収穫や定植が重なる繁忙期に人手が足りないとき、頼れる先は一つではありません。無料職業紹介やマッチングアプリで人を集める、労働者派遣を使う、援農を受け入れる、農作業そのものを委託するなど、必要な期間と作業量に合わせて選べます。さらに、産地ぐるみで求人や産地間の労働力の融通に取り組めば、国の雇用体制強化事業のうち産地間連携等推進タイプ(制度上は農業労働力確保支援事業)や、従業員の定着を図る就労条件改善タイプで補助を受けられます。この記事では、人手不足に悩む農家・農業法人・JA・産地の協議会・自治体の担当者に向けて、頼み先の選び方、費用と補助の考え方、相談窓口までを整理します。最新の公募や要件は農林水産省・都道府県の一次情報をご覧ください。

概要

項目内容
誰が 人手不足に悩む農家・農業法人、産地をまとめるJA・生産部会協議会市町村・都道府県の担当者です。国の補助は、産地の協議会や地方公共団体・JA等が実施主体になります。
何を 求人・マッチング・派遣・援農・作業委託による労働力の確保と、産地ぐるみの体制づくり(求人ツールの導入、産地間の労働力の融通、就労条件の改善)です。
費用・補助 民間サービスの費用は仕組みごとに異なります。産地の取り組みには、産地間連携等推進タイプ(ソフト経費350万円・旅費1,000万円)と就労条件改善タイプ(農業経営体数×100万円、最大2,000万円)があり、いずれも定額です。
主な要件 産地間連携等推進タイプは協議会等が実施主体で、労働力の需給把握を必須に、産地内の求人確保か産地間連携を組み合わせます。就労条件改善タイプは農業経営体3経営体以上と関係機関1者以上の協議会が就労条件改善に取り組みます。
詳しくは 市町村・都道府県・JA・地方農政局に相談します。公募は農林水産省「産地における労働力確保について」でご覧いただけます。

人手不足のときに頼れる5つの先

まず押さえたいのは、頼み先を必要な期間と作業で選び分けることです。数日だけのスポットなのか、ひと月以上の期間雇用なのか、作業そのものを任せたいのかで、向いている方法は変わります。代表的な5つの選択肢は次のとおりです。

頼み先 向いている場面 使い方・費用の考え方
無料職業紹介 常雇い・パートを、手数料をかけずに探したいとき。 公共職業安定所(ハローワーク)やJA・自治体などが行う無料職業紹介に求人を出します。紹介手数料はかかりません。
人材マッチングアプリ 収穫・定植などの繁忙期に、数日〜スポットで学生・主婦・副業層に来てほしいとき。 1日農業バイトなどのアプリに求人を登録し、働きたい人とその場でマッチングします。利用料や手数料はサービスごとに異なります。
労働者派遣 一定期間、指揮命令しながら働いてもらいたいとき。 派遣会社と契約し、派遣料を払います。募集や労務管理を任せられます。
援農 地域の担い手や関係人口に、農繁期だけ手伝ってもらいたいとき。 地域の援農の仕組みやボランティアを受け入れます。謝礼・交通費など受け入れの負担は地域や取り決めによります。
農業支援サービスへの作業委託 自分で人を雇わず、作業そのものを外部に任せたいとき。 農作業を受託する農業支援サービス事業者に委託し、委託料を払います。

これらは組み合わせても使えます。たとえば北海道の産地では、短期で働きたい人を取り込むために1日農業バイトのアプリを導入し、学生・主婦・副業層など幅広い層から人材を確保しています。まずは自分の作業と繁忙期の長さを整理し、そのうえで足りない分をどの方法で埋めるかを決めると選びやすくなります。ただし、個々の農家がばらばらに動くと募集の手間や費用がかさみます。そこで有効なのが、次に見る産地ぐるみの取り組みと、それを後押しする国の補助です。

産地ぐるみの労働力確保に使える国の補助

産地単位で求人やマッチング、産地間の労働力の融通に取り組むと、国の雇用体制強化事業のうち産地間連携等推進タイプで支援を受けられます。実施主体になれるのは、地方公共団体・農協・協議会のほか、農協連合会、公社、土地改良区、農事組合法人、農地所有適格法人、特定農業団体、協同組合などです。産地の農業経営体を構成員に含まない体制でも応募できます。

取り組みは、労働力の需給状況の把握(地域の状況調査)を必須とし、これに次のいずれかを組み合わせます。一つは、ウェブサイトやスマートフォンアプリを使った求人情報の発信、就職説明会やイベントの開催、パンフレットの作成、アプリの操作方法を覚えるための研修など、産地内での労働力の確保です。もう一つは、繁閑期の異なる他産地・他産業との連携による労働力の融通です。このほか、確保した人材のデータベース化やマッチング、農業の「働き方改革」に関する専門家のセミナー開催も対象になります。

補助額は、ソフト経費が1地区あたり350万円(定額)です。加えて、他産地・他産業との連携で確保した労働者の交通費・宿泊費について、1地区あたり1,000万円(定額)を上限とする旅費支援があります(事業開始年度に限ります)。事業の実施期間は原則として、開始年度を含めて2年以内です。

産地間連携等推進タイプの支援対象と取組事例。1日農業バイトアプリを導入して学生・主婦・副業層など幅広い層から人材を確保する例と、繁閑期の異なる複数のJA(サトウキビは1〜3月、野菜は4〜10月、みかんは11〜12月)が連携して農繁期の労働力を融通する例。
農林水産省「産地における労働力確保について」:産地間連携等推進タイプの支援対象と取組事例

現場の事例もはっきりしています。北海道の「とかちアグリワーク」は1日農業バイトアプリを導入し、求人農家向けの操作説明動画や求職者向けの農作業説明動画をつくってアプリ利用者を増やしました。愛媛県の西宇和農業協同組合では、3つのJAが共同で人材募集チラシや求人サイトへの掲載を行い、繁閑期の異なる複数産地で連携して農繁期のアルバイトを確保しています。サトウキビ・野菜・みかんのように繁忙期をずらしてつなぐと、同じ人材が季節ごとに産地を移りながら働けます。成果目標には、産地で確保する労働力の目標値を設定し、事業終了年度の翌年度に達成状況を検証します。

今いる従業員に長く働いてもらう就労条件改善タイプ

人手不足は、新たに人を集めるだけでなく、今いる従業員に辞めずに働き続けてもらうことでも和らぎます。従業員の定着を図る取り組みには、同じ雇用体制強化事業の就労条件改善タイプが使えます。実施主体は、農業経営体3経営体以上と関係機関1者以上でつくる協議会です。雇用型の経営体が少ない地域では、地域計画に位置付けられるなど地域の核となる経営体は1経営体以上でも応募でき、既存の生産部会等がそのまま応募することもできます。対象になるのは、雇用契約期間が1か月以上の従業員を雇っていて、就労条件の改善に取り組む経営体です。

補助額は、就労条件改善に取り組む農業経営体の数×100万円(最大2,000万円・定額)です。使えるのは、働きやすい環境づくり計画の策定・推進、社会保険労務士等によるコンサルティングを使った就業規則の策定・見直し、労働時間の削減、作業マニュアルづくりなど労働負荷の軽減、人事評価制度の導入によるマネジメント体制の強化、研修会や就職説明会の開催などです。機械・施設の整備は対象になりません。

取り組む就労条件改善事項は、経営体ごとに3つ以上を設定します。労働基準関係法令への準拠(就業規則の策定、所定労働時間や休憩・休日の設定、時間外・休日労働に関する三六協定の締結、割増賃金の設定など)と、各種保険への加入(社会保険・労働保険)から2つ以上、その他(定期昇給や役職手当の設定、育児・介護休暇、労働安全教育、人事評価制度、資格取得制度の導入など)から1つ以上を選びます。将来像が明確な地域計画(目標集積率8割以上等)に位置付けられた経営体の取り組みは、採択時にポイントが加算されます。

就労条件改善タイプの事業活用イメージ。就業規則の見直しで魅力的な就業条件を整えて正社員を獲得する例、人事評価制度の導入によるキャリアパスの見える化、子育て中の女性を1日農業バイトアプリでパート採用し正社員へ登用する例、農業機械の導入と就労条件改善を組み合わせて労働生産性を高める例。
農林水産省「農業の働きやすい環境づくりについて」:就労条件改善タイプの事業活用イメージ

活用の形はさまざまです。就業規則を見直して魅力的な就業条件を整え、就職説明会で新規就農者を採用した産地があります。人事評価制度を入れて職能給やキャリアプランを見える化し、従業員のやる気を高めた経営体もあります。1日農業バイトのアプリで子育て中の女性をパート採用し、子育てが落ち着いた段階で正社員に登用する例もあります。新たに正社員を雇って研修する場面では、雇用就農資金(最大60万円×4年間)のような別の支援と組み合わせることもできます。成果目標には、就労条件の改善前後で従業員の満足度がどう変わったかを設定します。なお、就労条件改善タイプと産地間連携等推進タイプを、同一年度に両方実施することはできません

産地間連携の枠組みのもとになった緊急支援事業

産地間連携の仕組みには前身があります。農業労働力確保緊急支援事業は、過去の入国制限などの影響で外国人技能実習生の受け入れが遅れ、人手不足になった経営体を支えるためにつくられました。人手不足の経営体が、他地域の農業者・他産業の従事者・学生などの代替人材を雇うときにかかる掛かり増しの経費(交通費・宿泊費・賃金・保険料、農作業の委託料や派遣料、研修費)や、代替人材の募集活動、産地間の調整による労働力確保を支援しました。実施主体は全国農業委員会ネットワーク機構で、都道府県ごとに相談窓口機関が置かれました。このうち産地間連携の部分が、現在の産地間連携等推進タイプに引き継がれています。

外国人材や地域の力も合わせて考える

国内の求人だけで足りないときは、視野を広げると選択肢が増えます。技能実習に代わる育成就労や特定技能で外国人材を受け入れる方法は、農業の外国人材(特定技能・育成就労)の解説で整理しています。障害のある方と一緒に働く農福連携は農福連携の解説、地域おこし協力隊や関係人口など地域の人材とつながる取り組みは農山漁村の活性化・関係人口の解説が参考になります。人を雇って経営を伸ばす段階では、経営発展を後押しする補助を経営発展支援の解説で確認できます。

相談から申請までの流れ

民間の求人・アプリ・派遣・作業委託は、農家や農業法人が単独でもすぐに使えます。国の補助を使う産地ぐるみの取り組みは、次の順で進みます。

  1. まず市町村・都道府県・JA・地方農政局に相談し、産地の労働力の課題と、使えそうな取り組みを整理します。
  2. 産地の関係者(農業経営体・地方公共団体・JA等)で協議会をつくります。既存の生産部会等がそのまま応募することもできます。
  3. 事業計画(産地の取組計画や働きやすい環境づくり計画)を作成し、公募に応募します。
  4. 審査・採択を経て、交付決定を受けます。
  5. 計画に沿って取り組みを実施し、事業終了年度の翌年度に成果(確保できた労働力や従業員の満足度の変化)を検証します。

公募は農林水産省の「産地における労働力確保について」で案内されます。就労条件改善タイプと産地間連携等推進タイプでは公募の窓口や期間が分かれ、同一年度に両方を実施することはできません。事業内容や申請の相談は、都道府県・市町村・JA・地方農政局の担当窓口が入口になります。

よくある質問

個人の農家でも使えますか

民間の求人・アプリ・派遣・作業委託は、個人の農家でも使えます。国の補助(産地間連携等推進タイプ・就労条件改善タイプ)は、協議会・地方公共団体・JA等が実施主体になる産地単位の取り組みが対象です。個人が単独で受けるのではなく、地域の協議会に参加する形になります。就労条件改善タイプは農業経営体3経営体以上でつくる協議会が原則ですが、雇用型の経営体が少ない地域では、地域計画に位置付けられる核となる経営体1経営体以上でも応募できます。

数日だけの繁忙期の人手はどう集めますか

1日農業バイトなどの人材マッチングアプリが向いています。学生・主婦・副業層など短期で働きたい人に、必要な日だけ来てもらえます。産地でアプリの導入や利用講習、求人情報の発信に取り組む場合は、産地間連携等推進タイプの補助対象になります。

隣の産地と繁忙期をずらして人を融通できますか

できます。繁閑期の異なる他産地・他産業と連携し、労働力を相互に融通する取り組みは産地間連携等推進タイプの支援対象です。連携で確保した労働者の交通費・宿泊費には、1地区あたり1,000万円を上限とする定額の旅費支援があります(事業開始年度に限ります)。

外国人材はこの支援で雇えますか

この記事で扱う補助は、主に国内の労働力の確保と就労環境づくりが対象です。特定技能や育成就労での外国人材の受け入れは別の制度で進めます。詳しくは農業の外国人材(特定技能・育成就労)の解説をご覧ください。

キーワード解説

雇用体制強化事業

農業現場の人手不足を解消するため、産地の労働力確保と就労環境づくりを支援する国の事業です。就労条件改善タイプと産地間連携等推進タイプの2つがあり、同一年度に両方を実施することはできません。

産地間連携等推進タイプ

産地ぐるみで求人・マッチングや、産地間の労働力の融通に取り組む活動を支援する枠組みです。制度上は農業労働力確保支援事業として実施され、実施主体は協議会・地方公共団体・JA等です。ソフト経費(1地区あたり350万円)と、連携で確保した労働者の交通費・宿泊費(1地区あたり1,000万円)が定額で助成されます。

就労条件改善タイプ

就業規則の見直しや各種保険への加入、労働時間の短縮、人事評価制度の導入など、従業員が働きやすい環境づくりを支援する枠組みです。就労条件改善に取り組む農業経営体の数に応じて、最大2,000万円まで定額で助成されます。機械・施設の整備は対象外です。

協議会

産地の農業経営体と、地方公共団体・JA・都道府県などの関係機関が連携してつくる組織です。国の補助を受けて産地ぐるみの取り組みを進める実施主体になります。既存の生産部会等がそのまま応募することもできます。

農業労働力確保緊急支援事業

過去の入国制限などの影響で外国人技能実習生の受け入れが遅れ、人手不足になった経営体を支援した国の事業です。代替人材の雇用にかかる掛かり増しの経費や募集活動、産地間の連携を支援しました。産地間連携の枠組みは、現在の産地間連携等推進タイプに引き継がれています。

まとめ

繁忙期の人手は、一つの方法に頼る必要はありません。数日なら1日農業バイトなどのアプリ、期間雇用なら派遣、作業ごと任せるなら委託、常雇いなら無料職業紹介と、期間と作業で選び分けましょう。そのうえで産地ぐるみで求人や産地間の労働力の融通に取り組めば産地間連携等推進タイプで、従業員の定着を図るなら就労条件改善タイプで、国の補助を受けられます。どちらも産地の協議会が土台になります。まずは市町村・都道府県・JA・地方農政局に相談し、協議会づくりと公募の時期を確認することから始めましょう。