概要

政府備蓄米は、不作のときに国民へ米を行き渡らせるための「国のコメの備え」です。ふだんは市場に出さずに毎年入れ替えるしくみのため、米づくりの現場から見えにくい制度ですが、令和7年の米価高騰局面では主食用への放出が行われ、需給と米価を大きく動かしました。放出によって備蓄在庫は適正水準を下回り、令和7年産の買入れは中止されました。ここまでの経緯を簡潔に押さえたうえで、米をつくる農家・農業法人が最も知りたい「これから」――放出した分の買戻しや令和8年産以降の買入れ、100万トン回復の見通しが、作付けと販売にどう効くかを整理します。米政策全体の流れは米政策の全体像(米価・需給・水田政策)でご覧ください。

項目内容
想定読者 主食用米の作付け・販売を判断する農家・農業法人の方です。買入・売渡・買戻しに関わるJA・集荷業者、地域の需給と価格を見る自治体農政担当にも役立ちます。
制度 不作に備えて国が米を持つしくみです。適正水準は100万トン程度で、市場へ影響を与えない棚上備蓄で運営します。
ここまで
(令和7年)
米価高騰を受け、3〜6月末に主食用へ36万トンを放出しました。6月末の備蓄在庫は約60万トンに低下しました。
令和7年産 需給状況にかんがみ、備蓄米の買入れは中止されました。
これから 放出分(約59万玄米トン)の買戻しと令和8年産以降の買入れは、今後の需給を見定めて行われます。100万トン回復の道筋が需給・米価を左右します。

政府備蓄米とは──食料安全保障のための「国のコメの備え」

政府備蓄米は、不作などで米が足りなくなる事態に備えて、国が一定量の米を持っておく制度です。主要食糧法に基づき、国が自ら米を買い入れて保有し、いざというときに供給します。発端は平成5年産の記録的な大不作(いわゆる平成の米騒動)で、緊急輸入に頼らざるをえなかった反省から、平成7年に施行された主要食糧法のもとで備蓄制度が整えられました。

備蓄の対象は米だけではありません。国は、自給している米のほか、多くを輸入に頼る食糧用小麦と飼料穀物についても備蓄を行っています。米は「国内の不作に対し、緊急輸入などをせずに国産米で対処し得る水準」、輸入に依存する小麦・飼料穀物は「不測時に代替輸入先からの輸入を確保するまでの期間に対処し得る水準」という考え方で、それぞれ備蓄量を決めています。米づくりに関わる読者にとっては、米の備蓄が需給と価格にどう効くかが要点になります。

適正備蓄水準100万トンの根拠

米・食糧用小麦・飼料穀物・食品用大豆の備蓄水準とその考え方を示す表。国産の米は100万トン程度で、10年に1度の不作(作況92)や通常程度の不作(作況94)が2年連続しても国産米で対処し得る水準とされている。
農林水産省「最近の米をめぐる状況について」(令和8年3月):穀物等の備蓄水準とその考え方

米の適正な備蓄水準は100万トン程度です。これは、「10年に1度の不作(作況92)や、通常程度の不作(作況94)が2年続いた事態にも、国産米だけで対処し得る水準」という考え方に基づきます。緊急輸入に頼らず国産米で乗り切れる量、という発想です。

100万トンという水準は、2001年当時の需要量をもとに設定されました。後述する棚上備蓄方式へ切り替えた2011年にも、引き続き100万トン程度として維持されています。需要が長期的に減ってきたなかでも水準が据え置かれてきた点は、これからの見直し(後述)を考えるうえでの前提になります。

市場に出さない「棚上備蓄」のしくみ

政府備蓄米の基本的な運用を示す図。毎年播種前に20〜21万トンを買い入れ、5年間程度持ち越して合計100万トン程度を保有し、5年持越米となった段階で飼料用等として販売する流れと、令和7年6月末の在庫60万トンの年産別内訳。
農林水産省「最近の米をめぐる状況について」(令和8年3月):政府備蓄米の基本的な運用と在庫状況

備蓄米の買入れや売渡しが米の市場価格に影響を与えてしまっては、米づくりの現場が振り回されます。そこで、ふだんは主食用に備蓄米を売らず、大不作などの場合だけ供給する棚上備蓄という方式がとられています。この運営の基本を押さえておくと、令和7年の放出が「例外」だったことがよくわかります。

運用は次のサイクルです。適正水準100万トン程度を前提に、毎年の作付前(播種前契約による買入)に20万〜21万トン程度を入札で買い入れます。買い入れた米はおおむね5年間持ち越し、5年持越米となった段階で飼料用などとして販売します。20〜21万トン×5年でおよそ100万トンになる計算で、毎年少しずつ入れ替える「回しながら備える」しくみです。通常は主食用市場に出さないため、米価への影響は抑えられます。

なお、買入数量はこれまで毎年20万トン程度を基本とし、CPTPP協定後は輸入の豪州枠に相当する量を加えて21万トン程度としてきました。この豪州枠相当分の買入れは会計検査院の指摘を踏まえて見直され、実際の豪州からの輸入量に見合う規模に改められます。これに沿えば、基本的な買入数量は20万〜21万トンとなります。

令和7年に何が起きたか──主食用への36万トン放出

長く守られてきた棚上備蓄の例外が、令和7年に起きました。米価が高騰し、流通段階で米が思うように出回らなくなったことを受け、国は備蓄米を主食用へ放出しました。令和7年3月から6月末までに、主食用として36万トンが売り渡されました。

放出の結果、備蓄在庫は大きく減りました。令和7年6月末の備蓄在庫は約60万トンとなり、適正水準の100万トンを大きく下回る水準に低下しました。米価高騰という非常時に、備えていた米を実際に使ったかたちです。米価や流通の混乱そのものの経緯は米政策の全体像(米価・需給・水田政策)で扱っており、ここでは備蓄の在庫がどう動いたかに絞ります。

買戻し条件付売渡しという例外的な出し方

政府備蓄米の在庫推移を示す棒グラフ。売渡し前(令和7年3月末)の96万トンから、令和7/8年の買入・買戻し前は32万トンへ減り、令和8/9年(令和9年6月末)には53万トン±αへ。放出全体約59万玄米トンの買戻し・買入れは今後の需給状況等を見定めて行うと注記。
農林水産省「最近の米をめぐる状況について」(令和8年3月):政府備蓄米の在庫状況の推移

令和7年の放出で特徴的だったのが、出し方です。流通の目詰まりを解消するため、国は買戻し条件付売渡しを実施しました。これは、集荷業者などが入札で備蓄米を買い受ける代わりに、原則として一定期間内に同量を国へ買い戻すことを条件とする売渡しです。米そのものを国が手放してしまうのではなく、「いったん市場へ流し、後で同じ量を戻してもらう」しくみで、備蓄を減らさずに当面の流通を回す狙いがあります。

放出は、この買戻し条件付売渡しだけではありませんでした。内訳は、買戻し条件付売渡しが31万トン(契約数量ベース)、随意契約による売渡しが28万トン(申込確定数量ベース)、加工原材料用への売渡しが5万トン(申込申請数量ベース)で、合計64万トンにのぼります。このうち、国へ戻すことが前提になっているのが買戻し分です。誰に・どんな条件で出したかによって、後で備蓄に戻ってくる量が変わってきます。

令和7年産の買入は中止

在庫が大きく減るなかで、国は買入れの方針も変えました。毎年の作付前に20〜21万トンを買い入れるのが通常運用ですが、令和7年産の備蓄米の買入れは、需給状況にかんがみて当面中止されました。米価が高く、主食用の需給がひっ迫しているなかで国が新たに買い入れれば、市場の不足感をさらに強めかねないためです。

これは、米づくりの現場にとって見逃せない事実です。例年であれば播種前契約による政府買入が一定量の需要として存在しますが、令和7年産についてはそれがありませんでした。備蓄米向けの出荷を見込んでいた産地・集荷業者にとっては、その分の出口が一時的になくなったことになります。今年産以降の作付けと販売の計画を立てるうえで、買入れがあるかどうかは押さえておきたい前提です。

放出分の買戻しはこれからの需給次第

ここからが、読者が最も知りたい「これから」です。令和7年に放出した分は、いずれ国の備蓄へ戻していく必要があります。放出全体(約59万玄米トン)に係る買戻しおよび買入れは、今後の需給状況などを見定めたうえで行うとされています。いつ・どれだけ国に戻るかは、これからの作柄と需給で決まり、あらかじめ量や時期が固定されているわけではありません。

備蓄の在庫推移の見通しを見ると、売渡し前(令和7年3月末)の96万トンから、令和7/8年の買入・買戻し前には32万トンまで下がり、令和8/9年(令和9年6月末)には53万トン±αまで戻る姿が描かれています。買戻しがどれだけ進むかで在庫の戻り方が変わるため、この回復ペースが今後の需給と米価に効いてきます。

買戻しは需給を見ながら進むため、米づくりの現場にとっては両にらみの関係になります。買戻しのために市場から米が引き取られれば需給は締まりやすく、逆に進みが遅ければ放出された米が市場にとどまります。自分の販売環境がどちらに振れるかを読むうえで、買戻しの動向は重要な手がかりです。

100万トン回復に向けた今後の見通し

放出と買入中止で大きく下がった備蓄を、食料安全保障の観点からどう適正水準へ戻していくかも、これからの論点です。買戻しに加え、新たな買入れの再開がその両輪になります。

令和8年産については、備蓄米の政府買入れとして21万玄米トンが予定されています。令和7年産で止まっていた買入れが、令和8年産で動き出す見込みということです。例年どおりの播種前契約による買入が戻れば、その分は産地・集荷業者にとっての出口になります。買戻しの進み具合とあわせて、備蓄が100万トンへ向けてどう積み上がっていくかが、需給を締める方向に働きます。

さらに国は、令和9年度以降の総合的な備蓄の構築に向けた検討を進めています。これは、全量を国内の倉庫で抱えるのではなく、国内の生産余力や民間在庫、海外の契約栽培・在庫・輸送中の量まで含めて、全体として「備え」をとらえ直そうという考え方です。備蓄にはコストがかかり、米の備蓄1トンあたりの費用は2021年度決算で約4万9,000円(買入費を含む)とされています。100万トンという水準そのものや、その持ち方が令和9年度以降に見直される可能性があり、これは作付けの目安や販売環境にも響きうるテーマです。

備蓄米の動きを米づくり・販売の判断にどうつなげるか

備蓄米は遠い制度に見えて、買入・買戻しの動きを通じて自分の米の需給と価格に効いてきます。米をつくる農家・農業法人、そして集荷・販売に関わるJA・集荷業者がいま確認しておきたいのは、次の点です。

  • 買入れの有無:その年産の備蓄米の政府買入れがあるかどうかを確認します。令和7年産は中止、令和8年産は21万玄米トンの予定と、年産で扱いが変わります。買入れは産地・集荷業者にとっての出口になるため、作付け・出荷の計画に織り込みます。
  • 買戻しの進捗:放出分(約59万玄米トン)の買戻しがどれだけ進むかで、市場の需給の締まり方が変わります。買戻しのための引き取りが進めば需給は締まりやすく、遅れれば放出米が市場にとどまります。販売時期や価格を読む手がかりにします。
  • 基本指針の更新:備蓄の供給量や買入予定は、毎年10月ごろに公表される基本指針などで示されます。最新の数値を継続的に確認し、作付け・販売の判断材料にします。
  • 確認の場:地域の農業再生協議会やJA、農林水産省の公表資料で、備蓄米の買入・買戻しの動きと需給の見通しをご覧ください。米政策全体のなかでの位置づけは米政策の全体像(米価・需給・水田政策)でご覧ください。

キーワード解説

政府備蓄米

不作などで米が不足する事態に備えて、国が一定量を保有しておく米です。適正水準は100万トン程度とされ、10年に1度の不作(作況92)や通常程度の不作(作況94)が2年続いても国産米で対処できる量という考え方に基づきます。主要食糧法に基づき、国が自ら買い入れて保有します。

主要食糧法(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)

米・麦などの主要食糧の需給と価格の安定を図るための法律で、平成7年に施行されました。平成5年産の大不作を契機に、米の備蓄や流通のしくみが整えられました。政府備蓄米の買入れ・売渡しもこの法律に基づく運用です。

棚上備蓄

政府の買入れ・売渡しが米の市場価格に与える影響を避けるため、ふだんは備蓄米を主食用に販売しない運営方式です。大不作などの場合に限って供給し、通常は5年持ち越した米を飼料用などとして販売します。毎年20〜21万トンを買い入れて入れ替えます。

買戻し条件付売渡し

国が備蓄米を売り渡す際に、買い受けた集荷業者などが原則として一定期間内に同量を国へ買い戻すことを条件とする売渡しです。米を市場へいったん流しつつ、後で同じ量を備蓄へ戻してもらうしくみで、流通の目詰まりを解消しながら備蓄を大きく減らさない狙いがあります。

基本指針(米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針)

主食用米などの需給見通しや政府備蓄米の運営方針を国がまとめたもので、おおむね年3回(うち10月公表分が翌年産の見通しを含む)公表されます。備蓄米の供給量や買入予定、民間在庫の見通しなどが示され、作付け・販売の判断材料になります。

農業再生協議会

市町村などの区域ごとに、行政・JA・農業者などで構成される地域の協議組織です。需要に応じた米の生産や作付転換、交付金の取りまとめなどを担い、産地ごとの作付け方針や最新の需給情報を確認する場になります。

まとめ

政府備蓄米は、適正水準100万トンを前提に、市場へ影響を与えない棚上備蓄で毎年20〜21万トンを入れ替える「国のコメの備え」です。令和7年は米価高騰を受けて主食用へ36万トンが放出され、備蓄在庫は約60万トンへ低下し、令和7年産の買入れは中止されました。ここからの焦点は、放出した約59万玄米トンの買戻しと令和8年産以降の買入れ、そして令和9年度以降の総合的な備蓄の構築です。いずれも今後の需給次第で動き、米づくりの現場の需給と価格に効いてきます。買入れの有無・買戻しの進捗・基本指針の更新を、産地やJAで継続的に確認しておくことが、これからの作付け・販売の判断につながります。米政策全体の流れは米政策の全体像(米価・需給・水田政策)でご覧ください。