会社(一般法人)で農業に参入したいとき、まず気になるのが「自社で農地を持てるのか」です。結論から言えば、一般法人は農地を所有できず、農業に参入するときは農地を借りる(リース)のが原則です。所有まで踏み込むには、農地所有適格法人になるか、構造改革特別区域計画に基づく特定法人による農地取得事業という特例を使う道があります。この記事では、一般法人が農地を借りる・買うそれぞれの条件と、企業が農地を取得できる特区の仕組み、養父市での実績、いま進んでいる制度の評価までを、農地法と内閣府・農林水産省の資料をもとに整理します。細かな運用は市町村や区域計画によって異なるため、最終確認は農業委員会・市町村と一次情報でお願いします。

概要

項目内容
対象となる方 会社(一般法人)で農業に参入したい方、農地を所有したい法人
農地の所有 一般法人は不可。所有できるのは農地所有適格法人など
農地の貸借 一般法人でも可。解除条件付きで全国どこでも借りられる(平成21年改正)
所有する方法 農地所有適格法人になる、または構造改革特区の特定法人による農地取得事業を使う
特区の特例 市町村の区域計画に基づき一般法人が所有権を取得。養父市で先行、令和5年9月に構造改革特区へ移行
相談先 市町村の農政担当・農業委員会、都道府県、農地バンク(農地中間管理機構)

会社は農地を買えるのか

農地法では、農地を売買・貸借するときに農業委員会などの許可が要ります。このとき、農地を「所有」できる法人は農地所有適格法人などに限られており、それ以外の一般法人には所有権の取得が認められていません。つまり、株式会社を設立して「農地を買って農業をする」という形は、そのままでは実現できません。

一方で、一般法人でも農地を「借りて」農業に参入する道は全国で開かれています。借りるだけなら農地所有適格法人になる必要はなく、業種を問わず参入できます。まず押さえるべきは、農地は「所有」と「貸借」で扱いがまったく違い、一般法人に開かれているのは原則として貸借だという点です。所有にこだわらなければ、借りて営農を始めるのが最も現実的な選択になります。

農地を借りて参入する方法

平成21年の改正農地法で、リース方式による企業の農業参入が全面的に自由化されました。これにより、一般法人でも解除条件付きの貸借であれば、全国どこでも農地を借りて農業に参入できます。借りられる期間は最長50年です。参入できる区域に制限はなく、農業以外の業種の会社でも利用できます。

一般法人が貸借で農地の権利を取得するには、次の3つをすべて満たすことが求められます。

  • 農地を貸し借りする法人と所有者の間で、解除条件付きの契約を結ぶこと。農地を適正に利用しない場合に貸借を解除できる条件を付けます。
  • 地域における適切な役割分担のもとに、継続的かつ安定的に農業経営を行うこと。
  • 業務執行役員または重要な使用人のうち1人以上が、耕作などの事業に常時従事すること。

借りる農地の探し方や手続きは、市町村の農業委員会と、農地の貸し借りを仲介する農地バンク(農地中間管理機構)が窓口になります。農地の集め方や借り方の流れは農地バンク(農地中間管理機構)で農地を借りる方法の解説で確認できます。

農地を所有する方法

それでも自社で農地を所有したい場合は、農地所有適格法人になるのが原則的な道です。農地所有適格法人は、次の4つの要件をすべて満たす法人です。要件を満たせば、一般の農家と同じように農地の売買・貸借の許可を受けて農地を所有できます。

  • 法人形態が、株式会社(公開会社を除く)・農事組合法人・持分会社のいずれかであること。
  • 事業内容として、売上高の過半が農業(自ら生産した農産物の加工・販売などを含む)であること。
  • 議決権について、農業関係者が総議決権の過半を保有していること。
  • 役員について、役員の過半が農業に常時従事し、かつ役員または重要な使用人の1人以上が農作業に常時従事すること。

農業以外を主たる事業とする会社は、議決権や売上高の要件を満たしにくいため、農地所有適格法人になれないことが少なくありません。法人を設立して農業経営を始める全体の進め方や、適格法人の作り方は農業法人の設立・法人化の解説で確認できます。

一般法人が農地を持つ三つの道

ここまでの「借りる」「農地所有適格法人になる」に、後述する特区の取得特例を加えると、一般法人が農地に関わる道は三つに整理できます。自社が所有までしたいのか、借りて営農できれば十分なのかで、選ぶ道が変わります。

比べる点借りる(リース参入)農地所有適格法人になる特区の取得特例
農地の権利貸借(借りる)所有所有
使える法人一般法人も可農地所有適格法人一般法人(特定法人)
使える場所全国どこでも全国どこでも区域計画の認定を受けた市町村
主な条件解除条件付き契約・地域での役割分担・役員等1人以上が常時従事議決権・役員など4要件を満たす市町村が買い上げ転売・不適正利用時の所有権移転契約など
相談先農業委員会・農地バンク都道府県・農業委員会市町村(区域計画)

企業が農地を取得できる特例 ― 特定法人による農地取得事業

農地所有適格法人になれない一般法人でも、農地の所有権を取得できる例外があります。構造改革特別区域法に基づく特定法人による農地取得事業です。担い手が著しく不足し、遊休農地が増えるおそれのある地域で、法人の農業参入を促して農業を維持する狙いから設けられた農地法の特例です。

仕組みと要件

この特例は、市町村がいったん農地を原所有者から買い上げ、参入する法人(特定法人)に売り渡すことを前提にしています。法人が特例を使って農地を取得するには、主に次の条件を満たすことが求められます。

  • 農地が適正に利用されない場合に、その所有権を市町村へ移転する旨の書面による契約を結ぶこと。
  • 地域の農業における他の農業者との適切な役割分担のもとで、継続かつ安定的に農業経営を行うと見込まれること。
  • 業務執行役員などのうち1人以上が、耕作・養畜の事業に常時従事すること。

この仕組みのねらいは、農地が投機や耕作放棄の対象になるのを防ぎながら、企業の力で担い手不足を補うことにあります。適正に耕作されなくなれば所有権が市町村へ戻るため、農地が農地として使われ続ける歯止めがかかっています。

養父市から構造改革特区への移行

この特例は、もともと国家戦略特区の兵庫県養父市だけで、平成28年9月1日から令和5年8月31日まで実施されていました。区域の要件として「農業の担い手が著しく不足し、遊休農地の著しい増加のおそれがあること」が定められ、政令で養父市が指定されていました。

令和5年9月1日からは、国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律(令和5年法律第20号)の施行に伴い、構造改革特区制度へ移りました。これにより、養父市に限らず、構造改革特別区域計画の認定を内閣総理大臣から受けた市町村であれば、この取得特例を使えるようになりました。企業の農地取得を全国どこでも一律に認める形にはならず、地域を限って区域計画のもとで使う枠組みとして続いています。

養父市での実績

先行した養父市では、この事業により8法人が合計2.13ヘクタールの農地を取得しました(令和5年12月末時点)。これらの法人は、営農のために所有とリースを合わせて約52.4ヘクタールの農地を使い、その結果、約16ヘクタールの遊休農地が再生され、19人が新たに雇用されました。参入した企業は、酒米の生産と日本酒の輸出、ニンニクのブランド化、レタスの水耕栽培、養蚕、リンドウの産地化など、地域の資源を生かした多様な経営に取り組んでいます。

企業参入が耕作放棄地の再生につながったのがこの事業の特徴です。荒れた農地を引き受けて営農を再開する場合には、再生そのものを後押しする支援もあります。荒廃した農地を再び使えるようにする取組と補助は耕作放棄地の再生に使える補助金の解説で確認できます。

会社で農業を始めるときの進め方

自社の状況に合わせて、次の順で検討すると判断しやすくなります。

  1. 自社が農地を所有したいのか、借りて営農できれば十分なのかを決めます。多くの場合は借りて始めるのが現実的です。
  2. 借りて参入する場合は、市町村の農業委員会や農地バンク(農地中間管理機構)に相談し、解除条件付きの貸借で農地を確保します。
  3. 農地を所有したい場合は、農地所有適格法人の4要件を満たせるかを確認します。満たせるなら、適格法人として農地の売買・貸借の許可を受けます。
  4. 適格法人になれず、それでも所有したい場合は、農地のある市町村が特定法人による農地取得事業を区域計画に位置づけているか、または位置づける意向があるかを市町村へ確認します。
  5. 参入した後は、毎年の農業委員会への報告など、農地の権利を持つ法人に共通する義務を守って営農を続けます。

いま確認しておきたいこと

農地所有適格法人とリース法人は、農地法の規定により、毎年、事業年度の終了後3か月以内に、農地の所在する各市町村の農業委員会へ事業の状況などを報告する義務があります。報告を怠ったり虚偽の報告をしたりすると、30万円以下の過料の対象になります。借りて参入する場合も所有する場合も、参入後は毎年の報告が続くことを見込んでおきましょう。

特定法人による農地取得事業そのものも、いま評価の途中にあります。内閣府と農林水産省は令和8年7月に、この特例の効果を把握するための調査を始め、中山間地域を有する市町村や全国の法人・農家から意見を募っています。構造改革特別区域基本方針に基づく評価の一環で、今後の制度のあり方に関わる動きです。特区での農地取得を検討するなら、区域計画に位置づけられているかどうかとあわせて、制度の最新の状況を市町村や内閣府・農林水産省の情報で確認しておくと安心です。

よくある質問

会社は農地を買えますか

一般法人(株式会社など)は、原則として農地を所有できません。農地を所有できるのは農地所有適格法人などに限られます。会社で農業に参入する場合は、農地を借りる(リース)のが基本です。所有したい場合は、農地所有適格法人になるか、構造改革特区の特定法人による農地取得事業という特例を使う必要があります。

一般法人でも借りれば農業ができますか

できます。平成21年の改正農地法で、一般法人でも解除条件付きの貸借であれば全国どこでも農地を借りて農業に参入できるようになりました。契約に解除条件を付けること、地域で適切に役割分担すること、役員などの1人以上が耕作に常時従事することが条件です。農地の借り先は市町村の農業委員会や農地バンクに相談します。

特区の取得特例はどこで使えますか

特定法人による農地取得事業は、構造改革特別区域計画の認定を内閣総理大臣から受けた市町村で使えます。もともとは国家戦略特区の兵庫県養父市だけで実施され、令和5年9月から構造改革特区制度に移りました。使えるかどうかは地域によるため、農地のある市町村に、この事業を区域計画に位置づけているかを確認してください。

農地を借りたり所有したりすると毎年の報告は必要ですか

必要です。農地所有適格法人とリース法人は、農地法により、毎年、事業年度の終了後3か月以内に、農地のある市町村の農業委員会へ事業の状況などを報告しなければなりません。報告を怠ったり虚偽の報告をしたりした場合は、30万円以下の過料の対象になります。

キーワード解説

農地所有適格法人

農地を所有して農業を営むことができる法人です。法人形態(株式会社(公開会社を除く)・農事組合法人・持分会社)、事業内容(売上高の過半が農業)、議決権(農業関係者が過半を保有)、役員(過半が農業に常時従事など)の4要件をすべて満たす必要があります。かつては農業生産法人と呼ばれ、平成28年施行の改正農地法で名称と要件が改められました。

解除条件付き貸借

一般法人が農地を借りて農業に参入するときに用いる貸借の方法です。農地を適正に利用しない場合には貸借契約を解除できる条件を付けることで、農地が荒れたり使われなくなったりするのを防ぎます。平成21年の改正農地法により、この方式での企業参入が全国で全面的に自由化されました。

特定法人による農地取得事業

構造改革特別区域法に基づく農地法の特例で、農地所有適格法人以外の一般法人(特定法人)が農地の所有権を取得できる仕組みです。市町村が農地を買い上げて法人に売り渡すことを前提とし、不適正な利用のときは所有権を市町村へ移転する書面契約などが求められます。国家戦略特区の養父市で先行実施され、令和5年9月に構造改革特区制度へ移行しました。

構造改革特別区域

地域を限って規制の特例措置を認め、地域の実情に応じた活性化を進める区域です。市町村などが作る構造改革特別区域計画を内閣総理大臣が認定すると、その区域で特例を使えます。特定法人による農地取得事業も、この区域計画に位置づけられた市町村で活用できます。