トラクターやコンバインを購入した年に、取得価額の全額をその年の経費にすることはできません。農機は減価償却の対象となり、法定耐用年数にわたって少しずつ必要経費に配分していきます。個人の農家は原則として定額法で計算するため、仕組みさえ押さえれば毎年の償却費は簡単に求められます。本記事では、農業用機械の耐用年数7年の根拠、定額法による計算例、中古農機の耐用年数の出し方、金額の小さい農機具の特例までを国税庁の一次情報に基づいて解説します。

概要

項目内容
農業用機械の法定耐用年数機械及び装置「農業用設備」として7年
個人の償却方法届出をしない場合は定額法。7年の償却率は0.143
中古農機の耐用年数簡便法で短縮でき、最低2年
10万円未満の農機具全額をその年の必要経費に算入
20万円未満の農機具一括償却資産として3年で均等償却
30万円未満の農機具青色申告者は年合計300万円まで全額経費にできる特例あり

減価償却とは

減価償却とは、機械や建物のように長く使う資産の取得価額を、購入した年に一度に経費へ計上するのではなく、使用できる期間にわたって分割して必要経費にしていく仕組みです。国税庁タックスアンサーNo.2100は、減価償却資産の取得に要した金額を、その資産の使用可能期間の全期間にわたり分割して必要経費としていくべきものと位置づけています。

対象となるのは、業務に使う資産のうち、使用可能期間が1年以上で、かつ取得価額が10万円以上のものです。トラクター、コンバイン、田植機、乾燥機などの農業用機械はほぼすべてこれに該当します。逆に、使用可能期間が1年未満のものや取得価額が10万円未満のものは、減価償却をせずに、使い始めた年に全額を必要経費にします。

毎年の償却費を計算する基準になるのが法定耐用年数です。資産の種類ごとに財務省令で年数が定められており、実際に何年使うかとは関係なく、この年数で取得価額を配分します。

農機の法定耐用年数

トラクターやコンバインなどの農業用機械は、耐用年数表の「機械及び装置」のうち「農業用設備」に区分され、法定耐用年数は7年です。国税庁の確定申告書等作成コーナーに掲載されている耐用年数表でも、農業用設備は7年と明記されています。検索でよく見かける「農業用機械 耐用年数 7年」の根拠はこの区分です。

一方、農作業に使う車でも、ナンバーを取得して運搬に使う軽トラックやトラックは「車両・運搬具」として別の年数を適用します。主な区分は次のとおりです。

資産の区分主な例法定耐用年数
機械及び装置(農業用設備)トラクター、コンバイン、田植機、乾燥機など7年
車両・運搬具のうち小型車(総排気量0.66リットル以下)軽トラック4年
車両・運搬具のうち貨物自動車(ダンプ式以外)普通トラック5年

どの区分に当たるか迷う資産がある場合は、国税庁の耐用年数表で実際の区分をご覧ください。

定額法による計算例

個人の農家が償却方法の届出をしていない場合、法定の償却方法である定額法で計算します。定額法の償却費は次の式で求めます。

償却費の額 = 取得価額 × 定額法の償却率

国税庁の償却率表では、耐用年数7年の定額法償却率は0.143です。たとえば取得価額350万円の新品トラクターを購入した場合、毎年の償却費は次のようになります。

350万円 × 0.143 = 50万500円

毎年約50万円ずつ、7年かけて取得価額を必要経費に配分していく計算です。年の途中で使い始めた場合は、その年に使用した月数に応じた月割で計算します。たとえば7月から使い始めたなら、初年分は50万500円 × 6か月 ÷ 12か月 = 25万250円です。

なお、定率法を選びたい場合は、その年の3月15日までに所轄の税務署長へ届出や変更の申請をする必要があります。

中古農機の耐用年数

中古のトラクターや農機を購入した場合は、新品の法定耐用年数をそのまま使うのではなく、購入後に使用可能な年数を見積もって耐用年数にできます。ただし使用可能期間の見積もりは実務上難しいため、多くの場合は簡便法という計算方法を使います。国税庁タックスアンサーNo.5404が示す簡便法の計算は次のとおりです。

  • 法定耐用年数の全部を経過した資産:法定耐用年数 × 20%
  • 法定耐用年数の一部を経過した資産:(法定耐用年数 − 経過年数)+ 経過年数 × 20%

計算結果に1年未満の端数が出たときは切り捨て、2年に満たない場合は2年とします。

具体例で確認します。新車登録から3年経過した中古トラクターを購入した場合、法定耐用年数は7年なので、(7年 − 3年)+ 3年 × 20% = 4.6年となり、端数を切り捨てて耐用年数は4年です。取得価額200万円なら、定額法償却率0.250を使って毎年の償却費は200万円 × 0.250 = 50万円になります。

製造から8年経過し、法定耐用年数7年の全部を経過した中古トラクターなら、7年 × 20% = 1.4年となり、2年未満のため耐用年数は2年です。取得価額80万円なら、償却率0.500で毎年40万円ずつ、2年で償却を終えられます。新品より短い期間で経費化できるため、課税所得を早く圧縮したい場合に中古農機は有利に働きます。

少額の農機と一括償却の特例

金額の小さい農機具には、通常の減価償却によらず早く経費にできる仕組みが3つあります。

第一に、取得価額が10万円未満のもの、または使用可能期間が1年未満のものは、減価償却をせずに、業務で使い始めた年に全額を必要経費に算入します。刈払機や小型の管理機などが該当しやすい区分です。

第二に、取得価額が10万円以上20万円未満の資産は、一括償却資産として取得価額の3分の1ずつを3年間にわたり必要経費にできます。耐用年数7年で償却するより大幅に早く経費化できます。

第三に、青色申告をしている中小企業者等には、取得価額30万円未満の資産を使い始めた年に全額経費にできる特例があります。年間の合計額300万円が上限です。国税庁タックスアンサーNo.2100では、平成18年4月1日から令和8年3月31日までの間に取得した資産が対象です。この適用期限は税制改正のたびに見直されてきたため、これから取得する場合は国税庁タックスアンサーで最新の取扱いをご覧ください。

青色申告との関係

30万円未満の特例を使えるのは青色申告者だけです。白色申告の場合、10万円以上の農機具は原則どおり耐用年数で償却するか、20万円未満なら一括償却資産にするかの選択になります。中古農機や小型機械をこまめに買い足す経営ほど、青色申告にしておく節税効果は大きくなります。青色申告には最高65万円の特別控除や赤字の繰越しなどの利点もあるため、まだ白色申告の方は農業の青色申告の記事で全体像を押さえておくと判断しやすくなります。

また、減価償却費は実際の支出を伴わずに所得を減らせる経費なので、農業所得の計画づくりに直結します。大型機械の更新時期と所得の波をそろえる、簡便法で中古機の償却を前倒しするなど、申告方法と組み合わせた設計が経営の手取りを左右します。

よくある質問

トラクターの耐用年数は何年ですか

新品の農業用トラクターは、機械及び装置の「農業用設備」に区分され、法定耐用年数は7年です。コンバインや田植機、乾燥機などの農業用機械も同じ区分です。

中古トラクターを買った場合の償却はどうなりますか

簡便法で耐用年数を計算できます。3年落ちなら(7−3)+3×20%=4.6で4年、法定耐用年数を全部経過した機体なら7×20%=1.4で最低年数の2年です。新品の7年より短い期間で経費化できます。

10万円未満の農機具はどう処理しますか

減価償却は不要で、業務で使い始めた年に全額を必要経費に算入します。10万円以上でも、20万円未満なら3年均等の一括償却、青色申告者なら30万円未満まで全額経費にできる特例があります。

償却方法を定額法から定率法に変えられますか

変更できます。変更しようとする年の3月15日までに、所轄の税務署長へ申請書を提出して承認を受ける手続きが必要です。届出をしていない場合の法定の方法は定額法です。

次の一歩

農機の減価償却を理解したら、次は経営全体の税務設計に進みましょう。まだ白色申告の方は、30万円未満の特例や65万円控除が使える農業の青色申告から着手するのが近道です。経営規模が大きくなり、法人としての償却や節税も視野に入る段階なら農業の法人化の記事が参考になります。そもそも大型機械を所有するべきか迷っている方は、姉妹記事の農機のリースと購入の比較で、減価償却とリース料のどちらが自分の経営に合うかを検討してみてください。個別の判断に迷う場合は、国税庁タックスアンサーの該当ページや最寄りの税務署、税理士への相談が確実です。

キーワード解説

減価償却

機械や建物など長期間使う資産の取得価額を、購入した年に一度に経費とせず、使用可能期間にわたって分割して必要経費に配分していく会計・税務上の仕組みです。

法定耐用年数

減価償却の計算に使う、資産の種類ごとに財務省令で定められた年数です。実際の使用年数とは関係なく適用され、農業用設備は7年です。

定額法

毎年の償却費が原則として同額になる償却方法で、取得価額に償却率を掛けて計算します。個人が償却方法の届出をしない場合の法定の方法です。

簡便法

中古資産の耐用年数を見積もる簡易な計算方法です。法定耐用年数を全部経過した資産は法定耐用年数の20%、一部経過した資産は残存年数に経過年数の20%を加えた年数とし、最低2年です。

一括償却資産

取得価額10万円以上20万円未満の資産について、耐用年数によらず取得価額の3分の1ずつを3年間で必要経費に算入できる制度の対象資産です。