切り花や鉢物、花木、球根、花壇苗をつくる花き農家にとって、近年の高温は開花不良や品質低下を招き、需要期の出荷を不安定にしています。この記事では、高温で崩れやすい品質を守る技術と、暑熱対策・省エネ設備・経営安定に使える支援、そして支援の土台となる花きの振興に関する法律と基本方針を、農家が次の一手を選べる形で整理します。補助率や要件の最終判断は、各事業の公募案内と農林水産省の一次情報でご確認ください。

概要

項目内容
対象となる方 切り花・鉢もの・花木・球根・花壇用苗などをつくる花き農家と産地
高温の影響 開花期の前進・遅延、奇形花、生育不良、立枯病など。品質低下と需要期の出荷の乱れ
品質を守る対策 換気窓・遮光遮熱資材・循環扇・細霧冷房・ヒートポンプ、高温耐性品種、開花調整技術
使える支援 花き支援対策、省エネルギー型ハウス転換事業、産地生産基盤パワーアップ事業、収入保険・園芸施設共済
相談先 都道府県の花き振興計画・農業改良普及センター、JA、事業を担う団体の公募案内

近年の高温で花きに起きていること

高温による花きへの主な影響。きくでは開花期の前進・遅延、奇形花の発生、生育不良、立枯病が、栽培期間中や花芽分化期から収穫期の高温で発生。奇形花や着色不良の写真、品目別の高温対策資料の一覧。
農林水産省「花きの現状について」

近年の温暖化は、花きの生育障害や品質低下として現場に表れています。きくでは開花期が前進・遅延し、奇形花や生育不良、立枯病が発生します。需要期に出荷が前後にずれると、価格の乱高下や売り時を逃す事態につながります。どの症状も、生育のどの時期に高温が重なったかで出方が変わります。

高温が引き起こす主な障害と、発生しやすい時期は次のとおりです(きくの例)。自分の品目でいつ・どの症状が出やすいかを押さえると、対策を打つ時期を決めやすくなります。

主な障害発生しやすい時期と要因
開花期の前進・遅延栽培期間中の高温、高温・少雨(4〜11月)
奇形花の発生花芽分化期から収穫期の高温(7〜10月)
生育不良生育期から花芽発達期の高温(7〜10月)
立枯病の発生育苗期から花芽発達期の高温、高温・多雨(7〜9月)

切り花では、採花後に切り花長や切り花重が減り、日持ちが落ちることもあります。高温は病害虫の活動も活発にし、ハダニやオオタバコガ、糸状菌による病害を広げます。品質と収量の両面で影響が出るため、栽培管理と防除を組み合わせた備えが必要です。

高温による品質低下・開花不良を防ぐ対策

基本方針は、需要期の出荷を安定させ品質を確保するため、高温障害を回避・軽減する栽培管理技術と、高温耐性・病害虫抵抗性品種の導入を進めるとしています。花き農家がとれる打ち手は、施設の暑熱対策、品種と開花調整、病害虫の防除の三つに整理できます。

遮光・冷房など施設の暑熱対策

施設では、既存ハウスへの換気窓の設置、遮光・遮熱資材、循環扇、細霧冷房、ヒートポンプなどで施設内の温度を下げられます。冷房は夜間だけの運転でも相応の効果が見込めます。ただし、蕾ができた後の強すぎる遮光は光合成でつくる養分の蓄積を妨げ、かえって品質を落とすため、遮光の強さと時期の見極めが要ります。かん水は気温の低い早朝や夕方に行い、施設内では湿度管理にも気を配ります。ヒートポンプや木質バイオマス暖房機など省エネ設備の導入は補助の対象になり、ハウスのヒートポンプ・暖房機に使える補助金で対象設備と補助率を確認できます。

高温耐性品種と開花調整

高温でも障害が出にくい品種、日持ちの良い品種を選ぶと、暑熱対策の負担を抑えられます。あわせて、需要期に合わせて咲かせる開花調整技術が有効です。小ギクでは電照を使った計画生産で、お盆需要期の出荷率95.9%を実現した実証があります。ユリなど球根では、高温期の定植前にプレルーティング処理(あらかじめ発根させる処理)を行うことが有効で、高温期には過度に大きな球根を用いない、定植後に遮光するといった管理も障害の予防につながります。品種による差が大きいため、産地の実証や普及センターの情報を手がかりに選びます。

病害虫の防除

高温期は、ハダニやオオタバコガ、立枯病・葉枯病などの被害が広がりやすくなります。薬剤散布に加え、通気性の改善や健全な株の利用、圃場の衛生管理といった耕種的・物理的・生物的な防除を組み合わせると、化学農薬だけに頼らずに被害を抑えられます。カルシウム剤の散布で葉焼けを和らげる方法もありますが、効果は限定的とされ、基本の温度・かん水管理を土台にします。品目ごとの詳しい症状と予防・発生時の対策は、農林水産省の花きにおける高温対策のページで品目別に確認できます。

高温対策や生産基盤づくりに使える支援

暑熱対策の技術実証や設備導入、産地の体制づくりには、複数の支援を組み合わせて使えます。自分の産地の課題が高温なのか、施設の老朽化なのか、共同利用施設の整備なのかを見極めて、近いメニューから公募要領をたどると選びやすくなります。

花き支援対策は、高温障害を回避・軽減する技術や、高温耐性・病害虫抵抗性品種への転換の実証・普及を後押しする補助事業で、高温に向けた取組には優先枠が設けられています。令和8年度の予算額は728百万円です。対象となる取組や参加の仕方、定額交付の仕組みは花き生産者が活用できる補助金(ジャパンフラワー強化プロジェクト)で詳しく整理しています。

生産基盤づくりでは、暑熱対策で周年生産や生産期間の延伸ができる低コスト耐候性ハウスの導入、既存ハウスの機能強化、ヒートポンプなど省エネ設備の導入が推進されています。省エネ設備や既存ハウスの改良は省エネルギー型ハウス転換事業で、集出荷調製施設などの共同利用施設は産地生産基盤パワーアップ事業で支援を受けられます。施設整備は市町村の地域計画と連携しながら進めることが求められています。ロボットやデータ駆動型の環境制御、自動選花機などのスマート農業技術の導入も対象で、生産方式革新実施計画を作成して取り組めます。

価格低下・災害・燃料高に備える経営安定の支援

高温や資材高で経営が揺れやすいなかでは、収入や生産の下振れに備える仕組みもあわせて使えます。自然災害や価格低下のリスクには、収入保険や園芸施設共済への加入で備えられます。収入保険の対象や申請の流れは農業収入保険の解説で確認できます。激甚化する風水害に向けては、事業継続計画の策定や施設の補強も推進されています。

燃料価格の上昇に対しては、省エネルギー対策に取り組む施設園芸産地を対象に、燃料価格の上昇に応じて補塡金を交付するセーフティネット対策があります。冬期の加温に燃料を多く使う施設花きでは、省エネ設備の導入とあわせて燃料費の急な上昇に備えられます。

支援の土台となる花きの振興に関する法律と基本方針

花き産業及び花きの文化の振興に関する基本方針のポイント。生産・流通・輸出・文化・需要の施策の方向と、令和4年実績から令和12年目標への産出額・輸出額・輸入額の目標。
農林水産省「新たな花き産業及び花きの文化の振興に関する基本方針のポイント」

ここまでの支援や高温対策は、花きの振興に関する法律(平成26年法律第102号)と、これに基づく基本方針が土台になっています。法律は、花き産業と花き文化の振興を通じて、花き産業の健全な発展と心豊かな国民生活の実現をめざすものです。ここでの花きは観賞の用に供される植物を指し、切り花類・鉢もの類・花木類・球根類・花壇用苗もの類・芝類・地被植物類が含まれます。法律は、生産者の経営の安定、生産性と品質の向上、加工・流通の高度化、鮮度保持、輸出の促進、研究開発の推進といった施策を、国と地方公共団体の努力事項として定めています。

農林水産大臣は基本方針を、都道府県は花き振興計画を定めます。産地の相談先として都道府県の計画や農業改良普及センターが手がかりになるのは、この仕組みによるものです。基本方針は令和7年4月に見直され、深刻化する高温への対応と、需要に基づく安定生産・安定供給を重点に掲げています。

国は、花きの産出額を令和4年の3,684億円から、令和12年に4,500億円へ伸ばす目標を掲げています。輸出額と輸入額の目標もあわせて次のとおりです。

項目令和4年令和12年の目標
産出額3,684億円4,500億円
輸出額91億円200億円
輸入額594億円300億円(見込み)

令和12年の産出額目標4,500億円は、花きの種類ごとに次のように見込まれています。

  • 切り花類:2,700億円
  • 鉢もの類:1,100億円
  • 花壇用苗もの類:370億円
  • 花木類:200億円
  • 芝類:80億円
  • 地被植物類:30億円
  • 球根類:20億円

令和9年には横浜市で国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)が開かれ、国内外の需要を広げる機会に位置づけられています。

よくある質問

高温で花が咲かない・奇形花になるのはなぜですか

生育の時期に高温が重なると、開花期が前後にずれたり、花芽の分化から収穫期の高温で奇形花や生育不良が出たりします。きくでは、育苗期から花芽発達期の高温や多雨で立枯病も発生します。需要期に合わせる開花調整技術や、遮光・細霧冷房などの暑熱対策、高温耐性品種の導入で、こうした障害を回避・軽減できます。

花き農家が高温対策や設備導入に使える補助はありますか

あります。高温障害を回避・軽減する技術や高温耐性品種への転換の実証・普及には花き支援対策が使え、高温に向けた取組には優先枠があります。ヒートポンプなど省エネ設備や既存ハウスの改良には省エネルギー型ハウス転換事業、共同利用施設の整備には産地生産基盤パワーアップ事業を活用できます。補助率や要件は各事業の公募案内でご確認ください。

価格が下がったときや災害に備える支援はありますか

収入保険や園芸施設共済への加入で、価格低下や自然災害による下振れに備えられます。燃料価格の上昇には、省エネルギー対策に取り組む施設園芸産地を対象としたセーフティネット対策の補塡金があります。

花きの振興に関する法律は何を定めていますか

花き産業と花き文化の振興を目的に、観賞用植物である花きの定義や、農林水産大臣が定める基本方針、都道府県が定める花き振興計画、生産者の経営安定・生産性向上・流通高度化・輸出促進・研究開発などの施策を定めています。花き農家が使える支援の多くは、この法律と基本方針を土台にしています。

キーワード解説

花きの振興に関する法律

平成26年に定められた、花き産業と花き文化の振興を目的とする法律です。花きは観賞の用に供される植物(切り花類・鉢もの類・花木類・球根類・花壇用苗もの類・芝類・地被植物類)を指します。基本方針や都道府県の花き振興計画、経営安定・輸出促進・研究開発などの施策の根拠になっています。

花き支援対策

ジャパンフラワー強化プロジェクトの一環として、高温障害の回避・軽減や高温耐性・病害虫抵抗性品種への転換、情報連携、需要開拓の取組を後押しする補助事業です。高温に向けた取組には優先枠があります。

遮光・遮熱資材

施設や露地で光と熱を和らげ、施設内や株まわりの温度上昇を抑える資材です。高温期の生育障害を防ぎますが、蕾ができた後の強すぎる遮光は品質を落とすため、時期と強さの調整が要ります。

細霧冷房

細かい霧を噴霧し、気化熱で施設内の温度を下げる冷房方法です。循環扇や換気窓、ヒートポンプと組み合わせて暑熱対策に用います。

開花調整

電照や温度管理などで、需要期に合わせて花を咲かせる計画生産の技術です。小ギクでは電照によりお盆需要期の出荷率95.9%を実現した実証があります。