食品産業は、食料の安定供給と国産農林水産物の主要な仕向先、消費者ニーズの生産者への伝達、雇用・付加価値の創出、環境負荷低減など多面的な役割を担います。本記事では、令和6年度食料・農業・農村白書第4章「食料安全保障の確保のための持続的な食料システム」第1節「食品産業の健全な発展」に沿い、競争力強化から流通合理化、規格・認証までを整理します。
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が | 食品製造業・関連流通業・外食産業の事業者、卸売市場、荷主・物流事業者。国は農林水産省が、経済産業省・中堅・中小企業庁等と連携して支援します。 |
| 何を | 国内生産額・労働生産性の動向、AI・ロボット等による生産性向上、事業承継、国産原材料利用、フードテック、流通合理化、卸売市場の物流機能強化、JAS・国際規格の活用などです。 |
| いつまでに | 各施策は継続的な取組です。令和6(2024)年4月にロボット等の先端技術導入ガイドラインを策定、同年7月に特定農産加工業経営改善等臨時措置法が施行、令和7(2025)年の大阪・関西万博で先端技術の発信を予定しています。 |
| いくら | 本節は補助金の交付制度の整理ではなく動向の整理です。主要数値は、食品産業国内生産額105兆8千億円(令和5年)、食品製造業労働生産性7,105千円/人、流通合理化認定296件(令和6年度)などです。 |
食品産業の競争力の強化
第1節では、食品産業の競争力強化、食品流通の合理化、規格・認証の活用の3つの柱で動向を整理しています。
食品産業の国内生産額は近年おおむね横ばいで推移し、令和5(2023)年は外食支出の回復等により前年比8.7%増の105兆8千億円となりました。食品製造業は菓子類・清涼飲料の増加等で全体4.4%増、関連流通業は前年比6.9%増の38兆9千億円です。
食品産業は、農業と消費者の間で食料の安定供給を担うとともに、国産農林水産物の主要な仕向先として消費者ニーズを生産者に伝達します。多くの雇用・付加価値を生み出し、環境負荷の低減にも重要な役割を果たしています。
生産性向上と事業承継
令和5(2023)年度の食料品製造業の労働生産性は、設備投資による生産体制の確保や経済回復等により、前年度比7.7%向上し7,105千円/人です(製造業全体は12,340千円/人)。人手不足・人材不足が続く中、生産性向上が急務です。
農林水産省は経済産業省等と連携し、AI・ロボット等の先端技術の研究開発から普及までを総合的に支援します。令和6(2024)年4月に策定した、ロボット等をHACCPに沿った衛生管理の下で導入するためのガイドラインの普及、製造ラインの自動化・省人化機械の導入支援、中堅・中小企業向けのアンケート・ヒアリングによる優良事例の横展開を進めています。
中小企業が大半を占める食品産業では、経営者の高齢化により事業承継の課題を抱える企業が増えています。国内市場の縮小を背景に、世代での廃業や設備更新を控える事業者も見られます。食料は加工を経て消費者に届くものが多く、地域の食文化を反映する加工食品も多いため、食品製造業を次世代につなぐことが重要です。
持続的な食料システムの実現には、国産原材料の利用促進や生産性向上による体質強化・事業継続が重要です。農林水産省は国産原材料への切替えによる新商品開発や産地連携の強化を支援し、地域を先導する食品企業・農林漁業者等が参画するプラットフォームで新たなビジネス創出を促進しています。
農産加工業の支援とフードテック
輸入原材料価格の上昇・高止まりの中、農産加工業者の経営環境は厳しさを増しています。令和6(2024)年7月施行の特定農産加工業経営改善等臨時措置法に基づき、パン・製麺・菓子・大豆加工など原材料価格の上昇が大きかった分野で、調達安定化の取組への支援措置を追加し、国産切替を推進しています(食パンの原材料費計は+18%、豆腐は+29%などの変動例が示されています)。
持続可能な食料供給と多様なニーズへの対応の中、フードテックを活かした新規ビジネスへの関心が世界的に高まっています。「フードテック官民協議会」は令和5(2023)年2月にフードテック推進ビジョンを策定し、植物由来の代替たんぱく質、昆虫食・飼料、ゲノム編集、細胞性食品、食品産業の自動化・省力化、情報技術による健康実現の6分野について課題を工程表化しています。農林水産省はオープンイノベーションとスタートアップ創業の促進、新市場創出の環境整備に取り組み、令和7(2025)年の大阪・関西万博で先端技術を発信する予定です。
食品流通の合理化
食品流通業は売上原価・経費の割合が高く営業利益率が低い状態です。トラック輸送依存のなか、手積み・手降ろしが多く、令和6(2024)年4月からドライバーの時間外労働上限が適用され、対策を講じなければ物流停滞の恐れがある物流の2024年問題が懸念されています。
同年5月に流通業務の総合化・効率化促進法および貨物自動車運送事業法の改正が公布され、荷主・物流事業者等に物流効率化の努力義務が定められます。農林水産省は「物流革新に向けた政策パッケージ」(令和5年6月閣議決定)に基づき、パレット導入・標準化、ICT・ロボットによる省力化・自動化、コールドチェーン整備等を支援しています。青果物・花き・水産物の流通標準化ガイドライン普及、産地と卸のデータ連携、共同物流拠点の整備を進めています。
農林水産大臣を本部長とする物流対策本部の下、官民合同タスクフォースが産地への現地派遣や改善策提案を行っています。大阪・関西万博では「万博メニューでおもてなし」等、府内の飲食・食品事業者と生産者の連携メニュー開発が進んでいます。
流通合理化の進展と現場の取組
農林水産物・食品等の流通合理化に取り組む事業者数は、令和6(2024)年度は前年度比80件増の296件です(流通業務総合化促進法に基づく総合効率化計画、または食品等流通合理化計画の認定件数の累計)。
現場では、九州・四国でかんきつ産地が共同で標準仕様パレット対応の段ボール規格を開発する動き、東北・北陸で生産者団体と鉄道事業者が連携し青森から北陸経由で大阪へ米等を輸送する貨物列車の定期運行、ハム・チーズ・生麺等の「チルド物流研究会」の立ち上げなど、地域・業態を超えた協議が進んでいます。
卸売市場の強化と物流事例
卸売市場は生鮮食料品等を国民に安定的に供給する基幹インフラであり、集分荷・公正な価格形成等の機能を担います。老朽化対策にとどまらず、物流施策全体と調和した標準化・デジタル化に対応した物流機能の強化が必要です。農林水産省はコールドチェーン確保や中継共同物流施設の整備等を支援します。
北海道・東北・北関東で食品スーパーを展開するアークスグループは、グループ間の物流倉庫共同利用、リードタイム延長、前日までの輸送量確定、店舗バックヤードでの受渡し限定(荷下ろし30分以内)などゆとり配送により、ドライバーの1日の労働時間を約12時間から10時間程度へ短縮する効果を得ています。
規格・認証(JAS)の活用
輸出拡大と市場ニーズの多様化に伴い、農林水産省はJAS(日本農林規格)法に基づき、品質だけでなく事業者の取扱方法・生産方法・試験方法等の認証を推進しています。令和6(2024)年度は食品成分に関する試験方法のJASを2規格制定し、既存JASの見直しも行いました。同年11月のJAS普及推進月間ではイベント出展等で認知を高めています。
米国・カナダ・EUなど同等性を相互承認している国・地域では、茶やしょうゆ等の有機食品の輸出が行われています。輸出促進のため、産官学連携でISO規格等の国際規格の制定・活用も進めています。
キーワード解説
JAS(日本農林規格)
Japanese Agricultural Standardsの略で、農林水産物・食品の品質表示や、取扱方法・生産方法・試験方法等について認証する制度です。正式名称は「日本農林規格等に関する法律」に基づく制度です。
HACCP
Hazard Analysis and Critical Control Point(危害要因分析及び重要管理点)のことです。我が国では令和3(2021)年6月から、原則すべての食品等事業者についてHACCPに沿った衛生管理が義務化されています。
フードテック
生産から流通・加工、外食、消費に至る食分野の新技術と、それを活かしたビジネスモデルのことです。農林水産省のフードテック推進ビジョンでは、代替たんぱく質、細胞性食品、自動化・省力化など6分野を整理しています。
物流の2024年問題
令和6(2024)年4月からトラックドライバーの時間外労働に上限が適用され、荷役の手作業が多い食品物流などで、対策を講じなければ停滞の恐れがあるという課題の通称です。流通合理化・共同物流・デジタル化が対応の柱となります。