規格外品や需給調整で生じた余剰在庫を、廃棄せずに福祉施設やこども食堂へ届ける——その出口になるのがフードバンクです。食品メーカーや卸・小売にとって寄付は、食品ロス削減と在庫処理の出口を同時に果たし、税制上の取扱いやCSR・ESGの面でも意味を持ちます。この記事は、自社で寄付を始めたい小売・流通・食品製造の担当者に向けて、寄付の仕組み・始め方・品質と責任の整理・税制の考え方を一つにまとめます。
まず押さえたい要点
企業が余剰食品をフードバンクに無償提供する流れは、令和6年12月に国の官民協議会がまとめた食品寄附ガイドラインが全国共通の考え方を定めています。寄付できる食品の範囲、提供の手続き、品質・衛生・責任分担、税制との関係まで、判断のよりどころが一本化されています。「誰が・何を・いつまでに・費用はどうなるか」を一覧で確認したうえで、本文で詳しく見ていきます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が | 食品の製造・流通・小売・外食などの事業者(食品寄附者)。災害用備蓄食品を持つ事業者や、余剰農作物を出す生産者も含みます。 |
| 何を | 規格外品、規格・パッケージ変更品、需給調整で生じた余剰在庫、備蓄品など、安全性に問題のない未利用食品。常温品に加え冷蔵・冷凍品や日配品も対象になります。 |
| いつまでに | 消費期限・賞味期限内であることが前提。提供する食品の期限や保存方法を、できるだけ早くフードバンク側へ情報共有します。 |
| 費用 | フードバンクへの提供は無償が基本です。商品廃棄として行う提供は、その提供に要する費用を損金に算入できます。 |
| 次の一歩 | 連携先のフードバンクや仲介団体と事前に協議し、対象食品・品質・責任分担を合意書で取り決めてから提供を始めます。 |
フードバンクとは
フードバンクは、食品企業の製造工程で生じる規格外品などを引き取り、福祉施設やこども食堂、生活困窮者支援の団体へ無償で提供する活動、またその団体を指します。食品寄附ガイドラインでは、食品寄附者から寄付された食品を受け取り、輸送・保管して、提携先へ提供する役割を担う者と定義しています。寄付に関わる立場はいくつかに分かれます。
- 食品寄附者:一次生産から加工・製造、流通・小売、ケータリングまで、サプライチェーンの各段階で余剰食品を出す事業者。災害用備蓄食品を出す事業者や、余剰農作物を出す農林水産業者も含みます。
- フードバンク:寄付食品を受け取り、輸送・保管して提携団体へ提供する団体。
- ファシリテーター:自らは輸配送や保管をせず、余剰食品と需要のマッチングを仲介する者。社会福祉協議会や、こども食堂のとりまとめ団体などが該当します。
- フードパントリー等・こども食堂等:受け取った食品を小分けにして渡したり、調理して食事の形で最終受益者に提供したりする直接支援組織。
一つの団体がマッチングと保管の両方を担うなど、複数の機能を兼ねることもあります。寄付を出す側として最初に押さえたいのは、自社の食品が「誰の手を経て、最終的に食べる人へ届くのか」という経路です。
なぜ企業がフードバンクに寄付するのか
日本の食品ロスは、令和5年度の推計で年間464万トンにのぼります。内訳は家庭系が233万トン、事業系が231万トンで、全体のほぼ半分を事業系が占めます。推計を始めた平成24年度の643万トンと比べれば減ってきていますが、依然として大きな量です。事業者にとって寄付は、この事業系ロスを減らす直接の手段になります。
動機は社会貢献だけではありません。在庫処理の現実的な出口になり、廃棄コストの削減にもつながります。食品ロス削減推進法は、事業者に対し国や地方公共団体の施策へ協力し、食品ロス削減に積極的に取り組むよう努めることを求めています。さらに、寄付に取り組む姿勢はSDGsの目標12(持続可能な生産消費形態の確保)への貢献を示すものであり、CSRやESG経営の観点からも意味を持ちます。在庫の出口・コスト・社会的評価という三つを同時に満たせる点が、寄付を選ぶ理由です。
フードバンク寄付の始め方と提供の流れ
寄付は「思い立って送る」ものではなく、事前の協議と合意から始めます。食品寄附ガイドラインが示す手続きは、大きく事前手続きと提供段階に分かれます。
連携先を決めて事前に協議する
まず、連携するフードバンクやファシリテーター(直接の場合は福祉施設・こども食堂など)と協議し、寄付の条件を明らかにしたうえで提供を決めます。食品寄附者は、寄付する食品の品目・数量・消費期限または賞味期限・保存方法・ロット・荷姿、期限が短い場合の留意事項を、できるだけ早く相手へ伝えます。受け取る側は、受入可能な数量、開催日時、冷蔵・冷凍を含む保管容量、調理施設の有無などを共有します。賞味期限が直前まで確定しない、同一商品に複数の期限が混在するといった実務の難しさもあるため、日常的な連携体制を築いておくと柔軟に対応できます。
合意書を締結してから提供する
マッチングと並行して合意の締結に向けた協議を行い、マッチングが整った段階で合意書を結びます。提供段階では、食品寄附者が衛生管理を含めた適切な手段でフードバンクへ届け、受け取った側は適切に管理・調理して最終受益者に渡します。提供・配布の実績は、中間支援組織を通じて食品寄附者へ報告されます。提供して終わりではなく、実績の報告を受けて相互の信頼を積み重ねるプロセスが、継続的な寄付の土台になります。
自社ブランド以外の商品を寄付する場合
PB商品やOEM商品、キャラクター商品など、自社ブランドでない食品も寄付の対象になり得ます。ただし、委託元であるブランド所有者との契約内容によっては、寄付を独自に決められない場合があります。契約に寄付の取り決めがないときは、ブランドの価値を損なわないよう所有者と協議し、合意を得る必要があります。製造委託の契約段階で、事故が起きた場合を想定した寄付条件をあらかじめ取り決めておくと、寄付の意思決定を速められます。
対象になりやすい食品と賞味期限の考え方
寄付の対象になり得るのは、生産から流通・消費に至る各段階で生じる余剰品です。具体的には、サイズや形状が顧客ニーズに合わない規格外品、規格やパッケージが変わったが安全性に影響しない商品、流通の需給調整で生じた余剰品、事業者の備蓄品などが想定されます。従来は常温品が中心でしたが、冷蔵・冷凍品や日配品にも福祉施設やこども食堂のニーズがあり、物流の整備によって取扱いの拡大が期待されています。
期限の扱いは誤解が多い点です。賞味期限は、定められた方法で保存した場合に品質の保持が十分に可能と認められる期限であり、過ぎたからといって直ちに安全性を欠き食べられなくなるわけではありません。一方で消費期限を過ぎた食品や、汚損・破損などで食品衛生上の問題が生じた食品は、受取先へ譲渡しません。寄付する側と受け取る側の双方で対象食品のルールを設け、安全性について事前に合意しておくことが重要です。
品質・衛生・責任分担の考え方
寄付食品も人が食べるものであり、一般の流通品と同じく食品安全の担保が前提です。食品寄附ガイドラインは、食品衛生法・食品表示法・食品リサイクル法のほか、民法や製造物責任法、消費者契約法、個人情報保護法との関係を整理し、関係者それぞれが取るべき管理を示しています。鍵になるのは、事前の合意・記録(トレーサビリティ)・事故への備えの三つです。
単に食品を渡せばよいのではなく、寄付食品の適切な管理と受け渡し、食品に関する適切な情報提供が求められ、そのために必要な記録管理を行う必要があります。どこから来た食品をどこへ渡したかをたどれるようにしておくことが、万一の事故の際の対応を支えます。さらに、十分な注意を払ってもなお事故が起きる可能性はあるため、賠償や補償のための保険に加入しておくことが、安心して活動を続けるうえで重要です。責任を一方に押し付けるのではなく、合意書で役割を明確にし、保険でリスクを分担する——この設計が継続のかなめになります。
税制の考え方(損金算入)
企業がフードバンクへ食品を提供したときの法人税の取扱いは、その提供の実質的な目的によって変わります。提供が、社内ルールに従って廃棄予定の食品をフードバンクが引き取るなど、実質的に自社の商品廃棄として行われるものであれば、その提供に要する費用を提供時の損金に算入できます。国は「フードバンクへの食品提供は税制上も全額損金処理が可能」と周知しています。
一方、商品廃棄とは言えない通常の資産の贈与にあたる場合は、一般の寄附金として扱われ、その時価が寄附金の額に含まれます。一般の寄附金は資本金等の額と所得金額に基づく一定の限度額までしか損金に算入できません。また、広告宣伝のために食品を提供する場合は、その費用を広告宣伝費として損金に算入できます。自社の提供がどれにあたるかは目的と実態で判断されるため、具体的な処理は法人税基本通達や国税庁の取扱い、所管の窓口で確認しましょう。
食品ロス削減推進法・食品リサイクル法との位置づけ
フードバンクへの寄付は、二つの法律の枠組みのなかに位置づけられます。食品ロス削減推進法(令和元年10月1日施行)は、食品ロス削減を社会全体で進めるための基本となる事項を定め、事業者には施策への協力と積極的な取組みを努力義務として求めています。国・地方公共団体には、未利用食品を必要な人へ届ける活動が円滑に行われるよう、関係者の連携強化や民間団体への支援が求められています。
もう一つの食品リサイクル法では、食品寄附が食品循環資源の再生利用等を定める同法第9条第1項の定期報告において、発生抑制に関する取組みに含まれます。つまり寄付は、廃棄物を減らす取組みとして報告のうえでも評価される行為です。事業系の食品ロスには2000年度比で2030年度までに削減する目標が置かれ、目標を前倒しで達成したことから、さらに踏み込んだ削減が目指されています。寄付は、こうした削減目標に向けた具体的な打ち手の一つにあたります。なお国は、食品ロス削減総合対策事業の枠組みで、フードバンクの受入能力向上や運営基盤の強化を支援しています。
キーワード解説
フードバンク
食品企業の規格外品などを引き取り、福祉施設やこども食堂、生活困窮者支援の団体へ無償で提供する活動・団体です。食品寄附ガイドラインでは、寄付食品を受け取り輸送・保管して提携先へ提供する者と定義しています。
食品寄附ガイドライン
「食品寄附ガイドライン~食品寄附の信頼性向上に向けて~」の第一版が令和6年12月25日に作成されました。寄付の意義、関係者の役割、対象食品、手続き、保険、関係法律との関係を一本化し、従来の手引きを置き換えた全国共通のよりどころです。
官民協議会
食品寄附ガイドラインを策定した「食品寄附等に関する官民協議会」を指します。行政と民間が連携して、食品寄附の信頼性向上に向けた共通の考え方をまとめる場です。
ファシリテーター
自らは輸配送や保管を持たず、食品寄附者とフードバンク等の間でマッチングを仲介する者です。社会福祉協議会や、こども食堂のとりまとめ団体などが含まれます。
賞味期限
定められた方法で保存した場合に、期待される品質の保持が十分に可能と認められる期限です。過ぎても直ちに安全性を欠き食べられなくなるわけではない点が、消費期限との大きな違いです。
消費期限
期限を過ぎたら食べないほうがよいとされる期限です。消費期限を過ぎた食品や、汚損・破損などで衛生上の問題が生じた食品は、受取先へ譲渡しません。
トレーサビリティ
どこから来た食品をどこへ渡したかをたどれるようにする記録管理です。万一の事故の際の原因究明や回収を支え、寄付の信頼性を担保します。
商品廃棄
社内ルールに従って廃棄予定の食品を処分する行為です。フードバンクへの提供が実質的にこの商品廃棄として行われる場合、提供に要する費用を損金に算入できます。
食品ロス削減推進法
「食品ロスの削減の推進に関する法律」の通称で、令和元年10月1日に施行されました。事業者の努力義務や、未利用食品を届ける活動への国・地方公共団体の支援などを定めています。
食品リサイクル法
「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」の通称です。食品寄附は同法第9条第1項の定期報告において、発生抑制の取組みに含まれます。
いま確認しておきたいこと
まず、自社のどの在庫が寄付の対象になり得るかを洗い出しましょう。規格外品・パッケージ変更品・需給調整の余剰品・備蓄品などが候補で、消費期限や賞味期限が残っていることが前提です。次に、地域で連携できるフードバンクやマッチングを行う仲介団体を探し、受入可能な数量・保管能力・開催日時を確認します。提供を始める前には、対象食品の範囲・品質と衛生の管理・事故時の責任分担を合意書で取り決め、賠償や補償の保険への加入も検討しましょう。
税制の扱いは、提供が商品廃棄にあたるのか、一般の寄附金か、広告宣伝目的かで変わります。自社のケースがどれにあたるかを整理し、損金算入の具体的な処理は法人税基本通達や国税庁の取扱い、所管の窓口でご覧ください。制度や手続きの詳細は、食品寄附ガイドラインや消費者庁・農林水産省の該当ページでご覧いただくと確実です。