イノシシやシカの被害に悩み、防護柵だけでなく捕獲まで自分で踏み込みたいと考えたとき、出発点になる資格が狩猟免許です。この記事では、4種類の免許の違いと農家に多いわな猟の位置づけ、受験資格、試験の中身、金額を確認できた費用、取得後に必要な狩猟者登録、そして市町村による取得支援までを、農家・農業法人・JA・自治体農政担当の視点で解説します。

概要

項目内容
誰が農作物の獣害に悩む農家・農業法人、捕獲の担い手を増やしたいJA・自治体農政担当
何を狩猟免許4種類の違いと選び方、受験資格、試験の内容、取得後の手続き、取得支援
費用試験手数料は1種類につき5,200円。診断書代・予備講習の受講料などは都道府県や実施主体で異なります
申込先住所地の都道府県の狩猟免許担当窓口。試験は毎年複数回実施されます
次の一歩都道府県の試験日程を調べ、市町村の農政担当課に助成の有無と被害防止の枠組みを尋ねる

狩猟免許とは

狩猟免許は、網・わな・銃といった法定猟具を使って狩猟鳥獣を捕獲するために必要な資格です。鳥獣保護管理法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)に基づき、都道府県知事が実施する狩猟免許試験に合格すると取得できます。狩猟の対象となる狩猟鳥獣は鳥類26種類・獣類20種類の計46種類で、農業被害の大きいイノシシやニホンジカも含まれます。

狩猟ができる期間は決まっており、北海道以外では11月15日から翌年2月15日まで、北海道では10月1日から翌年1月31日までです。この期間以外に農地の被害防止のために捕獲する場合は、狩猟ではなく都道府県や市町村の許可を受けて行う許可捕獲の枠組みになります。どちらの道に進むにも、まず免許の取得が実務の起点です。

狩猟免許の4種類と選び方

免許は使う猟具ごとに4種類に分かれ、種類ごとに受験します。複数を同時に受験することもできます。

免許の種類使える猟具受験できる年齢向いている人
網猟免許むそう網・はり網・つき網・なげ網18歳以上カモ類など鳥の捕獲に取り組む人
わな猟免許くくりわな・はこわな・はこおとし・囲いわな18歳以上自分の農地周りでイノシシ・シカ・アライグマなどを捕る農家
第一種銃猟免許散弾銃・ライフル銃などの装薬銃20歳以上広域の捕獲活動や止めさしまで担う人
第二種銃猟免許空気銃20歳以上鳥類中心に銃猟へ入りたい人

農家の獣害対策はわな猟免許が入り口

農作物被害への対策として取得するなら、まずわな猟免許が現実的です。理由は手続きの軽さにあります。銃は後述する銃刀法の所持許可が別に必要ですが、わなと網は猟具の所持に関する手続きが不要で、免許を取り、狩猟者登録をして、わなを購入または自作すれば狩猟を始められます。箱わな・くくりわなはインターネットでも購入できます。

一方で規制もあります。一度に使えるわなは30個までで、くくりわなにはワイヤーの直径などの規格があり、都道府県が独自の規制を上乗せしている場合もあります。また、わなにかかった獣は最後に止めさしが必要で、危険を伴います。先輩猟師や地域の猟友会から方法を学んだうえで始めるのが安全です。

受験資格と欠格事由

年齢の要件は、網猟・わな猟が18歳以上、第一種・第二種銃猟が20歳以上です。あわせて、統合失調症、そううつ病、てんかん、麻薬や覚せい剤の中毒でないことを医師の診断書で証明します。すでに猟銃・空気銃の所持許可を持っている人は、許可証の写しで診断書に代えられます。診断書のほかに、申請書と写真(縦3cm×横2.4cm、申請前6か月以内に撮影したもの)を用意します。

試験の内容と申込先

申込先は住所地の都道府県の狩猟免許担当窓口で、試験は都道府県ごとに毎年複数回実施されます。試験は知識試験・適性試験・技能試験の3つで構成され、すべてに合格すると都道府県知事から狩猟免状が交付されます。

  • 知識試験:30問・90分で、正答率70%以上が合格基準です。鳥獣保護管理法などの法令、猟具の知識、鳥獣の生態、個体数管理から出題されます。
  • 適性試験:視力・聴力・運動能力を審査します。視力はわな猟・網猟が両眼0.5以上、銃猟が両眼0.7以上かつ片方の眼で0.3以上です。聴力は補聴器の使用が認められます。
  • 技能試験:減点方式で70%以上の得点が合格基準です。猟具の取り扱いと狩猟鳥獣かどうかの判別を行い、銃猟では距離の目測も課されます。

試験対策には、都道府県の猟友会が開く予備講習が役立ちます。テキストや例題集が配られ、技能試験で使う実物のわなや銃に触れられるため、初めての受験なら受講を前提に日程を組むのが堅実です。

取得にかかる費用

金額が全国共通で決まっているのは試験手数料で、1種類につき5,200円、2種類同時に申請する場合は10,400円です。これに加えて、医師の診断書の発行費用(環境省は5,000円程度と試算しています)、予備講習の受講料、写真代などがかかります。診断書代は医療機関ごとに、予備講習の受講料は都道府県・実施主体ごとに異なるため、受験する都道府県の案内と地元猟友会の案内をご覧ください。

銃猟に進む場合は負担が大きくなります。環境省の試算では、銃本体と弾の費用を除いても、免許試験から所持許可・保管設備までで空気銃は93,500円以上、散弾銃などの猟銃は144,800円以上かかります。わな猟であれば、免許取得までの費用は試験手数料と診断書代、任意の予備講習の受講料が中心で、銃猟より大幅に抑えられます。

免許取得後に必要な手続き

狩猟者登録と狩猟税

免許を取っただけでは狩猟はできません。狩猟をするには、出猟する都道府県ごとに毎猟期の狩猟者登録を行い、狩猟税を納め、3,000万円以上の損害賠償保険または共済に加入します。登録手数料は1,800円で、都道府県により異なる場合があります。狩猟税は第一種銃猟が16,500円、第二種銃猟が5,500円、わな猟・網猟が8,200円です。県民税の所得割を納めていない人は、第一種銃猟が11,000円、わな猟・網猟が5,500円に下がります。登録すると狩猟者登録証・狩猟者記章と、狩猟できる場所がわかるハンターマップが交付されます。

許可捕獲と実施隊への参加

農地の被害防止が目的なら、狩猟者登録をして猟期に狩猟をする道のほかに、都道府県や市町村の許可に基づく許可捕獲に参加する道があります。鳥獣被害防止特措法(鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律)に基づき、市町村は被害防止計画を作成し、捕獲などを実行する鳥獣被害対策実施隊を設置しています。免許を取ったら市町村の農政担当課に相談し、地域の捕獲体制のどこで活動するかを決めるのが実務的です。捕獲は対策の一つの柱であり、侵入防止柵や生息環境管理との組み合わせ方は鳥獣被害対策の3つの柱の解説を、捕獲した個体を地域資源として生かす方法はジビエ活用と処理施設の解説をご覧ください。

銃猟を選ぶ場合の銃刀法の手続き

銃猟免許に合格しても、それだけでは銃を持てません。日本では銃刀法(銃砲刀剣類所持等取締法)により銃の所持が原則禁止されており、狩猟免許とは別に、警察を窓口とする所持許可を受けます。満20歳以上であること、猟銃等講習会の考査に合格すること、猟銃では射撃教習を受けることが必要で、警察による調査も行われます。申請には医師の診断書、市町村発行の身分証明書、住民票を使います。許可後も、自宅に専用のガンロッカーを備えて保管し、所持許可は3年ごとに更新します。手続きが多段階になるため、銃猟を目指す場合は狩猟免許試験と並行して、早めに所轄警察署へ相談を始めるのが近道です。

農家への取得支援と相談先

捕獲の担い手不足は全国共通の課題で、国は鳥獣被害防止総合対策交付金により、地域協議会・地方公共団体・民間団体等が行う被害対策の取組や施設整備を定額または2分の1以内等で支援しています。採択には市町村の被害防止計画の作成が要件です。こうした枠組みのもと、市町村によっては狩猟免許の試験手数料や講習の費用への助成を独自に設けています。助成の有無・対象・金額は市町村ごとに異なるため、受験を決める前に市町村の農政担当課や地域の協議会に尋ねるのが確実です。

実施隊への参加も選択肢になります。実施隊は市町村が被害防止計画に基づいて設置する捕獲などの実行部隊で、設置状況は農林水産省が公表しています。免許を取った農家が隊員として地域の捕獲を担う例は多く、JAや自治体が受験希望者を取りまとめて予備講習や試験の情報を案内すると、担い手づくりが進めやすくなります。

よくある質問

自分の畑に置くわなにも狩猟免許が必要ですか

原則として、くくりわなや箱わなで狩猟鳥獣を捕獲するには免許が必要です。ただし囲いわなは、農業者または林業者が事業に対する被害を防止する目的で設置するものは法律上の猟具から除かれます。自分の農地での被害防止であれば、囲いわなはこの例外に当たり得ますが、捕獲そのものの許可が別に必要な場面もあるため、設置前に市町村の窓口に相談してください。

わな猟免許の試験は難しいですか

合格基準は知識試験・技能試験とも70%以上の得点で、適性試験は基準をすべて満たせば合格です。出題範囲は法令・猟具・鳥獣の生態などに決まっており、猟友会の予備講習でテキストと例題集を使って準備すれば、農業者が働きながら十分に到達できる水準です。

取得から狩猟開始までに費用はどのくらいかかりますか

わな猟の場合、免許取得までは試験手数料5,200円に診断書代と任意の予備講習の受講料を加えた金額が目安です。実際に猟期に狩猟をするには、狩猟者登録の手数料1,800円と狩猟税8,200円(県民税の所得割を納めていない人は5,500円)、保険料、わなの購入費が加わります。診断書代や受講料は都道府県・医療機関ごとに異なります。

狩猟免許に有効期間はありますか

狩猟免許は一度取れば終身有効という資格ではなく、有効期間の満了前に都道府県へ更新の申請をします。期限と更新手続きの日程は、免許を受けた都道府県の案内をご覧ください。なお銃の所持許可は狩猟免許とは別に3年ごとの更新が必要です。

次の一歩

まず、住所地の都道府県の狩猟免許担当窓口で今年度の試験日程と申請期間を調べましょう。試験は年に複数回あるため、直近の回に間に合わなくても次の回を狙えます。並行して、市町村の農政担当課に免許取得への助成の有無、実施隊や許可捕獲の体制を尋ね、取得後にどこで活動するかまで描いておくと、免許が被害の減少に直結します。受験を決めたら、地元猟友会の予備講習に申し込み、医師の診断書と写真の準備を進めてください。

キーワード解説

狩猟者登録

狩猟免許を持つ人が実際に狩猟をするために、狩猟をしようとする都道府県ごとに行う登録です。狩猟税の納付と3,000万円以上の損害賠償保険または共済への加入が必要で、登録すると狩猟者登録証・記章・ハンターマップが交付されます。

狩猟税

狩猟者登録の際に都道府県に納める税金です。第一種銃猟16,500円、第二種銃猟5,500円、わな猟・網猟8,200円で、県民税の所得割を納めていない人には軽減された税率が適用されます。

許可捕獲

猟期に行う狩猟とは別に、農林業被害の防止などの目的で都道府県や市町村の許可を受けて行う捕獲です。市町村の被害防止の取組はこの枠組みで動くことが多く、参加の窓口は市町村の農政担当課です。

鳥獣被害対策実施隊

鳥獣被害防止特措法に基づき、市町村が被害防止計画に沿って設置する実行部隊です。捕獲や防護柵の設置など現場の対策を担い、設置状況は農林水産省が都道府県別に公表しています。

予備講習

狩猟免許試験の前に都道府県の猟友会が開く試験対策の講習会です。テキストや例題集を使って知識試験・技能試験に備えられます。受講は任意で、受講料は実施主体ごとに異なります。

鳥獣被害防止総合対策交付金

農林水産省が地域協議会・地方公共団体・民間団体等の鳥獣被害対策を支援する交付金です。交付率は定額または2分の1以内等で、市町村の被害防止計画の作成が採択の要件です。