご確認ください。
キーワード解説
食品ロス
まだ食べられる食品が廃棄されることです。製造・卸売・小売・外食で発生する事業系と、一般家庭で発生する家庭系に分けて把握します。令和4(2022)年度の総量は472万トン、うち事業系は236万トンです。
食品リサイクル法
食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律です。令和7(2025)年3月に新たな基本方針が策定され、事業系食品ロスを平成12年度比で2030年度までに60%削減する目標などを定めています。
食の環(わ)
令和6(2024)年度に関係府省庁が一体で取り組む概念として掲げた名称です。食品ロス削減、食品寄附促進、食品アクセスの確保の3施策を束ね、共通ロゴで発信します。
プラスチック資源循環促進法
プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律です。令和4(2022)年4月に施行されました。農業・食品産業の分野では、企業・団体の自主的な取り組みとその発信を通じた意識向上を進めています。
あふの環2030プロジェクト
食と農林水産業のサステナビリティを考える官民連携の枠組みです。サステナウィークやサステナアワードなどを通じて、持続可能な生産・消費を促進しています。