農林水産省の「食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢(ろすのん)」(令和7年11月時点版)第1章に相当する部分です。世界的な食料・環境課題の整理から、日本の最新推計(令和5年度)、事業系と家庭系の区分、4業種別の発生構造、過去10年余の推移、推計の手順までを解説します。
概要
食品ロスが引き起こす課題
食品ロスは、単なる「廃棄物の量」の問題にとどまりません。世界人口は国連推計で2022年時点約80億人、2050年には約97億人に達する見込みです。その一方、FAO(国連食糧農業機関)の推計では約7.6億人(世界の約11人に1人)が栄養不足の状態にあり、食料の無駄と飢餓が同時に存在する構図が続いています。
日本は食料を多く輸入に依存し、供給カロリーから見た食料自給率は令和5年度38%で、先進国のなかでは低位です。食品を廃棄するということは、生産・流通で投入したエネルギーや水、労力を無駄にすることでもあります。とくに水分の多い食品は、廃棄物の運搬や焼却の過程で、食品そのもの以外にも余分なCO₂を排出しやすいと整理されています。
自治体の財政面でも負担は大きくなっています。環境省の「一般廃棄物の排出及び処理状況」によれば、市町村におけるごみ処理経費は令和5年度に約2兆円規模です。人口あたりの処理経費も、平成期と比べて増加しており、食品を含む一般廃棄物の抑制は、地域の持続可能なごみ処理の観点からも重要です。
先進国のなかでも食品ロス量が相対的に多い国として、カナダ・アメリカ・イギリス・日本が資料上で比較されています。削減は環境政策・食料安全保障・家計・事業コストのいずれにも効くテーマです。
国際的な目標とSDGsとの接続
2030アジェンダとターゲット12.3・12.5
2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」は、ミレニアム開発目標の後継として、2016年から2030年までの17のゴール・169のターゲットを定めました。食品ロス削減に直結するのが、ゴール12「つくる責任 つかう責任」のターゲット12.3です。
- 12.3:2030年までに、小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失など生産・サプライチェーン上の食料の損失を減少させる。
- 12.5:2030年までに、廃棄物の発生防止・削減・再生利用・再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。
日本の事業系・家庭系の削減目標も、この国際的な流れと整合する形で、食品リサイクル法の基本方針や第四次循環型社会形成推進基本計画などに位置づけられています。
複数ゴールへの「同時達成」効果
食品ロスの削減と食品リサイクルの推進は、ターゲット12.3・12.5だけでなく、他のSDGsにも波及効果があります。資料では次のような接続が示されています。
- ゴール2(飢餓撲滅・栄養不良解消・持続可能な食糧生産):廃棄を減らし、供給された食料を有効活用する。
- ゴール8・9(経済生産性・資源効率・インフラ):食品産業のロス削減は生産性向上と廃棄コスト低減につながる。
- ゴール12.2(天然資源の持続可能な管理)、ゴール13.2(気候変動対策):廃棄・焼却に伴う環境負荷の抑制。
- ゴール17(パートナーシップ):事業者・自治体・NPO・消費者の連携が不可欠。
つまり食品ロス削減は、環境行政・食料行政・産業政策を横断する横断的テーマであり、単独の取組ではなくサプライチェーン全体と国民運動として設計する必要があります。
日本の食品ロス量(令和5年度推計)
農林水産省・環境省・消費者庁は、食品ロス削減の進捗を把握するため、食品ロス量の推計を公表しています。令和5(2023)年度の推計値は次のとおりです。
| 区分 | 食品ロス量 | 備考 |
|---|---|---|
| 合計 | 約464万トン | 事業系と家庭系の合算 |
| 事業系 | 約231万トン | 食品関連事業者(製造・卸売・小売・外食)由来 |
| 家庭系 | 約233万トン | 一般家庭由来 |
総務省の人口推計(2023年10月1日時点)に基づくと、国民1人あたりの食品ロス量は1日あたり約102g、年間約37kgです。資料では「おにぎり約2個分のご飯(1個約50g)」に近い量という目安で示され、抽象的なトン数を身近な単位に置き換えています。
事業系と家庭系がほぼ同量であることは、削減施策を設計するうえで重要です。事業者側の商慣習・在庫管理だけでなく、家庭での購入・調理・食べ残しにも半分の発生源があるため、双方にまたがる国民運動が必要になります。
「食品ロス」と「食品廃棄物等」の違い
統計や制度の話を読むとき、次の用語の区別が混乱しやすいため整理します。
食品ロス
食品ロスとは、国民に供給された食料のうち、本来食べられるにもかかわらず廃棄されている食品を指します。事業系では規格外品・返品・売れ残り・食べ残しなど、家庭系では食べ残し・過剰除去・直接廃棄などが含まれます。
食品廃棄物等(食品リサイクル法)
食品リサイクル法上の食品廃棄物等は、食品の売れ残りや食べ残し、製造・加工・調理過程の残さなど、より広い概念です。有価物(大豆ミール、ふすまなど飼料・肥料原料として出る部分)や不可食部分も含みます。令和5年度の事業系食品廃棄物等は1,426万トンで、そのうち可食部としての食品ロスが231万トンです。
家庭系廃棄物
家庭から出る食品関連廃棄物は、廃棄物処理法上の家庭系廃棄物として把握されます。令和5年度の家庭系廃棄物は678万トン(減量処理前)で、そのうち可食部としての食品ロスが233万トンです。
したがって「464万トン」は、事業系231万トン+家庭系233万トンの可食部の合計であり、1,426万トンや678万トンとは別の指標です。削減目標の議論では、どの定義・どの年度の推計を指すかを揃える必要があります。
事業系の業種別内訳
事業系食品ロス231万トンは、食品製造業・食品卸売業・食品小売業・外食産業の4業種に分けて推計されます。令和5年度の内訳は次のとおりです(四捨五入により合計と一致しない場合があります)。
| 業種 | 食品ロス(可食部) | 構成比 | 主な内容(資料上の例) |
|---|---|---|---|
| 食品製造業 | 108万トン | 47% | 規格外品、返品、製造過程のロス |
| 外食産業 | 66万トン | 29% | 食べ残し、調理・提供過程のロス |
| 食品卸売業 | 48万トン | 21% | 納品期限切れ、返品 |
| 食品小売業 | 9万トン | 4% | 売れ残り、販売期限切れ |
一方、食品廃棄物等1,426万トン(有価物・不可食含む)では食品製造業が85%(1,210万トン)を占めます。製造段階ではふすま・おからなど有価物として出る量が大きく、廃棄物等の総量と食品ロス(可食部)の業種構成は一致しません。ロス削減の議論では「どの業種の可食部を減らすか」と「有価物の有効利用・リサイクル」を分けて考える必要があります。
事業系食品ロス量の推移(平成24~令和5年度)
事業系食品ロス量は、平成24(2012)年度以降、おおむね減少傾向です。総量は平成24年度の331万トンから、令和4(2022)年度236万トン、令和5(2023)年度231万トンへと低下しています。令和5年度は4業種すべてで前年比減少しています。
業種別の推移(万トン、資料グラフより)の要点は次のとおりです。
- 食品製造業:平成24年度141 → 令和5年度108。一時増減はあるが全体として減少。
- 食品卸売業:13前後から令和5年度9へ。
- 食品小売業:50~67前後で推移し、令和5年度48。
- 外食産業:119~133前後から令和5年度66へ。コロナ禍の需要変動の影響も受けた期間を含む。
2019年7月の食品リサイクル法基本方針で設定された「2000年度比2030年度までに半減」は、2022年度(令和4年度)に前倒し達成しています(詳細は食品リサイクル法の概要と削減目標の解説)。その後も、新たな60%削減目標に向けた取組が続いています。
食品ロス量の推計方法
464万トンという数字は、事業系と家庭系で推計手法が異なります。政策の評価や比較を行う際は、データの出所と前提を理解しておくことが重要です。
事業系(農林水産省)
- 食品リサイクル法に基づく定期報告および統計調査の結果から、食品産業全体の食品廃棄物等の年間発生量を試算する。
- 定期報告者へのアンケートで得た可食部割合を、上記の発生量に乗じ、可食部(=食品ロス)の量を推計する。
家庭系(環境省)
- 環境省が毎年、市区町村を対象に行う食品廃棄物・食品ロスの発生状況アンケートの結果から、家庭由来の食品ロス量を試算する。
- 食品ロス量を把握していない市区町村については、把握している自治体の「食品ロス量÷食品廃棄物量」の平均割合を、その自治体の食品廃棄物量に乗じて推計する。
- 上記1と2を合算し、家庭系食品ロス量とする。
最終的な全国の食品ロス量は、事業系推計と家庭系推計を合算した値です。年度ごとの公表値の変動には、調査回答の充実、コロナ禍の外食・小売への影響、事業者の取組進展などが反映されます。
キーワード解説
食品ロス
仍可食の食品が廃棄されること。事業系・家庭系に分けて推計され、削減目標の議論の中心指標です。
SDGsターゲット12.3
2030年までに小売・消費レベルでの食料廃棄の半減と、サプライチェーン上の食料損失の減少を掲げる国際目標です。