畑でとれた果実を自家製ジャムにして売りたい——そのとき最初の関門が「何の営業許可が要るのか」です。瓶詰めで常温販売するジャムは、原則として密封包装食品製造業の許可が必要になります(糖度や酸度が高く保存性のある製品は届出で済む場合もあり、最終判断は保健所です)。漬物は2021年の法改正で漬物製造業の許可制になり、いずれも自宅の台所では営業できません。この記事では、瓶詰めジャムをはじめ品目別に必要な許可を一覧で整理し、自宅キッチンで作れるか、ジャム屋開業の施設基準と費用、食品表示やネット販売の扱いまで、保健所での手続きの順に解説します。
概要
加工品の販売には許可か届出が必要
2021年6月1日に全面施行された改正食品衛生法で、営業許可の制度が約60年ぶりに再編されました。営業許可が必要な業種は、飲食店営業や菓子製造業など32業種です。このとき漬物製造業が新たに許可業種になり、それまで多くの地域で届出だけで作れた漬物も、許可を取った施設でなければ製造販売できなくなりました。施行から3年間の経過措置は2024年5月末で終わり、現在は梅干しやぬか漬けを売る場合も漬物製造業の許可が欠かせません。
あわせて営業届出の制度が新設されました。許可32業種に当たらない製造・加工も、原則として保健所への届出が必要です。届出には許可のような施設の審査はありませんが、食品衛生責任者を置き、HACCPに沿った衛生管理に取り組む義務は許可営業と変わりません。「小さく作って売るだけだから手続き不要」という選択肢は、現在の制度にはほぼ存在しないと考えてください。
品目別の業種の目安
どの業種の許可が必要かは、作る品目と保存・販売の方法で決まります。主な農産加工品の目安は次のとおりです。
| 品目の例 | 区分の目安 | ポイント |
|---|---|---|
| ジャム・コンポート(瓶詰・常温販売) | 密封包装食品製造業の許可が原則 | pH4.6以下または水分活性0.94以下の食品は許可の対象から外れ、届出で営業できる場合があります。区分は保健所が判断します |
| 漬物・梅干し・キムチ | 漬物製造業の許可 | 2021年の改正で新設された許可業種です。経過措置は終了済みで、浅漬けには10度以下の冷蔵設備が必要です |
| みそ・しょうゆ | みそ又はしょうゆ製造業の許可 | 漬物とは別の許可業種です |
| 果実ジュース・シロップ | 清涼飲料水製造業の許可 | 瓶詰飲料は密封包装食品製造業ではなく清涼飲料水製造業に当たります |
| 餅・まんじゅう・焼き菓子 | 菓子製造業の許可 | 従来の菓子製造業とあん類製造業を統合した区分です |
| 乾燥野菜・ドライフルーツ・干しいも | 該当する許可業種がなければ営業届出 | 加工の内容で区分が変わるため、着手前に保健所へ相談しましょう |
境界線上の品目も多く、同じジャムでも糖度や酸度、容器、販売方法によって区分が変わります。最終的にどの業種に当たるかを決めるのは管轄の保健所です。レシピと販売計画を持って、設備投資の前に相談しましょう。なお、食酢とはちみつは省令で密封包装食品製造業の対象から除かれています。
許可を取るまでの流れ
1. 保健所に事前相談する
最初の窓口は、加工場を置く場所を管轄する保健所です。作りたい品目・想定する販売先・加工場の図面案を持参すると、必要な業種と施設基準を具体的に教えてもらえます。工事を始めてから手直しになると費用がかさむため、着工前の相談が鉄則です。
2. 施設基準を満たす加工場を用意する
営業許可には、都道府県等の条例で定める施設基準への適合が必要です。原材料の保管、前処理、製造、包装の場所を作業区分に応じて分け、手洗い設備や洗浄設備、品目に応じた殺菌・冷却の設備を備えます。漬物製造業で浅漬けを作る場合は、製品を10度以下に保つ冷蔵設備が必要です。住居の台所は「食品等を取り扱うことを目的としない場所」とされ、営業施設との兼用は認められません。母屋とは物理的に区画した加工室を用意するか、地域の加工施設や間借りできる許可済みの厨房を使う方法もあります。納屋や空き家を加工室に改修する場合、給排水や区画工事で数十万円から百万円を超える費用がかかることもあり、設備投資の前に複数の見積もりと販売計画の採算を突き合わせておくと安心です。
3. 食品衛生責任者を置く
施設ごとに食品衛生責任者を1人定めます。各都道府県の食品衛生協会などが開く養成講習会を受講すれば資格を取得でき、調理師や栄養士などの有資格者は講習が免除されます。講習は1日(おおむね6時間)の会場受講のほか、オンライン(eラーニング)で受けられる自治体もあります。受講料は都道府県によって異なるため、受講先の食品衛生協会で確認してください。許可申請でも届出でも、食品衛生責任者の氏名を記載します。
4. 申請して施設検査を受ける
申請書と施設の図面を保健所に提出し、施設の確認検査を経て許可証が交付されます。申請手数料は業種と自治体ごとに異なり、許可には有効期間があるため期限前の更新が必要です。申請は窓口のほか、厚生労働省の食品衛生申請等システムからオンラインでも手続きできます。
HACCPに沿った衛生管理は全事業者の義務
2021年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務付けられています。農産物をそのまま売る採取業は対象外ですが、ジャムや漬物に加工した時点で食品等事業者となり、許可か届出かを問わず対象です。
小規模な事業者は、簡略化された「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」で構いません。業界団体が作成し厚生労働省が確認した手引書をもとに、衛生管理計画を作り、日々の実施記録を付けて保存します。詳しい進め方はHACCP義務化の解説記事をご覧ください。
容器包装に入れた加工品には表示が必要
瓶や袋に詰めて販売する加工食品には、食品表示法に基づく表示が義務です。ラベルには次の事項を記載します。
- 名称(いちごジャム、たくあん漬けなど内容を表す一般的な名称)
- 原材料名と添加物(重量順。アレルゲンを含む場合はその旨)
- 内容量
- 消費期限または賞味期限
- 保存方法
- 製造者の氏名または名称と住所
- 栄養成分表示(熱量・たんぱく質・脂質・炭水化物・食塩相当量)
栄養成分表示には小規模事業者の特例があります。基準期間の課税売上高が1000万円以下で消費税の納税義務が免除される事業者や、従業員がおおむね5人以下(商業・サービス業の場合)の小規模企業者が、自分で直売所やネットショップを通じて消費者に売る場合は、栄養成分表示を省略できます。ただし、スーパーなど小規模でない事業者に卸して売ってもらう場合は省略できません。多くの農家の直売はこの特例に当てはまりますが、規模が大きくなったら表示が必要になる点は覚えておきましょう。
国内で作る加工食品には原料原産地表示の義務もあり、自家栽培の原料は産地を明確に書けるため、むしろ強みになります。表示を欠いたまま販売すると回収の対象になり得るため、ラベル案の段階で保健所や自治体の食品表示担当に見てもらうと安全です。基本のルールは食品表示法の基礎記事で解説しています。
ジャム屋の開業にかかる費用と準備の全体像
「自家製ジャムを商品として売る=ジャム屋を開業する」ために必要なのは、大きく分けて①許可を取れる加工場、②食品衛生責任者、③営業許可の申請、④容器・ラベルなどの販売準備です。かかる費用は加工場をどう用意するかで大きく変わります。目安を整理すると次のとおりです。
| 項目 | 費用の目安 | ポイント |
|---|---|---|
| 加工場の整備(納屋・空き家の改修) | 数十万円〜100万円超になることも | 給排水・作業区分の区画・手洗い設備など。地域の共同加工場やレンタルキッチンを間借りすれば初期費用を抑えられます |
| 殺菌・冷却などの設備 | 品目・規模による | 瓶詰めの加熱殺菌設備など。密封包装食品製造業では工程に応じた設備が求められます |
| 食品衛生責任者の養成講習 | 自治体により異なる | 受講先の都道府県食品衛生協会で確認。調理師・栄養士などは免除 |
| 営業許可の申請手数料 | 業種・自治体により異なる | 密封包装食品製造業など業種と自治体で異なります。各保健所で確認。有効期間があり更新時も手数料が必要です |
| 容器・ラベル・包材 | 数量・仕様による | 瓶、ラベル印刷、緩衝材など。食品表示に対応したラベル設計が必要です |
初期費用を左右するのは加工場です。母屋とは区画した加工室を新たに設ける場合は改修に数十万円〜100万円を超えることもある一方、市町村やJAが運営する共同利用の加工施設や、許可を取得済みのレンタルキッチンを時間貸しで使えば、設備投資を大きく抑えて小さく始められます。設備投資の前に、作りたい品目・想定数量・販売計画を持って保健所へ事前相談し、必要な設備と採算を突き合わせておきましょう。ジャムづくりを農産加工による所得づくり(六次産業化)として位置づけて支援制度を探す場合は、六次産業化の解説記事もあわせてご覧ください。
よくある質問
瓶詰めジャムを売るには何の許可が必要ですか
瓶や缶に密封して常温で保存・販売するジャムは、原則として密封包装食品製造業の許可が対象です。ただし、糖度が高く酸度が低い(pH4.6以下または水分活性0.94以下)など保存性の高い製品は許可の対象から外れ、営業届出で営業できる場合があります。区分は糖度・容器・販売方法によって変わり、最終的に判断するのは管轄の保健所です。設備投資の前にレシピと販売計画を持って相談しましょう。
ジャムを売るのに特別な資格や免許は必要ですか
調理師免許のような特別な資格は必須ではありません。必要なのは、施設ごとに置く食品衛生責任者で、これは都道府県の食品衛生協会などの養成講習を受ければ取得できます(調理師・栄養士などは講習免除)。つまり「資格」よりも、品目に応じた営業許可または届出と、許可を取れる加工場の確保が実質的な要件です。個人の資格試験に合格する必要はありません。
ジャム屋を開業するにはいくらぐらいかかりますか
最も費用を左右するのは加工場です。納屋や空き家を加工室に改修する場合は給排水や区画工事で数十万円〜100万円を超えることもあります。一方、市町村やJAの共同加工施設、許可取得済みのレンタルキッチンを間借りすれば、初期の設備投資を大きく抑えられます。このほか食品衛生責任者の養成講習料や営業許可の申請手数料(いずれも自治体により異なるため各窓口で確認)、容器・ラベルなどの費用がかかります。詳しくは開業にかかる費用の全体像をご覧ください。
自宅の台所で作って売れますか
原則として売れません。住居の台所は営業施設として認められず、加工場は生活空間と物理的に区画する必要があります。台所の一部を時間帯で使い分ける運用も認められません。納屋の改修や地域の共同加工場の利用など、独立した施設の確保が前提です。
直売所や道の駅に出すだけでも許可は必要ですか
必要です。許可や届出は「どこで売るか」ではなく「製造するか」で決まるため、直売所に委託販売する場合も製造者であるあなたに許可または届出が求められます。出荷までの実務は姉妹記事の直売所出荷ガイドで解説しています。
ネット販売をするには別の許可が必要ですか
加工品そのものを売るための許可は、店頭でもネットでも同じで、品目に応じた製造業の許可があれば追加の許可は要りません。ネット販売で違うのは表示の見せ方で、容器ラベルの食品表示に加え、特定商取引法に基づく販売者情報や送料・返品条件の表示が必要になります。常温で送れない品目は冷蔵・冷凍配送と消費期限の設計も欠かせません。ネット販売の始め方は農産物のネット販売ガイドで詳しく解説しています。
漬物は少量でも許可がいりますか
販売目的で製造するなら数量にかかわらず漬物製造業の許可が必要です。例外は限定的で、八百屋などの野菜果実販売業が当日中の消費を想定して塩漬け・ぬか漬けを付随的に作る場合は届出の範囲という取扱いがあります。農家が継続的に漬物を売る形態は、この例外には当てはまりません。
許可の費用と有効期間はどのくらいですか
申請手数料は業種と自治体ごとに異なるため、管轄保健所の案内をご覧ください。許可には有効期間があり、継続するには期限前の更新申請と手数料が再び必要です。施設の改修費を含め、販売計画と合わせて資金を見積もりましょう。
次の一歩
まず、作りたい品目・想定レシピ・販売先を1枚にまとめ、加工場を置く市町村を管轄する保健所に事前相談の予約を入れましょう。並行して、都道府県の食品衛生協会で食品衛生責任者の養成講習会に申し込むと、施設が決まり次第すぐ申請に進めます。販路として直売所を考えているなら、直売所出荷ガイドで出荷ルールと値付けの考え方を押さえておくと、許可取得後の立ち上がりが速くなります。
キーワード解説
密封包装食品製造業
缶詰・瓶詰・レトルトパウチなど、冷蔵や冷凍をせずに保存できる密封包装食品を製造する営業許可の業種です。ボツリヌス菌など耐熱性の菌が増えるおそれのある常温保存食品が対象で、pH4.6以下または水分活性0.94以下の食品、食酢、はちみつは対象から除かれます。
営業届出
2021年6月の改正食品衛生法で新設された制度です。営業許可32業種に当たらない製造・加工・販売を行う事業者は、保健所に施設や食品衛生責任者の氏名を届け出ます。施設の審査はありませんが、HACCPに沿った衛生管理の義務は許可営業と同じです。
食品衛生責任者
施設ごとに1人置く衛生管理の責任者です。都道府県の食品衛生協会などが実施する養成講習会の受講で資格を得られ、調理師・栄養士などは講習が免除されます。許可施設でも届出施設でも設置が必要です。
施設基準
営業許可の前提となる加工場の基準で、食品衛生法に基づき都道府県等が条例で定めます。作業区分ごとの区画、手洗い・洗浄設備、業種に応じた殺菌・冷蔵設備などを求め、住居の台所との兼用を認めません。
HACCP
原材料の受け入れから出荷までの工程ごとに危害要因を分析し、重要な工程を継続的に管理する衛生管理の手法です。2021年6月から原則すべての食品等事業者に義務付けられ、小規模事業者は手引書に沿った簡略版で取り組めます。