概算金は、JAが出荷契約した米の代金の一部を、集荷の時点で生産者に前払いする資金です。仮渡金や内金とも呼ばれ、販売終了後の共同計算で精算されます。新米の値ごろ感をいち早く映すため、毎年夏から秋の提示額は米価の先行指標として大きく報道されます。ただし概算金は前払いにすぎません。確定価格は農林水産省が毎月公表する相対取引価格などで後から把握します。この記事では、概算金の仕組み、報道の金額と実際の入金額がなぜ違うのか、追加払いがいつ・いくら出るか、米価との関係、下落局面に入った令和8年産までの動向と注意点、そして下がった収入を補う仕組みまでを整理します。
概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 概算金とは | JAが出荷契約した米の代金の一部を集荷時に生産者へ前払いする資金。仮渡金・内金とも呼ばれる |
| 位置づけ | JAグループの商慣行。国の制度や法律に基づく支払いではない |
| 支払い時期 | 収穫・出荷のタイミング。おおむね8月から10月にかけて産地ごとに提示・支払い |
| 決定主体 | 全農県本部や各JAが、産地・銘柄・等級ごとに設定 |
| 精算方法 | 共同計算により販売終了後に手取りが確定。販売額が概算金を上回れば追加払い |
| 米価との関係 | 新米価格の先行指標。確定的な取引水準は農林水産省公表の相対取引価格で把握 |
| 直近の相対取引価格 | 令和7年産は令和8年7月時点で全銘柄平均3万2,486円(玄米60kg当たり、農林水産省公表)。令和7年10月のピーク3万7,058円から約12%安 |
| 令和8年産の局面 | 在庫増で下落局面に転換。早期米は前年産比2〜4割安で、米のコスト指標2万535円を下回る産地も。主食用うるち米は新潟の一般コシヒカリ1万8,500円(1万1,500円安・約38%安、8月18日決定)、福井のコシヒカリ1万7,000円(1万2,000円安)、愛知のコシヒカリ1万6,800円 |
| 在庫の状況 | 令和8年6月末の民間在庫は243万玄米トンで平成11年以降の最多。うち出荷段階が149万玄米トン |
| 需給の見通し | 令和9年6月末の民間在庫も242〜260万玄米トンと減らない見通し(令和8年7月28日公表の基本指針) |
| 相場の先行き | 米穀機構の7月調査で、向こう3か月の価格見通し指数は過去最低の18(令和8年8月6日公表) |
概算金とは
概算金とは、生産者がJAと出荷契約を結んだ米について、JAが集荷の時点で代金の一部を前払いする資金です。正式な名称は地域によって異なり、仮渡金、内金、出荷時精算金などの呼び方があります。重要なのは、概算金が国の制度ではないという点です。法律や交付金のような公的な裏付けはなく、JAグループが長年続けてきた商慣行であり、金額の設定も支払い条件も各県の全農県本部やJAの判断で決まります。
概算金が存在する理由は、米の販売に時間がかかることにあります。JAに集まった米は、全農などを通じて卸売業者へ年間を通じて販売され、すべて売り切るまでに翌年夏ごろまでかかります。販売代金の確定を待っていては、生産者は収穫直後の資金需要に対応できません。肥料や農薬の支払い、農機の更新、年末の資金繰りなど、秋に現金が必要となる場面は多くあります。そこで、最終的な販売額を見込んだうえで、その一部を先に渡すのが概算金です。
概算金の水準は、銘柄・等級・年産ごとに60kg(1俵)当たりの金額で提示されます。提示の時期は早い産地で7月、多くは8月から9月にかけてです。各県の提示額は新米の値ごろ感を示すシグナルとして、卸売業者や小売業者も注視します。
支払いから精算までの流れ
概算金は前払いであるため、最終的な生産者の手取りは、米がすべて売れた後の精算で確定します。この精算の枠組みが共同計算です。共同計算では、同じ区分の米をまとめて販売し、販売代金の合計から流通経費や手数料を差し引いた額を、出荷量に応じて生産者に配分します。個々の米袋がいつ・どの価格で売れたかではなく、プール全体の販売成績で手取りが決まる点が特徴です。
| 段階 | 時期の目安 | 内容 |
|---|---|---|
| 1. 出荷契約 | 春から夏 | 生産者がJAと出荷契約を結ぶ。銘柄・数量を確認する |
| 2. 概算金の提示 | 7月から9月 | 全農県本部やJAが銘柄・等級ごとに60kg当たりの金額を提示する |
| 3. 集荷と支払い | 収穫期 | 検査・集荷の後、概算金が生産者の口座に支払われる |
| 4. 販売 | 通年 | 全農・JAが卸売業者などへ年間を通じて販売する |
| 5. 精算 | 翌年夏から秋 | 共同計算で販売代金から経費を差し引き、最終手取りを確定する |
| 6. 追加払い | 精算後 | 販売額が概算金を上回った場合、差額が生産者に支払われる |
販売が好調で、最終的な販売額が概算金と経費の合計を上回れば、差額が追加払いとして支払われます。逆に販売が振るわなければ追加払いはわずかになり、理屈のうえでは概算金が最終手取りを上回る事態も起こり得ます。また、近年は精算を待たずに、販売環境の変化を受けて年度の途中で概算金自体を引き上げ、その差額を追加で支払う動きも見られます。同じ「追加払い」という言葉でも、共同計算終了後の精算によるものと、期中の概算金引き上げによるものがある点は区別して理解しましょう。
報道の「概算金◯万円」は、そのまま口座に入る金額ではない
「新潟の概算金は30,000円」と報じられても、その産地の農家が60キロ当たり30,000円をそのまま受け取るわけではありません。理由は2つあります。報じられる金額には支払いの段階が2つあることと、そこから複数の減額があることです。ここを知らないと、入金額を見て「話が違う」となります。
概算金には「全農→JA」と「JA→農家」の2つの層がある
| 層 | 誰から誰へ | 呼び方 | 報道での扱い |
|---|---|---|---|
| 上の層 | 全農県本部・ホクレン・経済連 → 県内の各JA | JA概算金、県域共計概算金 | 「新潟の概算金30,000円」のように県単位で報じられるのは多くがこちら |
| 下の層 | 各JA → 生産者 | 生産者概算金、仮渡金、内金 | JA単位で報じられる金額。実際に口座へ入るのはこちら |
上の層から下の層へ渡るとき、JAの手数料などが差し引かれます。県単位の金額を見たら、それは自分の入金額より少し高いと考えておくのが正確です。逆に、JAが独自の奨励金や加算を上乗せする場合もあります。
実際にいくら引かれるのか(石川県の公開資料の例)
JAグループ石川が公表した令和7年産の仮渡金一覧表には、この差し引きが金額で示されています。玄米60キロ・1等・紙袋・税込の数字です。
| 銘柄(1等) | 県域共計概算金 | JA手数料等 | 仮渡金合計(実際の入金額) |
|---|---|---|---|
| コシヒカリ | 25,200円 | 704円 | 24,496円 |
| ひゃくまん穀 | 27,000円 | 704円 | 26,296円 |
| ミルキークイーン | 26,200円 | 704円 | 25,496円 |
| ゆめみづほ/ハナエチゼン/ひとめぼれ | 24,300円 | 704円 | 23,596円 |
差し引かれるのは60キロ当たり704円です。10アール当たり530キロの収量で10ヘクタールを作付けすると年間およそ880俵になるので、合計で60万円ほどの差になります。1俵あたりで見れば小さな金額ですが、資金繰り表に県単位の報道の数字をそのまま入れると、必ずその分だけ上振れした計画になります。
さらに条件によって単価が下がる
同じ資料には、条件による減額も明記されています。産地により項目も金額も異なりますが、「なぜ自分の入金額は報道の金額と違うのか」の答えはたいていこの欄にあります。石川県の令和7年産では次のとおりでした。
| 条件 | 減額 | 内容 |
|---|---|---|
| 等級が下がる | 1等→2等で600円、3等で1,700円 (コシヒカリの場合) | 25,200円→24,600円→23,500円。等級は農産物検査で決まる |
| JA米にならない一般米 | 一律300円引き | 出荷契約がない生産者の米、水分15.6〜16.0%の米も一般米の扱い |
| フレコン出荷 | 226円引き | 紙袋を基準とした単価のため |
| 県産米基金の未拠出 | 一律80円引き | 拠出者との差額調整 |
逆に加算される項目もあります。石川県では複数年契約の加算金(ひゃくまん穀で60キロ当たり324円)が別途支給され、酒米の特等には1等に400円を加算する設定でした。自分の実際の単価は、出荷先のJAが配る等級別・銘柄別の単価表でしか確定できません。報道の金額は県全体の目安として読み、経営判断はこの単価表で行ってください。
追加払い(精算金)はいつ、いくら出るか
「概算金のあとにいくら入るのか」「追加払いはいつ振り込まれるのか」は、資金繰りに直結する実務上の関心事です。追加払いには性格の違う2種類があり、時期も確実性も異なります。
| 種類 | 時期 | 出る条件 | 確実性 |
|---|---|---|---|
| 精算による追加払い(本来の追加払い) | 翌年の夏から秋(販売がおおむね終わった後) | 共同計算の販売代金が、概算金と経費の合計を上回ったとき | 販売の結果しだい。保証はない |
| 期中の概算金引き上げによる差額支払い | 年度の途中(集荷期から冬にかけて) | 集荷競争や相場の急騰で、当初の提示額が実勢と離れたとき | 相場が上昇した年に限られる例外的な対応 |
つまり概算金を受け取ってから最終手取りが確定するまで、およそ1年かかります。令和8年産であれば、集荷期(2026年秋)に概算金が入り、精算による追加払いが判明するのは2027年の夏から秋です。年内の資金計画は概算金だけで組み、追加払いは翌年度の収入として別に見ておく必要があります。
金額の実例としては、令和7年産の秋田「あきたこまち」があります。当初の概算金は玄米60キロ当たり28,300円前後でしたが、商系業者との集荷競争を受けて期中に引き上げられ、最終的には3万円まで積み上がりました。差額は1,700円前後です。石川ではさらに大きく、令和7年産コシヒカリの当初25,200円が期中に31,200円へ、6,000円引き上げられました。上げ相場では、このように概算金と最終手取りが大きく離れることがあります。
精算による追加払いはいくらだったか(石川県の実額)
期中の引き上げではなく、共同計算の精算による本来の追加払いがいくらになったのかは、公開資料が少なく見えにくい部分です。JAグループ石川が公表した仮渡金一覧表には、令和6年産の最終手取り額が参考値として載っており、そこから逆算できます。玄米60キロ・1等・コシヒカリの数字です。
| 段階 | 金額 | 内容 |
|---|---|---|
| 令和6年産の県域共計概算金 | 16,200円 | 全農県本部から県内のJAへ示された金額 |
| JA手数料等 | ▲606円 | 差し引かれる分 |
| 集荷時に受け取った仮渡金 | 15,594円 | 収穫直後に口座へ入った金額 |
| 令和6年産の最終手取り額 | 20,876円 | 販売終了後の精算を経た確定額 |
| 差額(追加払い分) | +5,282円 | 仮渡金の約34%が後から積み増された |
令和6年産は米価が上昇に転じた年だったため、追加払いが仮渡金の3割を超えました。ここで押さえておきたいのは、この34%という比率が「毎年こうなる」数字ではないという点です。令和6年産は令和5年産の品薄を受けて相場が上がり続けた年で、共同計算の販売成績がそのまま上振れしました。在庫が243万玄米トンに積み上がり相対取引価格が下がり続けている令和8年産では、同じ計算は成り立ちません。過去の追加払いの実績は、良い年に何が起きるかを示す事例であって、今年の見込み額ではありません。
令和8年産で追加払いが出にくい理由
令和8年産は、この2種類のどちらも見込みにくい局面です。期中の引き上げは集荷競争があってはじめて起きるもので、在庫が243万玄米トンに積み上がり卸売業者が急いで仕入れる必要のない今年は、競争そのものが起きにくくなっています。精算による追加払いも、共同計算では販売代金から経費と概算金を差し引いた残りが原資になるため、相対取引価格が令和7年10月のピーク37,058円から令和8年7月の32,486円まで約12%下がった状況では原資が残りません。令和8年産は、概算金を「これから増える前払い」ではなく「入金の上限に近い金額」と見て資金計画を立てるのが安全です。
ただし、追加払いをめざす動きがないわけではありません。県産コシヒカリの仮渡金を18,000円(前年比約3割・8,100円安)としたJA香川県は、担当者が「何らかの追加をさせていただいて、コスト指標の2万535円に近づけたい」と述べ、追加払いでコスト指標との差を埋めたい考えを示しています。日本農業新聞も早期米の概算金が出そろった8月14日の記事で、追加精算をめざす動きがあると報じました。ただしこれはいずれもJA側の意向で、金額も時期も確定したものではありません。原資は販売実績しだいのため、資金計画は概算金の実額で立て、追加払いは出たら上乗せと考えるのが安全です。
販売額が概算金を下回ったら返すことになるのか
実務上は、生産者に返還を求めない前提で運用されています。概算金がそもそも販売見込みより低めに設定されるのは、この事態を避けるためです。令和8年産で各産地の提示額が前年産から2〜4割下がり、コスト指標20,535円を割り込む水準から始まっているのも、売り切れる金額の範囲に収める判断が働いた結果といえます。
ただし概算金はあくまで仮渡金であり、確定した売買代金ではありません。共同計算の結果しだいで調整の対象になり得るという建て付けは残っています。返還の有無や条件は法律ではなくJAの精算規程で決まるため、気になる場合は出荷先のJAに「販売額が概算金を下回った場合の取り扱い」を確認しておくと確実です。なお、その場で価格が確定する買取方式にはこの論点自体がありません。
概算金と米価の関係
概算金が米価の先行指標とされる理由は、タイミングと網羅性にあります。新米の取引が本格化する前の夏に、主要産地の主要銘柄について一斉に金額が出そろうため、その年の米の需給と価格の方向感を最も早く読み取れる材料になるからです。概算金が前年より大きく上がれば、卸売業者や小売業者は仕入れ価格の上昇を見込み、店頭価格にも波及しやすくなります。生産者にとっても、JAに出すか他の業者に売るかを判断する基準になります。
実際の米価の水準は、農林水産省が毎月公表する相対取引価格で確かめられます。これは出荷団体と卸売業者の間の取引契約の価格を集計したもので、運賃・包装代・消費税を含む1等米の価格として、産地銘柄別に公表されます。農林水産省の公表によると、令和7年産米の相対取引価格は、令和8年7月時点で全銘柄平均3万2,486円(玄米60kg当たり、前月比1,181円高=+4%)でした。この数値は令和8年8月19日に公表されたもので、令和8年6月分の3万1,305円から1か月で反発したものの、令和7年10月のピーク3万7,058円からは約12%低い水準です。相対取引数量は全銘柄合計で7.9万トン(6月分の9.0万トンから減少)です。
相場が今後どちらを向いているかは、米穀安定供給確保支援機構が毎月調べている取引関係者の価格見通しでも確かめられます。令和8年8月6日に公表された7月調査では、向こう3か月の価格見通しを示す指数が18となり、前月から1ポイント低下しました。3か月連続の低下で、平成24年の調査開始以来の最低です。指数は下落を見込む回答が増えるほど0に近づき、50を割り込んだ状態は10か月続いています。概算金はその年の相場をいち早く映す数字ですが、映す先の相場自体がまだ下向きに見られている点は、追加払いの見込みを考えるうえで押さえておきたいところです。
概算金と相対取引価格は性格が異なります。概算金は生産者が受け取る前払い金であり、相対取引価格は出荷団体と卸の間の販売価格です。相対取引価格には流通経費が含まれるため、金額をそのまま比べることはできませんが、相対取引価格が高い水準で推移すれば共同計算の販売成績が良くなり、追加払いの原資が増えるという関係にあります。概算金で当面の資金を把握し、相対取引価格の毎月の公表で販売環境を追う、という使い分けが実務的です。
在庫の積み上がりが概算金を下げる理由
令和8年6月末の民間在庫量は243万玄米トンで、前年同月の155万玄米トンから88万トン増えました。農林水産省が公表する平成11年以降の6月末在庫では最も多い数量です(それまでの最多は平成14年の229万玄米トン)。令和8年産の概算金が前年産を2〜4割下回る直接の理由は、この売れ残りにあります。
| 時点 | 民間在庫(合計) | うち出荷段階 |
|---|---|---|
| 令和5年6月末 | 197万玄米トン | 127万玄米トン |
| 令和6年6月末 | 153万玄米トン | 89万玄米トン |
| 令和7年6月末 | 155万玄米トン | 89万玄米トン |
| 令和8年6月末 | 243万玄米トン | 149万玄米トン |
| 令和9年6月末(見通し) | 242〜260万玄米トン | ― |
出荷段階は、JAや全農など集荷側が抱える在庫です。この数量は届出事業者の在庫に生産者の在庫推計値を加えたもので、農林水産省が毎月公表する米穀流通の動向の民間在庫(令和8年6月末は194万玄米トン)とは統計の対象が異なります。
出荷段階の在庫は、令和7年6月末の89万玄米トンから149万玄米トンへ増えました。前年産を売り切らないまま令和8年産の集荷期を迎えるため、新米をどの価格で何トン売れるかが集荷の時点で固まりません。
概算金は、その年に売れる見込み額の一部を先に渡す金額です。見込みが下がれば提示額も下がります。前年産の在庫を抱えた産地は、販売の結果が確定するまで低めの金額から出さざるを得ません。
卸売業者の側も在庫を持っています。販売段階の在庫は46万玄米トンから66万玄米トンへ増えており、急いで仕入れる必要がありません。買い手が待てる状況では取引価格が下がり、令和7年産の相対取引価格は令和8年7月時点で全銘柄平均3万2,486円で、令和7年10月のピーク3万7,058円から約12%安となりました。
下落は追加払いにも及びます。共同計算では販売代金の合計から経費を差し引いた額が出荷量に応じて配分されるため、販売価格が下がれば概算金を超える原資が残りません。令和7年産で相次いだ期中の引き上げも、在庫が減らない局面では起こりにくくなります。
売れ残りが1年で解消するかどうかは、国の需給見通しで確かめられます。令和8/9年の供給量954万玄米トンに対し、需要量の見通しは693〜711万玄米トンです。令和9年6月末の民間在庫量は242〜260万玄米トンと、ほとんど減りません。6月末時点の作付意向どおりに作付けが進んだ場合は263〜281万玄米トンとさらに増えます。令和8年産の概算金は、来年に戻る前提で受け取らないほうが安全です。
最近の動向
令和7年産の概算金は、前年からの米価上昇と集荷競争を背景に、多くの産地で大幅に引き上げられました。日本農業新聞は、当初提示額が60kg当たり2万円台後半から3万円前後を中心とする水準で、前年産を大きく上回ったと報じました。NHKも、複数の県で主力銘柄が60kg当たり3万円台に達したと報じています。さらに2025年9月以降は、商系業者との集荷競争に対応するため、東北や北陸などの全農県本部が概算金を期中に引き上げ、差額を追加で支払う動きが相次ぎました。
令和8年産は、この流れが反転しました。2026年7月から8月中旬に示された早期米の概算金は、宮崎のコシヒカリが玄米60キロ当たり18,000円程度、高知が14,000〜14,700円、愛媛が15,400円、徳島が16,600円前後、熊本が20,700円、鹿児島の「金峰コシヒカリ」が21,600円、佐賀の「七夕こしひかり」が18,000円、関東の早場米では千葉が18,000円です。いずれも前年産を2〜4割下回る水準で、米穀安定供給確保支援機構が令和8年4月に公表した生産段階の米のコスト指標(玄米60キロ当たり20,535円)は、8産地のうち6産地が割り込みました。徳島は8月10日にJA徳島県が30キロ当たり8,300円(60キロ換算16,600円、前年比約45%安)を「買い取り価格」として決定し、同じ県内のJA徳島市・JA東とくしまは同水準を「概算金」として提示しています。同じ金額でも委託と買取では追加払いの有無が変わるため、自分の出荷契約がどちらかは確認が必要です(買取方式)。産地・銘柄別の金額は産地・銘柄別の概算金で整理しています。
主力の主食用うるち米では、JAあいち経済連がコシヒカリ1等16,800円を示したことが8月11日に報じられ、最初の実額となりました。続いてJA福井県が8月13日の臨時理事会でコシヒカリ1等17,000円(前年産29,000円から12,000円安)、いちほまれ18,000円、ハナエチゼン16,000円を決定しています。下げ幅12,000円は主食用うるち米で過去最大の引き下げで、報道は「令和6年産の水準に戻った」と評しています。さらに8月18日には全農にいがたが一般コシヒカリ1等18,500円(税込)・魚沼コシヒカリ21,000円を決定し、令和7年産当初からいずれも11,500円(一般コシヒカリで約38%)下げました。全農にいがたはこの下落率を「過去に例がない」としています。8月19日には全農とやまがコシヒカリ1等20,000円(前年産26,000円から6,000円安)・富富富20,800円を決め、8月20日にはホクレンが「ななつぼし」1等17,000円・「ゆめぴりか」第1区分18,000円(ともに前年産当初から12,000円安)を決めました。静岡ではJA静岡経済連のコシヒカリ1等14,040円が8月18日に判明し、主食用うるち米で最も低い水準となっています。8月21日には東北で最初の実額として全農いわてが「ひとめぼれ」1等17,200円・「銀河のしずく」17,700円を決め、同じ日に全農いしかわがコシヒカリ・ひゃくまん穀を17,500円、全農とっとりが主要銘柄を一律16,000円としました。9月4日までに秋田(あきたこまち18,300円)・宮城(ひとめぼれ17,000円)・栃木(コシヒカリ15,500円)・広島・山口・山梨・岐阜も出そろい、残る主産地は青森・山形・福島・茨城などです。岡山(JA晴れの国岡山)は概算金の設定を11月に先送りし、出荷検査時に「出荷一時払金」10,200円を支払う二段方式を採りました。全農にいがたは令和8年産で春に示していた「最低保証額」の提示を見送っており、JAグループ佐賀も最低価格の提示を見送りました。前年産の販売も鈍く、農林水産省が令和8年7月28日に公表した米穀流通の動向では、令和7年産の販売数量が前年同月から26.5万玄米トン減りました。
売れ残りが1年で解消しない見通しは在庫の積み上がりが概算金を下げる理由で整理したとおりです。令和8年産では期中の引き上げも追加払いも見込みにくく、概算金を「入金の上限に近い金額」として資金計画を立てる必要があります。むしろ逆向きの動きも出ています。三重県内では、令和8年産のコシヒカリ1等に16,700〜18,500円を提示した複数のJAのうち一部が、10月以降の出荷分についてはさらに約5,000円低い12,000円ほどを示しました。期中にこれだけ大幅に減額するのは初めてとされます(CBCテレビ2026年8月21日)。上げ相場では期中の引き上げが手取りを押し上げましたが、下げ相場では出荷の時期が遅いほど前払いが下がることもあり得ます。出荷計画を立てる段階で、JAの提示が時期別になっていないかを確認してください。政府備蓄米の在庫は32万トン(令和8年産の買入契約21万トンを含め53万トン)で適正水準の100万トン程度を下回りますが、売り渡した59万トンの買戻しは「令和8年産米の作柄を含め今後の需給状況等を見定めた上で時期・数量を判断する」とされています。鈴木憲和農林水産大臣は9月1日、このうち21万トンを買い戻すと表明しました。ただし残りの数量・時期は示されておらず、在庫を抱えた取引業者の「待てば安くなる」という見方を覆すには足りないとして、産地からは追加の買い戻しの量・時期の早期アナウンスを求める声が出ています(農業協同組合新聞2026年9月1日)。
ただし、これらはいずれも報道ベースの情報であり、実際の金額は産地・銘柄・等級・年産で大きく異なります。同じ県内でもJAごとに上乗せや独自の奨励金が設定される場合があります。自身の経営に関わる金額は、必ず出荷先のJAが示す最新の提示額で把握しましょう。また、概算金の高騰が小売価格の上昇につながったという指摘もあり、概算金のあり方や、買取方式・目安額方式への見直しを議論する動きも報じられています。
概算金の注意点
手取りが確定するのは精算後
概算金は確定価格ではありません。最終手取りは共同計算の精算を経て決まるため、追加払いの額は販売の結果次第で変わります。追加払いを当てにした資金計画は、販売不振の年にずれが生じます。
金額はJA・産地・等級で変わる
報道で目にする金額は特定の県・銘柄の例であり、自身の出荷先にそのまま当てはまるものではありません。等級や検査結果でも金額は変わり、県単位で報じられる金額からはJAの手数料が差し引かれます。差し引きの実額と、JA米かどうか・出荷形態による減額は報道の「概算金◯万円」は、そのまま口座に入る金額ではないで整理しています。
上昇局面と下落局面で動きが違う
概算金の動きは上昇局面と下落局面で非対称です。令和7年産のように販売環境が好転した年は期中の引き上げや追加払いが期待できますが、在庫が積み上がった令和8年産のような局面では、期中の引き上げも追加払いの原資も生まれにくくなります。前年に示された最低保証額のような事前の目安も、毎年提示されるとは限りません。下落局面では、概算金を「そこから増える前払い」ではなく「ここが上限に近い入金」と見て資金計画を立てるほうが安全です。
JA出荷と買取の比べ方
商系業者への売り渡しは、その場で価格が確定する買取方式が中心で、業者が概算金より高い即金を提示する場合があります。ただし買取には追加払いがなく、その後に相場が上がっても恩恵はありません。逆にJA出荷は、概算金の時点では低く見えても、販売が好調なら追加払いで最終手取りが伸びる可能性があります。価格だけでなく、代金回収の確実性や翌年以降の取引の安定性も含めて判断しましょう。
ほかに使える制度がないか調べる
立場・やりたいこと・品目の3つを選ぶと、61制度から候補が出ます。「米・水田」を選んだ状態で開きます。
概算金が下がった分は何で補えるか
令和8年産の概算金は前年産から2〜4割下がり、多くの産地でコスト指標20,535円を割り込みました。概算金そのものを引き上げる手立ては生産者側にありませんが、収入の落ち込みを埋める公的な仕組みは別に用意されています。加入手続きには期限があり、下落が確定してからでは間に合わないため、概算金の提示と同じ時期に検討しておく必要があります。
| 仕組み | 何を補うか | 補てんの水準 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 収入保険 | 価格下落・数量減の両方を含む、農業収入全体の減少 | 過去5年平均(基準収入)の9割を下回った額の最大9割 | 青色申告が要件。ナラシ対策との重複加入は不可 |
| ナラシ対策(収入減少影響緩和交付金) | 米・麦・大豆などの収入合計が過去の平均を下回った分 | 差額の9割(農業共済への加入を前提に調整) | 認定農業者・集落営農・認定新規就農者が対象。国と1対3で積立金を拠出。収入保険との重複加入は不可 |
| 農業共済(水稲共済) | 災害による収穫量の減少 | 共済金額に応じた支払い | 価格の下落そのものは対象外 |
今年の局面で押さえておきたいのは、収入保険とナラシ対策はどちらも「過去数年の平均」を基準にするという点です。令和7年産が記録的な高値だったため、直近を含む平均は高めに算定されます。令和8年産の下落幅が大きいほど基準との差が開き、補てんが効きやすい年になります。逆に低い年が続くと基準そのものが下がっていくため、下落の初年度である今年に加入しているかどうかで差が出ます。両者は重複して加入できないため、青色申告をしていて価格以外のリスクも広く見たいなら収入保険、認定農業者で米・畑作の収入に絞って備えるならナラシ対策、という選び分けになります。違いと選び方はゲタ・ナラシと収入保険の違いで整理しています。
概算金安と等級落ちが重なる年に注意
もう一つ見落としやすいのが、概算金の下落と等級の低下が同じ年に重なるケースです。概算金は等級別に単価が示され、等級が下がればそこからさらに減額されます。前掲の秋田なまはげ農業協同組合の令和7年産あきたこまちでは、一等28,500円に対して二等27,900円・三等26,900円で、三等では1,600円下がる設定でした。猛暑年には白未熟粒などで一等米比率が大きく落ち込むため、単価の下落と等級落ちが掛け算になります。作柄が判明するのは8月下旬以降ですが、収量・品質の低下による減収は収入保険や農業共済の対象になるため、価格下落だけを見て備えを判断しないことが大切です。等級がどう決まるかはお米の等級と農産物検査で解説しています。
よくある質問
概算金だけで経営計画を立ててよいですか
概算金だけを前提にした計画はおすすめしません。概算金は前払い金であり、最終手取りは精算後に確定します。資金繰り表では概算金を確実な入金として置き、追加払いは上振れ要因として保守的に扱うのが安全です。あわせて、農林水産省の相対取引価格の公表を毎月追うと、追加払いの見通しを立てやすくなります。
JA以外の業者に米を売る場合も概算金はありますか
概算金はJAグループの共同計算を前提とした仕組みであるため、商系業者への販売では原則としてありません。商系業者との取引は、その場で価格を決めて売り切る買取方式が中心です。買取価格は確定しますが追加払いはないため、JAの概算金と比べる際は、追加払いを含めた最終手取りの見込みで比較しましょう。
追加払いは必ずありますか。時期はいつですか
追加払いは保証されていません。共同計算の販売額が概算金と経費の合計を上回った場合に、その差額が支払われる仕組みです。精算による追加払いは、販売がおおむね終わる翌年夏から秋にかけて行われるのが一般的で、令和8年産なら2027年の夏から秋になります。令和7年産では精算を待たずに期中に概算金を引き上げて差額を支払う動きが各地で報じられましたが(秋田「あきたこまち」は当初28,300円前後から最終3万円)、これは販売環境が大きく変化した年の対応で、毎年あるものではありません。在庫が積み上がった令和8年産では、期中の引き上げも精算による追加払いも見込みにくい局面です。詳しくは追加払い(精算金)はいつ、いくら出るかで整理しています。
概算金が販売額を上回った場合、返さなければいけませんか
実務上は、返還を求めない前提で運用されています。概算金は販売見込みより低めに設定されるためで、令和8年産で前年産から2〜4割低い水準から提示が始まっているのもその表れです。ただし概算金は確定した売買代金ではなく仮渡金であるため、返還の有無や条件は法律ではなく出荷先JAの精算規程によります。心配な場合はJAに取り扱いを確認しておきましょう。買取方式で売り切る場合は、この論点自体がありません。
在庫が減れば概算金は戻りますか
戻るとしても令和8年産の期中ではありません。国の見通しでは令和9年6月末の民間在庫量も242〜260万玄米トンで、令和8年6月末の243万玄米トンとほとんど変わりません。6月末時点の作付意向どおりに作付けが進んだ場合は263〜281万玄米トンと増えます。在庫が減り始めるには生産量が需要量を下回る年が必要になるため、令和8年産の資金計画は提示された概算金の範囲で組みましょう。
等級によって概算金はどれだけ変わりますか
概算金は銘柄ごとに等級別の単価が示され、等級が下がるほど金額も下がります。差額はJAと年産によって異なります。秋田なまはげ農業協同組合の令和7年産あきたこまち(紙袋・JA米)は、一等28,500円・二等27,900円・三等26,900円でした。一等から二等で玄米60kg当たり600円、三等では1,600円下がる設定です。米価が安かった令和3年産のJAはれおかのコシヒカリでは、一等10,500円・二等10,200円・三等9,200円で、一等から二等の差は300円でした。米価の水準が高い年ほど等級間の差額も広がる傾向があり、二等から三等の落差は一等から二等より大きくなりやすい点は両者に共通しています。等級以外にも、米選機の網目やJA米かどうか、地域独自の取組米への加算金などで単価は動きます。等級がどう決まるかはお米の等級と農産物検査で解説しています。自身の金額は、出荷先のJAが示す等級別の単価表で確認しましょう。
報道された概算金と、自分の口座に入った金額が違うのはなぜですか
主な理由は4つあります。第一に、県単位で報じられる金額は全農県本部からJAへ示された金額(JA概算金)で、そこからJAの手数料が差し引かれます。石川県の令和7年産では60キロ当たり704円でした。第二に、等級です。1等から2等、3等と下がるほど単価も下がります。第三に、JA米かどうか、フレコンか紙袋かといった出荷の条件による減額があります。第四に、同じ県内でもJAごとに独自の加算や奨励金が付くことがあります。詳しくは報道の「概算金◯万円」は、そのまま口座に入る金額ではないで実額とあわせて整理しています。確定額は出荷先のJAが配る等級別・銘柄別の単価表で確認してください。
概算金と相対取引価格は何が違いますか
概算金は、JAが生産者に支払う前払い金です。相対取引価格は、出荷団体と卸売業者の間の取引価格を農林水産省が集計・公表する統計で、運賃・包装代・消費税を含む1等米の価格です。立場も含まれる経費も異なるため金額の直接比較はできませんが、相対取引価格の動向は共同計算の販売成績を映すため、追加払いの見通しを判断する材料になります。
なぜ概算金は米だけにあるのですか。野菜や果物、麦・大豆はどうですか
概算金という前払いの仕組みが広く定着し、毎年の価格指標として注目されるのは米に特有です。理由は米の売り方にあります。米はJAが生産者から預かって全国へ年間を通じて販売するため、出荷の時点では最終的な販売価格が決まっておらず、長期保存がきくぶん売り切るまでに時間がかかります。そこで、収穫直後の資金需要に応える前払いとして概算金が発達しました。かつて政府が価格を決めて買い入れていた食糧管理制度の名残で、その年の米価の目安を示す役割を担ってきた経緯もあります。
他の作物は仕組みが異なります。野菜や果物(青果)は卸売市場のせりや相対取引でその場で価格が決まり、精算も比較的早いうえ、傷みやすく長期保存に向かないため、前払いは基本的に必要とされません。麦・大豆・てんさい・さとうきびなどの畑作物は、前払いではなく畑作物の直接支払交付金(いわゆるゲタ対策)で価格を下支えする別の仕組みが用意されています。概算金は、長期にわたる委託販売・貯蔵性・歴史的経緯という米ならではの事情から生まれた商慣行です。
次の一歩
概算金は、米価全体の動きや国の米政策とあわせて理解すると判断の精度が上がります。米の需給と価格の見通しは米政策と米価の見通しで、価格高騰時の供給対策として注目された仕組みは政府備蓄米で解説しています。また、水田経営の収入を考えるうえでは交付金の動向も重要です。水田活用の直接支払交付金とあわせてご覧ください。米価下落による収入の落ち込みに備える方法は、農業の収入保険で整理しています。自身の産地の最新の概算金は、出荷先のJAが示す提示額で必ず把握し、毎月の相対取引価格は農林水産省のページでご覧ください。
産地別の金額をデータで使う(CSV・JSON)
令和8年産の産地・銘柄別の概算金は、概算金データのページで CSV と JSON として配布しています。出典の記載とリンクを条件に自由に利用・再配布できます。産地ごとの金額と発表時期の解説は令和8年産 米の概算金|産地・銘柄別の最新金額をご覧ください。
キーワード解説
仮渡金
概算金の別名です。最終的な販売代金が確定する前に「仮に渡す」資金という意味で、内金と呼ぶ地域もあります。名称が違っても、集荷時の前払いと後日の精算という仕組みは共通です。
共同計算
同じ区分の米をまとめて販売し、販売代金の合計から経費を差し引いた額を出荷量に応じて生産者へ配分する精算方式です。プール計算とも呼ばれます。個々の販売タイミングによる有利不利をならし、産地全体で価格変動リスクを分散する効果があります。
相対取引価格
出荷団体や出荷業者と卸売業者の間で結ばれた取引契約の価格を、農林水産省が毎月集計・公表する統計です。運賃・包装代・消費税を含む1等米の価格で、産地銘柄別と全銘柄平均が公表され、米価の動向を示す代表的な指標です。
買取方式(買取集荷)
JAや業者が生産者から米を買い取る売買契約です。販売委託に対する前払いである概算金と異なり、その時点で価格が確定し、後日の追加払いはありません。報道で「JAの買取価格」と呼ばれる金額はこの方式によるもので、令和8年産ではJA徳島県が30キロ当たり8,300円の買い取り価格を決定し、全農えひめもコシヒカリの買い取り価格16,567円を示しました。相場が下がる局面では価格が確定する利点がありますが、上がっても値上がり分は受け取れません。産地別の金額は産地・銘柄別の概算金で整理しています。
全農
全国農業協同組合連合会の略称です。各JAが集荷した米の販売を担う全国組織で、都道府県ごとの県本部が産地・銘柄・等級別の概算金の水準を提示する役割を持ちます。