「有機栽培で育てたのだから、有機野菜と書いて売りたい」。その表示には法律上の条件があります。農産物や農産物加工食品に「有機」「オーガニック」と表示して販売するには、JAS法に基づく有機JAS認証を受け、有機JASマークを付けることが義務です。認証を受けずに「有機」と表示することはできません。この記事では、有機JAS認証の取り方を6段階で整理し、費用の考え方、認証までの期間、そして認証を取らない場合にできる表示・できない表示のルールまで、これから有機表示で販売したい農家・農業法人向けに解説します。
概要
有機JAS認証とは
有機JAS認証は、JAS法に基づく有機食品の検査認証制度です。農産物や農産物加工食品に「有機」「オーガニック」と表示して販売するには、この認証を受けて有機JASマークを付けることが法律で義務付けられています。逆にいえば、どれだけ丁寧に無農薬・無化学肥料で栽培していても、認証を受けていない農産物に「有機」「オーガニック」と表示して販売することは禁止です。
認証を行うのは国ではなく、国に登録された登録認証機関です。生産者は自分で機関を選び、その機関の審査を受けて認証を取得します。認証を受けた生産者は、自らの責任で格付を行い、基準に適合した農産物に有機JASマークを付けて出荷します。マークが「第三者の検査を通った有機食品である」という証明になり、消費者はマークを目印に有機食品を選べます。
有機農産物の生産基準
有機JAS認証の前提になるのが、有機農産物の生産基準です。基本は、化学的に合成された肥料および農薬を使用しないことです。そのうえで、は種または植付けの前2年以上にわたり、堆肥等による土づくりを行ったほ場で生産することが求められます。この2年以上の期間が転換期間です。
つまり、慣行栽培から切り替えてすぐに認証を取れるわけではありません。化学合成肥料・農薬の使用をやめ、堆肥等で土づくりを続けた実績を2年以上積んでから、ようやくそのほ場の農産物が有機JASの対象になります。有機表示での販売を目指すなら、認証申請より前に、ほ場単位で転換のスケジュールを立てることが出発点になります。栽培記録や資材の使用記録は審査でも認証後も必要になるため、転換を始めた時点から記帳の習慣をつくっておきましょう。
認証の流れ
認証取得までの手順は、次の6段階で進みます。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1. 認証機関の選択 | 農林水産省の一覧から登録認証機関を選び、料金・対応地域・講習会日程を比較する |
| 2. 講習会の受講 | 認証機関等が開く講習会で、有機JAS制度と生産基準・記録のつけ方を学ぶ |
| 3. 申請書類の作成・提出 | ほ場の状況、生産工程の管理方法、記録の様式などをまとめて認証機関に申請する |
| 4. 書類審査 | 認証機関が申請書類を審査し、生産管理の体制が基準に合うかを確かめる |
| 5. 実地検査 | 検査員がほ場や保管場所を訪れ、書類どおりの管理が行われているかを現地で検査する |
| 6. 判定・認証 | 検査結果をもとに認証機関が判定し、適合すれば認証される |
申請から認証までの期間は2か月〜半年程度が目安です。講習会の開催日程や書類の準備状況、実地検査の時期によって変わるため、出荷したい時期から逆算して早めに動き始めることが大切です。前述のとおり、ほ場の転換期間2年以上は別に必要なので、「転換を始める」「認証を申請する」の2つの時間軸を分けて計画しましょう。
費用の考え方
有機JAS認証の手数料・料金は、国が一律に決めているわけではなく、認証機関ごとに異なります。登録認証機関は国内に約50機関あり、農林水産省が機関の一覧と料金の目安を公表しています。同じ経営内容でも機関によって金額の組み立て方が違うため、候補を2〜3機関に絞り、自分の品目・ほ場数・経営規模を伝えて見積もりを比べるのが確実です。
費用を考えるときは、取得時の一度きりの金額だけでなく、継続的な費用まで含めて見積もることが重要です。認証後は年1回の定期調査を受ける義務があり、その調査にも費用がかかります。つまり有機JAS認証は「取って終わり」ではなく、毎年の維持費用が発生する仕組みです。有機農産物の販売価格や販路の見通しと合わせて、年間の費用を回収できるかという視点で判断しましょう。
認証後の義務
認証を取得した後も、生産者には次の3つの義務が続きます。
- 年1回の定期調査:認証機関による調査を毎年受け、基準に沿った生産管理が続いているかの確認を受けます。継続的な費用が発生します。
- 格付の実施:出荷する農産物が基準に適合するかを自ら判定し、適合したものに有機JASマークを付けます。
- 使用実績の報告:有機JASマークの使用実績を認証機関に報告します。
いずれも生産・出荷の記録が土台になります。資材の購入記録、ほ場ごとの作業記録、出荷とマーク使用の記録を日常的に残す体制をつくれば、定期調査も報告も大きな負担にはなりません。認証の取得を、経営の記録管理を整える機会と捉えるとよいでしょう。
「有機」表示のルール
認証なしでできない表示
認証を受けていない農産物・農産物加工食品に、「有機」「オーガニック」と表示して販売することはできません。「有機栽培」「有機野菜」「オーガニック栽培」など、有機をうたう表示はすべて同様です。直売所やネット販売でも扱いは変わらないため、自分の販売チャネルすべてで表示を点検しましょう。
認証なしでできる表示
では、農薬を使わずに栽培した事実はどう伝えればよいのでしょうか。ここで使えるのが、農林水産省の「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」です。このガイドラインは、節減対象農薬と化学肥料の使用が地域の慣行レベルの50%以下で栽培された農産物を「特別栽培農産物」と位置づけています。農薬を使わない場合は、「節減対象農薬:栽培期間中不使用」と表示する方法を定めています。
かつて使われた「無農薬」という表示は、消費者に「一切の残留がない」といった誤解を与えやすいため、ガイドラインではこの統一的な表示方法に整理されています。有機JAS認証を取らずに栽培のこだわりを伝えたい場合は、特別栽培農産物の表示方法に沿うのが正攻法です。
有機農業への支援策との関係
有機JAS認証の取得や有機農業への転換は、単独で取り組むものではなく、国の支援策と組み合わせて進められます。慣行栽培から有機への切り替えには有機転換推進事業などの支援策があり、転換期間中の経営面の負担を和らげる選択肢になります。また、個々の経営だけでなく地域ぐるみで有機に取り組む動きとして、有機農業の産地づくりも進んでいます。販路や技術指導を地域単位で確保できるため、市町村やJAが旗を振る産地づくりに参加できないかも探ってみましょう。
あわせて、生産工程管理の仕組みづくりという点では国際水準GAPの考え方とも重なります。記録・点検・改善のサイクルは有機JASの生産工程管理と共通するため、両者を一体で整えると経営全体の管理水準が上がります。
よくある質問
認証を受けずに「無農薬」と表示して販売できますか
「有機」「オーガニック」の表示は認証なしでは禁止です。農薬を使わない栽培を伝えたい場合は、特別栽培農産物に係る表示ガイドラインに沿って「節減対象農薬:栽培期間中不使用」と表示する方法があります。
申請から認証までどのくらいの期間がかかりますか
申請から認証まで2か月〜半年程度が目安です。ただし、ほ場はは種または植付け前2年以上の転換期間を経ている必要があるため、慣行栽培からの切り替えでは転換開始からの全体スケジュールで考えましょう。
認証の費用はどの機関でも同じですか
同じではありません。認証は国内に約50ある登録認証機関が行い、手数料・料金は機関ごとに異なります。農林水産省が機関一覧と料金の目安を公表しているので、複数の機関に見積もりを取って比べましょう。
一度認証を取れば、その後の手続きは不要ですか
不要ではありません。認証後も年1回の定期調査を受ける義務があり、継続的な費用が発生します。あわせて、出荷時の格付の実施と、有機JASマークの使用実績の報告も続きます。
加工食品にも有機JAS認証は必要ですか
必要です。農産物だけでなく農産物加工食品も、「有機」「オーガニック」と表示して販売するには有機JAS認証を受けて有機JASマークを付けることが義務です。
次の一歩
有機表示での販売を目指すなら、まず農林水産省の登録認証機関一覧をご覧になり、自分の地域・品目に対応する機関を2〜3つ選んで料金と講習会日程を問い合わせましょう。並行して、有機に切り替えるほ場を決め、化学合成肥料・農薬の使用をやめて堆肥等による土づくりと記録を始めれば、転換期間のカウントが進みます。転換期間中の経営負担には有機転換推進事業などの支援策の活用を検討し、地域の産地づくりの動きがあれば市町村・JAに参加の可否を相談するのが近道です。
キーワード解説
有機JASマーク
有機JAS認証を受けた生産者が、生産基準に適合した農産物・加工食品に付けるマークです。このマークがない農産物・農産物加工食品に「有機」「オーガニック」と表示して販売することは、JAS法で禁止されています。
転換期間
有機農産物の生産基準で求められる、は種または植付け前2年以上の期間です。この間、化学的に合成された肥料・農薬を使用せず、堆肥等による土づくりを行ったほ場であることが、有機農産物の条件になります。
登録認証機関
国に登録され、有機JAS認証の審査・認証を行う機関です。国内に約50機関あり、認証の手数料・料金は機関ごとに異なります。農林水産省が機関の一覧と料金の目安を公表しています。
格付
認証を受けた生産者が、出荷する農産物が有機JASの基準に適合しているかを自ら判定し、適合したものに有機JASマークを付ける行為です。認証後の生産者の義務の一つで、使用実績は認証機関に報告します。
特別栽培農産物
節減対象農薬と化学肥料の使用が、その地域の慣行レベルの50%以下で栽培された農産物です。農林水産省の表示ガイドラインに基づく区分で、農薬を使わない場合は「節減対象農薬:栽培期間中不使用」と表示します。