JA共販をやめて直売所やネットで売れば、手数料を引かれない分だけ手取りが増える。この見立ては、実測データでは半分しか当たっていません。農林水産省の調査では、青果物の小売価格のうち生産者が受け取るのは48.5%です。一方、消費者への直販では販売単価が3割ほど上がるものの、販売価格の28.2%は自分で負担する経費になり、経費を引いた受取額はJA共販の受取価格をむしろ下回りました。この記事では、野菜・果物を作る農家・農業法人に向けて、JA共販と直販それぞれの経費の内訳と手取りの判断軸を、公的調査の実測値だけで整理します。販路ごとの特徴と選び方は販路の選び方の解説をご覧ください。

概要

項目内容
誰向けか JA共販・市場出荷と直販のどちらが手取りを残せるか比べたい野菜・果物の農家・農業法人
生産者の受取 JA共販など4段階流通で小売価格の48.5%、小売業者への直販で78.5%、消費者への直販で販売価格の71.8%(実測の試算値)
JA共販の経費 集出荷団体経費が小売価格の15.0%(選別・包装・運賃・JAの販売手数料など)+卸売市場の卸売手数料5.2%
直販の経費 実測で販売価格の28.2%(消費者直販)。直売所の販売手数料は15〜20%が目安。売れ残りの引き取りと販売の手間も生産者負担
判断の軸 単価の上げ幅(実測で直販は2〜3割高)が経費と手間の増加を上回るか。共販と直販の併用からの開始が現実的

小売価格のうち生産者の手取りは約5割

青果物の小売価格に占める各流通経費等の割合を示す帯グラフと表。小売価格2万8,704円のうち生産者受取価格48.5%、集出荷団体経費15.0%、卸売経費(卸売手数料)5.2%、仲卸経費11.5%、小売経費19.9%で、流通経費の合計は51.5%。
農林水産省「食品流通段階別価格形成調査(青果物調査)」:小売価格に占める各流通経費等の割合

スーパーの店頭で野菜が100円で売られているとき、生産者に残るのは約48円です。農林水産省の直近の食品流通段階別価格形成調査(令和4年度実績、令和6年6月公表)が、JA共販に代表される「集出荷団体→卸売業者→仲卸業者→小売業者」の4段階流通の実測値を公表しています。小売価格2万8,704円(100キログラム当たり・調査対象16品目の平均)の内訳は次のとおりです。

段階小売価格に占める割合(100キログラム当たり金額)
生産者受取価格48.5%(1万3,909円)
集出荷団体経費15.0%(4,298円)=JA段階の選別・包装・運賃・販売手数料など
卸売手数料5.2%(1,485円)
仲卸経費11.5%(3,308円)
小売経費19.9%(5,704円)

流通経費の合計は51.5%です。「中間マージンで5割取られている」と感じる数字ですが、経費には選別・輸送・小分け・店舗運営など、生産者が直販するなら自分で担うことになる仕事の対価が含まれています。

割合は品目で大きく変わります。生産者受取はほうれんそうの60.6%からばれいしょの37.6%まで幅があり、軽くて単価の高い品目ほど受取割合が高く、重くてかさばる品目ほど流通経費の割合が上がる構図です。

JA共販でかかる経費の内訳

JA共販で販売代金から差し引かれる経費は2段階あります。1段目が卸売市場の卸売手数料、2段目がJA段階の経費です。

卸売市場の卸売手数料

卸売手数料は、卸売業者が販売代行の対価として卸売金額から差し引きます。率は市場ごとの業務規程等で定められ、水準の目安は青果8.5%です。かつて全国一律だったこの率(野菜8.5%・果実7.0%)は、平成21年4月の自由化後も広く使われています。実測の卸売手数料1,485円は卸売価格1万9,692円の約7.5%で、この水準に近い値です。

一定規模以上の出荷団体には、卸売業者から出荷奨励金として一部が戻る市場もあります(東京の大田市場青果部で取扱金額の約1%の交付実績)。市場流通の制度そのものは卸売市場法の基本の解説で扱っています。

JA段階の経費

JA段階の経費は、実測では集出荷団体経費として小売価格の15.0%(4,298円)です。ただし、この15.0%がまるごと「JAの取り分」ではありません。含まれるのは次のような費目です。

  • 選別・包装・荷造りの労働費、段ボールなどの資材費
  • 市場までの出荷運送料・積込料
  • 集荷費・検査料・予冷費・保管料
  • JA・上部団体の販売手数料、事業管理費

集出荷団体側の実測では、販売収入2万53円に対して集出荷・販売経費は5,783円、率にして28.8%でした(100キログラム当たり)。

JA自体の販売手数料の率は、JAごと・品目ごとに定款や規程で定められており、全国一律の公的な率はありません。自分の率は、JAの販売精算書(仕切書)か営農経済窓口で確かめられます。精算書では、販売代金から卸売手数料・JAの販売手数料・選果場利用料・運賃などが順に差し引かれます。どの費目が大きいかを自分の数字で把握することが、販路を考える出発点です。

直販でかかる経費の内訳

直販に切り替えると、流通業者に払っていた経費の多くが「自分で払う経費」と「自分でこなす手間」に姿を変えます。実測では、消費者への直販(自営の直売、直売所、ネット販売など)で生産者が負担した販売経費は、販売価格1万8,221円に対して5,140円、率にして28.2%でした。選別・包装・荷造りの労働費や資材費を含む数字です。

販路ごとの主な経費は次のとおりです。

  • 直売所:生産者が値付けし売れた分だけ精算される委託販売が基本。販売手数料は販売額の15〜20%(直売所により10〜25%)で、売れ残りは自分で引き取ります。詳しくは直売所出荷の解説へ。
  • ネット販売:包装資材と配送料(夏場はクール便)が主な経費。産直ECモールの販売手数料は商品代金の19.7〜23%、ネットショップ作成サービスは計6.6%+40円など(2026年7月時点の各社公表値)。始め方は農産物のネット販売の解説へ。
  • 飲食店・スーパーへの直接納品:販売手数料はない代わりに、配送費の負担区分や代金回収の条件を自分で決めます。契約の決め方は飲食店・スーパーとの直接取引の解説へ。

数字に表れない負担も見落とせません。値付け・出品・搬入・顧客対応に使う自分の労働時間は、上の28.2%に含まれない部分があります。経費率に加えて「自分の時間単価」まで含めて見積もると判断を誤りません。

手取り比較の考え方

生産者の出荷先別の販売価格に占める流通経費等の割合を比較した帯グラフ。小売業者への直接販売は生産者受取78.5%・小売経費21.5%、消費者への直接販売は生産者受取71.8%・販売経費28.2%、4つの流通段階を経由した場合は生産者受取48.5%・流通経費51.5%。
農林水産省「食品流通段階別価格形成調査(青果物調査)」:生産者の出荷先別の販売価格に占める流通経費等の割合

手取りは「販売単価 × 売れた数量 − 経費」で決まります。調査の実測値を並べると、この式の中身が販路でどう変わるかが見えてきます。生産者がJA(集出荷団体)に販売した価格を100とすると、小売業者への直販の販売価格は119.7、消費者への直販は131.0で、直販は単価が2〜3割高いことが実測で裏付けられています。一方で、そこから引かれる経費も増えます。

区分 JA共販・市場出荷 消費者への直販 小売業者への直販
販売価格(100キログラム当たり)1万3,909円1万8,221円1万6,649円
JAへの販売価格を100とした比率100.0131.0119.7
生産者が負担する販売経費受取前に控除済み5,140円(28.2%)受取額に含む
経費を引いた生産者受取1万3,909円1万3,081円1万6,649円

この表には読み方の注意が2つあります。

  • JA共販と小売直販の受取額は、生産者自身の選別・包装・荷造りの労働費や資材費を差し引く前の金額。消費者直販の受取額はそれらを差し引いた後の金額
  • 出荷先ごとに品物の規格・品質が同一ではないため、単純な優劣は比較できない(調査自体の注記)

それでも、単価が31%高い消費者直販の受取額(1万3,081円)がJA共販の受取価格(1万3,909円)を下回るという実測は、「直販にすれば手取りが増える」という見立てへの有力な反証です。単価の上げ幅は、経費と手間の増加に相殺されやすいのです。

小売業者への直販は受取額が最も大きく見えますが、販売先の開拓・欠品時の対応・代金回収・配送をすべて自分で担う販路であり、契約条件しだいで結果が大きく変わります。

直販では「売れた分しかお金にならない」ことも効いてきます。JA共販は規格をそろえれば全量を出荷しやすく、代金回収も確実です。実際、生産者の青果物の販売金額のうち集出荷団体向けが66.0%を占め、消費者への直販は11.3%、小売業への販売は6.2%です。国産青果物の7割超(市場経由率72.4%)は今も卸売市場を通っており、共販が販売の土台であり続けているのは、この量の受け皿と回収の確実さによるものです。

手取りを増やしたい場合の現実的な進め方は、共販を土台に残したまま、単価を上げられる品目・規格から直販を併用し、自分の販売経費率と時間を実測しながら比率を調整することです。JAの精算書で共販の経費率を、直販の売上台帳で自分の経費率を把握すれば、この記事の実測値を自分の経営の数字に置き換えられます。

よくある質問

JA出荷をやめて直販にすれば手取りは必ず増えますか

必ず増えるとは限りません。実測では、消費者への直販は販売単価がJAへの販売価格の1.31倍になる一方、販売価格の28.2%が経費として掛かり、経費を引いた受取額はJA共販の受取価格を下回りました。売れ残りのリスクと販売に使う自分の労働時間も直販側に乗ります。単価をどれだけ上げられるか、量をさばけるかで結果が分かれるため、共販と併用しながら自分の数字で確かめるのが安全です。

JAや卸売市場の手数料は何に対して掛かりますか

どちらも販売代金に対して掛かります。卸売市場の卸売手数料は卸売金額に率を掛けて差し引かれ、率は市場ごとの業務規程等で設定されています(例として青果8.5%)。JAの販売手数料もJA・品目ごとに率が定められており、全国一律ではありません。自分の率は、JAの販売精算書か営農経済窓口で確認できます。

直販でも消費税やインボイスへの対応は必要ですか

消費者への直販が中心なら、買い手がインボイスを求めないため登録しない選択が現実的です。無条件委託方式かつ共同計算方式のJA共販は、農協特例により登録・交付とも不要です。飲食店やスーパーなど事業者への販売がある場合は登録の要否を検討します。判断の分かれ目は農業のインボイス対応の解説で、直販の売上と経費の記帳・申告は農業の青色申告の解説で扱っています。

直売所の手数料はどのくらいですか

販売額の15〜20%程度が目安で、直売所により10〜25%の幅があります。年会費や登録料の有無も直売所ごとに違うため、出荷者募集の案内で比べましょう。出荷を始める手順は直売所出荷の解説をご覧ください。

キーワード解説

委託販売

売り手が販売を代行者にゆだね、売れた代金から手数料を差し引いた額を受け取る方式です。JA共販も卸売市場への出荷も直売所への出品も、多くはこの方式で、所有権と売れ残りのリスクは生産者に残ります。

共同計算

一定期間の販売金額をプールし、品目・品質・規格などの区分ごとの平均価格で各生産者に精算するJA共販の仕組みです。日々の相場変動がならされ、収入が安定する一方、市況の山では個人の販売価格が平均に抑えられます。無条件委託方式と併せて、インボイスの農協特例の要件にもなっています。

卸売手数料

卸売市場の卸売業者が販売代行の対価として卸売金額から差し引く手数料です。かつては全国一律(野菜8.5%・果実7.0%)でしたが、卸売市場法の改正により平成21年4月から市場ごとに設定する仕組みになりました。実測では青果物の小売価格の5.2%に相当します。

集出荷団体経費

食品流通段階別価格形成調査で使われる区分で、JAなど集出荷団体の段階で掛かった経費のうち卸売手数料以外のものを指します。選別・包装・荷造りの労働費、包装・荷造材料費、出荷運送料・積込料、集荷費・予冷費・保管料、JAや上部団体の販売手数料・事業管理費などを含み、実測では青果物の小売価格の15.0%です。

まとめ

青果物の小売価格のうち生産者に残るのは48.5%です。直販に切り替えると販売単価は2〜3割上がりますが、消費者直販では販売価格の28.2%が自分の経費になり、経費を引いた受取額はJA共販の受取価格を下回るという実測でした。手取りを左右するのは、単価の上げ幅が増える経費と手間を上回るかどうかです。共販の精算書で自分の経費率を確かめ、単価を上げられる品目から直販を併用して、実測しながら比率を決めていきましょう。販路ごとの特徴と選び方は販路の選び方の解説で整理しています。