持続可能な食料システムの構築には、食品産業の環境負荷低減と、消費者の理解醸成の両方が欠かせません。本記事では、令和6年度食料・農業・農村白書第5章第4節「食品産業の環境負荷低減と消費者の理解醸成の促進」に沿い、産業の転換から食品ロス・リサイクル、消費者意識までを整理します。
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が | 主に食品製造・卸売・小売・外食事業者、原材料調達部門、消費者。国は農林水産省が中心となり、環境省・消費者庁等と連携します。 |
| 何を | 持続可能な原材料調達、包装・流通の省力化、食品ロス削減と食品リサイクル、商慣習の見直し、災害用備蓄食品の有効活用、サステナビリティ・フェアトレードの理解促進などです。 |
| いつまでに | 事業系食品ロスは平成12年度比で令和12(2030)年度までに60%削減(新基本方針、令和7年3月策定)。毎年10月は食品ロス削減月間、10月30日は全国一斉商慣習見直しの日です。 |
| いくら | 本節は補助金制度の説明ではなく動向の整理です。主要数値は、食品ロス472万t、事業系236万t、持続可能調達41.6%、納品期限緩和339事業者、あふの環2030参画210社・団体(令和7年3月末)などです。 |
持続可能な食品産業への転換
国際的には、温室効果ガス削減や水質保全に加え、生産現場の人権(強制労働・児童労働等)への配慮が求められています。EUでは環境・人権に関する開示やデューディリジェンスを求める指令が発効し、EUで活動する日系企業も条件を満たせば適用対象となります。
持続可能な食料システムの構築に向け、食品産業では持続可能な方法で生産された原材料の使用や食品ロス削減など、環境・人権に配慮した産業への転換が求められています。農林水産省は、国産原材料の利用促進、環境・人権に配慮した調達の支援、地域の関係者が連携する新たなビジネス創出の仕組みづくり等を進めています。
持続可能性に配慮した調達と流通
SDGsの取組が加速する中、輸入原材料に係る持続可能な国際認証等が欧米の食品企業を中心に拡大しています。国内では、上場食品企業のうち「持続可能性に配慮した輸入原材料調達」に関する取組を実施している企業の割合は、令和5(2023)年41.6%です。
短期的な売上向上につながりにくくコスト負担が増えるなどの課題もある一方、農林水産省は入門書や人権尊重の手引きの作成、セミナー・優良事例の横展開、消費者理解の促進を進めています。
青果物・食品の品質・鮮度保持には、収穫後から消費者に届くまでの温度・水分・ガス管理、輸送時の振動・衝撃緩和が重要です。予冷や低温物流、熟成・劣化を抑える資材、衝撃緩和包装などの開発が進み、従来は輸送が難しかった商品の海外展開も進んでいます。
令和6(2024)年4月に改正障害者差別解消法が施行され、外食産業でも高齢者や障害のある人が利用しやすいインクルーシブな環境づくりが進むことが期待されています。岐阜県岐阜市の病院運営カフェでは、嚥下調整食の提供や地域の飲食店への広め、介護予防教室・マルシェ共催など、地域に根ざした取組が行われています。
プラスチック対策と食品ロスの動向
農業・食品産業分野でもプラスチック製品を多く活用しており、持続的な利用への対応が必要です。農林水産省は、令和4(2022)年4月に施行されたプラスチック資源循環促進法(正式名称は「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」)に基づき、企業・団体の自主的取組の促進と、その発信による国民の意識向上を図っています。
我が国の食品ロス発生量は、令和4(2022)年度は前年度比51万t減の472万t(過去最少)と推計されています。そのうち食品産業における発生(事業系食品ロス)は前年度比43万t減の236万tで、平成12(2000)年度比で令和12(2030)年度までに半減させる目標を達成しました。
新型コロナウイルス感染症による市場縮小の影響もある一方、納品期限の緩和や賞味期限表示の大括り化などサプライチェーン全体の連携、小売店舗による「てまえどり」の促進など、食品企業の努力が相当程度寄与したと考えられています。一般家庭における発生(家庭系食品ロス)は前年度比8万t減の236万tです。
商慣習の見直しと「食の環(わ)」
世界では、国連環境計画(UNEP)の令和4(2022)年報告書により、家庭レベルで1日当たり10億食が廃棄されていると推計されています。
平成12年度比で令和12(2030)年度までに60%削減とする新たな事業系食品ロス削減目標や、サプライチェーン全体での発生抑制・リサイクル拡大の方策を定めた、食品リサイクル法(正式名称は「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」)に基づく新たな基本方針を、令和7(2025)年3月に策定しました。
令和6(2024)年度は、関係府省庁が「食品ロス削減」「食品寄附促進」「食品アクセスの確保」を一体的に取り組む概念として「食の環(わ)」を掲げ、共通ロゴでワンボイス発信を行いました。毎年10月30日を「全国一斉商慣習見直しの日」と定め、賞味期間の3分の1経過商品の納品を拒む「3分の1ルール」の緩和や、賞味期限表示の大括り化(年月表示・日まとめ表示)を呼び掛けました。納品期限緩和に取り組む事業者は、同年10月時点で339事業者に拡大しています。
「食品廃棄物等の発生抑制に向けた取組の情報連絡会」では、食品寄附の税務取扱い、ロス削減に係る情報開示の事例、外食における食べ残しの持ち帰り促進などを共有しました。フードバンク等への寄附につながる供給体制の検討・実証のほか、AI等を活用した需要予測の高度化、外食における食べ残し発生抑制の実証等にも支援を行っています。
消費者への啓発では、食品ロス削減推進アンバサダーを起用したポスター作成、10月の食品ロス削減月間における「てまえどり」「食べきり」の呼び掛け(55の小売・外食事業者、43の地方公共団体)を実施しています。国の災害用備蓄食品は、更新により役割を終えたものを原則フードバンク団体等に提供する「国の災害用備蓄食品の提供ポータルサイト」を設置しています。
食品リサイクルと現場の取組
農林水産省は環境省とともに、2050年ネット・ゼロの実現に向け、売れ残り・食べ残し・製造過程の食品廃棄物について発生抑制と減量を進めるとともに、飼料・肥料等への再生利用を促進しています。
埼玉県さいたま市のコープデリ生活協同組合連合会と東京都調布市のデリア食品株式会社は、パッケージサラダ製造で発生するキャベツの芯(全体の約10%)を活用したスープ等を共同開発しました。芯は葉より甘み成分や繊維質が多く、加熱調理向きの特性を活かした取組です。
長崎県諫早市の長崎県立諫早農業高等学校では、家庭の食品残さから作った肥料で栽培試験を行い、化成肥料と同等の収量が得られることを示し、市公民講座や食育教室で普及を進めています。この取組は令和5(2023)年度の第11回「食品産業もったいない大賞」で農林水産大臣賞を受賞しました。
消費者のサステナビリティ意識
日本政策金融公庫の令和7(2025)年1月調査では、環境に配慮した方法で栽培された農産物かどうかを「気にかけている」と回答した人は42.1%です。
サステナビリティ、フェアトレード、エシカル消費(倫理的消費)の認知度は、令和6(2024)年度は令和元(2019)年度と比較しておおむね2〜4倍に高まっています(サステナビリティは15.3%から64.2%、フェアトレードは27.3%から47.9%など)。同調査では、環境配慮型農産物の購入において「割高でも選ぶ」とする人は59.4%です。
産地と事業者が連携し、不揃いの規格外農産物等を実店舗やECで販売する取組も広がっています。持続可能なフードチェーンを維持するには、消費者が取り組める行動の提示と、持続可能性に配慮した生産がコストを要することの正しい伝達を通じ、理解醸成と行動変容を促す必要があります。
あふの環2030プロジェクト
みどりの食料システム戦略の実現に向け、農林水産省・消費者庁・環境省が連携し、企業・団体が一体となって持続可能な生産・消費を促進する「あふの環2030プロジェクト~食と農林水産業のサステナビリティを考える~」を推進しています。令和7(2025)年3月末時点で、農業者や食品製造事業者等210社・団体が参画しています。
同プロジェクトでは「サステナブルが“推し”になる」をテーマに「サステナウィーク2024」を開催し、環境配慮型農産物の販売や消費に資する情報発信を集中して行いました。「サステナアワード2024」で動画作品を表彰するほか、消費者庁・農林水産省共催の日経SDGsフォーラム消費者共創シンポジウム等により、持続可能な消費の推進を図っています。
キーワード解説
食品ロス
仍可食の食品が廃棄されることです。本節では製造・卸売・小売・外食で発生する事業系と、一般家庭で発生する家庭系に分けて整理しています。令和4(2022)年度の総量は472万t、事業系は236万tです。
食品リサイクル法
食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律です。令和7(2025)年3月に新たな基本方針が策定され、事業系食品ロスを平成12年度比2030年度までに60%削減する目標等が示されています。
食の環(わ)
令和6(2024)年度に関係府省庁が一体的に取り組む概念として掲げた名称です。食品ロス削減、食品寄附促進、食品アクセスの確保の3施策を包括し、共通ロゴで発信します。
プラスチック資源循環促進法
プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律です。令和4(2022)年4月施行。農業・食品産業分野では企業・団体の自主的取組とその発信を通じた意識向上が進められています。
あふの環2030プロジェクト
食と農林水産業のサステナビリティを考える官民連携の枠組みです。サステナウィークやサステナアワード等を通じ、持続可能な生産・消費を促進しています。