近くの店が閉店した、車を手放して買い物に行けない。こうした食品アクセスの問題は、いわゆる「買い物難民」「買い物弱者」の増加として全国に広がっています。対策の柱は、移動販売・宅配・身近な買い物拠点づくり・地域の関係者の連携・デジタル活用です。国はこれらを担う自治体・小売や流通の事業者・地域団体を後押しし、フードバンクこども食堂等を含めて、誰もが必要な食料を手に入れられる体制づくりを支援します。この記事では、問題の現状から具体的な対策、自治体・事業者が使える支援の仕組みまでをわかりやすく整理します。

食品アクセス対策の全体像

項目 内容
どんな問題か 店舗の減少や高齢化、過疎化で、食料品の買い物に困る買い物困難者(買い物難民・買い物弱者)が増えています。栄養のかたよりや孤立にもつながる地域課題です。
主な対策 移動販売・宅配・身近な買い物拠点づくり・地域の関係者の連携・デジタル活用が柱です。あわせて、フードバンクこども食堂等が多様な食料を届ける役割を担います。
誰が取り組むか 市町村・都道府県、社会福祉協議会、小売・流通・物流の事業者、フードバンク・NPO等の民間団体、生産者、地域住民です。国(農林水産省)が連携を後押しします。
国の支援 地域協議会の設置やコーディネーター配置などの体制づくりと、未利用食品の取扱拡大に向けたフードバンク等の機能強化を補助します。
次の一歩 自治体・福祉関係者は地域協議会と計画づくりから、事業者は移動販売・宅配や未利用食品の提供から検討します。詳しい支援内容は農林水産省の公募ページでご確認ください。

食品アクセス問題とは

食品アクセスとは、国民が健康的な生活のために必要な食品を、お金の面でも、店までの距離など物理的な面でも入手できる状態を指します。この食品アクセスが損なわれ、日々の食料品の買い物に困る人を買い物困難者と呼びます。報道などでは「買い物難民」「買い物弱者」とも言われ、近くの店までの距離が遠い状態はフードデザート(食の砂漠)とも呼ばれます。国の統計では、農林水産政策研究所が、店舗まで直線距離500m以上で、かつ自動車を利用できない65歳以上の方を食料品アクセス困難人口と定義して推計しています。

困っているのは過疎地の高齢者だけではありません。都市部でも、近所のスーパーが閉店したり、年齢や体の事情で運転や重い荷物の持ち運びが難しくなったりすると、たちまち買い物に困ります。食料品が手に入りにくくなると、栄養がかたより健康を損なうおそれがあるほか、外出や人との関わりが減って孤立を深める原因にもなります。経済的に十分な食料を入手しにくい方への支援とあわせて、地域全体の課題として位置づけられています。

買い物困難者(食料品アクセス困難人口)の定義と人数

「買い物困難者」に法令上の一律の定義はありませんが、国の統計では農林水産政策研究所食料品アクセス困難人口として、次の条件にあてはまる人を推計しています。

  • 店舗まで直線距離500m以上(食料品スーパー・コンビニエンスストア・ドラッグストア等を対象店舗とする)
  • かつ自動車を利用できない
  • 65歳以上の高齢者

この定義による食料品アクセス困難人口は、2020年(令和2年国勢調査ベース)で全国904万人にのぼり、65歳以上人口の25.6%(およそ4人に1人)にあたります。とくに75歳以上では566万人(同年代の31.0%)で、困難人口の約63%を75歳以上が占めます。2015年の前回推計から全国で9.7%増加しており、過疎地だけでなく都市部でも広がっているのが特徴です。「買い物難民」「買い物弱者」、店までの距離が遠い状態を指す「フードデザート(食の砂漠)」も、ほぼ同じ意味で使われます。

なぜ買い物困難者が増えるのか

食品アクセスの問題は、いくつかの要因が重なって起きています。

  • 高齢化と運転免許の返納:加齢で歩ける距離や運べる荷物が減り、車を手放すと買い物の足を失います。
  • 身近な店舗の減少:地域の小売店や商店街が減り、大型店も郊外に集まると、徒歩圏で食料品を買える場所がなくなります。
  • 過疎化と人口減少:利用客が減った地域では店の採算が取りにくく、撤退がさらに買い物環境を悪化させる悪循環が生まれます。
  • 公共交通の縮小:路線バスの減便や廃止で、離れた店まで移動する手段そのものが細っています。

こうした要因は一つの店舗や個人の努力だけでは解決しにくく、地域ぐるみで買い物の場と手段を確保する取り組みが求められます。

食品アクセス問題への主な対策

買い物に困る人を支える方法は、大きく次の5つに整理できます。地域の人口や地形、店舗の有無によって、組み合わせて使います。

移動販売

トラックなどに食料品や日用品を積んで地域を巡回し、店まで行けない人のもとへ買い物の場を届けます。集落や団地、福祉施設の前などに定期的に立ち寄ることで、外出が難しい高齢者でも対面で品物を選べます。買い物の機会づくりと同時に、住民の見守りや安否確認の役割も果たします。全国では、生活協同組合コープさっぽろ(北海道)やJAおきなわ(沖縄県読谷村)などが移動販売に取り組むほか、鳥取県日野町のように移動販売と高齢者の見守りを一体で行う例もあります。地域のスーパーと提携して全国に広がる移動スーパー「とくし丸」のように、民間事業者が販売パートナーを通じて自宅前まで食料品を届ける仕組みも普及しています。

宅配・買い物代行

注文した食料品を自宅まで届ける宅配や、買い物を代わりに行う買い物代行は、外出そのものが難しい人に有効です。電話や注文用紙、インターネットなど、使う人に合った受付の仕組みを整えることで利用が広がります。配達のついでに声をかける見守りと組み合わせる取り組みも進んでいます。

身近な買い物拠点づくり

歩いて行ける範囲に食料品を買える場所を取り戻す取り組みです。空き店舗や公民館、道の駅などを活用した小さな店舗、住民が運営に関わる店、複数の機能を一つの拠点に集める形などがあります。日常の買い物に加え、住民が集い交流する場としての役割も期待されます。

地域の関係者の連携

食品アクセスの確保は、行政・事業者・住民の連携が欠かせません。市町村・都道府県、社会福祉協議会、小売や流通の事業者、フードバンク、こども食堂、こども宅食、NPO、地域住民団体、生産者、物流事業者などが集まり、地域の現状や課題を共有して対策を組み立てます。関係者をつなぐ調整役(コーディネーター)を置くと、移動販売・宅配・拠点づくりといった取り組みを効果的に組み合わせやすくなります。

デジタル活用

スマートフォンやタブレットでの注文、オンライン決済、配車アプリなどのデジタル技術は、買い物の利便性を高めます。離れた家族による代理注文や、利用状況の把握を通じた見守りにも役立ちます。一方で、機器の操作に不慣れな高齢者も多いため、使い方の支援や、電話・対面など従来の手段との併用を前提に設計することが大切です。

自治体・事業者を後押しする国の支援

こうした対策を地域で進めやすくするため、農林水産省(消費・安全局消費者行政・食育課)が支援を行っています。支援は大きく、地域の体制づくりを支えるものと、食料を届けるフードバンク等の機能強化を支えるものに分かれます。

食品アクセス確保対策事業の全体像。対策のポイント、二つの事業内容、事業目標、資金の流れ、地域協議会とフードバンクの事業イメージ。
農林水産省「食品アクセス確保対策事業」(PDF):支援の全体像

地域の体制強化の支援

地域の関係者が連携して取り組む体制づくりを支援します。支援の対象には地域協議会、都道府県・市町村、社会福祉協議会等が含まれ、補助の形態は定額、4分の3、2分の1など取り組みによって異なります。具体的な内容は次のとおりです。

  • 地域の関係者が連携して組織する協議会の設置
  • 関係者間の調整役(コーディネーター)の配置
  • 地域における食品アクセスの現状・課題の調査
  • 課題解決に向けた計画の策定

この支援は、令和7年度補正予算600百万円の枠で実施される食品アクセス確保緊急支援事業に位置づけられています。

フードバンク等の機能強化の支援

地域の担い手となるフードバンクこども食堂等の立上げ・取組拡大を支援し、多様な食料への良好なアクセスを確保する機能強化を図ります。方向性として、未利用食品の取扱い拡大多様な食料へのアクセス確保を掲げています。国から民間団体へ定額の支援が流れ、さらにフードバンク等へ届く二段構造です。

この機能強化は二つの枠で後押しされます。通常予算の食品アクセス確保対策事業は令和8年度概算決定額15百万円(前年度124百万円)で、フードバンクによる食品提供の質・量の充実を支えます。あわせて、前述の令和7年度補正食品アクセス確保緊急支援事業でも、フードバンク等の立上げ・機能強化を支援します。

支援が目指す目標

国は、これらの支援を通じて次の目標を掲げています。

  • 経済的な食品アクセスの確保に取り組む市町村割合:令和12年度までに80%
  • フードバンク活動を行う団体の食品取扱量:令和12年度までに28,000トン

補助率・対象経費・公募スケジュールは年度ごとに告示されます。自分の立場に近い区分(自治体・社会福祉協議会・補助事業者・フードバンク本体など)から、該当する公募要領をたどると整理しやすくなります。地域づくりの観点では、中山間地域等への支援や、未利用食品の活用を担うフードバンクへの食品の寄附とあわせて考えると、買い物環境の確保がより進めやすくなります。

よくある質問

食品アクセス問題とは何ですか

店舗の減少や高齢化、過疎化などで、食料品の買い物に困る人が増えている問題です。買い物に困る人は「買い物困難者」「買い物難民」「買い物弱者」と呼ばれ、店が遠い状態は「フードデザート(食の砂漠)」とも言われます。栄養のかたよりや孤立にもつながる地域課題です。

買い物困難者の定義はありますか

法令で一律に定められた定義はありません。農林水産省(農林水産政策研究所)は「食料品アクセス困難人口」として、店舗まで直線距離500m以上で、かつ自動車を利用できない65歳以上の方と定義して推計しています。対象の店舗には、食料品スーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストアなどが含まれます。

買い物困難者はどのくらいいますか

農林水産政策研究所の推計では、食料品アクセス困難人口は2020年時点で全国904万人にのぼり、65歳以上人口の25.6%、およそ4人に1人にあたります。高齢化や運転免許の返納、身近な店舗の減少を背景に、過疎地だけでなく都市部でも広がっています。経済的に十分な食料を入手しにくい方への支援とあわせ、国は経済的な食品アクセスの確保に取り組む市町村割合を令和12年度までに80%へ高めることを目標に対策を進めています。

どんな対策がありますか

主な柱は、移動販売、宅配・買い物代行、身近な買い物拠点づくり、地域の関係者の連携、デジタル活用の5つです。地域の人口や地形、店舗の有無に応じて組み合わせます。あわせてフードバンクやこども食堂等が多様な食料を届ける役割を担います。

移動販売などの取組事例はどこで見られますか

たとえば、移動スーパーによる巡回(コープさっぽろ、JAおきなわ等)、移動販売と高齢者見守りの一体運用(鳥取県日野町)、道の駅や住民組織による常設拠点(兵庫県神河町等)などが各地で進んでいます。農林水産省も「地域に応じた各地での買物支援の取組」や「食品アクセスの確保に関する先進事例集」(PDF)を公開しています。移動販売と高齢者の見守りを組み合わせた取組をはじめ、買い物拠点づくりや宅配など全国の事例が分類ごとにまとまっています。自分の地域に近い人口規模・条件の事例から読むと、対策を組み立てる参考になります。

自治体の支援はありますか

あります。農林水産省が、地域協議会の設置やコーディネーター配置などの体制づくりと、フードバンク等の機能強化を補助します。令和8年度の食品アクセス確保対策事業(概算15百万円)と、令和7年度補正の食品アクセス確保緊急支援事業(600百万円)で後押しします。詳しい対象や補助率は公募要領でご確認ください。

事業者はどう関われますか

小売や流通の事業者は移動販売・宅配・買い物拠点づくりの担い手として、物流事業者や食品事業者は配送網の活用や未利用食品の提供という形で関われます。地域協議会に加わって自治体や福祉関係者と連携先を整理することが、実務の入口になります。

食品アクセス対策の次の一歩

地域で対策を始めるときは、立場ごとに最初の動きが見えてきます。

  • 自治体・社会福祉協議会の方は、まず地域協議会の設置とコーディネーターの配置を検討し、現状調査と計画策定から着手しましょう。
  • 小売・流通・物流の事業者の方は、移動販売や宅配、買い物拠点づくりで関われる範囲を地域協議会で整理しましょう。
  • フードバンク・NPO・こども食堂の方は、立上げや機能強化の支援枠を公募要領で確認し、補助事業者経由の支援内容をたどりましょう。

支援の対象・補助率・公募スケジュールは年度ごとに変わります。まずは農林水産省の公募ページと、お住まいの都道府県・市町村の農政や福祉の窓口に相談することが、確実な第一歩です。

キーワード解説

食品アクセス

国民が健康的な生活のために必要な食品を、お金の面でも物理的な面でも入手できる状態を指します。これが損なわれて買い物に困る人を買い物困難者(買い物難民・買い物弱者)と呼び、その支援が本施策の中心テーマです。

フードバンク

食品関連事業者等から未利用食品の寄附を受け、こども食堂、生活困窮者、福祉施設等へ無償提供する活動を行う団体です。名称のいかんを問いません。本施策では、食品提供の質・量の充実と未利用食品の取扱拡大が支援の焦点です。

こども食堂

子どもが無料または低価格で食事をとれる場を提供する取組です。食品アクセス確保の担い手のひとつとして、フードバンク等と並び、立上げ・機能強化支援の対象に含まれます。