概要
米をつくる農家・農業法人にとって、これからの経営を大きく左右するのが、米価の動きと制度の変化です。令和7年産の米価は前年から大幅に上がり、政府備蓄米の放出も行われました。ここまでの需給と価格の動きを振り返ったうえで、令和8年産の見通しと、令和9年度から根本的に変わる水田政策まで、これから何が起きるのかを整理します。詳しい要件や最新の数値は、農林水産省の一次情報をご覧ください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 想定読者 | 米をつくる農家・農業法人の方です。地域でそれを支えるJA・自治体の担当者にも役立ちます。 |
| ここまで (〜令和7年産) |
米価が約3倍に上がりました(令和7年産は玄米60kgあたり36,310円、前年比+44%)。背景に需要減と、令和7年の備蓄米36万トンの放出があります。 |
| 令和8年産 | これから収穫期を迎えます。主食用米の生産量は711万トンと見込まれ、需給と価格の行方が焦点です。 |
| 令和9年度から | 水田政策が根本的に見直されます。水田活用の直接支払交付金が作物別の生産性向上支援に転換し、5年水張り要件は廃止されます。 |
| 経営の備え | 収入の落ち込みには収入保険かナラシ対策で備えます。作付転換は水田活用の直接支払交付金(令和8年度2,612億円)が支えます。 |
この数年で米価はどう動いたか
米の卸売段階の値動きを示す相対取引価格は、この数年で急上昇しました。令和3年産は玄米60kgあたり12,804円でしたが、令和4年産13,844円、令和5年産15,315円、令和6年産25,179円と上がり、令和7年産は36,310円(前年比+11,131円、+44%)になりました。令和3年産のおよそ3倍の水準です。
米価は農家の手取りに直結する一方、高すぎる価格は消費者の米離れも招きかねません。令和の米価高騰は、これからの作付けや販売を考えるうえでの出発点になっています。
なぜ米価は上がったのか
背景には、長期的な需要の減少と、年ごとの需給のズレがあります。米の一人当たり消費量は、食生活の変化や人口減少・少子高齢化を背景に、昭和37年度の118.3kgから令和6年度は53.4kgまで減りました。主食用米の総需要量も、近年は1年あたり10万トン程度のペースで縮小してきました。
需要が細るなか、令和7年産は作付けが増えました。主食用米の作付面積は前年の125.9万haから136.7万ha(+10.8万ha)に増え、収穫量も前年を大きく上回りました。それでも価格が高止まりしたのは、流通段階での不足感が強かったためです。米穀販売事業者の販売数量は令和7年7月〜令和8年1月の累計で前年比92%と前年を下回った一方、令和8年1月末の民間在庫量(出荷・販売段階の計)は321万トンと前年より92万トン多く積み上がり、「在庫はあるのに思うように出回らない」という状況が続きました。
令和8年産の需給はどうなる見通しか
令和8年産はこれから収穫期を迎えます。令和7年10月公表の基本指針では、令和8年産の主食用米等の生産量は711万トンと見込まれています。主食用米の需要は減少傾向が続くと見られ、令和8年産の生産量と販売の動きが、これからの需給と価格を左右します。
農林水産省は「米に関するマンスリーレポート」などで需給や価格の情報を毎月公表しているため、作付けや販売の判断材料として、最新の数値を継続的に確認しておくとよいでしょう。
令和9年度から水田政策はこう変わる
これからの米づくりに最も大きく関わるのが、水田政策の見直しです。令和7年4月11日に閣議決定された新たな食料・農業・農村基本計画(改正基本法は令和6年6月5日施行)は、水田政策を令和9年度から根本的に見直す方針を掲げています。
具体的には、これまで水田を対象に支援してきた水田活用の直接支払交付金を、作物ごとの生産性向上などへの支援に転換します。あわせて、令和9年度以降は5年水張り要件を求めないこととします。移行期にあたる令和7年・令和8年は、水稲を作付け可能な田について連作障害を回避する取組を行えば、水張りをしなくても交付対象として扱われます。
基本計画は、これから目指す米の姿も示しています。生産コストは15ha以上の経営体で玄米60kgあたり11,350円(2023年)から9,500円へ、米全体でも15,944円から13,000円へ引き下げます。加工用米・新規需要米を含む米の生産量は791万トン(2023年度)から818万トン(2030年度)へ増やし、農林水産物・食品の輸出額は5兆円を目指します。規模拡大と生産コストの低減、そして輸出や新規需要米への展開が、これからの方向性です。
需給と経営を安定させる仕組み
制度の見直しが進むなかでも、需要に応じて主食用米をつくりつつ、麦・大豆などへの作付転換を進めるという基本は変わりません。価格変動による収入減少は収入保険かナラシ対策で受け止めます。
水田活用の直接支払交付金(令和8年産まで)
水田活用の直接支払交付金は、水田で麦・大豆・飼料作物・米粉用米などの戦略作物をつくる農業者を支える交付金で、令和8年度当初予算は2,612億円です。主な助成は次のとおりです。
- 戦略作物助成:麦・大豆・飼料作物は3.5万円/10a、加工用米は2万円/10a、WCS用稲は8万円/10a、飼料用米・米粉用米は収量に応じて5.5〜10.5万円/10aです。
- 産地交付金:「水田収益力強化ビジョン」に基づき、地域の特色をいかした産地づくりを支えます。
- 都道府県連携型助成:都道府県が独自に転換拡大を支援する場合に、国が上乗せします。
- 畑地化促進助成:水田を畑として使い、高収益作物などを定着させる取組を支えます。
このほか、新市場開拓用米・加工用米・米粉用米・酒造好適米への転換を支えるコメ新市場開拓等促進事業(令和8年度140億円)が並びます。これらの支援は、令和9年度の制度見直しに向けて単価や要件が見直される可能性があるため、最新の交付単価を確認しながら作付けを判断することが大切です。
米穀周年供給・需要拡大支援事業
需要に応じて生産してもなお、気象の影響などで主食用米が余る場合に備える仕組みが米穀周年供給・需要拡大支援事業(令和8年度50億円)です。産地があらかじめ積立てを行い、主食用米を翌年以降に長期計画的に販売したり、海外向け・業務用向けに販売したりする取組を支えます。過剰になった分を翌年に回すことで、需給の安定を図ります。
転換先となる新規需要米──飼料用米と米粉用米
水田活用の直接支払交付金が転換を後押しする先が、飼料用米や米粉用米などの新規需要米です。これらの作付けは主食用米の需給と表裏の関係にあり、主食用が不足すると主食用へ戻る動きが起こります。米価や需給を考えるうえで欠かせない調整弁です。
飼料用米の作付面積は、令和7年産で4.6万haと前年から5.3万ha減りました。とくに一般品種は主食用米の需給で大きく動き、作付けに占める割合は2024年産の74%から2025年産は13%へ下がりました。主食用米がひっ迫し、一般品種が主食用に回ったためです。需給がこれだけ振れると作付け判断も難しくなるため、多収品種の活用や複数年契約の見極めが鍵になります。
米粉用米は、グルテンフリー食品への関心などを背景に需要が伸び、需要量は平成30年度の3.1万トンから令和6年度は5.6万トンになりました。一方で、主食用米のひっ迫により加工原材料用の国産米が不足し、政府備蓄米が約5万トン販売されました。国は米粉需要創出・利用促進対策事業(令和7年度補正20億円)などで、米粉の需要を令和12年度までに13万トンへ拡大する目標を掲げています。
収入の落ち込みに備える──収入保険とナラシ対策
米価や収量が下がったときの備えには、性格の異なる二つの制度があります。農業者は、収入保険かナラシ対策のいずれかを選んで加入します。これからの価格変動に備えるうえで、自分の経営に合うのはどちらかを見極めておきたいところです。
- 収入保険(令和8年度290億円)は、青色申告を行う農業者が対象です。米だけでなく経営全体の農産物を対象に、自然災害だけでなく価格低下などによる収入減少も補償します。保険期間の収入が基準収入の9割を下回った場合に、下回った額の9割を上限に補てんします。保険料の50%と積立金の75%を国が補助します。
- ナラシ対策(令和8年度468億円)は、認定農業者・集落営農・認定新規就農者が対象です(規模要件はありません)。米・麦・大豆などの当年産の販売収入が標準的収入額を下回った場合に、その差額の9割を補てんします。財源は農業者と国が1対3の割合で負担します。
令和6年のような記録的高温で収入が落ち込んだ年にも、収入保険には気象災害特例があり、災害で収入が減った年でも基準収入の8割まで補正できます。水稲共済でも、品質低下による規格外の被害粒を減収量に含める特例措置が用意されています。高温傾向はこれからも続くと見込まれるため、高温耐性品種への切り替えとあわせて備えが重要です。
政府備蓄米はどう使われたか
政府備蓄米は、不作に備えて国が持つ米です。適正な備蓄水準は100万トン程度とされ、「10年に1度の不作(作況92)や、通常程度の不作(作況94)が2年続いても、国産米だけで対処できる水準」という考え方に基づきます。ふだんは市場への影響を避けるため主食用には売らない棚上備蓄で運営し、毎年の作付前に20〜21万トンを買い入れ、5年持ち越した米を飼料用などに販売してきました。
もっとも、令和の米価高騰局面では、政府備蓄米が主食用にも放出されました。令和7年3月から6月末までに主食用として36万トンが売り渡され、令和7年6月末の在庫は60万トンになりました。需給状況をふまえ、令和7年産の備蓄米の買入れは中止されました。放出した分(全体で約59万玄米トン)の買戻しや買入れは、今後の需給を見定めたうえで行われます。備蓄水準が大きく下がった状態からどう回復させていくかが、これからの論点です。
これからの販路と輸入──米の輸出入
国内需要が縮むこれから、米の新しい販路として期待されるのが輸出です。令和9年度からの基本計画が掲げる「海外から稼ぐ力」の柱でもあり、需給を補う輸入とあわせて、米をめぐる動きとして押さえておきます。
米・米加工品の輸出は、2026年1月で輸出金額52億円(前年同月比+35%)となり、2024年1月以降25か月連続で前年同月を上回りました。国は2030年に農林水産物・食品の輸出額5兆円を目標とし、そのうち米・パックご飯・米粉および米粉製品で922億円(2024年実績136億円)を目指しています。低コストの輸出向け産地の育成も進められ、主食用米の需要減を補う出口として位置づけられています。
一方の輸入は、WTO協定に基づくミニマム・アクセス米(MA米)として、年77万玄米トンが無税枠で国によって一元的に輸入されています(国家貿易)。この枠を超える輸入には、1kgあたり341円という高い枠外税率がかかり、国産米への影響が抑えられています。国産米の価格が令和6年度以降に上がったことで、外国産米との価格差は大きく開きました。
米づくりを続けるために、いま確認しておきたいこと
これまでの動きと今後の見通しをふまえると、米をつくる農家・農業法人がこれから押さえておきたいのは、次の点です。
- 作付けの方針:主食用米を続けるか、麦・大豆や新市場開拓用米などへ転換するか。令和9年度の水田活用の直接支払交付金の見直しや5年水張り要件の廃止を見据え、交付単価と自分の水田の条件を照らして判断します。
- 収入の備え:収入保険とナラシ対策のどちらが自分の経営に合うかを確認します。収入保険は青色申告が前提で、加入には事前の手続きが必要です。
- 生産コストの低減:規模拡大や農地の集積・集約、スマート農業技術の導入は、これから国が重点的に後押しする方向です。基本計画の生産コスト目標(玄米60kgあたり9,500円など)も意識しておきたいところです。
- 最新情報の確認:需給や価格、交付単価は年度ごとに動きます。地域の農業再生協議会や農林水産省の公表資料で、最新の数値をご覧ください。
キーワード解説
相対取引価格
出荷団体などと卸売業者の間で取引される米の価格で、米の卸売段階の動きを示す代表的な指標です。運賃・包装代・消費税相当額を含む1等米の価格として、農林水産省が調査・公表しています。
水田活用の直接支払交付金
水田で麦・大豆・飼料作物・米粉用米などの戦略作物をつくる農業者に交付される交付金です。主食用米から他作物への転換や、畑地化を後押しします。令和9年度からは、作物ごとの生産性向上などへの支援に転換される予定です。
収入保険
青色申告を行う農業者が加入できる保険で、品目を問わず経営全体の収入を対象に、自然災害だけでなく価格低下による収入減少も補償します。保険期間の収入が基準収入の9割を下回ると、下回った額の9割を上限に補てんされます。ナラシ対策とは、どちらか一方を選んで加入します。
ナラシ対策(米・畑作物の収入減少影響緩和交付金)
認定農業者・集落営農・認定新規就農者を対象に、米・麦・大豆などの当年産収入が標準的収入額を下回ったとき、その差額の9割を補てんする仕組みです。財源は農業者と国が1対3の割合で負担し、補てん後の積立金の残りは翌年に繰り越されます。
政府備蓄米
不作などに備えて国が保有する米です。適正水準は100万トン程度とされ、10年に1度の不作や、通常程度の不作が2年続いても国産米で対処できる量という考え方に基づきます。
棚上備蓄
政府の買入れ・売渡しが市場に与える影響を避けるため、ふだんは備蓄米を主食用に販売しない運営方式です。大不作などの場合に限って供給し、通常は5年持ち越した米を飼料用などに販売します。
5年水張りルール
水田活用の直接支払交付金の交付対象を判断するための要件で、一定期間に水稲の作付け(水張り)がない農地を対象外とする考え方です。令和9年度以降はこの要件を求めないこととされ、移行期の令和7・8年は連作障害を回避する取組を行えば水張りなしでも交付対象になります。
新規需要米
主食用以外の用途で生産される米の総称で、飼料用米・米粉用米・新市場開拓用米(輸出用米等)・WCS用稲などが含まれます。主食用米の需給を調整する役割も担います。
ミニマム・アクセス米(MA米)
WTO協定に基づき、最低限の輸入機会として設けられた無税の輸入枠で輸入される米です。年77万玄米トンを国が一元的に輸入(国家貿易)し、国産米への影響を抑える運用がとられています。
まとめ
令和の米価高騰は、需要が長期的に減るなかで生じた需給の変動を背景に起きました。令和8年産はこれから収穫を迎え、その需給と販売が今後の価格を左右します。そして令和9年度からは水田政策が根本的に見直され、水田活用の直接支払交付金の転換や5年水張り要件の廃止など、米づくりの前提そのものが変わります。米をつくる農家・農業法人にとっては、作付けの方針と収入の備えを、制度変更を見据えて早めに考えておくことが、これからの経営の鍵になります。詳しい要件や最新の数値は、農林水産省の一次情報をご覧ください。