バイオ炭を農地にすき込む取組は、土づくりと地球温暖化対策を同時に進められる手段として注目されています。土壌に貯留した炭素はJ-クレジットとして国の認証を受けられ、売却すれば経営の副収入につながります。この記事では、バイオ炭の基礎知識、J-クレジット制度の仕組みと要件、参加までの流れ、収入と費用の考え方、施用時の注意点までを順に解説します。

概要

項目内容
誰がもみ殻・剪定枝などのバイオマスを入手でき、自分の農地にバイオ炭を施用できる農家・農業法人です。JA・自治体は取りまとめ役として関わります。
何をバイオ炭を農地に施用し、土壌に貯留した炭素をJ-クレジットとして認証・売却します。
収入の考え方クレジット単価は需給で変動するため、削減量(CO2換算トン)に比例する副収入と位置づけます。
要件方法論「バイオ炭の農地施用」AG-004に沿ったプロジェクト登録と、施用の記録(モニタリング)が必要です。
次の一歩取りまとめ役(運営・管理者)のいるプログラム型プロジェクトを探し、参加を相談します。

バイオ炭とは

バイオ炭とは、もみ殻・剪定枝などのバイオマスを350℃を超える温度で炭化させたものです。農林水産省の定義に基づくもので、稲作で大量に発生するもみ殻や、果樹園・公園で出る剪定枝など、身近な未利用資源が原料になります。

ポイントは「燃やす」のではなく「炭にする」ことです。バイオマスをそのまま燃やせば炭素はCO2として大気に戻りますが、炭化させて農地にすき込むと、炭素は分解されにくい形で土壌に貯留されます。植物が光合成で吸収した炭素を、炭という安定した形で土に留める取組と言えます。だからこそ、バイオ炭の農地施用は大気中のCO2を減らす「炭素貯留」として国の制度上も評価されています。

J-クレジットの仕組みと要件

J-クレジット制度は、経済産業省・環境省・農林水産省が共同運営する国の認証制度です。温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証し、企業などの買い手に売却できる仕組みで、森林によるCO2吸収も同じ制度の対象です。

クレジットを生み出す取組の種類ごとに、算定や記録のルールを定めたものが方法論です。バイオ炭には方法論「バイオ炭の農地施用」AG-004があり、農地にすき込んで土壌に貯留した炭素をCO2換算でクレジット化できます。要件の核心は、この方法論に沿ってプロジェクトとして登録し、施用の実績を記録し続けることです。

実績も積み上がっています。2023年6月には農業分野の方法論に基づく取組4件がプロジェクト承認され、2024年1月にはバイオ炭で737t-CO2のクレジット認証が行われました。農業分野のクレジット創出は、構想段階から実際にクレジットが発行される段階へ進んでいます。農業分野の方法論の全体像は農業のカーボンクレジットまとめで整理しています。

始め方

クレジットを得るまでの流れは次の4段階です。

  1. プロジェクト登録:方法論AG-004に沿って取組内容を計画し、プロジェクトとして承認を受けます。
  2. モニタリング:バイオ炭をいつ・どの農地に・どれだけ施用したかを記録します。
  3. 検証:第三者が記録を検証します。
  4. 認証:削減量がクレジットとして認証され、売却できるようになります。

個別の農家が単独でこの手続を行うのは負担が大きいため、現実的な入口はプログラム型プロジェクトへの参加です。プログラム型では、取りまとめ役である運営・管理者が制度上の手続や書類作成を担い、参加する農家は自分の農地での施用と記録に集中できます。地域のJAや自治体、クレジット創出を支援する事業者が運営・管理者になっている例を探し、参加条件を相談するところから始めましょう。

収入と費用の考え方

クレジットの売却収入は、認証された削減量、すなわちCO2換算トン数に比例します。単価は買い手との需給で変動するため、収入額を事前に固定して見込むことはできません。営農計画のうえでは、主たる収益源ではなく、土づくりに取り組んだ結果として上乗せされる副収入と位置づけるのが妥当です。

一方で、バイオ炭の調達や運搬、農地への散布には費用と手間がかかります。もみ殻など自前のバイオマスを炭化できるか、地域で共同調達できるかによって負担は変わります。プログラム型プロジェクトでは手続の負担を運営・管理者が引き受けるため、参加前に費用分担とクレジット収入の配分ルールを運営・管理者に確かめておきましょう。

土壌改良効果と施用の注意

バイオ炭はクレジットのためだけの資材ではなく、土壌改良資材としての顔を持ちます。多孔質な構造により透水性の改善などの効果があり、土づくりの選択肢として施用する価値があります。

注意したいのは施用量です。バイオ炭はアルカリ性(pH8〜10程度)のため、入れすぎると土壌のpHを押し上げてしまいます。このため施用量には上限の目安があり、農林水産省が「バイオ炭の施用量上限の目安」を公表しています。自分の圃場の土壌条件と作物に合わせて施用量を決める際は、記事末尾の出典ページをご覧ください。

中干し延長との違い

農業分野のJ-クレジットでは、水稲栽培における中干し期間の延長も話題になりますが、バイオ炭とは対象ガスも取組内容も異なります。

項目バイオ炭の農地施用中干し期間の延長
対象ガスCO2(炭素の土壌貯留)メタン(水田からの発生削減)
取組内容バイオ炭を農地にすき込む水稲の中干し期間を延長する
方法論バイオ炭の農地施用(AG-004)水稲栽培における中干し期間の延長

バイオ炭は水田に限らず畑や果樹園でも取り組める一方、中干し延長は水稲が対象です。自分の経営の品目と作業体系に合う方法論を選びましょう。

よくある質問

バイオ炭の原料にはどんなものが使えますか

もみ殻・剪定枝などのバイオマスが原料です。350℃を超える温度で炭化させたものがバイオ炭にあたります。

施用量に決まりはありますか

バイオ炭はアルカリ性(pH8〜10程度)のため、施用量には上限の目安があります。農林水産省が「バイオ炭の施用量上限の目安」を公表しているので、施用前にご覧ください。

個人の農家でも参加できますか

参加できます。ただし単独でのプロジェクト登録は手続の負担が大きいため、運営・管理者が取りまとめるプログラム型プロジェクトへの参加が現実的です。

クレジットはどのくらいの収入になりますか

単価は需給で変動するため、事前に金額を断定できません。収入は認証された削減量(CO2換算トン)に比例します。実績として、2024年1月にバイオ炭で737t-CO2のクレジット認証が行われました。

次の一歩

まずは、地域のJA・自治体や支援事業者のなかに、バイオ炭のプログラム型プロジェクトの運営・管理者がいないかを探し、参加条件・費用分担・収入配分を相談しましょう。並行して、自分の圃場での施用量を「バイオ炭の施用量上限の目安」に照らして検討します。水稲が中心なら中干し延長のJ-クレジットとの比較も有効です。農業を取り巻く気候変動対応の全体像は農業の気候変動対応で、農業分野のクレジット全体はカーボンクレジットまとめでつかめます。

キーワード解説

バイオ炭

もみ殻・剪定枝などのバイオマスを350℃を超える温度で炭化させたものです。農地にすき込むと炭素が分解されにくい形で土壌に貯留され、透水性の改善などの土壌改良効果もあります。

J-クレジット制度

温室効果ガスの排出削減量・吸収量を国が認証し、売買できるようにする制度です。経済産業省・環境省・農林水産省が共同で運営しています。

方法論

J-クレジット制度で、取組の種類ごとに削減量の算定方法や記録のルールを定めたものです。バイオ炭には「バイオ炭の農地施用」AG-004があります。

プログラム型プロジェクト

運営・管理者が複数の参加者を取りまとめて一つのプロジェクトとして運営する形態です。個別申請より手続の負担が小さく、農家がJ-クレジットに参加する現実的な入口です。

モニタリング

プロジェクト登録後に、バイオ炭をいつ・どの農地に・どれだけ施用したかを記録することです。この記録が検証・認証の根拠になります。