食料・農業・農村基本計画は、国がこれから5年・10年の食料と農業の方向を定める計画です。令和7年4月11日に閣議決定された今回の計画では、平時からの食料安全保障を軸に、初動5年間で農業の構造を大きく転換します。この記事では、基本計画とは何か、2025年改定で何が変わったのか、食料自給率などの2030年目標、そして農家や農業法人の経営にどう効くのかを、検索でこの計画にたどり着いた方に向けてわかりやすく整理します。

概要

項目 内容
基本計画とは 食料・農業・農村基本法に基づき、国が食料・農業・農村に関する施策の方向を定める計画です。今回が改正基本法のもとで初めての計画です。
いつ決まったか 令和7年4月11日に閣議決定しました。数値目標の目標年は原則2030年です。
何が変わるか 平時からの食料安全保障を軸に、初動5年で農業の構造を転換します。水田政策は令和9年度から見直し、輸出やスマート農業を強く後押しします。
主な2030年目標 食料自給率(摂取ベース)53%、農地面積412万ha、農林水産物・食品の輸出額5兆円などです。
誰に関係するか 農業経営者、食品・農産物の流通事業者、JA・自治体の農政担当、食料政策に関心のある方です。

食料・農業・農村基本計画とは

食料・農業・農村基本計画は、食料・農業・農村基本法に基づいて国が定める、食料・農業・農村政策の基本方針です。法律が示す理念を、具体的な施策と数値目標に落とし込む「国の中期計画」と考えると分かりやすいです。基本計画はおおむね5年ごとに見直し、情勢の変化に合わせて作り直します。

従来の基本法に基づく政策全般の検証・評価と、今後20年程度を見据えた課題整理を経て、食料・農業・農村基本法は令和6年6月5日に改正・施行されました。今回の基本計画は、この改正基本法のもとでつくられた最初の計画にあたります。令和7年4月11日に閣議決定し、平時からの食料安全保障を実現する観点から、初動5年間で農業の構造転換を集中的に進めます。

新たな食料・農業・農村基本計画のポイント。改正基本法、初動5年の構造転換、食料安全保障の三本柱、食料自給力・収益力・所得向上の目標。
基本計画のポイント(食料安全保障・食料自給力・収益力)(出典:農林水産省・新たな食料・農業・農村基本計画のポイント

2025年改定のポイント

今回の改定でいちばん大きいのは、食料政策の出発点が「食料の量を確保する」から「平時から食料安全保障を確保する」へ移ったことです。需要が減る局面でも国内の供給能力を保ち、農業の持続的な発展と所得向上を同時に目指します。現場に直接効く変更は、次の3点に整理できます。

  • 水田政策の根本的な見直し——水田を対象とした支援は、令和9年度から作物ごとの生産性向上などへの支援へ転換します。米づくりの方も麦・大豆・飼料作物に取り組む方も、支援の受け方が変わります。
  • 輸出を「稼ぐ力」の柱に——コメ輸出では低コストで生産できる輸出向け産地を育て、海外需要の拡大を進めます。輸出額は2030年に5兆円を目指します。
  • スマート農業・大規模化の加速——農地の大区画化、スマート農業技術の導入、農業支援サービス事業者の育成で、生産コストの抜本的な引き下げを後押しします。

これらは別々の施策ではなく、初動5年で農業の構造を転換し、食料自給力と「海外から稼ぐ力」を同時に高めるという一本の方針でつながっています。

食料安全保障

食料の安定的な供給は、国内の農業生産の増大、安定的な輸入の確保、備蓄の確保に、輸出の促進を加えて実現します。食料需要が減少する局面でも供給能力を確保し、農業の持続的な発展とあわせて食料安全保障を確保します。国内生産を土台に、輸入と備蓄でリスクに備え、輸出で需要を取りにいくという四つの組み合わせです。供給が大きく不足する不測時にどう対応するかは、食料供給困難事態対策法で段階的な仕組みが定められています。

あわせて、農業経営の収益力を高め、農業者の所得を向上させるため、農地総量の確保、サスティナブルな農業構造の構築、生産性の抜本的な向上による「食料自給力」の確保と、輸出拡大などによる「海外から稼ぐ力」の強化を進めます。食料自給率の考え方や国際比較をさらに詳しく知りたい方は、日本の食料自給率と国際的な供給構造の解説もあわせてご覧ください。

食料自給力・自給率の目標(2030年)

食料自給力は、農地・人(担い手)・技術・生産資材の四つの要素で支えます。規模や個人・法人などの経営形態にかかわらず、農業で生計を立てる担い手を育成・確保し、農地・水を確保します。地域計画に基づき担い手への農地の集積・集約化を進め、親元就農・雇用就農の促進により49歳以下の担い手を確保します。

生産コストを下げるため、農地の大区画化、情報通信環境の整備、スマート農業技術の導入・DX、農業支援サービス事業者の育成、品種育成、共同利用施設の再編集約・合理化を進めます。生産資材については、国内資源の肥料利用拡大、化学肥料原料の備蓄、主な穀物の国産種子自給、国産飼料への転換を進めます。輸出では、マーケットイン・マーケットメイクの観点から新たな輸出先の開拓、輸出産地の育成、国内外で一貫したサプライチェーンの構築を進めます。

目標年は2030年です。次の表は計画に掲げられた主要な数値目標の抜粋です(左側は基準年・現状の例です)。

分野指標目標(2030年)
食料自給食料自給率(摂取ベース)45%→53%
食料自給食料自給率(国際基準準拠)38%→45%
輸出農林水産物・食品の輸出額1.5兆円→5兆円(米輸出4.6万トン→35万トン)
農地・人農地面積427万ha→412万ha
農地・人49歳以下の担い手数現在水準を維持(2023年:4.8万
環境温室効果ガス削減量(2013年度比)808万→1,176万t-CO2
農村農村関係人口の拡大が見られた市町村数356→630市町村
農村農村地域で創出された付加価値額22兆円
新たな食料・農業・農村基本計画の主な目標・KPI一覧。食料自給力、供給、食料システム、農村振興の指標体系。
主な目標・KPIの体系(出典:農林水産省・新たな食料・農業・農村基本計画のポイント

食料システムと農村の振興

国民一人ひとりが食料を入手できる状態を保つため、食品産業の発展と、環境と調和のとれた食料システムの確立を進めます。物理的・経済的・不測時のアクセスを組み合わせ、関係者の連携による持続的な食料システムを確立します。価格形成や物流の見直しは、農産物の出荷先である食品産業の動きを通じて、生産現場にも影響します。合理的な価格形成を支える法的な枠組みは、食料システム法の解説で詳しく整理しています。

  • 食品産業——原材料調達の安定化、環境・人権・栄養への配慮、コストの明確化と消費者理解の醸成による合理的な価格形成、ラストワンマイル物流・フードバンクなどの取組を進めます。
  • 環境——「みどりGX推進プラン(仮称)」、新たな環境直接支払交付金、クロスコンプライアンス、バイオマス・再生可能エネルギー利用などの循環経済を進めます。
  • 農村——地方みらい共創戦略(2025年夏目途)、農泊・農福連携などの内発型の新事業、生活インフラ、中山間地域の農村RMO・スマート農業・特色ある農業の支援、鳥獣被害対策、多面的機能の発揮を進めます。
食料システムと農村振興の施策。国民一人の食料安全保障、環境負荷低減、地方創生2.0、温室効果ガス削減・農村関係人口・付加価値の目標。
食料システム・農村振興の方向性と目標(出典:農林水産省・新たな食料・農業・農村基本計画のポイント

現場や経営への影響

基本計画は国の方針ですが、施策や予算の前提になるため、現場の経営にも順に効いてきます。立場ごとに、これから確認しておきたい点を整理します。

米づくりの農家・法人の方は、令和9年度からの水田政策の見直しが最大の関心事です。米では、15ha以上の経営体で生産コストを60kgあたり11,350円から9,500円へ下げ、水稲作付15ha以上の面積シェアを3割から5割へ、スマート農業を活用した農地面積を20%から50%へ広げる方向です。年間1,000トン以上を扱う大規模輸出産地は6産地から30産地へ増やします。大区画化やスマート農業、輸出向け産地づくりに支援が向かうため、規模拡大や共同利用、輸出への参加が検討材料になります。

麦・大豆をつくる方は、生産性向上に取り組む経営への支援に重点が移ります。単収は、麦(田)が10aあたり472kgから537kg(14%増)、大豆が169kgから223kg(32%増)を目指します。単収を上げてコストを下げる取組が、今後の支援の前提になります。

野菜・果樹・畜産物・甘味資源作物などの方についても、単収向上などのKPIが品目ごとに設定されます。JA・自治体の農政担当の方は、地域計画に基づく担い手への農地集積、農村関係人口の拡大、付加価値の創出が指標として並ぶため、地域の計画づくりや支援メニューの設計に直結します。

KPIとPDCA

基本計画では、食料自給力の確保、食料の安定的な供給、環境と調和のとれた食料システム、農村の振興など、分野ごとに目標KPIを設定します。食料自給力では、作付面積、担い手への農地集積、スマート農業、品種育成、輸入の多様化、備蓄、輸出・インバウンドなど、農地・人・技術・生産資材の各軸に指標が並びます。

これらの目標と施策の有効性を示すKPIは、毎年達成状況を調査・公表し、食料・農業・農村政策審議会に諮り、客観性・透明性をもって政策評価を行います。そのうえで、PDCAサイクルで施策を見直します。基本計画は一度決めて終わりではなく、毎年の点検で軌道修正していく仕組みです。

2030年目標・KPIの詳細。農地・人・技術、食料自給率、輸出、温室効果ガス、農村関係人口など数値目標。
2030年目標・KPIの詳細(出典:農林水産省・新たな食料・農業・農村基本計画のポイント

よくある質問

食料・農業・農村基本計画とは何ですか

食料・農業・農村基本法に基づき、国が食料・農業・農村に関する施策の方向と数値目標を定める計画です。法律の理念を具体的な施策に落とし込む国の中期計画で、令和7年4月11日に改正基本法のもとで初めての計画が閣議決定されました。

何年ごとに見直されますか

おおむね5年ごとに見直します。あわせて、目標と施策の有効性を示すKPIは毎年調査・公表し、政策審議会に諮ってPDCAサイクルで施策を見直します。5年ごとの作り直しと、毎年の点検の二段構えです。

2025年の改定で何が変わりましたか

平時からの食料安全保障を軸に、初動5年で農業の構造を転換する方針が打ち出されました。現場に効く変更は、令和9年度からの水田政策の根本的な見直し、輸出を「稼ぐ力」の柱に据えること、スマート農業・大規模化の加速の3点です。

自給率の目標はどうなっていますか

2030年の目標として、食料自給率は摂取ベースで45%から53%へ、国際基準準拠で38%から45%へ引き上げます。あわせて農地面積412万ha、農林水産物・食品の輸出額5兆円などの目標を掲げています。

私の経営にはどう関係しますか

基本計画は施策や予算の前提になるため、支援の受け方に効いてきます。米づくりの方は令和9年度からの水田政策の見直し、麦・大豆の方は生産性向上への支援の重点化、JA・自治体の方は地域計画に基づく農地集積や農村の指標が直結します。

キーワード解説

食料・農業・農村基本法

食料・農業・農村に関する施策の基本を定める法律です。令和6年に改正され、食料安全保障の確保などを基本理念とします。政府はこの法律に基づき、食料・農業・農村基本計画を策定します。

食料安全保障

国民が必要な食料を安定的に入手できる状態を指します。本計画では、国内生産・輸入・備蓄に輸出促進を加え、平時からの供給力確保と、物理的・経済的・不測時のアクセスの確保を一体的に進めます。

食料自給力

国内で食料を安定的に生産・供給する力です。農地、担い手(人)、技術、生産資材の四要素で支え、農地総量の確保、担い手の育成、生産性向上、資材の安定供給が柱となります。

担い手

本計画のKPIでは、認定農業者・認定新規就農者(法人等を除く)を指します。49歳以下の担い手数は、2023年の4.8万人水準の維持が目標に掲げられています。

食料システム

生産から流通・消費・廃棄に至る食料の流れ全体を指します。関係者の連携により持続可能なシステムを構築し、環境負荷の低減と多面的機能の発揮を両立させます。

PDCA

Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Act(改善)のサイクルです。基本計画ではKPIの年次公表と政策審議会への諮問を通じ、施策の見直しを行います。

まとめ

食料・農業・農村基本計画は、食料・農業・農村基本法に基づいて国が定める中期計画です。令和7年4月11日に改正基本法のもとで初めての計画が閣議決定され、平時からの食料安全保障を軸に、初動5年で農業の構造を転換します。2030年に向けて、食料自給率(摂取ベース)53%、農地412万ha、輸出5兆円などの目標を掲げています。

現場にとっては、令和9年度からの水田政策の見直し、輸出やスマート農業の後押し、生産性向上への支援の重点化が大きな変化です。目標とKPIは毎年点検して見直されるため、自分の経営や地域がどの指標・支援に関わるかを早めに確かめておくと、これからの判断に役立ちます。